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12 復讐心
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◆◆◆◆◆
「アデルバートは・・初めて会った時から、私の瞳を真っ直ぐに見つめてくれた。両親さえ恐れた左右の色の違う瞳を、綺麗だって言ってくれた。婚約を申し込んでくれたのも、彼だけだった。パオラに気を許したのだって一時の過ちで・・私はアデルバートと素敵な家庭を築ける筈だったのに。どうして、こうなるの?」
「アデルバートの実家は侯爵家だが、借金を重ねて没落寸前だ。アデルバートがお前と婚約したのも、カルロッタの持参金が目的だ。現に、カルロッタとアデルバートが婚約してからは、幾度も金の無心があった。アデルバートがパオラに関心を寄せたのも、金絡みだ。パオラの実家は男爵家だが、かなりの金持ちだ。おそらく、アデルバートは、どちらと結婚することが利益に繋がるか考えていたのだろうな。しかし、カルロッタはアデルバートに夢中で・・別れろとは言えなかった」
クロードの胸のなかで、私は泣き声を上げていた。私は最初から、アデルバートに愛されてはいなかった。私の瞳を綺麗だと言ってくれたのも、嘘だったんだ。ぜんぶ、嘘だった。
「・・兄上」
「カルロッタ?」
「ヘルベルト兄上」
『カルロッタ』
「ヘルベルト兄上・・もう一度、時を遡りたいです。この世界は嫌です。兄上が傍にいてくれるなら、牢獄も怖くありません。処刑も怖くない。だから、戻りましょ?」
「気をしっかり持て、カルロッタ。ほら、ベッドに横になるんだ。先生が鎮静剤を処方してくれたから、すぐに用意する」
クロードは私をベッドに寝かせると、テーブルに置かれた薬と水を取りにいった。
クロードがこちらに背中を向けた瞬間に、ヘルベルト兄上がベッド近くに現れて私の唇を奪った。
「んっ・・」
淡く朧だったヘルベルト兄上が、実体を持つ。唇はすぐに離れてゆき、また体が淡く霞む。
「ヘルベルト兄上?」
『カルロッタから、少し生命をもらった。これで、少しはお前の役に立てるかもしれない。なあ、カルロッタ。お前の瞳を心から綺麗だと言った奴を、俺は知っている。もしも、俺がカルロッタの元に戻らなくても、彼が守ってくれる』
「兄上!?」
ヘルベルト兄上は、優しく私の頬を撫でた。その時、ガラスが砕ける音がした。クロードが、グラスを床に落とした音だった。
「ヘルベルト?いや?ええっーー!?」
実体をもったヘルベルト兄上が、クロードに向かいニヤリと笑った。
「なるほど。カルロッタに触れている時は、クロードにも俺が見えるわけか。君に頼みたいことがある。ずっとカルロッタの傍にいたが、ちょっと用事ができてね。俺の役をクロードに頼みたい」
「はぁ??」
「兄上!」
「カルロッタの瞳を、クロードは綺麗だと言っていたよな。その気持ちは、今も変わってはいないか?」
「・・勿論、気持ちは変わらない」
「クロード、絶対にカルロッタを幸せにしろ。カルロッタの最大の理解者でいろ」
「承知した、ヘルベルト」
「では、カルロッタを苦しめた二人に復讐をしてくる。すまない、カルロッタ。もう一度、命を貰っていいかい?」
「兄上は戻ってくるのでしょ?」
「俺は死人だから・・どうかな?」
「ヘルベルト兄上が傍からいなくなってしまうなら、復讐なんて必要ありません。傍にいてください、兄さま!」
ヘルベルト兄上が私の額にキスをした。そして、兄上が私から身を離した。淡く朧な姿となった兄上が、優しく微笑んだ後に消えてしまった。
「ヘルベルト兄上ーーー!」
私はベッドから飛び出していた。そして、そのまま床に倒れ込む。クロードが慌てて駆け寄る。
「カルロッタ!」
「クロード、兄上が消えちゃった。消えてしまったの!私はどうしたらいいの?」
私は寂しくて辛くて、クロードに抱きついていた。クロードも私を抱きしめてくれた。
「ヘルベルトの姿を見た。そして、声を聞いた。もしも、ヘルベルトが神に背く行いをしても、俺は彼の行為を肯定する。そして、ヘルベルトとの約束は一生守る。カルロッタを守るのは、俺の役目だ」
「クロード、抱きしめて。ヘルベルト兄上が帰るまで、私を抱きしめていて」
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「アデルバートは・・初めて会った時から、私の瞳を真っ直ぐに見つめてくれた。両親さえ恐れた左右の色の違う瞳を、綺麗だって言ってくれた。婚約を申し込んでくれたのも、彼だけだった。パオラに気を許したのだって一時の過ちで・・私はアデルバートと素敵な家庭を築ける筈だったのに。どうして、こうなるの?」
「アデルバートの実家は侯爵家だが、借金を重ねて没落寸前だ。アデルバートがお前と婚約したのも、カルロッタの持参金が目的だ。現に、カルロッタとアデルバートが婚約してからは、幾度も金の無心があった。アデルバートがパオラに関心を寄せたのも、金絡みだ。パオラの実家は男爵家だが、かなりの金持ちだ。おそらく、アデルバートは、どちらと結婚することが利益に繋がるか考えていたのだろうな。しかし、カルロッタはアデルバートに夢中で・・別れろとは言えなかった」
クロードの胸のなかで、私は泣き声を上げていた。私は最初から、アデルバートに愛されてはいなかった。私の瞳を綺麗だと言ってくれたのも、嘘だったんだ。ぜんぶ、嘘だった。
「・・兄上」
「カルロッタ?」
「ヘルベルト兄上」
『カルロッタ』
「ヘルベルト兄上・・もう一度、時を遡りたいです。この世界は嫌です。兄上が傍にいてくれるなら、牢獄も怖くありません。処刑も怖くない。だから、戻りましょ?」
「気をしっかり持て、カルロッタ。ほら、ベッドに横になるんだ。先生が鎮静剤を処方してくれたから、すぐに用意する」
クロードは私をベッドに寝かせると、テーブルに置かれた薬と水を取りにいった。
クロードがこちらに背中を向けた瞬間に、ヘルベルト兄上がベッド近くに現れて私の唇を奪った。
「んっ・・」
淡く朧だったヘルベルト兄上が、実体を持つ。唇はすぐに離れてゆき、また体が淡く霞む。
「ヘルベルト兄上?」
『カルロッタから、少し生命をもらった。これで、少しはお前の役に立てるかもしれない。なあ、カルロッタ。お前の瞳を心から綺麗だと言った奴を、俺は知っている。もしも、俺がカルロッタの元に戻らなくても、彼が守ってくれる』
「兄上!?」
ヘルベルト兄上は、優しく私の頬を撫でた。その時、ガラスが砕ける音がした。クロードが、グラスを床に落とした音だった。
「ヘルベルト?いや?ええっーー!?」
実体をもったヘルベルト兄上が、クロードに向かいニヤリと笑った。
「なるほど。カルロッタに触れている時は、クロードにも俺が見えるわけか。君に頼みたいことがある。ずっとカルロッタの傍にいたが、ちょっと用事ができてね。俺の役をクロードに頼みたい」
「はぁ??」
「兄上!」
「カルロッタの瞳を、クロードは綺麗だと言っていたよな。その気持ちは、今も変わってはいないか?」
「・・勿論、気持ちは変わらない」
「クロード、絶対にカルロッタを幸せにしろ。カルロッタの最大の理解者でいろ」
「承知した、ヘルベルト」
「では、カルロッタを苦しめた二人に復讐をしてくる。すまない、カルロッタ。もう一度、命を貰っていいかい?」
「兄上は戻ってくるのでしょ?」
「俺は死人だから・・どうかな?」
「ヘルベルト兄上が傍からいなくなってしまうなら、復讐なんて必要ありません。傍にいてください、兄さま!」
ヘルベルト兄上が私の額にキスをした。そして、兄上が私から身を離した。淡く朧な姿となった兄上が、優しく微笑んだ後に消えてしまった。
「ヘルベルト兄上ーーー!」
私はベッドから飛び出していた。そして、そのまま床に倒れ込む。クロードが慌てて駆け寄る。
「カルロッタ!」
「クロード、兄上が消えちゃった。消えてしまったの!私はどうしたらいいの?」
私は寂しくて辛くて、クロードに抱きついていた。クロードも私を抱きしめてくれた。
「ヘルベルトの姿を見た。そして、声を聞いた。もしも、ヘルベルトが神に背く行いをしても、俺は彼の行為を肯定する。そして、ヘルベルトとの約束は一生守る。カルロッタを守るのは、俺の役目だ」
「クロード、抱きしめて。ヘルベルト兄上が帰るまで、私を抱きしめていて」
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