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Side - 184 - 9 - けんじゃのおじさんのたいざいにっき に -

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Side - 184 - 9 - けんじゃのおじさんのたいざいにっき に -


俺の名前はベネット・ブライアス 39歳独身だ。

昨日折れていた足の当て木がやっと外れた、体重をかけたらまだ痛てぇが自由に歩き回れるようになったぜ。

長く足を固定して布帯で巻いてたから外した時は俺でも顔を顰めるような酷ぇ臭いだったが、俺の目の前で跪いて当て木を外してる奴の顔を見ると無表情、桶に薬草を入れた水で足を丁寧に洗ってくれた、しかも指の間までだ!。

こんな治療王都のでかい病院でもやってくれねぇぜ!、・・・やはり医療か介護の経験があるんだろうな、丁寧で手際が良い。

「ありがとう、丁寧に治療してくれたおかげでやっと歩き回れるようになった、明日から運動して少しずつ慣らそうと思う、庭を歩き回っていいか?」

俺がそう聞くと奴は頷いた、明日は家の近くを歩き回って・・・大丈夫そうなら庭の端まで歩いてみるか・・・、結界のことも気になるしな。

奴はまだビクビクしてやがるが、やっと俺に慣れてくれたようだ、基本無表情なんだが、俺が話すと僅かに顔を緩める・・・あれは笑ってるつもりなんだろうな・・・。

奴についてはまだ分からねぇ事だらけだ、何日か前の夕食に海の魚料理が出て来やがった、なんで森の中にいるのに海の魚が手に入るんだ・・・、しかもえらく新鮮そうなやつだ。

俺の生まれは海沿いの港街だからすぐに分かったぜ、ひょっとしてここは海に近いのか?、それにしちゃぁ海の匂いしねぇが・・・。

その料理がまた絶品だった!、その時の俺は顔が緩みっぱなしだっただろう、今思い出しても涎が出るぜ。

焼いた魚にハーブがたっぷり入った甘辛いソースがかかってた、これは一晩は漬け込んでるだろう、えらく手間がかかってる、それと表面を軽く炙った生魚を薄くスライスしてハーブを贅沢に使った酸味のあるタレで和えたやつ、これがまた美味かった。

最後にはリゾットだ、貝が入ってやがった!、こんなの海辺の街でしか味わえねぇぞ、王都で食うなら大銀貨3枚は取られそうだ・・・。

そんな事を考えながら夢中で食ってると、ふと俺が使ってるナイフとフォークに目が止まった。

どこにでもあるような普通のナイフ・・・ほとんど消えかけてるが、店の名前かな・・・文字が書いてやがる、書いてるだけじゃぁ消えて読めなかったが、こいつは彫り込んだ上に塗料で書いてるから光に翳すと読めた。

「レストラン・・・タダーノ・・・」、待て!、これは俺のひい爺さんの・・その2代前の親父だったか?・・・そいつが始めてじいちゃんの代までやってた店じゃねぇか!。

俺の故郷・・・コルトの街にあった店だ!、今は確か・・・そのまま宿屋の物置になってたか・・・、なんでこいつがそんなの持ってんだよ!、そういえばこの料理、昔じいちゃん達が食わせてくれたやつに似てっぞ・・・。

思わず扉の隙間から覗いてる奴の方に振り向いた、勢いがありすぎたか・・・奴は「ひうっ」って言って扉を慌てて閉めやがった、しばらく見てるとまた扉が開いて奴が顔を出した、もう慣れたが小動物みてぇでかわいいな・・・。

「なぁ、タダーノって店、知ってるか?」

俺は聞いた。

奴は扉の外で頷いてるな、でも店は閉めてからもう20年以上経つ、奴が知ってるわけねぇよな、同じ名前の店が偶然あったのか?、そうだよな・・・俺はそこで考えるのをやめてまた料理の味を楽しんだ。

その翌日の朝も魚料理だった。

魚や貝で出汁をとったスープに具はでかい野菜と魚の切り身、柑橘系の酸味もあるさっぱりとした味、それと煮た魚にキツい酢をかけたような奴だった、ふかふかのパンもある・・・、もちろん超うまかった!。

俺は無事に王国に帰ったら絶対こいつに治療費と食事代払わねぇとダメだって思った、そうじゃなきゃ俺のプライドが許さねぇ、ただの好意で偶然助けた他人がやってもらえる待遇じゃねぇぞ。

・・・それに、・・・もし奴に身寄りがなくて行くとこがねぇなら俺が養子として引き取っても良いと思った、・・・いや別にやましい考えはねぇぞ、俺の好みは何度も言うが巨乳の熟女だ!、幼女じゃねぇ!。

