星降る国の恋と愛

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運命の舵輪編

セラフィムの内乱

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 時は21世紀後半。

 エウロペ連邦主要国家“ガリア帝国”において魔物や怪人達から人知れず国民達を守り抜く、“ミラベル”と言う名の国王直属組織があった。

 その更に下部組織に当たる“セラフィム”の研修生だった綾壁蒼太はある日、早くに両親を失いながらも仲間たちや幼馴染みに支えられて厳しくも楽しい毎日を送っていた。

 ところがある時、組織の内戦に巻き込まれてしまい、逃げていた矢先に崖の上から谷底へと滑落してしまう。

 それから六年後。

 九死に一生を得た彼は両親の故郷である遙かなる極東の島国、“大八洲皇国”において退魔士として活動していた。

 逞しく成長した彼は、ある日謎の少女“メリーニ・カッセ”と出会う。

 二人の出会いのもたらすモノとは、そしてメリーニとは何者なのであろうか、どうして蒼太の前に姿を現したのか。

 前に投稿していた“メサイアの灯火”のエピソード2です(違う時間軸線の物語です)。

 キャラクターは同じですが設定を大幅に変えてあります(と言っても幼馴染みモノである事と、純愛なのは変わりません)。

 今回はエッチよりもストーリーに力を入れてみようと思います。
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 そこに人影は無かった、ただ煤と埃とに塗れた廃墟群が、どこまでも軒を連ねるだけだった。

 空には厚い雲が立ち込め、今にも雨が降り出しそうだ。

 もうすぐ日が暮れる時間帯だ、繁華街の方は人波でごった返しているだろう事は容易に想像できる。

「はあ、はあ・・・」

 ガリア帝国首都“ルテティア”の旧市街地東地区ー。

 周囲を切り立った崖と大河セーヌに覆われているここは、外敵に対しては非常に堅牢な一大城塞群であると同時に皇帝一家の直接治める宮城都市でもあったのだ。

 歴史ある花の都ー。

 エウロペ連邦文化圏に所属している他の国々からは尊敬と羨望の眼差しを向けられる、ルテティアの内側ではその名に恥じぬほどに煌びやかな貴族文化が花開き、毎晩のように豪勢な宮廷晩餐会が催されていた。

 そんなガリア帝国を創成以来より裏から支えて来たのが世に言うハイウィザードと呼ばれている優れた賢者達の一団だ。

 彼等は幼い頃から皆、その才能を見いだされては秘密裏に国によって保護され、早ければ六歳、遅くとも十歳を迎えるまでには親元から引き離される。

 そして魔法使いや霊能力者を育成するための専門教育機関“セラフィム”に入学させられ、そこで寮生活を送りながら厳しい修練を積み重ねて行き、一握りの者はハイウィザードとしての叙勲を受け、それ以外の者達は街角で呪い師として人々を導いたり下野して一人、好きな研究に打ち込んだり。

 またある者は人に仇なす妖魔やモンスター、心理的異常者や屈強なシリアルキラー等から一般国民をガードする“ミラベル”と呼ばれる組織に所属して日夜、任務に明け暮れる。

 少年はその幾つかある内の一つ、セラフィムに属していた。

 よく絞り込まれているその肉体はしかし、その実非常に屈強でしなやかな筋肉に覆われており骨格も太くて頑丈だ。

 漆黒の長い癖っ毛の髪を後ろで束ね、それと同色の、黒曜石の瞳で前方の空間を注意しつつ見据えていた。

「はあ、はあ。なんでだよ、なんでこんな・・・」

 独りごちながら、息を切らせて駆けて行く少年の身体能力は、しかし実際には中々のモノだった、自らの中に絶え間なく流れる、宇宙の深淵から溢れ出る生命の大いなる練りの流れ、“波動”をまだ未熟ながらも上手くコントロールして肉体を活性化させ、俊敏な動きで旧市街地の外縁部分を駆け抜けて行く。

 無人の荒野と化したこの市街地群は足下も覚束ず、うっかりすればもろくなっている地盤ごと、崩落の危険性すらあった。

 当然、下は大河セーヌの奔流が渦巻いておりしかもそこまでは百メートル近くもの高さがある、落ちれば如何に彼とは言えども一溜まりも無い。

 それでも少年は、その危険な外縁部分を駆け抜けて行くしか他に手は無かった、目指すは緊急避難場所に指定されているこの東地区の“古の教会跡地”だ、そこに残存のメンバー達が潜伏しており、他にも難を逃れた同志達が来るのを待っているはずである。

 少年達の元々の“本拠地”だった場所は既に“奴ら”に落とされた、親しかった友人達も、兄弟同然に育ってきた仲間達も皆、散り散りになってしまったのだ。

 その上安全な“中央部分”は向こうの手に落ちてしまっているから、ルートの選択に余地は無い。

「くそぅ、なんて事だよ、一体なんでこんな事に・・・」

「蒼太!!」

 誰にともなく文句を言いつつも、少年が歩を進めていた、その時だった、不意に頭上から凜とした声が響き渡り、それに反応するかのようにまだ年相応に幼さの残る顔が一瞬、強張る。

 少年がハッとして上を見上げると、一際高い尖塔の頂上に一人の美少女が立っていた。

 年の頃は彼よりもやや上な位か、長くて美しいハチミツ色の髪の毛をツインテールで結び、よく晴れた日の澄み渡った青空のように輝く瞳をこちらへと向けている。

 ツンと上向いた鼻筋は気の強そうな印象を周囲に与え、その綺麗に整った顔立ちは将来は恐ろしい程の美人になるだろう事を予感させていた。

「蒼太・・・!!」

「メリー・・・!!」

 二人は互いの名を呼び合って向かい合う。

 魔道士のローブを模した、濃紺色の戦闘服が、しかしこの時はそれぞれの背景に上手く溶け込めずに却って互いの存在を浮かび上がらせていた。

「蒼太お願い、話を聞いて!!」

「話って、なんだよ。不意打ちするような奴らの仲間だった事を、いまさら言い訳するのか!?」

「違う、違うのっ。あれはそうじゃなくて・・・!!」

「じゃあなんだよ、ルキナを撃墜して、クロードさんまで・・・!!」

「違う、違うわ。それは違うのっ!!」

「違うもんか、現にさっき・・・っ。ああっ!!?」

「蒼太!!」

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!?」

 少年が何かを言い掛けた時だった、不意に地面に亀裂が走ったかと思うと次の瞬間にはもう、そのあたり一帯が崩落していた。

 漆黒の少年、蒼太は避ける間もなくその虚無の穴へと飲み込まれて行き、無数の破片や残骸と共に眼下に渦巻くセーヌの怒濤へと真っ逆さまに落下して行った。

「・・・・・っ。え、ええっ!?蒼太・・・?」

 後に残された少女、メリーは暫しの間、それを尖塔の頂上から呆然と眺めていたが、やがて我に返ると同時に駆けだしていた。

「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!蒼太、蒼太あああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 穴の淵で下を覗き込み落ちていった少年の名を呼ぶが、返答の代わりに聞こえて来たのは渦巻く水の波濤の奏でる轟音だけだった。

「蒼太、蒼太!!」

 行かなきゃ、と少女は自ら身を乗り出した、遅れてやって来ていた仲間達が直後にその場に到着していなければ、彼女は蒼太の後を追って崩落によって出来た穴に飛び込みその日、そこで命を落としていたはずだ。

「バカヤロウかっ!!」

「何してるのっ、メリー!!!」

「いやあぁぁぁ、離してっ。蒼太が、蒼太があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 半狂乱となってしまったメリアリアを大人しくさせるために、数人がかりで鎮静剤と眠りの魔法まで使用してようやく事無きを得たが、目を覚ましてもなお、少女の瞳はどこか虚ろでその整った美しい顔からは生気が完全に消え失せていた。
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