ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

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俺は生まれ変わろうとしているのか

ちょっとハラハラしてました

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 喜三郎は、案の定、陸橋から、すずかを熱く見つめている。

 ――今だっ、白田っ!
と末太郎が思ったとき、陸橋を挟んで、すずかがいるのとは反対側からよく通る声がした。

「あっ、喜三郎さーんっ」

 喜三郎がそちらを振り向いたので、さっと白田は階段に戻る。

「おお、琳ちゃん」

 喜三郎は下の道にいる琳と話し出した。

 すずかの方を見もせずに。

 すぐにすずかに向き直るなら、まだチャンスはあると思ったのだが。

 喜三郎は振り返ることなく、楽しげに琳と話している。

 白田に次の指示を出そうかと思ったが。

 琳がこちらに気づき、

「あっ、よかった。
 ご隠居さんっ。

 ここで出会えるとはっ。
 いつかのお釣り、お返しします~」
と素敵な笑顔で手を振ってくる。

「いやいや、嬢ちゃん、いいんだよ」
とつい、末太郎は笑顔で返事をしてしまった。



 結局、陸橋の上で四人で話した。

 すずかは友だちと話しながら、コミュニティセンターに向かい、歩いて行ってしまった。

 それを見送りながら、彼女が昔、自分達が夢中になったアイドルだという話を琳にする。

「……あんたら若い人にどう見えてるか知らないが。
 わしらには、今も彼女は光り輝いて見えるんだよ」

 すると、琳は笑って言った。

「私にもそう見えますよ。
 素敵な方ですよね」

 あのように年をとりたいと思います、と言う琳に、
「あんたならなれるよ」
と末太郎は断言する。

「さっき、あんたに声をかけられて、喜三郎はすぐに振り向き、すずかさんの方を見なかった。

 わしらも同じだ。

 あんたの前では――」

 悪事を働きたくはないと思ってしまった、という言葉を末太郎は飲み込んだ。

「……わしらのアイドルはもう、すずかさんじゃなくて、あんたになっていたのかもしれんな」

 いや、なんですか、それ、と琳は苦笑いしたあとで言う。

「でも、みなさん、仲がよろしくてよかったです。
 憧れの方をみなさんでご覧になってたんですね。

 ご隠居さんたち、喜三郎さんの古いお知り合いだというわりに、顔を合わせないよう、身を隠されたり。

 なにかちょっと妙な感じがしたので、実は、喜三郎さんを狙ってるんじゃ?
とか思っちゃって。

 いつか、喜三郎さん、やられるんじゃないかと思って、ハラハラしてました」

 そんな琳の言葉に、一拍置いて、三人は、……ははは、と笑う。



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