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Side - 184 - 10 - けんじゃのおじさんのたいざいにっき さん -(挿絵あり)

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Side - 184 - 10 - けんじゃのおじさんのたいざいにっき さん -

俺の名前はベネット・ブライアス 39歳独身だ。

俺は今、情報が多すぎて頭を抱えてる。

まず一つ目、ここが魔の森の、よりにもよってど真ん中だってことだ、結界の外に出たら一瞬で魔獣に喰われちまう、どうやって王国に帰りゃいいんだ。

二つ目、ここが魔の森の真ん中なら俺がこの前食った新鮮な魚は何処から来たんだ、海に出るまで何日もかかるのに・・・。

三つ目、奴かリーゼロッテが、・・・多分リーゼロッテの方だろうな、俺の爺さんと知り合いか、店に来た事があるっぽい、聞いてないぞ、そんな話。

四つ目、ここにすげぇ情報の塊がある、詳細な地形が記された地図は各国の機密情報として管理されてる、ハンターや商人の手作り地図でさえ結構な金になるんだ、この模型・・・書き写して売ったらいくらになるんだろうな。

五つ目、奴は毎日遅くまでここで何かやってる、作業台の塗料が乾いてないから多分この模型を作ったのは奴だ、何であいつがいろんな国の詳細な地形知ってるんだ。

六つ目、毎日奴は出かけてる、俺はそれを当然のように思ってたが・・・、庭には居ねぇ、どこに行ってるんだ、霧の出てる奥の森か?、一日留守にしてそんなにやる事あんのかよ。

分からねぇ事だらけだが、あいつと意思疎通さえ出来りゃ聞けば済むことだ、さてどうやって話をするか・・・。

俺は部屋に入った形跡を消し、扉に鍵をかけて部屋の外に出た、紙が無ぇから大陸の地図は書き写せなかった、だが書き写したとしても奴には大恩がある、黙って売って金儲けするような事はしねぇがな、そんな事しちまったら俺は救いようの無いクズだ。

長居したからもう昼前だ、腹が減ったから食堂に行って俺のために用意してくれてた肉を挟んだパンを食った、パンの横には飲み物まである、細かな気遣いが嬉しいぜ、しかしこれも美味いな、あの歳で料理人にでも弟子入りしてたのか?。

いや医者・・・だよな、世界中の地理に詳しくて薬草と医療の知識があり、料理人としての腕は一流で、白金級ハンターに育てられた・・・か、それに農作業の知識も豊富で傷はあるが美少女だ・・・お貴族様が聞いたら放っておかないだろうな。

俺は家の外に出て改めてこの建物を眺めた、木を切ってそれを積んで組み合わせたような家だ、木の太さが綺麗に揃ってやがるから作るのに手間がかかったに違いねぇ、お貴族様の屋敷にあるような透明で平らなガラス窓、鉄だがやけに薄くて軽そうな窓枠、俺の知らねぇ材質だな、別大陸の技術か何かだろう・・・、さて、足の調子もいいし、いよいよ庭の向こう、森の方に行ってみるとするか・・・。

それにしても広い庭だ、奴の家を中心に道が4方に伸びてる、真っ直ぐじゃなくて絶妙に曲がってるし、高低差があるから景色が良い、所々に作業小屋もあるが作りが可愛いな、おそらく奴の趣味だろう、それにどの角度から見ても絵になる、俺は絵なんて書けねぇが・・・。

まるで金持ちの家に飾ってる風景画みてぇだ、森は・・・まだ少し歩かなきゃダメそうだ、あいつ足が悪いのにこの距離を毎日歩いてやがるのかよ。

辺りに霧が出てきやがった、森が近いんだろう、でかい木も多くなってきたな、この辺はまだ開墾中って感じがするぜ、そう思って進んでると道の端に俺の背丈くらいある四角くて黒い金属の箱が置いてあるのが見えた。

これが結界の魔道具だろう、箱の中央には魔石、その横には半分くらいの大きさだが同じような箱が置いてあった、もう少し先にも同じようなのが置いてある、そこまで進むとまた先にも同じのがあるな・・・。


3番目の魔道具のとこまで進むと道は途切れてた、3重結界かよ・・・、他のやつとは違ってそいつが左右と空に向かって半透明な光を出してる、魔道具から出てる光は幕みたいに広がってるが後ろの景色が透けてるな、触っても大丈夫か?・・・。

指先で幕を突いてみた、おぉ・・・通り抜けたな・・・って思った瞬間。

がう!