今まで一緒に暮らしてきて、・・・もし俺に娘が居たならこんな感じだっただろうか?、って時々思うんだ。

・・・でもあんな傷だらけじゃ普通に働けねぇだろうし、結婚してくれる男も・・・どうだろうな、あれだけ優しくて料理が美味いなら居るだろうが・・・男ってのは見た目で判断する奴多いからな。

・・・いや傷があるだけで奴は見た目は美少女だ・・・中身はド変態の痴女だがな!、一度俺に見られて開き直ったのか4日に一度は風呂場で致してるようだ、俺は寝たふりしてるが・・・。

色々とこの前の飯のことを考えてたが今は夕方だ、今日はいい天気だった、俺は庭に出ていつも歩いてる家の周りより少しだけ遠くまで歩いた、足は剣を杖にしなくてもなんとか歩けたし痛みもそれほど酷くねぇ。

それを見ていた奴が慌てて俺を止めた、自分が持ってる杖を俺に見せて、剣を振る真似をした・・・どうやら剣を杖にして歩けって言ってるらしい。

・・・医者・・・多分医者だろうな・・・医者の言ってることは素直に聞かなきゃな・・・俺は剣を杖代わりにして家の周囲を歩き回った。

家の周りには花が多かったが、少し離れたら野菜や果物がよく育ってやがる、これも奴が全部一人で育ててんのかよ、すげぇな!。

庭の真ん中を小川が流れてるな、魚は居ねぇようだが周りに薬草が植えてある、俺が駆け出しハンターの頃、薬草集めに精を出してたから大体分かるぜ、懐かしいな、全然知らねぇ薬草もいくつかあるが・・・。

川があるって事は・・・向こうが上流であっちが下流か、辿っていったら海に出るかもな。

ずっと寝てたから思ったより体が鈍ってやがるぜ畜生、足腰が痛てぇ・・・こりゃ霧が出てる森の方まで行って何かあったら帰れなくなっちまうか・・・、そう思って大人しく家に帰った。



あれから2日ほど経った、今日は朝から奴は出かけて留守だ、朝飯の横に俺の昼飯らしき料理が置かれて上に布がかけてある、四角いパンに肉や野菜を挟んで酸味のあるタレが入ってるやつだな。

時々こんな事があった、最初は俺の昼飯だと思わなくて食わずに置いておいたら夕方奴が帰ってきて手付かずの料理見てすげぇ悲しそうな顔をした、それでゴミ箱に捨てようとしたから慌てて部屋に飛び込んで奪い取った。

「悪い!、俺のだとは思わなかったんだ、美味そうだな、食っていいのか?」って聞いたら怯えて涙目になりながらも・・・少し嬉しそうにして頷いた。

だから今日は夕方まで奴は帰って来ねぇだろう、俺は前から気になっていた寝室の前にある鍵のかかってる部屋を探る事にした。

鍵開けは駆け出しの頃知り合った斥候を主にやってるハンターに教わったから多少できる、道具もベルトの中に針金を仕込んでるから大丈夫だ、風呂の扉で懲りてるから蹴破ったりはしねぇぜ!。

カチャリ・・・

鍵は何の苦労もなく開いた。

正面の高い所に窓が一つ、薄いカーテンがかかってるから部屋は明るいな、手前に作業机、よく分からねぇ道具が置いてある、奥のでかい机の上を見て俺は驚愕した!、ここに来て驚愕してばかりだがマジで驚いた!。

机の上の左側にはこの世界にある4つの大陸を精巧に再現した模型と、右側にはいくつかの町の模型・・・のようなものがあった。

海はちゃんと波が立ってて青いし、山は木が生えてて緑、土の色もちゃんと茶色だ、国の名前や町の名前までご丁寧に文字の書かれた針付きのプレートが刺さってる。

街の模型は道はもちろん小さな家や路地まで再現されてるな、まるで自分が鳥になって高い空の上から見下ろしてるようだ、こりゃすげぇ!。

ローゼリアの王都は、・・・あったぞ、俺がいつも通ってきてる広い街道も、依頼を受けて行ったことがある森も小いせぇが分かるな、それから、故郷のシェルダン領やコルトの街は、・・・ほう、こんな感じになってるのか、おもしれぇな、こいつは一日中眺めてても飽きねぇぜ!。

