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魔王時代編
8.地獄の特訓
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エレナの弟子になった俺は、彼女と一緒に旅へ出た。どこへ向かっているのかと言うと、かつて魔王城があった場所だ。行く当ての無い旅は、俺が弟子になったことで目的を得た。
その道すがら、俺はエレナから魔法戦の手ほどきを受けている。
「ぐっ……」
「立ちなさい」
「あの、エレナ先生……もうちょっと手加減を」
「駄目よ」
地面に仰向けに倒れている俺に、エレナは見下ろしながら言った。
エレナの指導は、思っていた以上にスパルタだった。
「えっと、もっと基礎とか基本とかを教えてほしいんですが」
「剣術や武術とは違って、魔法戦に決まった型は無いわ。使える魔法が異なる以上、持ちえる手段を駆使して戦うしかない。それには経験が不可欠よ」
「経験か……」
「そうよ。ベル君にはその経験が不足しているわ。だから――」
エレナが右手をかざし魔法陣を展開する。そして、笑顔のまま無慈悲な一言を口にする。
「身体で覚えなさい」
「……はい」
地獄のような特訓が始まる。俺は朝から晩までエレナと戦った。当然ながら全然歯が立たなかった。毎日ボロボロになるまで戦い続ける。それ以外にも――
「これを食べなさい」
「えっ、これ?」
「そうよ」
「でもこれ……」
エレナに手渡されたのは、彼女が狩った魔獣の生肉だった。狩りたて新鮮な生肉から、ポタポタと血が垂れている。
「いいから食べなさい」
「は、はい」
俺は意を決して生肉を飲み込んだ。その不味さは一生忘れられないだろう。別に苛められているわけではない。魔獣の肉は高密度の魔力を含んでいて、悪魔はそれを摂取すると魔力量を上げることができるのだ。それ以外にもいろいろとやってきた。
山みたいにでかい巨人と戦ったり、新しい魔法を開発したり、世界各地に眠る魔道具を集めたり……。強くなるために必要なことは何でもした。
「見違えたわね」
「エレナのお陰だよ」
そのかいあって、俺はたった二週間でエレナと互角に戦えるだけの力を手に入れた。エレナ曰く、元々才能はあったらしい。それでも驚異的なスピードだと言っていた。
「ワタシの役目も終わりかしらね」
「いいや、まだまだこんなんじゃ足りない。俺は魔王になるんだから」
「そうだったわね」
「なぁエレナ」
「なにかしら?」
「何で俺を弟子にしてくれたんだ?」
魔王城へ向かう途中、俺はずっと疑問に感じていたことを聞いた。あの日、赤の他人だった俺を、彼女は二つ返事で俺を弟子にしてくれた。その理由が知りたかった。
「そうねぇ。あの時の……ベル君の目が気に入ったからかしら」
エレナは微笑みながらそう言った。意外な反応に俺は少し戸惑った。
「それだけ?」
「ええ、それだけよ。目的もなく生きていたワタシには、ベル君の瞳が眩しく見えたの」
「だから弟子にしてくれたのか」
「そうよ」
「そっか」
俺とエレナの旅はもう少し続く。
その道すがら、俺はエレナから魔法戦の手ほどきを受けている。
「ぐっ……」
「立ちなさい」
「あの、エレナ先生……もうちょっと手加減を」
「駄目よ」
地面に仰向けに倒れている俺に、エレナは見下ろしながら言った。
エレナの指導は、思っていた以上にスパルタだった。
「えっと、もっと基礎とか基本とかを教えてほしいんですが」
「剣術や武術とは違って、魔法戦に決まった型は無いわ。使える魔法が異なる以上、持ちえる手段を駆使して戦うしかない。それには経験が不可欠よ」
「経験か……」
「そうよ。ベル君にはその経験が不足しているわ。だから――」
エレナが右手をかざし魔法陣を展開する。そして、笑顔のまま無慈悲な一言を口にする。
「身体で覚えなさい」
「……はい」
地獄のような特訓が始まる。俺は朝から晩までエレナと戦った。当然ながら全然歯が立たなかった。毎日ボロボロになるまで戦い続ける。それ以外にも――
「これを食べなさい」
「えっ、これ?」
「そうよ」
「でもこれ……」
エレナに手渡されたのは、彼女が狩った魔獣の生肉だった。狩りたて新鮮な生肉から、ポタポタと血が垂れている。
「いいから食べなさい」
「は、はい」
俺は意を決して生肉を飲み込んだ。その不味さは一生忘れられないだろう。別に苛められているわけではない。魔獣の肉は高密度の魔力を含んでいて、悪魔はそれを摂取すると魔力量を上げることができるのだ。それ以外にもいろいろとやってきた。
山みたいにでかい巨人と戦ったり、新しい魔法を開発したり、世界各地に眠る魔道具を集めたり……。強くなるために必要なことは何でもした。
「見違えたわね」
「エレナのお陰だよ」
そのかいあって、俺はたった二週間でエレナと互角に戦えるだけの力を手に入れた。エレナ曰く、元々才能はあったらしい。それでも驚異的なスピードだと言っていた。
「ワタシの役目も終わりかしらね」
「いいや、まだまだこんなんじゃ足りない。俺は魔王になるんだから」
「そうだったわね」
「なぁエレナ」
「なにかしら?」
「何で俺を弟子にしてくれたんだ?」
魔王城へ向かう途中、俺はずっと疑問に感じていたことを聞いた。あの日、赤の他人だった俺を、彼女は二つ返事で俺を弟子にしてくれた。その理由が知りたかった。
「そうねぇ。あの時の……ベル君の目が気に入ったからかしら」
エレナは微笑みながらそう言った。意外な反応に俺は少し戸惑った。
「それだけ?」
「ええ、それだけよ。目的もなく生きていたワタシには、ベル君の瞳が眩しく見えたの」
「だから弟子にしてくれたのか」
「そうよ」
「そっか」
俺とエレナの旅はもう少し続く。
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