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暗い根っこ
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◆◆◆◆◆
「先生の小説の中の殺人鬼は色々と考えながら人を殺すので、読んでいて面白かったです。」
山崎は俺の首元を指先で撫でながら、小説の感想を口にする。俺は好奇心に抗えず、声の震えを承知で男に尋ねていた。
「実際はどうだった?」
「実際とは?」
男が面白そうに目を細める。明らかに山崎に会話の主導権を握られている。それでも、知りたくて仕方なかった。
「実際に人を殺した時、君は何を考えていた?何を想っていた?」
「何も。ただ煩わしい人間が消えると良いなと思っただけです。」
「それだけか?」
「そうです。」
「葛藤や後悔もなく?恐怖や‥‥あるいは喜びや快感も感じずに殺したのか‥‥同級生を?」
山崎は俺の首元から手を離す。そして、両手を俺の頬にあてがうと顔を近づけてきた。視線が間近でかち合う。
「先生は以前も私に『それ』を尋ねましたね。その時はメールでのやり取りでしたが‥‥こうして顔を見合わせて話せる様になるとは思いませんでした。」
「以前にも‥‥俺は尋ねていたのか」
山崎は目を細めて俺を見つめながら口を開く。
「先生にコンタクトを最初に取ったのは私の方です。初めは先生のネット小説に感想を書き込みました。しばらくそのやり取りが続いた後に、Twitterでも交流を持ちました。」
「‥‥‥何も覚えていない」
「事故に遭ったのだから仕方ありません。私が恨むべき相手は、先生から私の記憶を奪った運転手です。」
山崎は一度言葉を切ると、まっすぐに俺の目を覗く。そして、俺の返事を待たずに言葉を継いだ。
「たとえ、先生が私のことを全て忘れる事を望んでいたとしても‥‥事故は偶然に起きました。そうでしょ、大塚先生?」
山﨑が己に言い聞かせるように言ったので、俺は否定はせずに頷いた。そして、男の話を促すために口を開く。
「Twitterで交流を持った俺達はどんなやり取りをしていた?」
「私は別荘に閉じこもる生活に満足しているはずでした。でも、先生に私の存在を‥‥本当の正体を知って欲しいと思ったのです。先生もそれを望んでいると私は感じました。だから、TwitterのDMで私の過去の犯行を告白しました‥‥何もかも。」
俺は山崎の目を真っ直ぐに見つめたまま尋ねた。
「俺は興味を持っただろうね。本物の殺人鬼とやり取りできる機会など‥‥滅多に巡ってくるものではないから」
「はい。先生はとても興味を持ってくれました。最初は私が本物の犯罪者か疑っていましたけどね。でも、DEからメールのやり取りをする頃には信じてくれていました。」
俺は山崎の両腕を掴むと、両頬を包む手を引き剥がした。そして、男の腕を放り出すと自身の顔を覆って俯く。
「それは興味を惹かれるだろ。俺は子供の頃に男に誘拐されて殺されかけた。そいつが言ってたんだ。『暗い根っこ』は誰にでもある。そいつに支配されて、人は人を殺すって。そいつは俺を道連れに死のうとして、ひとり死んだがな。それ以来、俺は『暗い根っこ』に支配されて生きている。『暗い根っこ』の正体に辿り着けるなら、殺人鬼とも付き合いをするだろうな。予想できるよ‥‥その時の俺の気持ちが。」
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「先生の小説の中の殺人鬼は色々と考えながら人を殺すので、読んでいて面白かったです。」
山崎は俺の首元を指先で撫でながら、小説の感想を口にする。俺は好奇心に抗えず、声の震えを承知で男に尋ねていた。
「実際はどうだった?」
「実際とは?」
男が面白そうに目を細める。明らかに山崎に会話の主導権を握られている。それでも、知りたくて仕方なかった。
「実際に人を殺した時、君は何を考えていた?何を想っていた?」
「何も。ただ煩わしい人間が消えると良いなと思っただけです。」
「それだけか?」
「そうです。」
「葛藤や後悔もなく?恐怖や‥‥あるいは喜びや快感も感じずに殺したのか‥‥同級生を?」
山崎は俺の首元から手を離す。そして、両手を俺の頬にあてがうと顔を近づけてきた。視線が間近でかち合う。
「先生は以前も私に『それ』を尋ねましたね。その時はメールでのやり取りでしたが‥‥こうして顔を見合わせて話せる様になるとは思いませんでした。」
「以前にも‥‥俺は尋ねていたのか」
山崎は目を細めて俺を見つめながら口を開く。
「先生にコンタクトを最初に取ったのは私の方です。初めは先生のネット小説に感想を書き込みました。しばらくそのやり取りが続いた後に、Twitterでも交流を持ちました。」
「‥‥‥何も覚えていない」
「事故に遭ったのだから仕方ありません。私が恨むべき相手は、先生から私の記憶を奪った運転手です。」
山崎は一度言葉を切ると、まっすぐに俺の目を覗く。そして、俺の返事を待たずに言葉を継いだ。
「たとえ、先生が私のことを全て忘れる事を望んでいたとしても‥‥事故は偶然に起きました。そうでしょ、大塚先生?」
山﨑が己に言い聞かせるように言ったので、俺は否定はせずに頷いた。そして、男の話を促すために口を開く。
「Twitterで交流を持った俺達はどんなやり取りをしていた?」
「私は別荘に閉じこもる生活に満足しているはずでした。でも、先生に私の存在を‥‥本当の正体を知って欲しいと思ったのです。先生もそれを望んでいると私は感じました。だから、TwitterのDMで私の過去の犯行を告白しました‥‥何もかも。」
俺は山崎の目を真っ直ぐに見つめたまま尋ねた。
「俺は興味を持っただろうね。本物の殺人鬼とやり取りできる機会など‥‥滅多に巡ってくるものではないから」
「はい。先生はとても興味を持ってくれました。最初は私が本物の犯罪者か疑っていましたけどね。でも、DEからメールのやり取りをする頃には信じてくれていました。」
俺は山崎の両腕を掴むと、両頬を包む手を引き剥がした。そして、男の腕を放り出すと自身の顔を覆って俯く。
「それは興味を惹かれるだろ。俺は子供の頃に男に誘拐されて殺されかけた。そいつが言ってたんだ。『暗い根っこ』は誰にでもある。そいつに支配されて、人は人を殺すって。そいつは俺を道連れに死のうとして、ひとり死んだがな。それ以来、俺は『暗い根っこ』に支配されて生きている。『暗い根っこ』の正体に辿り着けるなら、殺人鬼とも付き合いをするだろうな。予想できるよ‥‥その時の俺の気持ちが。」
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