神に喧嘩を売った者達 ~教科書には書かれない真実の物語~

平行宇宙

文字の大きさ
上 下
75 / 90
学園編 § 学校生活編

第75話 家庭科教室の霊

しおりを挟む

 「まったく、次から次へと余計なもんを・・・」
 翌朝。
 淳平の車で、学校へと向かう道、グチグチと言われ続けている。
 いや、これは異空間である、お狐様の元から、この次元へと戻されて、気がついてからずっと、と言っていいかもしれない。

 僕は気がつくと、客間の布団に寝かされていた。
 僕が、あの祈祷室に戻ったと思って見に行ったら、畳の上で寝ていたらしい。
 夕飯時分には目が覚めたけど、その時からずっとだ。
 ご神職からはうらやましがられた、この加護のマーク、どうやらよっぽどの力ある霊能力者じゃないと見えないみたいで、日常生活には問題ないだろうってことだけど、さすがにこの二人は、そのよっぽどの霊能力者だ。

 「おひいさまの加護か。うらやましいのぉ。そうやって見ると、まさにお稚児さんじゃな。」
 好き勝手言ってくれる神職。
 「おまえさぁ、他の神々、どおするよ。嫉妬で狂って天変地異、とか、洒落にならんぜ。」
 淳平が頭を抱え込んでたけど、こっちからどうこうできる問題じゃないだろうに。
 「一応、大丈夫だと言われた。けど、ひょっとしたら、我も我も、ってなるかもしれない。」
 「はぁ?まったく節操なしが。」
 「仕方ないだろ。」
 「・・・とにかく、できるだけ隠しておけよ。ご神職。済まないがこのことはご内密に願えませんかねぇ。その、こいつがどこかに肩入れってのはちょっとばかし問題が。」
 「ホッホッホッ分かっておる分かっておる。昔から儂は飛鳥の全面的な味方じゃよ。AAOなんぞ関係なく、な。」
 「・・・そちらの方も、その・・・」
 「わかっとるわかっとる。」

 終始、神職はご機嫌だったけど、淳平は苦々しげだ。
 僕がどこかの神に加護を受ける、というのは、どこかの宗派に属すると思われる、まぁ、どこかの家に取り込まれる、という図になりかねない、ということらしい。
 その手のことは前々から言われてるし、知ってるけど、僕のことを、淳平の言い方を真似れば、つばをつけてる神ってのは、複数いるし、今更、な気がしないでもない。

 そんなことは当然淳平も理解しつつ、ついつい愚痴っぽくなるのは仕方ないんだろうけど、朝っぱらから、グチグチ言われるこっちの身になれって思っても、僕は悪くないだろう。
 「蓮華に殴られるのは覚悟しとけよ。」
 学校について、車から降りるときに、言われたその一言で、僕の気持ちはいっそう沈んだ。


 教室。

 「よっ、先生と朝帰りか?」
 また、面倒くさい絡みをしてきた男子生徒。和田、だっけ?あんまり接点はなかったはずだが、なんでこんなに朝からテンションが高いんだか。
 こんなもんに付き合えるだけのモチベーションもないし、僕は一瞥しただけで、無視して席に座った。
 「ちぇっ、澄ましやがって。なぁ、おまえ昨日も先生とどっかへ行ったよなぁ。寮にも帰らず、今朝も先生と登校って、どういう関係なんだ?」
 しつこいなぁ。
 「あんたには関係ないだろ。家庭の事情ってやつだ。放っておいてくれ。」
 「はぁ?だから何すかしてんだって言ってるんだよ。」
 「おーい、和田よぉ。昨日飛鳥は体調不良で早退した、そう言ったろ?」
 そんな様子を見たのか、太朗が慌ててやってきて、そう言った。
 そんな風に説明してくれてたのか。ならそれにのっかるか?
 「あの、飛鳥君のおじさんが大阪都でお医者様なんです。だから、そのおじさんのことも知ってる先生が、おじさんのところへ連れてったんです。」
 生島麻朝だ。そこまでの設定を知ってるのは、昨日親父さんからでも聞いたのか?
 「ほら、飛鳥が本当は体が弱いって先生も言ってただろ?あんまりそういうこと聞いてやるなよな。」
 聖也も参戦してきた。
 味方してくれるつもりかしんないけど、これだけ騒がれても、正直迷惑だな、そんな風に思いながら、僕は昨日の疲れもあって机に突っ伏した。なんだかんだで、霊力を大量に持っていかれて、体力的にも精神的にも結構きてる自覚がある。
 「おまっ!何寝てるんだよ!お前のことだぞ!おい。」
 和田がそんな僕の肩を掴んで起こそうとした。けど、その腕をどうやら太朗が掴んだらしい。

 「はいはーい。全員席につけぇ。朝礼だぞ。」
 そのとき、間抜けな声が響いた。淳平がやってきたらしい。
 「和田、鈴木、喧嘩はダメだぞ。」
 チッ、と和田は舌打ちし、太朗がどうやら僕の頭を撫でてから、席に戻ったらしい。淳平だしいいか、と一瞬思わなくもなかったが、怠い体をなんとか起こして、僕もきちんと座った。

 と、正解だったようだ。淳平がどうやらこっちを見てる。
 「田沼、これ取りに来い。」
 なんかビニール袋に入れたものを持ち上げて、淳平は言った。
 なんだ?
 しぶしぶ取りに行ったけど、餅?
 「昨日の体験できなかったんで、お店からいただいたものだ。誰かに教えて貰ってつくって先生に見せるように。昨日の早退の代わりな。昼休みに家庭科教室使えるようになってるから、誰かつきあってやってくれ。」
 麻朝と、いつもの3人が手を上げる。そしてもう一人、さっきの和田か?いやそれはやめて欲しいんだけど。
 淳平も渋い顔をしてるよな。
 「あー、えらく人気者だが、そうだな二人もいればいいか。じゃあ、生島と鈴木、悪いがつきあってやってくれ。」
 「はい。」
 「ウィッス。」
 「ちょっと待ってください。僕も手伝います。」
 「和田かぁ。田沼と仲良かったか?一応、生島は家の仕事でよく知ってるし、鈴木は田沼と仲がいい、ってことで頼んだんだが?」
 「同じ人とばかり付き合うのは良くないと思います。僕も田沼と仲良くなりたいです。」
 「あー、どうする田沼?」
 この流れで振るか?けど、和田はないな。これってどう考えても仕事絡みだろ?ふつうこんな代講あってたまるか。
 「・・・昼休みですよね?時間もないしよく知ってる人の方がさっさとできると思う。」
 「だそうだ。和田、悪いが、また近々なんかあったら協力してやってくれ。」
 立っていた和田が、ガタン、と音を立てて座った。
 納得はしてないようだけど、そこまで僕は気を使えないからな。

 そうして、昼休み、僕は麻朝と太朗とともに家庭科教室にいた。


 この部屋を使うのは、初めてだ。
 なんかゾロゾロついてきそうになったので、3人が入った段階で施錠した。
 なるほど・・・

 チェックで色々と回ったけど、ここいらは僕の担当じゃなかったから、僕がこの部屋へ入るのは初めてだ。特別教室ってことで、そもそもが高等部の学舎にあるしな。
 で、この部屋は水場が多い。
 大きく6台の机があって、そのすべてに水道が備えられている。

 水場、というのは、霊的な干渉を受けやすいんだ。
 雨の日の肝試し、なんて、霊能者からしたら信じられない暴挙だ。
 イベントで肝試しをやるような宿坊でも、雨の日は中止しているぐらいには、常識ってやつだ。

 まぁ、それはいい。
 今、僕は目の前の惨状に、正直頭を抱えそうだ。
 入ってすぐ息を呑む様子が見て取れたから、麻朝にも少しは見えているんだろう。
 なんていうか趣味が悪い。
 これが僕のここに誘導された理由なんだろうけど・・・

