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別荘の管理人
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◆◆◆◆◆
山崎は別荘のリビングに視線を彷徨わせ、最後に俺の顔を見つめた。そして、ゆっくりと語り出す。
「精神病院を退院した後、私は父の命令に従い運転免許を取得しました。その後、私はすぐにこの別荘に連れて来られ、父より別荘の管理を命じられたのです。」
山崎は核心にはすぐには触れず、別荘に住み始めた経緯から話し出しだす。その事に苛立ちを覚えながらも俺は静かに応じた。
「別荘の管理人‥悪くない仕事だ」
山崎はそっと頷く。
「父親の最大の譲歩だと思います。本当は一生精神病院に入院させたかったはず。そうする事も出来たはずなのに、父は私に別荘の管理という仕事を与えた。自由で気ままな仕事です。この場所に大人しく住んでいる限りは、私の口座には月々の管理費が振り込まれるのですから。」
「君は恵まれている」
俺は皮肉を込めてそう伝えた。山崎は俺の思いを正確に受け取り返事をする。
「そう、私は殺人を犯した人間とは思えぬほど、恵まれた生活を送っています。別荘の管理はほぼ人と顔を合わせることもなく、私には快適でした。どうやら、私は人間が嫌いみたいです」
『人間が嫌いみたいです』と山崎に告白されて、俺はげんなりとした。
「人嫌いなら誘拐などするなよ」
「先生は特別ですから。」
「‥‥‥‥。」
俺が黙って応じると、山崎は柔らかく微笑み掛ける。
「私は人は嫌いですが、人が作り出す文学は好きです。まだ完成されていない不完全な‥‥そんな文章が好みなのです。特にWEB小説が大好きで、別荘の管理人になった後はネットで小説を読み耽る日々が続きました」
「羨ましい限りだ。俺は仕事が終わった後に、睡眠時間を減らして小説を書いていた。まあ、自分の意思で書いていたのだから‥‥ただの愚痴だけどな。でも、感想をくれる読者もいて、それが励みになってた。」
不意に山﨑が俺の腕を掴んで顔を近づける。俺はぎょっとして身を引いた。
「大塚先生は小説サイトでホラーを書いていたでしょ?実際に起こった殺人事件をベースした叙情サスペンスを!」
「‥‥そういえば書いていたかもしれないな。『暗い根っこ』を知りたくて‥‥」
「その小説の中に私の殺人事件もありました。大塚先生の中の殺人鬼が北九州の教室で私の同級生を殺していたのです。カッターナイフを首にあてがい‥‥引き裂いてた。」
山﨑が俺の首元に指先をあてがい、ゆっくりと切るふりをする。指先の冷たさが刃物のように思えて、俺は身動きが取れなかった。
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山崎は別荘のリビングに視線を彷徨わせ、最後に俺の顔を見つめた。そして、ゆっくりと語り出す。
「精神病院を退院した後、私は父の命令に従い運転免許を取得しました。その後、私はすぐにこの別荘に連れて来られ、父より別荘の管理を命じられたのです。」
山崎は核心にはすぐには触れず、別荘に住み始めた経緯から話し出しだす。その事に苛立ちを覚えながらも俺は静かに応じた。
「別荘の管理人‥悪くない仕事だ」
山崎はそっと頷く。
「父親の最大の譲歩だと思います。本当は一生精神病院に入院させたかったはず。そうする事も出来たはずなのに、父は私に別荘の管理という仕事を与えた。自由で気ままな仕事です。この場所に大人しく住んでいる限りは、私の口座には月々の管理費が振り込まれるのですから。」
「君は恵まれている」
俺は皮肉を込めてそう伝えた。山崎は俺の思いを正確に受け取り返事をする。
「そう、私は殺人を犯した人間とは思えぬほど、恵まれた生活を送っています。別荘の管理はほぼ人と顔を合わせることもなく、私には快適でした。どうやら、私は人間が嫌いみたいです」
『人間が嫌いみたいです』と山崎に告白されて、俺はげんなりとした。
「人嫌いなら誘拐などするなよ」
「先生は特別ですから。」
「‥‥‥‥。」
俺が黙って応じると、山崎は柔らかく微笑み掛ける。
「私は人は嫌いですが、人が作り出す文学は好きです。まだ完成されていない不完全な‥‥そんな文章が好みなのです。特にWEB小説が大好きで、別荘の管理人になった後はネットで小説を読み耽る日々が続きました」
「羨ましい限りだ。俺は仕事が終わった後に、睡眠時間を減らして小説を書いていた。まあ、自分の意思で書いていたのだから‥‥ただの愚痴だけどな。でも、感想をくれる読者もいて、それが励みになってた。」
不意に山﨑が俺の腕を掴んで顔を近づける。俺はぎょっとして身を引いた。
「大塚先生は小説サイトでホラーを書いていたでしょ?実際に起こった殺人事件をベースした叙情サスペンスを!」
「‥‥そういえば書いていたかもしれないな。『暗い根っこ』を知りたくて‥‥」
「その小説の中に私の殺人事件もありました。大塚先生の中の殺人鬼が北九州の教室で私の同級生を殺していたのです。カッターナイフを首にあてがい‥‥引き裂いてた。」
山﨑が俺の首元に指先をあてがい、ゆっくりと切るふりをする。指先の冷たさが刃物のように思えて、俺は身動きが取れなかった。
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