ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

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不審な人物が現れました

確かにその雑木林は危険です

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 琳が喜三郎の姿を遠くに見たとき、ご隠居、ともう一人の老人に呼ばれている、恰幅の良い老人がスプーンを手に笑顔で言った。

「うむ、なるほどっ。
 看板メニューなことだけはあるっ。

 美味いな、嬢ちゃんっ。
 この福神漬けっ」

 ……それはさっき、スーパーで買ってきた奴です。

「ご隠居」

 そっちを褒めては、とたしなめるような口調で、ボディガードっぽい人が言う。

「カレーも美味しいですよね」

「……お気遣いいただき」

 でもあの、カレーも缶を開けて煮ただけなんですが……。

 琳は褒められて恥ずかしく、
「それ、買ってきたやつなんです」
と白状したが。

 無愛想に見えて、意外に気を使うボディガードな老人に、

「いえいえ。
 あなたの選ぶ目が確かだということです」
とまた褒められる。

 嬉しいが。
 褒められ慣れていない琳は、将生に罵られたり、龍哉たつやの人を人とも思わない……

 いや、言い過ぎか。

 年上を年上とも思わない目で見下されたくなった。

「うん。
 辛さで味がわからなくなったところに、この飲みやすい珈琲はいい」
とご隠居が、また褒めてくれる。

 味、薄かったですかね……。

 日々、味が違うんですよね。
 私の珈琲、と思ったとき、喜三郎が扉を開けて入ってきた。

「あ、喜三郎さん」
と琳が呼びかけると、楽しく話していた店内に緊張が走る。

 なんだろうな、と思ったとき、
「喜三郎さん、この間言ってらっしゃった庭の木なんですけどー」
とちょうど来たらしい水宗に話しかけられ、喜三郎は店の外に戻る。

 ご隠居たちは立ち上がり、
「ちょっと庭を見せてもらってもいいかね?」
と言い出した。

「ええ、どうぞ」
と琳は微笑む。

 掃き出し窓のところから老人二人は庭に出た。

「広いな。
 雑木林につながっているのかね。

 迷い込んだら出られなさそうだ」

 まあ、いろんなことが起こりそうな雑木林ですよね。

 骨が出てきたり。

「でも、いい手入れがしてありますね」
とボディガードが言うので、

「あ、それは、今、外にいらっしゃる造園業者さんが……」
と答えながら、琳は思っていた。

 珈琲はいまいち。

 メニューはレトルト。

 庭は造園業者が。

 私はこの店でなにをやっているのだろうかな。

 私がここにいる意味はっ!?

 そのとき、ご隠居が振り返り、万札を琳に握らせた。

「このまま庭をぐるっと見て、歩いて帰るよ。
 釣りはいらん」

「あ、いえ、そういうわけには……」
と言ったが、ご隠居は熱いシワだらけの手で、ぐっと握らせる。

「わしは、こういう押し問答はすかんのだ。
 この店が気に入った。

 とっておきなさい」

「……では、おつりは今度ということで」

「だから――」

 また、いらしてください、と琳が微笑むと、

「……つりは、ほんとにいらんが。
 また来よう」
とご隠居たちも微笑んだ。


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