目の前にでかい狼型の魔獣が現れて俺の手に向かって食いついてきやがった!、危ねぇ!、ちょっと反応遅れてたら手首喰われてたぞ畜生!。

勢い余って俺に飛びかかってきた魔獣は光の幕・・・結界に鼻先をぶつけて悲鳴をあげて逃げて行きやがったな・・・、人間?は結界をすり抜けられるが、魔獣はこっちに入って来られねぇようだ、すげぇ仕掛けだな、国に売ったら金貨1万枚でも売れるだろう、・・・いや、こんなヤバいもの知られたら作った奴は国に拉致られて飼い殺しにされるかもな・・・。

そう思ってたらいつの間にか地獄のような光景が広がってた!、俺の目の前で陸上型のドラゴンが結界に体当たりしてやがるぜ、それに右の方じゃエンペラーオーガ?かな、俺の知ってる奴より数倍でけぇが・・・そいつがさっきの狼の魔獣手掴みにして食ってる、おっと向こうじゃもう一匹のエンペラーオーガをでかい蛇の魔獣が締め上げてるな、上からはドラゴンが結界に向かってブレス吐いてら・・・ははは・・・。

「やべぇ・・・」

俺は語彙力はある方だが、もうやべぇとしか言葉が出ねぇ!。

それにしても間近で見ると本気でヤバい魔獣だよな、どれもエテルナ大陸にいる奴より数倍デカいし凶暴だ、見境なく共食いやってる所見ると強い奴が弱いやつを食って、それで生き残ったのがこいつらだろう、面構えが違うぜ・・・。

そんな呑気な事を考えてたら結界の光が点滅し始めた、何だ?、猛烈に嫌な予感がするな・・・。



俺は今、魔獣に周りを囲まれてる、囲まれてる間も周りじゃ魔獣同士が共食い始めてやがるが、それでも魔獣どもの視線は俺に釘付けだ!、魔獣からすると美味そうな小動物が目の前にって感じなんだろうが冗談じゃねぇぜ。

距離が結構あるが道の向こうの2番目の結界の装置を見るとこいつと同じように光の結界を出してやがる、何故か知らねぇが切り替えて結界が広くなったり狭くなったりしてるようだ!、何だよそれ!、そんなヤバい仕組みなら注意書きして看板でも立てておけよ畜生!。

走って結界まで逃げるにしてもこの足だ、まだ完治してねぇ、歩く速さがやっとだろう、すぐ追いついて喰われちまう、何とかしねぇと、って剣を構えてたらオーガにぶん殴られて吹っ飛んだ、痛てぇ!。

吹っ飛んだ俺に襲いかかってくる魔獣をかろうじて避ける、ダメだ数が多い、向こうに落ちてる剣を拾って何頭殺れるか・・・いや、一頭も無理だ!、せっかく助かったってのに俺はここで死ぬのか・・・。

そう思って目を閉じた、あれ、痛くねぇ、目を開けると俺の目の前に居やがる魔獣どもの動きが止まってた、・・・何が起きた?、その直後、俺は驚愕した。

20頭は居るだろう俺を囲んだ巨大な魔獣の首がゆっくりとズレるように全部綺麗に落ちた、しばらくして思い出したように胴体から血が吹き出し、あたりは血まみれだ!、本当に何が起きた・・・。

