ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
8 / 22
不審な人物が現れました

謎の花を持ち込みました

しおりを挟む
 
 喜三郎と話したあと、水宗は鼻歌を歌いながら、庭の方に行った。

 また得体の知れないものを持ち込まないよう、琳ではなく、将生に言われているので、ごく普通の紫の花の鉢を運んできていた。

 愛らしい花なのだが、なんの花だかよくわからないと言われ、お客さんから預かったのだ。

 こういうものを、よく、この広い庭に置かさせてもらっている。

 琳に置いてもいいと言われているからだ。

 そのとき、
「水宗じゃないか」
と雑木林の方から声がした。

「ご隠居」

 見知った顔に、水宗はニコニコしながら、そちらに向かう。

 いつもご隠居に付き従っている細身の男も一緒だった。

 将生たちがその細身の男を見たら、

 なんという隙のない立ち方っ、と驚いたことだろうが。

 遭遇したのは、水宗だったので、なにも気づかなかった。

 水宗が人の良さそうな顔で、えへらと笑うと、

「そうか。
 この庭はお前がやったのか。

 どうりで上品な造りだと思った」
とご隠居が褒めてくれる。

「いやー、私が参加したのは、途中からなんですけどね。
 ここ、広いからやりがいがあるんですよ。

 いつか、この奥の方を迷宮みたいにしたいですね」
と水宗は、将生に、

「いや、遭難者の出る喫茶店にするな」
と言われそうなことを言う。

 だが、水宗のセンスを認め、可愛がっているご隠居は、そうか、そうかと微笑んでくれた。

「ここの店主の雨宮さんが、好きにやっていいと言ってくださるので。
 いろいろ実験的なこともやれて助かってるんですよ」

「あのお嬢さんかね?」
とご隠居は遠い店の方を見る。

 ちょうど琳は窓際に座っている女性と話しているところのようだった。

「はい。
 とてもいい方なんです」

 だろうな、とご隠居は頷いたあとで、

「雨宮さんか。
 名前まで美しい」
と琳の方を見ながら微笑む。

「またいらしてください。
 自由に変えていいと言われるお礼に、無償で庭の手入れや入れ替えをしているので。

 季節の折々に楽しんでいただけると思います」

「そうかね」
と頷いたご隠居に、

「まあ、この庭をいじるにあたり、いろいろと注意事項はあるようなんですけどね」
と言うと、ほう、と興味深げに身を乗り出す。

 現役のころと変わらぬ、底知れない鋭さのある目だった。

 だがまあ、水宗は、ぼんやりしているので、その視線で震え上がることもない。

「ここは、今、あんまり深くは掘り返さないでとか。
 あの辺には行かないでとか。

 いろいろあるんですけど。
 そこさえ守ってれば、あとは自由なんで」

「あの嬢ちゃんもなかなかごうが深そうだな」
とご隠居は笑っていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

先生、それ、事件じゃありません

菱沼あゆ
ミステリー
女子高生の夏巳(なつみ)が道で出会ったイケメン探偵、蒲生桂(がもう かつら)。 探偵として実績を上げないとクビになるという桂は、なんでもかんでも事件にしようとするが……。 長閑な萩の町で、桂と夏巳が日常の謎(?)を解決する。 ご当地ミステリー。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~

わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。 カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。 カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……? どんでん返し、あります。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生だった。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

ここは猫町3番地の2 ~限りなく怪しい客~

菱沼あゆ
ミステリー
「ここは猫町3番地」の2話目です。 「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」  監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

処理中です...