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捧げられし王様
誰かが見ています
しおりを挟む今、愛があると申されましたか?
そう不思議に思うハルモニアに、ジェラルドが口づけようとしてきた。
「おっ、お待ちください」
「何故、待つ必要がある」
「その……誰かに見られている気がするので」
「誰だ。
コルヌか?」
いや、何故、コルヌ……。
「言い逃れはやめて覚悟を決めよ」
と言うジェラルドに、ハルモニアは、
なんか牢名主様より迫力あるな。
まあ、王様だしな、と場違いなことを思っていた。
「でもあのー、確かに誰かに見られている気がするのです。
あのカーテンの向こうから」
なんだと? 刺客か?
とジェラルドは立ち上がる。
カーテンを開け、外を見て、
「誰もおらぬではないか」
と言うが。
「おられます」
とハルモニアは外を指差した。
「じっとこちらを見ておられます」
そこには、あの女神像があった。
ここからだと女神像のある場所は遠いのだが、その女神像の目がじっと自分を見ている気がするのだ。
「ああ、あれか。
あれは、何処から見ても、こちらを見ている、と感じるように作られておるのだ」
すごいな、クレインの一族、とハルモニアは感心する。
それはそれとして、真下にいるときは感じなかった視線の威圧感をあの像に感じていた。
「何処からも民たちを見守れるよう、そうなっているのですかね?」
「……何処からも私たちを見張れるよう、そうなっているのだろうよ」
何故かジェラルドはそう訂正した。
ジェラルドはカーテンを閉めたが、月の光を取り込むために、薄いカーテンしかない。
一度意識すると、ずっとあの女神像の視線が気になった。
「何故、向こうばかりを見るのだ。
私を見ろ」
ジェラルドはベッドに片膝をつき、ハルモニアの頬に手を触れてくる。
「観念しろ、ハルモニア。
お前はもう私の側室妃となったのだ。
それがお前の望みであったのだろう」
そうなんですけどね。
お飾りの妃でよかったのですが……。
じりじりとハルモニアは背を後ろにそらし、逃げようとする。
「正妃になりたいのだろうっ?
ここで頑張らねば、キャベツ畑からコウノトリも侍女も跡継ぎの王子を運んできてはくれないぞっ」
「あの、跡継ぎの王子を産まないと正妃にはなれないのですか?」
「そんなことはない……」
と言うジェラルドは何故か物憂げだった。
「……まあ、王子を産まずとも、お前が正妃になる可能性は高いがな」
「えっ?
何故です?」
「わ、私がお前を正妃にしたくなるかもしれないからだっ」
したくなるかもしれないとは? とハルモニアがジェラルドを見つめると、ジェラルドは目をそらした。
「お前はほんとうに口に出して言わねば、なにも伝わらぬのだな。
お前は度胸があり、頭が良い。
正妃に相応しい気がするっ。
いや……っ。
相応しくなくとも、私はお前を私の一番側近くに置きたい気がするのだっ」
ジェラルドは、ベットに手をつき、ハルモニアに口づけてきた。
慌てて身をよじって逃げながら、ハルモニアは主張する。
「あ、あの、
もういいですっ。
もう大丈夫ですっ」
だが、ジェラルドの力は強かった。
「なにがもう大丈夫なのだ?」
「今、身籠りましたので、はいっ」
いや、早すぎだろう。
まだなにもしておらぬ、という顔をジェラルドはするが――。
「ただいま、王様の子を身籠った気がいたしますっ。
だって、もうっ、こんなにドキドキしてますからっ。
もう充分ですっ、はいっ」
そうハルモニアが主張すると、ジェラルドは笑い出す。
「……お前は、ほんとうに可愛いな」
ジェラルドはハルモニアをより近く、自分の方へと引き寄せた。
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