ようやく思考が回り出した俺の背筋が寒くなった、・・・首狩り・・・幻影・・・生きてやがったのか?、正体を知った奴らを片っ端から殺して回った化け物、・・・白金級のハンター、魔獣よりヤバい奴が出てきやがったぞ畜生!。

何処だ・・・何処に居る、・・・姿は見えねぇし、辺りを見回したが気配も殺気も無ぇ、いや、視線だけは微かに感じる・・・幻影って言われてるだけあるな、戦っても俺が勝てる姿が想像できねぇ、みんなこれで首を落とされるのか・・・、こんな出鱈目な強さの奴シャレにならねぇぜ!、そう思ってると俺の目の前の茂みがカサカサと動いた、今度は何だよ!。

茂みの間から奴がひょっこり顔を出した、なんでそんな近所を散歩してるみてぇに気軽にこんなとこ歩けるんだよ!、ここ魔獣だらけだぞ、危ねぇだろうが!、って思いながら俺は最初に奴に出会った時の事を思い出した、そういやあの時も奴は魔獣だらけのとこ平然と歩いてやがったな、何でだ!。

さっき首を落とされた魔獣の血の匂いを嗅ぎつけたのか、また周りに魔獣の気配がしてきた、やばい、早く結界の中に戻らねぇと!、って思い奴を小脇に抱えて剣を回収し、俺は道を走った、「うぁー」って奴が間抜けな声を出してやがるし足が超痛てぇが構ってる場合じゃねぇ!。

もうちょっとで結界の中だ!、って思った時にしくじった!、躓いて転けた、なんてこった!、結界はもう目の前なのに!、後ろからは足の速い狼型のデカい魔獣が走って来る、慌てて立ち上がったら奴が俺の背中に体当たりしやがった!、何するんだよ畜生、って思ったら別の方向からも魔獣が飛び掛かってきてやがった、クソ、俺としたことが気づかなかった!。

俺はヤツに体当たりされて体の半分は結界の中に入ったが奴はまだ外だ、奴も足が悪い、ヤバいぞって思って奴の方を見たら・・・結界の外で奴が久しぶりに喋った。

「・・・おじさん、元気でね、・・・さようなら」

そう言い終わった瞬間、奴は狼に飛びかかられ、俺の身体は光に包まれた、魔法陣か!。

「おい!、待ってくれ!」

すぐに視界が暗転して、目の前の景色が切り替わった、路地裏のようだがここはどこだ?、路地の向こうにデカい噴水がある、見慣れたやつだ、王都の中央広場?、・・・痛てぇ!。

そう思ってたら頭の上から俺の大剣が降ってきて直撃した!、痛てぇぞ畜生、コブが出来ちまう!

俺は歩いて噴水の広場に出た、間違いなく王都だ、何だよ、何でみんな俺をジロジロ見てやがるんだ!、俺は見せ物じゃねぇぞ!、って思って自分の体を見たら・・・魔獣の血まみれだった。

ヤバいぞ、王都の中央通りに血まみれのデカい剣を持った男・・・俺は何もしてねぇが、側から見たら危ない奴だ・・・、慌てて路地裏に戻り、路地伝いに水場まで行って血を洗い落とした・・・。

俺は金を持ってねぇから銀行まで行って預金を下ろし宿に転がり込んだ、水場で服と体を洗いながら考えた、考える事が多過ぎて頭がおかしくなりそうだぜ、俺は夢でも見てたのか・・・、いや、まだ俺の脇腹には傷跡がある、あれは現実だ・・・、部屋に戻って買ってきた服に着替え、ベッドに横になった、・・・疲れたな。

俺は血だらけの紙切れを手に持って読み返してる。

「お怪我がだいぶ良くなったようです、良かったですね、栄養のある物を沢山食べて早く故郷に戻れるといいですね」

あの時の昼飯の皿の下に入ってた紙切れだ、読まずにポケットに入れたんだったな、服を洗う前に気づいて良かったぜ、・・・あぁ、野盗どもに襲われて女子供が沢山殺された現場を見ても何とも思わなかったクズの俺が、何でガキ一人が死んだくらいで泣いてんだよ・・・畜生・・・。