 古い霊だろう。
 そこにまずある陣は、むしろ、札、か。
 中国とかアジア圏で見られる降霊の札、もどき。
 そして悪いことに、その下にもう1枚。
 いや、下でもないのか?
 一つの紙に描かれてる?
 もう一つは悪魔教か?
 たぶん、だけど、封じの陣だ。もちろんもどきだけど。
 これだけでも、いつ汚染が発生するかわかんないレベルの異質の法の重ね掛け。
 まして、そこに降霊されたのであろう、古めかしい霊。
 きっと水攻めを含む拷問を受けて死んだのだろう女性の霊だ。
 いや拷問を受けた後、死にかけのまま川かなんかの水に放り込まれたか。水死独特のむくみがひどい。
 そして、死して尚手元に抱くロザリオ。
 キリスト教の殉死者、ということか。

 つまり、だ。 
 ここには、少なくとも3つの異なる法が重なってるってことだ。
 おそらくは術者が素人か霊力が少ないために、また、各陣、札の正確性が担保されていないために、かろうじて汚染が発生していないけど、ほんとうにデタラメな状態だって言える。

 浄化、する?
 といっても僕はちゃんとした浄霊とかはできないんだ。
 これでいいって言ってくれた方法はあるけど、あくまで素人のやり方で・・・

 『・・・お願い・・・』
 僕の逡巡を見極めたように、その霊が言った。
 『助けて・・・』
 霊は、自分が見えていると思うと、すがりついてくるんだ。だから大量にいるいろんな霊に気付いていないふりをしなくちゃならない。すべてをかまうわけにはいかないんだから。
 でもさすがに、この人は・・・

 『僕は滅することしか出来ないんだ。』
 『お願い。あなたのその光をちょうだい・・・』
 途切れ途切れだけど、そんな風に言ってくる。

 僕は、以前封印された霊を解放した方法を思い出す。
 それは怨霊と化していたけど、かわいそうなやつで、僕の霊力をボール状にしてそれで包んで欲しいって言われて、やってあげたんだ。生前の姿を取り戻す力を、ということだった。
 僕はその時と同じように、ボールを手の間に霊力で作っていく。
 それを霊に纏わせる。
 『元の姿を取り戻せますように。』
 そんな祈りにも似た気持ちを込めて、そのボールを維持する。
 するし、ゆっくりと膨れきって、あちこち傷だらけだった顔が、あどけない、と言っても良いぐらいの女性の顔になったんだ。
 『あぁ、もう痛くない。嬉しい、ありがとう。ありがとう。ありが・・・』
 涙を流しながら微笑む顔が、徐々に薄れていった。
 
 僕は、それを確認すると、もう何もいなくなったのにもかかわらず作動する、2つの性質を持った紙を丁寧に引きはがした。


 あ、確保用の袋、持ってないや。

 「飛鳥君、どうぞ。」
 麻朝が渡してくれた霊力遮断の袋を驚きながら受け取り、その中に入れた。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっ☆パラ

うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!? 新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

晴明さんちの不憫な大家

烏丸紫明@『晴明さんちの不憫な大家』発売
キャラ文芸
最愛の祖父を亡くした、主人公――吉祥(きちじょう)真備(まきび)。 天蓋孤独の身となってしまった彼は『一坪の土地』という奇妙な遺産を託される。 祖父の真意を知るため、『一坪の土地』がある岡山県へと足を運んだ彼を待っていた『モノ』とは。   神さま・あやかしたちと、不憫な青年が織りなす、心温まるあやかし譚――。    

薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。 不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。 その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。 クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。 その病を、完治させる手段とは? (どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの) 狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?

あやかし蔵の管理人

朝比奈 和
キャラ文芸
主人公、小日向 蒼真(こひなた そうま)は高校1年生になったばかり。 親が突然海外に転勤になった関係で、祖母の知り合いの家に居候することになった。 居候相手は有名な小説家で、土地持ちの結月 清人(ゆづき きよと)さん。 人見知りな俺が、普通に会話できるほど優しそうな人だ。 ただ、この居候先の結月邸には、あやかしの世界とつながっている蔵があって―――。 蔵の扉から出入りするあやかしたちとの、ほのぼのしつつちょっと変わった日常のお話。 2018年 8月。あやかし蔵の管理人 書籍発売しました! ※登場妖怪は伝承にアレンジを加えてありますので、ご了承ください。

処理中です...