で、こっちがギャラン大陸で、・・・まだ行った事がねぇがギャラン・ローゼリア王国の王都はでけぇな、南の方・・・大陸の下半分は荒地や砂漠ばかりだ、・・・野盗や魔物がわらわら居やがるやばいところって聞いてるぜ、ランサー大陸に比べりゃ子供騙しみてぇな感じだろうがな。

ミラージュ大陸は行った事がある、確かお偉いさんの護衛で海を渡って何日もかかった、街は夜でも昼みてぇに明るいし、建物も10階20階建てが当たり前・・・すげぇ驚いたぜ、違う大陸に来た!って感じだったな!。

そんで、こっちがランサー大陸だ、森ばっかりだな!、クソ高けぇ山も沢山ありやがるし、これ全部が魔物の巣って感じだからヤバ過ぎるだろ、ローゼリアの国力でもどうにもならないんじゃねぇか。

・・・お、大陸の真ん中にプレートが刺さってるな、なになに・・・リーゼロッテのお家・・・だと!、何だそりゃ、ここ・・・魔の森のど真ん中じゃねぇか!。

動揺を鎮めるように俺は周りの壁を見渡した、寝室の机の上にあったような精密に描かれた絵が額に入っていくつか飾ってある、これはひょっとして・・・お貴族様の間でたまに話に出る写真っていうやつか?、目の前のものを精密に写す魔道具らしい、高価すぎて俺らみてぇな庶民や荒くれのハンターには一生縁がないやつだ。

これは・・・またあの黒髪の貧乳女だ、後ろの景色は・・・見た事ねぇな、高けぇ建物が並んでやがるがミラージュ大陸にあるやつじゃない、それからこれは・・・王都の中心あたりか、王城が向こうに見えるが今とは雰囲気違うな。

それと・・・おい何だよこの絵、俺の爺さんの店、「タダーノ」じゃねぇか!、何で店や若い頃の爺さん達の絵がここにあるんだよ!。








「はい、これでよし、・・・痛みはどう?、お薬置いておくけど、貼り替え一人でできる?」

「ありがとうねリゼお姉ちゃん、楽になったよ、俺ももう歳だね、腰をやっちまうとは・・・情けないよ」

「ビックリしたよ、・・・久しぶりにお魚を買いに街に来たら貴方が寝込んでるって、宿の人達もなんだか雰囲気暗いし」

「あぁ、実は、ひ孫が行方不明でね、・・・孫がとても心配してる」

「・・・えーと、ごめん誰だっけ?、・・・私、会った事ある?」

「奴が小さい頃に会ったんじゃないかな、今はもういいおっさんだ・・・、まだハンターやっててな、もう歳なんだからいい加減嫁をもらって落ち着けって言ってたんだが・・・」

「そうなんだ、依頼中の事故とか?」

「いや分からないんだ、何でも領主様の依頼でお嬢様を王都に護衛して行ったついでに何か別の依頼を受けたらしい、そっちも貴族様絡みのようだが、・・・俺は息子を割と早く亡くしたでしょ、だから奴の事は息子のように可愛くてな、心配だ・・・」

「・・・ちょっと王都に寄って、それとなく調べようか?」

「でも、・・・リゼお姉ちゃん、今は姿を隠してるんでしょ」

「他ならぬサリーくんの頼みだったら何とかしてみるよ、・・・ひ孫さんのお名前は?」

「・・・ありがとうね、ベネット・ブライアス、金級のハンターだ・・・もう帰るの?」

「うーん、・・・ここ来るの久しぶりだから、トシくんやタダーノさんのお墓に行って、お花をあげてこようかな」

「トシロー伯父さんの?・・・」

「うん、久しぶりにね、・・・あと、私のお家が荒れてたからお掃除して・・・市場でお魚買って帰るよ」

「お姉ちゃんの久しぶりって10年単位だから洒落にならないよ、でも伯父さん達も喜ぶと思う、・・・次は俺が生きてるうちに来て欲しいかな」

「・・・えーと貴方今140歳くらいでしょ?、・・・30歳で成長止まったから・・・普通の人に換算したらまだ70歳くらいだよ・・・」

「ははは・・・、「まだ」って・・・お姉ちゃんの感覚で言わないでよ、70歳ならもういつくたばってもおかしくない!、ってか俺が歳をとって死んでいくの見るの・・・やっぱり辛い?」

「うん・・・慣れないね、・・・親しくなった人とお別れするのは辛いよ、今怪我をした人をお世話しててね、・・・その人お魚好きみたいだから、しばらくは頻繁に顔を出すかな、じゃ、・・・また来るから安静にね」

「あぁ、またね、リゼお姉ちゃん」
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