ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

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俺は生まれ変わろうとしているのか

今、この瞬間を待っていたっ!

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 そんな話を将生たちがしたあとの日曜日。

 喜三郎はほんとうに殺されようとしていた。

 琳たちが気づいたことに、気づいた者が他にもいたからだ。

「……喜三郎をれ。
 これがわしがお前に頼む最後の仕事だ。

 老後、ゆっくりできるだけの金はやる」

 楽隠居しろ、とその人物は隣に立つ細身の男に言った。

 細身の男は黙っている。

「もうすぐあの人が現れる。

 あの人が、交差点前のコンビニのところで、コミュニティセンターでできたという友だちと待ち合わせし、話しているのをいつも喜三郎はあの陸橋から、ぼんやり見ているようだ。

 そこを狙って突き飛ばせ」

「……ご隠居」

「なんだ。
 嫌なのか。

 お前も喜三郎の珈琲、気に入っていたからな。
 だが、これは私たちの最後の仕事としてやらねばならん。

 喜三郎には、いろいろと知られすぎている。

 喜三郎の店にいると、つい、口が軽くなって、しゃべりすぎていたからな。

 次の世代に支障が出ないよう、知りすぎている喜三郎を始末するんだ。

 我々の憧れだったあの人を使って」

 ご隠居、能條末太郎のうじょうすえたろうは、コンビニ近くに現れた品の良いおはあさんを指さした。

「あんなに変わってしまっても、喜三郎にもわかった。

 わしらにもわかった。

 あの人は永遠のわしらのアイドルだ」

 そこだけは、あまり口数の多くないボディガード、白田も頷いてくれた。

 名前も違う、年もとっているが、すぐにわかった。

 彼女こそ、往年のアイドル、加瀬すずか。

 他にも気づいている者もいるのかもしれないが。

 みな、彼女の穏やかな老後のために黙っているようだった。

「喜三郎は必ず、彼女に気を取られる。
 ぼんやり立っているところを、どん、だ。

 わかったな」

「……ご隠居」

「これがお前の最後の汚れ仕事だ。
 行け。

 喜三郎が来た」

 陸橋の反対側から喜三郎が階段を上がろうとしている。

 二人は陸橋の陰からそれを見ていた。

 白田は頷くと、喜三郎に気づかれないよう、彼がいるのとは反対側の陸橋を、少し遅れて上がっていった。

 末太郎は思う。

 喜三郎は彼女に全集中しているはずっ。

 今こそっ。

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