春日遅々

阿波野治

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男女

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 フリーマーケット会場は人出で賑わっていた。春休み期間中ということもあり、家族連れの姿がやや目立つが、全体的に客層はばらけている。出店者は女性の方が男性よりもやや多いようだ。販売されている物品は衣類が多い。中でも子供服を扱っている店では、若い女性同士が話に花を咲かせながら商品を勧めたり選んだりしている光景が見られ、華やかな活気が感じられた。

 通路が狭い上、品定めをしている客の体がはみ出して邪魔になっているせいで、擦れ違う人とたびたび体が接触した。通行人にぶつかりやすい環境だと分かっているから、エミルは気をつけながら歩いているし、それは他の人も同じなのだろうが、それでもぶつかってしまう。そのたびにエミルは相手に目を合わせ、「ごめんなさい」と言って小さく頭を下げた。謝った相手の殆どが女性だった。

 男性よりも女性の方が不注意だとか、あるいは反射神経が鈍いだとかではなく、女性よりも男性の方が若い女性の体に触れまいとする意識が強いのだろう、とエミルは考える。同年代の同性と付き合う中で、「男は女とセックスをすることしか考えていない」という意味の言葉を、彼女たちの口から聞かされる機会は数え切れないくらいあるが、エミルはその意見には賛同できない。むしろ、よかれ悪しかれ、女性に対して非常に気を遣ってくれているのでは、という気がする。

『あんたは男とまともに付き合ったことがないから、そういう子供みたいなことが言えるのよ』

 そうバカにされそうな気がして、正面を切って彼女たちに異を唱えたことはないのだが。
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