48 / 405
運命の舵輪編
Go to the East!!
しおりを挟む蒼太は、メリアリアの事を恨んでいたのでしょうか。
答えはNOです、彼はメリアリアの真剣な訴えを聞いていて、それでクロードから距離をとりました、だから元々“何かあるんじゃないか”とは思っていたんですね。
ただ事情を詰め切れ無かったと言うべきか、完全に理解していなかった状態で突然、ああ言うことになってしまったので(しかもその、相手方の中心人物にメリアリア達がいたので・・・)もう訳がわからなくなってしまったんです。
それに色々な感情が一気に押し寄せてきて、“わ~っ!!”てなってしまったんです。
だから命が助かって冷静に戻った時に、“何かの事情があったんだ”と言う事は理解しています。
ーーーーーーーーーーーーーー
メリアリアは、不測の事態に陥ってしまっても、簡単に絶望してしまうほど弱い人間では決して無かった。
(泣いてる場合じゃ、無いわ!!)
心を強くそう持つと、彼女は早速、セイレーンの聖堂へと引き返そうとした、中にはまだ残っている、オリビア達がいる筈なので事情を説明して助力を請おうとしたのである。
しかし。
「・・・あれ、あれ?おかしいな」
何度やっても、入り口の扉が開くことは無かった、ここには元々、高度かつ強度の結界が張り巡らされており、前もって自身の法力(波長と言い換えても良いが)を登録されていなければ、余人が力尽くで開けようとしても、決して開かないようになっていたのだ。
「嘘でしょう?そんなこと・・・」
「さっきのは、一体・・・!?」
驚いているメリアリアの前に、しかし僥倖が訪れた、戸惑っている彼女の目の前で内側から扉が開かれ、オリビア達が出て来たのである。
「オリビア!!」
「ん・・・?」
なんだ君は?と自身の名を呼ばれた氷雪の女王は怪訝そうな面持ちでそう応えるが研ぎ澄まされた理性を誇る彼女もまさか、目の前の少女がメリアリアである事までは見抜けなかった。
勿論、姿形がまるで違う事もあるにはあったが何よりもその最大の理由は、この黒髪の少女の発する波長(波動)とメリアリアのそれとが微妙に食い違っていたからだ。
この波長と言うものは、人それぞれの意識の状態(もっと言ってしまえば存在そのもの)に合わせて宇宙と言うか、神々により設定されているモノであり、それは部分的に他人と被る事があっても(これを同調と言う)全てが同一のモノになることは決して無い。
つまり、その人その人に割り当てられた、マイナンバーみたいなモノだと思えば良いが、それがメリアリアと目の前の少女とでは噛み合わず、符合しなかったのである。
「・・・信じられない」
女王位達は口々にそう告げた、“そんな話は聞いた事が無い”と言って。
「メリアリアと、確かに似た雰囲気はあるが・・・。その程度の“ズレ”ならば、街中の人混み等で、感じることは良くあるからなぁ・・・」
「俄には、信じがたいが・・・。君がメリアリアだと言う証拠はあるのか?」
「証拠って・・・。この鞭がそうじゃない!!」
「確かにこれはメリアリアが持っていたモノだが・・・」
とオリビア達は少し困ったような顔をして見せた、何故ならば、この目の前の少女は確かに鞭を持ってはいたものの、それを装備して使い熟すことが出来なかったのである。
「そ、そんな。どうして反応してくれないの・・・?」
「それはメリアリアの波動のみを感知して反応するようになっているからな。余人が使おうにも使えないのだ」
「少女。君の名前は何という?なぜメリアリアの事を知っているのだ」
「どうやってここまで入り込んだのかは知らないが・・・。ここは一般人が立ち入って良い場所では無いんだよ?」
「違う、違うのっ。私はメリアリアで・・・」
「しかしメリアリアの装備品は反応しないではないか」
「そ、それは・・・」
と流石のメリアリアも狼狽えてしまうが彼女自身もまさか、自らの波長までもが変えられてしまっているなどとは露にも思っておらず、事態が飲み込めずにいた。