ありゃ死んだだろう、狼に喰われて、・・・俺の・・・俺のせいか、・・・ヤツに無断であの場所に行って魔獣に襲われた、そんなアホな男を奴は助けてくれた、自分の命と引き換えにして・・・、それにあの魔法陣は何だ?、想像力を働かせるんだ・・・。

幻影、・・・リーゼロッテは白金級のハンターだ、まだ生きてるって事は魔力量も多いし魔法も使えただろう、大事に育ててるあいつに、何か危険なことが起きた時の為に転移魔法陣が起動する魔道具か何かを持たせてたんじゃないか・・・、だが優しいあいつはその魔道具を俺のために使ってくれた、・・・何でそんなことしたんだよ畜生!、もっと自分を大事にしろよ!。

待て・・・、まだリーゼロッテは・・・幻影は生きてる?、20頭も居やがる魔獣の首を一瞬で落とすような化け物だ、・・・確かにあの場所に居た、・・・って事は奴が俺を庇って死んだ事を知ってるだろう・・・、どう思う?、俺なら大事に育ててる子供がバカな男の勝手な行動のために死んだら、・・・怒り狂うだろうな・・・待て!、待ってくれ!、俺、あの化け物に命狙われるのかよ・・・。




翌日の朝、俺はハンターギルドに行った、まだ考えがまとまってなくて、ギルド長に相談する為だ、だから目立たねぇように裏口から入って顔見知りの受付嬢に頼んでギルド長の部屋まで連れてってもらった。

ギルド長はえらく驚いてやがったな、予想通り俺は行方不明扱いになってた、あの依頼者の貴族ども、大事にしたくなかったんだろう、ただハンターが依頼先で行方不明、依頼は未達成って事しか知らせてなかった、部屋で会ったギルド長は忙しそうで憔悴してた、何でも長年音沙汰がなかった高ランクハンターが大量の魔物を狩ってギルドに売りに来てるらしい、・・・待てよ・・・それって・・・。

先にその事を尋ねたら・・・。

「あぁ、そいつはギルドの解体場に専用の魔法陣を設置していてな、魔物を狩るとそこに転移させて来るんだ、ウチはそれを査定して金を指定した奴名義の口座に振り込む事になってる、60年ほど前から目に見えて送って来る魔獣の数が減ったらしいな、引退したかって思われてた、それからも数は少ないが送って来てたらしい、ここ20年くらい音沙汰が無かったが解体場の専用使用料は高額なのに毎年支払われてた、ギルドとしても損はないからそのままにしてたんだ、昨日になって見た事ないようなデカい魔獣が40頭以上送られてきた、おかげで解体場は大騒ぎだ、ありゃ徹夜作業だっただろうな」

・・・やべぇ!、幻影がブチ切れて周辺の魔獣皆殺しにしてやがる・・・。

「俺も先代、・・・いやその先代もまた先代のギルド長から引き継いだだけだから何でそんな金がかかる事してるのか詳しくは聞いてないが、そいつは白金級のハンターだ・・・お前、幻影って聞いたことあるか?」

・・・あぁ昨日助けられたぜ、・・・って言おうかどうか迷ってたらギルド長がさらに続けた。

「俺も噂で聞いただけだが、・・・超ヤバい奴らしい、素性も性別も不明、誰も顔を見たことが無い、先代のギルド長も先々代から命が惜しかったら絶対に奴の素性は探るな!、って念を押されてたようだ、俺がギルド長になった時も引退して田舎に引っ込んでた筈の先々代ギルド長がここにやって来て俺にも直接念を押してったな」

「なぁ、実は・・・」

俺は依頼先であった事を全部ギルド長に話した、こんなの俺の手に負える話じゃねぇ、っていうかギルド長も巻き込んでやるぜ!。



森のログハウス周辺(ランサー大陸)
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