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1 睡蓮の沼
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◆◆◆◆◆
「美しい花ですね、カルロッタ」
「っ!」
沼に咲く睡蓮を見ていたパオラ・ロマナが、不意に私に話し掛けてきた。私は身を震わせ息を止めた。もう少しで、私の右手はパオラの背中に届く。
「カルロッタ?」
「ひっ!」
パオラがゆっくりと背後を振り返る。私は小さな悲鳴を上げて後退りした。可愛らしい笑みを浮かべて、パオラが首を傾げて私を見つめる。
パオラがなぜ生きているの?
底無し沼に沈めたのに。浮かび上がるはずのなかった遺体。手のひらに握りしめられた私のボタン。死を待つ牢獄生活。
「カルロッタ、顔色が悪いよ?」
「だ、大丈夫・・」
「そう?」
不思議そうに私を見つめるパオラが、再び睡蓮の沼に視線を戻す。背を向けるパオラの姿に恐怖を感じて、私の体は震えだしていた。この場から離れないと駄目だ。パオラを突き落とせば、私は破滅する。
断罪され斧で頸をはねられる。
「ねえ、この花の名は何ですか?」
「・・睡蓮」
「すいれん?そう、綺麗な花だね。カルロッタに呼び出された時は、正直ちょっとドキドキしちゃった。だって、カルロッタの婚約者を、僕が奪ってしまったから。カルロッタに、復讐されるかと思ってた」
「まさか、そんなこと・・しないよ」
「じゃあ・・僕とアデルバートの事を、カルロッタは認めてくれたんだね?」
「それは・・」
パオラが不意に沼の淵に座り込む。そして、睡蓮の花に向かって手を伸ばす。私はギクリとして体を強張らせた。
「すいれんの花を一輪持って帰りたいな。アデルバートに、愛を込めて手渡したい。んー、もう少しで手が届きそう!」
「危ないよ、パオラ!」
「大丈夫、大丈夫」
パオラがさらに沼に向かって身を乗り出す。そして、バランスを崩した。彼の右手が沼に沈む。私はその姿を見て顔面が蒼白になった。
このままパオラが沼に沈んだらどうなる?私が断罪される!あんな思いは二度と御免だ。
「パオラ!」
私はパオラの名を呼び駆け寄った。そして、沈みこむ彼の右腕を掴もうとした。だけど、すでにパオラの右手は沼から抜け出ていた。
パオラが嗤う。
パオラは自由になった両手で、私の体を力一杯沼に突き飛ばした。バランスを崩した私は、底無し沼に足を踏み入れていた。ズブズブと足が沈んでゆく。
「パオラ!?」
「やっぱり、カルロッタは邪魔なんだよね。アデルバートの婚約者が侯爵令息じゃ、男爵令息の僕には勝ち目がないからさぁ。このまま底無し沼に沈んで、行方不明になってくれる?」
「そんな!助けて、パオラ!」
「『カルロッタは庶民と駆け落ちした』と、僕が噂を流してあげる。アデルバートはショックを受けるだろうけど、大丈夫だよ。僕がこの身で慰めてあげるから。あははっ、足掻くと余計に沈んじゃうよ?さよなら、カルロッタ!」
パオラが楽しそうに嗤っている。立場が逆転した。だけど、私は沈むパオラを見て、嗤いはしなかったよ。
私は泣いたけど、パオラは嗤うんだね。
◆◆◆◆◆
「美しい花ですね、カルロッタ」
「っ!」
沼に咲く睡蓮を見ていたパオラ・ロマナが、不意に私に話し掛けてきた。私は身を震わせ息を止めた。もう少しで、私の右手はパオラの背中に届く。
「カルロッタ?」
「ひっ!」
パオラがゆっくりと背後を振り返る。私は小さな悲鳴を上げて後退りした。可愛らしい笑みを浮かべて、パオラが首を傾げて私を見つめる。
パオラがなぜ生きているの?
底無し沼に沈めたのに。浮かび上がるはずのなかった遺体。手のひらに握りしめられた私のボタン。死を待つ牢獄生活。
「カルロッタ、顔色が悪いよ?」
「だ、大丈夫・・」
「そう?」
不思議そうに私を見つめるパオラが、再び睡蓮の沼に視線を戻す。背を向けるパオラの姿に恐怖を感じて、私の体は震えだしていた。この場から離れないと駄目だ。パオラを突き落とせば、私は破滅する。
断罪され斧で頸をはねられる。
「ねえ、この花の名は何ですか?」
「・・睡蓮」
「すいれん?そう、綺麗な花だね。カルロッタに呼び出された時は、正直ちょっとドキドキしちゃった。だって、カルロッタの婚約者を、僕が奪ってしまったから。カルロッタに、復讐されるかと思ってた」
「まさか、そんなこと・・しないよ」
「じゃあ・・僕とアデルバートの事を、カルロッタは認めてくれたんだね?」
「それは・・」
パオラが不意に沼の淵に座り込む。そして、睡蓮の花に向かって手を伸ばす。私はギクリとして体を強張らせた。
「すいれんの花を一輪持って帰りたいな。アデルバートに、愛を込めて手渡したい。んー、もう少しで手が届きそう!」
「危ないよ、パオラ!」
「大丈夫、大丈夫」
パオラがさらに沼に向かって身を乗り出す。そして、バランスを崩した。彼の右手が沼に沈む。私はその姿を見て顔面が蒼白になった。
このままパオラが沼に沈んだらどうなる?私が断罪される!あんな思いは二度と御免だ。
「パオラ!」
私はパオラの名を呼び駆け寄った。そして、沈みこむ彼の右腕を掴もうとした。だけど、すでにパオラの右手は沼から抜け出ていた。
パオラが嗤う。
パオラは自由になった両手で、私の体を力一杯沼に突き飛ばした。バランスを崩した私は、底無し沼に足を踏み入れていた。ズブズブと足が沈んでゆく。
「パオラ!?」
「やっぱり、カルロッタは邪魔なんだよね。アデルバートの婚約者が侯爵令息じゃ、男爵令息の僕には勝ち目がないからさぁ。このまま底無し沼に沈んで、行方不明になってくれる?」
「そんな!助けて、パオラ!」
「『カルロッタは庶民と駆け落ちした』と、僕が噂を流してあげる。アデルバートはショックを受けるだろうけど、大丈夫だよ。僕がこの身で慰めてあげるから。あははっ、足掻くと余計に沈んじゃうよ?さよなら、カルロッタ!」
パオラが楽しそうに嗤っている。立場が逆転した。だけど、私は沈むパオラを見て、嗤いはしなかったよ。
私は泣いたけど、パオラは嗤うんだね。
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