「とにかく。君の正体が解るまで身柄はこちらで預からせてもらう。なぜメリアリアの事を知っているのかも、話してもらわないとな」
「と言うよりも、メリアリアは何処に行ったのだ?さっき帰ったと思っていたが・・・」
「こんな小さな子供に装備品を譲り渡すとも思えんし・・・」
「・・・・・」
口々に、同僚達が紡ぐ言葉を聞いてメリアリアは改めて自身がいま、尋常ならざる状況に置かれている事を悟った、このまま行けば、下手をすると憲兵にでも引き渡されてしまうかも知れず、そうなったら自身の運命がどうなるのか、解ったモノでは無かった。
「もう、みんな聞いて!?私が、メリアリアなのっ。メリアリアなんだってば!!」
「まだ言うか・・・」
「少女よ、しかしな・・・」
「・・・どうしたのかね?」
メリアリア達が騒いでいると、ふと背後から声がして全員がそちらを振り向いた。
するとそこには護衛兵を引き連れたアルヴィンが立っており、怪訝そうな表情でこちらを見ている。
「これは、ノア博士・・・!!」
「ちょうど良い所に!!」
「実は・・・」
と言って女王達は事のあらましを説明し始めた、メリアリアの姿が消えたこと、目の前の異国の少女が、自分をメリアリアだと言っていること、メリアリアの装備品を持っていたこと、等を。
「ほほう?では君が、自分がメリアリアであると・・・?」
「そうです、アルヴィン老師様!!」
「ふむ・・・!!」
アルヴィンはメリアリアに、“こちらに来るように”とだけ伝えると、後は宙を仰いで目を瞑り何やら呪いの言葉を唱え始めた。
「・・・この娘には、強力な呪(まじな)いが掛けられておる」
メリアリアを呼び寄せたアルヴィンはその手を握って更に深く瞑想を行うが、一頻り、それが済むと、ゆっくりと目を開け放ってそう告げた。
「本来の姿を、歪められてしまっているのを感じる。正体は、よく解らぬがかなり強力な呪いを受けた事は確かじゃ」
「老師、それでは・・・」
「うむ。この少女が、メリアリアであるかどうかは、解らぬ」
ただし、と老師は続けた、この呪(まじな)いを解くには、東の果てへと行くしか無い、とそう言って。
「遥か東の果てにある、島国。そこに、お主の運命が待っている・・・」
「・・・・・」
まずはそこへ行きなさい、と伝え終わるとアルヴィンはローブの袖をガサゴソと弄り、2つのモノをこの少女へと手渡した、1つは信頼された者だけが発行してもらえる国際通行許可証(パスポートの役割を併せ持つ)、もう一つがガリア帝国外務省が発行しているプラチナビザだ、この2つがあればガリア帝国と国交を結んでいる国ならば事実上、顔パスで入ることが出来る。
「幸運を、祈っている・・・」
そう告げると再び沈黙してしまい、護衛兵を引き連れて来た道を帰って行った。
・・・直前に“この娘には、害意は無いので解放するように”とだけ言って。
「・・・・・」
「どうする・・・?」
「アルヴィン老師のお言葉だ、聞かずばなるまい」
そう言うとオリビアは次に少女の姿となったメリアリアに告げた。
「君が本当にメリアリアならば・・・。私達は済まないことをしてしまったな、女王失格だ」
「そんなこと。それより・・・」
「もし君が本当にメリアリアであるとするならば。私達は君が戻って来るのを待っている。万難を排して東の果てを目指すが良い」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・解ったわ」
暫く無言で見つめ合っていたメリアリアとオリビアだったが、やがてメリアリアは“フゥッ”と溜息を着いて、そして言った。
「東の果てへと、行ってくる」とー。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
72
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる