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運命の舵輪編
VS怪人A
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何時からだろう、人が闇を恐れなくなったのは。
何時からだろう、人が闇を打ち消して光の中で過ごすようになったのは。
何時からだろう、人が幻想を忘れて現のみにうつつを抜かすようになったのは。
それは恐らく、“都市”と呼ばれるものが形作られてからこの方のことだろう、大都会の喧騒と人混みに身を任せ、“静寂を楽しむ”と言う事を忘れ果ててしまった。
自分自身を見つめ直して気を引き締め、或いは自分自身との対話の中で心を潤し、明日への活力と感性を磨くー。
そんな当たり前の事を人々は忘れてしまった。
しかし。
人々が“それ”を忘れたとしても、“それ以外の存在”達は決してそれを忘れずに心掛けており、今日でも尚、それを当たり前の事として実行している。
そう言った者達の内、天上に在る者達を人々は天使と言い、更に上の領域の存在を“神”と呼ぶ。
一方で現世に近い幽世に住まう“狭間の”存在達の内、霊魂を“幽霊”と呼び、“魔の波動”から生じた化生を“物の怪”、或いは“魔物”と呼ぶが、その中には時折、人々に牙を剥く者達が現れるのだ。
自分自身の親神を忘れ、愛を忘れてしまった連中の凶暴性は極めて強く、一般人ではとてものこと太刀打ちする事は出来ない。
そして、今日もまたー。
そんな“狭間の者達”に襲われている、憐れな少女達の姿があった。
「はあ、はあっ。うそ、まじ信じらんない!!」
「由美、やだよ怖いよぅ!!」
「泣いてる場合じゃないじゃん、アキ!!マジで早く逃げないと!!」
半ベソを掻きつつも、それでも二人で励まし合いながら、麓への道を転がるように駆け下りて行く。
彼等は地元の高校生の友人グループで、山中にある廃墟に肝試しをしに来ていたのだ。
それというのもこの所、この廃墟に怪物が出て遊びに来ていた子供達が行方不明になった、等という噂が広がった為だった。
中にはネットに実際に現場に行って探索したシーンをアップしている者等もいて、そう言った不思議系や怖いもの見たさ系の話が大好きな面々には一際興味がそそられる曰く付きのスポットと化していたのだ。
彼等にとって不幸だったのはそこが単なる噂の発信源では無くて、実際に魔物の住み家であった事だった、四人で来ていた彼等の内、一番最初に襲われたのはカメラを回していた男子生徒。
気が付くと忽然と姿が消えてしまっていた、パニックになった一同の耳に、今度はこの世のモノとは思えない、怪物の雄叫びのような声が聞こえて来て、全員がその方向を見るとー。
そこには全身が血まみれの包帯に覆われ、頭にはボロボロのシルクハットを被っている、大柄な男の姿があった。
「うがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
「えっ?え、えっ!!」
「うわ、ちょ・・・っ」
「はあ、はあ、はあっ!!」
その姿を一瞬だけ凝視した三人はしかし、次の瞬間にはその場から全力で疾走していた。
余りのことに叫び声すら挙げられなかった、とにかく体力を逃げることに全振りして、息の続く限りに逃げ続けた。
ところが。
「うぎゃほおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」
なんと後ろから男が追い掛けて来るではないか、三人は泣きたくなるのを堪え、心の中で“助けてくれ”と念じながら山道をとにかく駆けて駆けて駆け下りていく。
途中で気が付くと、もう一人の男子生徒がいなくなっていた、道に迷ったのか、はぐれてしまったのか。
「うそ、まじ?なに・・・!!?」
「いいから早く逃げよ!!」
混乱する友人を、もう一人の少女“由美”は必死に制し、叱咤して元来た道を我武者羅に走り続けて行った。
しかし、そんな彼女達の後ろからー。
「うがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
あの声が響いて来た、その距離はドンドンと近付いて来る。
男性の脚力と女性のそれとでは足の速さが違いすぎた、このままではいずれ追い着かれてしまうだろう。
(逃げ切れない!!)
二人が絶望のどん底に追いやられた時だった。
「ぎゃおぉぉぉおおおぉぉぉぉおおおっっっ!!!」
パァァァァァンッ!!!と言う、甲高い炸裂音がしたかと思うと怪人の苦しそうな悲鳴が聞こえて思わず二人は足を止めた。
振り返るとそこには胸を押さえて蹲る包帯男と、その側に立って身構えている全身、忍者のような黒装束に身を包んだ一人の青年の姿があった。
おでこには鉢がねを巻き、顔半分はマスクに覆われているため表情は読めないモノの、それでも全身から迸る精気と堂々たる体躯から相当に鍛えられている事が伺える。
「・・・こんな所に、顕現するとはな」
「ウヌガアアアァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
青年の言葉が言い終わらない内に、胸を押さえていた怪人は立ち上がるといきり立って彼に襲い掛かって行く、それを。
青年は跳躍して躱すとそのまま空中でクルリと回転し、怪人の後ろ頭に強烈な蹴りをお見舞いした、そのまま。
再度蹲る怪人の背後に立つと素早く印を結んで何やら呪文を唱え、一気に手刀を包帯男の心臓えと突き立てた。
「ウ、ウガッ。ガアアアァァァァァァァァァ・・・ッッッ!!!!!」
そこからは、不思議と血は流れなかった、ただ反対側へと突き抜けた青年の手には、赤く光る不思議な玉が握られており、それを持って青年が、怪人の身体から腕を引き抜くと。
次の瞬間、その場から包帯男の姿が掻き消すように消えてしまっていたのだ。
「・・・・・っ!!」
「え、なに?なに・・・」
「怪人A。こいつの名前さ。元は人間だったが魔道に落ちた、もういまじゃ立派な魔物と化していた。この赤く光る玉、“オーブ”がその正体だ」
青年はそう言うと、少女達の目の前にオーブと呼ばれる赤い光の玉を差し出して見せた。
「・・・一般人が何の用でここに入ったのか知らないが。二度とするんじゃない、今回はたまたま助けたけど本来なら君達は今日、Aに殺されていたはずだ」
「・・・・・」
「・・・あんた、なんなの?」
「・・・アニメやネットでよくいるだろ?物の怪や魔物を専門に狩るハンターみたいなのが。それだと思えば良い。・・・それじゃあな」
「・・・・・」
「・・・・・!!ちょっとまって」
青年がそう言って立ち去ろうとすると、由美が思い出したかのように彼を引き留めに掛かる。
「友達が、いるんだけど。一緒に来てて。どっかにいるはずだから、一緒に探して・・・」
「・・・悪いけど」
その言葉に青年はゆっくりと振り返る。
「二人はもう、この世にはいない。違う世界に連れ去られてしまった。いまは意識だけの存在となってしまっている」
「え、え・・・っ?」
「なにそれ、どういうこと!?」
恐る恐る“死んだの?”と尋ねる由美に、青年はあくまで淡々と続けた。
「そう言っても良いけど、何て言うのかな、君達の言い方では“違う次元に飛ばされてしまった”、と言えば良いか?とにかくそこは実態の無い世界だ、この世じゃ無いことだけは間違い無いね」
「そ、そんな・・・」
「どうすれば、いいの?」
「いまならまだ、助かる。早く霊能者なりキチンと修行を積んだ僧侶に頼んで供養してもらうんだな。そうすれば二人は輪廻転生の輪の中に戻ることが出来るだろう、いずれまたこの世に来ることも出来るはずだ・・・。それじゃあ」
「え、え・・・っ!?」
「あっ。ちょっと待って!!」
少女達がそう叫ぶ頃には青年の姿はそこからは掻き消えてしまっており、その気配も残っていなかった。
何時からだろう、人が闇を打ち消して光の中で過ごすようになったのは。
何時からだろう、人が幻想を忘れて現のみにうつつを抜かすようになったのは。
それは恐らく、“都市”と呼ばれるものが形作られてからこの方のことだろう、大都会の喧騒と人混みに身を任せ、“静寂を楽しむ”と言う事を忘れ果ててしまった。
自分自身を見つめ直して気を引き締め、或いは自分自身との対話の中で心を潤し、明日への活力と感性を磨くー。
そんな当たり前の事を人々は忘れてしまった。
しかし。
人々が“それ”を忘れたとしても、“それ以外の存在”達は決してそれを忘れずに心掛けており、今日でも尚、それを当たり前の事として実行している。
そう言った者達の内、天上に在る者達を人々は天使と言い、更に上の領域の存在を“神”と呼ぶ。
一方で現世に近い幽世に住まう“狭間の”存在達の内、霊魂を“幽霊”と呼び、“魔の波動”から生じた化生を“物の怪”、或いは“魔物”と呼ぶが、その中には時折、人々に牙を剥く者達が現れるのだ。
自分自身の親神を忘れ、愛を忘れてしまった連中の凶暴性は極めて強く、一般人ではとてものこと太刀打ちする事は出来ない。
そして、今日もまたー。
そんな“狭間の者達”に襲われている、憐れな少女達の姿があった。
「はあ、はあっ。うそ、まじ信じらんない!!」
「由美、やだよ怖いよぅ!!」
「泣いてる場合じゃないじゃん、アキ!!マジで早く逃げないと!!」
半ベソを掻きつつも、それでも二人で励まし合いながら、麓への道を転がるように駆け下りて行く。
彼等は地元の高校生の友人グループで、山中にある廃墟に肝試しをしに来ていたのだ。
それというのもこの所、この廃墟に怪物が出て遊びに来ていた子供達が行方不明になった、等という噂が広がった為だった。
中にはネットに実際に現場に行って探索したシーンをアップしている者等もいて、そう言った不思議系や怖いもの見たさ系の話が大好きな面々には一際興味がそそられる曰く付きのスポットと化していたのだ。
彼等にとって不幸だったのはそこが単なる噂の発信源では無くて、実際に魔物の住み家であった事だった、四人で来ていた彼等の内、一番最初に襲われたのはカメラを回していた男子生徒。
気が付くと忽然と姿が消えてしまっていた、パニックになった一同の耳に、今度はこの世のモノとは思えない、怪物の雄叫びのような声が聞こえて来て、全員がその方向を見るとー。
そこには全身が血まみれの包帯に覆われ、頭にはボロボロのシルクハットを被っている、大柄な男の姿があった。
「うがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
「えっ?え、えっ!!」
「うわ、ちょ・・・っ」
「はあ、はあ、はあっ!!」
その姿を一瞬だけ凝視した三人はしかし、次の瞬間にはその場から全力で疾走していた。
余りのことに叫び声すら挙げられなかった、とにかく体力を逃げることに全振りして、息の続く限りに逃げ続けた。
ところが。
「うぎゃほおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」
なんと後ろから男が追い掛けて来るではないか、三人は泣きたくなるのを堪え、心の中で“助けてくれ”と念じながら山道をとにかく駆けて駆けて駆け下りていく。
途中で気が付くと、もう一人の男子生徒がいなくなっていた、道に迷ったのか、はぐれてしまったのか。
「うそ、まじ?なに・・・!!?」
「いいから早く逃げよ!!」
混乱する友人を、もう一人の少女“由美”は必死に制し、叱咤して元来た道を我武者羅に走り続けて行った。
しかし、そんな彼女達の後ろからー。
「うがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
あの声が響いて来た、その距離はドンドンと近付いて来る。
男性の脚力と女性のそれとでは足の速さが違いすぎた、このままではいずれ追い着かれてしまうだろう。
(逃げ切れない!!)
二人が絶望のどん底に追いやられた時だった。
「ぎゃおぉぉぉおおおぉぉぉぉおおおっっっ!!!」
パァァァァァンッ!!!と言う、甲高い炸裂音がしたかと思うと怪人の苦しそうな悲鳴が聞こえて思わず二人は足を止めた。
振り返るとそこには胸を押さえて蹲る包帯男と、その側に立って身構えている全身、忍者のような黒装束に身を包んだ一人の青年の姿があった。
おでこには鉢がねを巻き、顔半分はマスクに覆われているため表情は読めないモノの、それでも全身から迸る精気と堂々たる体躯から相当に鍛えられている事が伺える。
「・・・こんな所に、顕現するとはな」
「ウヌガアアアァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
青年の言葉が言い終わらない内に、胸を押さえていた怪人は立ち上がるといきり立って彼に襲い掛かって行く、それを。
青年は跳躍して躱すとそのまま空中でクルリと回転し、怪人の後ろ頭に強烈な蹴りをお見舞いした、そのまま。
再度蹲る怪人の背後に立つと素早く印を結んで何やら呪文を唱え、一気に手刀を包帯男の心臓えと突き立てた。
「ウ、ウガッ。ガアアアァァァァァァァァァ・・・ッッッ!!!!!」
そこからは、不思議と血は流れなかった、ただ反対側へと突き抜けた青年の手には、赤く光る不思議な玉が握られており、それを持って青年が、怪人の身体から腕を引き抜くと。
次の瞬間、その場から包帯男の姿が掻き消すように消えてしまっていたのだ。
「・・・・・っ!!」
「え、なに?なに・・・」
「怪人A。こいつの名前さ。元は人間だったが魔道に落ちた、もういまじゃ立派な魔物と化していた。この赤く光る玉、“オーブ”がその正体だ」
青年はそう言うと、少女達の目の前にオーブと呼ばれる赤い光の玉を差し出して見せた。
「・・・一般人が何の用でここに入ったのか知らないが。二度とするんじゃない、今回はたまたま助けたけど本来なら君達は今日、Aに殺されていたはずだ」
「・・・・・」
「・・・あんた、なんなの?」
「・・・アニメやネットでよくいるだろ?物の怪や魔物を専門に狩るハンターみたいなのが。それだと思えば良い。・・・それじゃあな」
「・・・・・」
「・・・・・!!ちょっとまって」
青年がそう言って立ち去ろうとすると、由美が思い出したかのように彼を引き留めに掛かる。
「友達が、いるんだけど。一緒に来てて。どっかにいるはずだから、一緒に探して・・・」
「・・・悪いけど」
その言葉に青年はゆっくりと振り返る。
「二人はもう、この世にはいない。違う世界に連れ去られてしまった。いまは意識だけの存在となってしまっている」
「え、え・・・っ?」
「なにそれ、どういうこと!?」
恐る恐る“死んだの?”と尋ねる由美に、青年はあくまで淡々と続けた。
「そう言っても良いけど、何て言うのかな、君達の言い方では“違う次元に飛ばされてしまった”、と言えば良いか?とにかくそこは実態の無い世界だ、この世じゃ無いことだけは間違い無いね」
「そ、そんな・・・」
「どうすれば、いいの?」
「いまならまだ、助かる。早く霊能者なりキチンと修行を積んだ僧侶に頼んで供養してもらうんだな。そうすれば二人は輪廻転生の輪の中に戻ることが出来るだろう、いずれまたこの世に来ることも出来るはずだ・・・。それじゃあ」
「え、え・・・っ!?」
「あっ。ちょっと待って!!」
少女達がそう叫ぶ頃には青年の姿はそこからは掻き消えてしまっており、その気配も残っていなかった。
応援ありがとうございます!
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