神に喧嘩を売った者達 ~教科書には書かれない真実の物語~

平行宇宙

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学園編 § 学校生活編

第74話 伏見のお狐様

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 目の前の老人を見ながら、そんな出会いを思い出す。

 そして、あぁ、時間は流れたんだなぁ、としみじみ思う。
 だが、あのときでさえ恐ろしく思ったこの男は、さらに不気味さを増してる気がする。

 「飛鳥、儂が恐ろしいかい?」
 まったくどいつもこいつも人の心を読んでくる。
 「別に・・・」
 ホッホッホッ・・・と笑う。
 「管狐じゃが、お前が持ってなさい。」
 「・・・いや、断る。」
 「役に立つぞ。」
 「・・・」
 これ以上ややこしいのを連れて歩けるか、と思うけど、さすがに口にできない。
 「伏見の連絡要員はいるだろう?」
 「うーむ。まぁ、良かろう。本題じゃが、おひい様と会って行きなさい。」
 「・・・命令?」
 「ご本人の懇願じゃ。」
 「・・・分かった。淳平は・・・」
 「待ってるよ。」
 「久々に一献?」
 神職が酒を飲む仕草をする。
 「それもいいな。」
 「いや、車だろ。」
 「どうせ日をまたぐ。」
 「・・・明日の学校は?」
 「間に合うよう、お狐様にはよろしくな。」
 そう言うと、二人でシッシッと僕を追い払う仕草をした。
 僕はため息をついて、祈祷場、つまりは、あの日僕が目を覚ました板の間へと向かった。



 白い空間。
 はぁ、と僕はため息をつく。
 まだ畳に到着する前に引っ張り込まれたようだ。

 ホッホッホッ・・・

 笑いが響く。

 遠くから白い着物に狐面の女が近づいて来る。
 僕は、それをじっとしたまま見ていると、徐々に体がぶれ、体高1メートルほどの白い狐に変わっている。
 そして、めまいのような感覚。
 気がつけば真っ白い毛並みの巨大な狐の腹にもたれて、白いでっかい抱き枕みたいなしっぽに包まれていた。

 彼女はこういう演出が好みらしい。
 どの姿も彼女自身だし、彼女そのものではない、と、昔、聞いた気がする。

 「飛鳥、久しぶりじゃのぉ。」
 「ご無沙汰、してます・・・」
 「京に来たというに、いっこうに来てくれなんだ。」
 「ちょっと忙しくて。」
 「貴船には、すぐに行ったのにのぉ。」
 「・・・その、・・・すみません。」
 「ホッホッ、よいよい。奴は癇癪持ち故、側に来てると知ったら、我慢なぞ、できんからのぉ。」
 「・・・」
 「して、そのなんじゃ、そちは相変わらず香しいのぉ。」
 「いいよ。好きに霊力を持ってっても。」
 「わちは食いしん坊じゃありんせん。」
 「分かってる。来るのが遅くなったお詫びっていうか・・・」
 「そうかえ。そう言うなら仕方ありんせんなぁ。」

 体がふんわりと温かなものに包まれる気がする。
 このあやかしに霊力を取られるのはそんなにいやじゃない。なんか、風呂に浸かっているようだ。だからこそ危険だ、と、淳平や蓮華なんかは怒るけど、正直、人間に体を実験されるより何倍もいい。


 「のぉ、飛鳥。そちは我が眷属じゃ。」
 その状態のまま彼女は言う。
 「知ってる。」
 「今の京は、荒れておるのぉ。」
 「うん。」
 「我の眷属はようさんおる。色々と陳情が上がってきんなさる。」
 「うん。」
 「これは、人の仕業も大きいと知っておるかえ?」
 「・・・らしいね。人のことは人で、と言われたよ。」
 「うむ。まぁ、人だけの仕業でもないけんど、人の技が汚したのは間違いありんせん。」
 「・・・」
 「のぉ、飛鳥。京を清めておくんなまし。」
 「一応、そのために京へ来たんだけどね。」
 「わちの眷属、使うておくんなまし。役に立とうえ。」
 「眷属って稲荷?」
 「稲荷に仕える狐はようさんありんす。好きにつこうておくんなまし。」
 「・・・人も動いてるからね。あんまり化身を使うと・・・」
 「わかってありんす。だから、好きにしておくんなまし。けんど、数は力、と思わぬか?」
 「・・・そうだね。情報とか、ありがたいかもね。」
 「フフフ。ありがたいわいなぁ。」
 フフフフ、と、嬉しそうに笑う。

 けど、京をなんとかしろ、は、何度目だろう。
 「主に貸すに当たっての、一つやらねばならぬことがありんす。」
 「ん?」
 「その無骨な背中でありんす。」
 「背中?」
 「まぁ、きゃつが飛鳥を思うて、守護を与えたのはわかりんす。しかしのぉ、それでは怖がって我が眷属がまともに飛鳥とまみえることかなわんえ。」
 「あぁ、貴船の・・・これ、何の召還陣か分かる?」
 「当然じゃ。」
 「何?」
 「・・・わちが言うたと知ったら、きゃつが神罰を下すかもしれぬが聞きたいかえ?」
 「え?神罰って、そんな・・・て、あり得るか。じゃあ、いいや。これ、飼ってて大丈夫な奴?それだけ教えて。」
 「お気に入りを守護したいという気持ちがいきすぎてるだけでありんす。問題おへん。」
 「ふーん。」
 「じゃが、弱きものの中の強きものには、力が強すぎて、すくんでしまうは間違いおへん。じゃからして、わちからの祝福を受けてくんなまし。」
 「祝福って?」
 「我が神気を貸そうかいな。」
 「神気?」
 「これを纏えば我が眷属が怯えなくてよいわいなぁ。それに、戦いの折の守護にも使えようぞ。」
 「えっと、結界的な?でも、それは無理かな?結界張っちゃうと、みんなの力を受け入れられないでしょ?」
 「使うは自由じゃし、主が許す力はそもそも弾かん。そちは、元々そうじゃろ?」
 「あぁ・・・確かに。」

 そんな実験、昔にあったなぁ。

 僕が人の力を受け入れて使えるって分かってから、そういう実験、随分やらされたっけ?
 僕に対する悪意を持つ者の力は受け入れられないみたい、って結論だった。
 これの問題は、あくまで相手の悪意であって僕が拒否するのは難しいって難点あるんだよな。僕に対して悪意がなければ、僕にとって不都合な力も受け入れてしまう。大きな欠点だって思うよ。こっちから拒否れれば、淳平の痛覚をアップさせるような力、とっとと排除できるんだけど・・・


 「して、我の祝福、受けてくれるかえ?受けてくれぬと、眷属どもがうるそうてかなわんのじゃが。」
 「分かった。で、本当は僕が狐たちの要望をお狐様に代わってきいてこい、ってことでしょ。」
 「そないなこと。・・・わちはそなたに命令などせん。ただちいっとばかり気にしてくれれば嬉しいわいえぇ。きゃつらも手伝えればもっと嬉しいわいえぇ。」
 「いいよ。どっちにしろ京の騒動をなんとかするのが僕の仕事みたいだし、狐たちの協力はありがたいからね。」
 「では、祝福を。」

 お狐様は、そのでっかい口で僕の頭をがぶっと噛んだ。
 2本の牙が、眉間に当たって、そこから暖かいものが流れてくる。
 どこからか、銅鏡みたいな鏡が、僕の目の前に浮かび上がった。
 僕の眉間には、お稚児さんの眉毛みたいに丸い点が二つ。
 これって、目立つよね?

 「わちの力は分かるかえ?」
 嬉しそうに言われて、その点に意識を持っていくと、なるほど、彼女と同じ波動を感じる。ここに力を注げばいいってことかな?そう思って霊力を動かすと、白い力がうっすらと僕の周りに膜を張った。
 「良いのぉ。良いのぉ。」
 「あのさ、僕のこと眷属だって言ってる神々が怒らないかな?」
 「祝福を与えたければ好きにすれば良いのじゃ。飛鳥なら別に複数の加護があっても、喧嘩はせぬゆえ。」
 「まじか・・・」

 ただでさえ、こんな体だ。あんまり人外と親しくしたくはないんだけど。かといって人と親しくしたいかというと・・・ハハハ、そうでもないか。
 こんな優しげに接してるけど、お狐様だって神の一柱に数えられるあやかしだし、下手に刺激はできない。
 あの神への離反の時に味方してくれた、この世界の高位者でもあるんだし、僕にとっては下手な人間よりずっと信じられる神、なんだから。

 そうやって考えると、この祝福=加護も、僕には拒否するだけの意味も能力もないってなるかな。

 「人に祝福を与えるのは何百年ぶりかのぉ。」
 ご機嫌にしっぽを揺らす、彼女の嬉しそうな顔を見ていると、僕はどうでも良くなって、いつの間にか意識を飛ばしていたようだ。
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