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君の中の先生
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◆◆◆◆◆
「聞いていません!!」
山﨑が突然大きな声を出したので、俺はぎょっとして男を見た。山崎は俺を睨みつけながら身を寄せる。
「私は聞いていません!」
「待ってくれ‥‥落ち着いてくれ」
俺が身を仰け反らせると、男は両腕をきつく掴んで引き寄せる。血走った眼差しに俺は恐怖を感じて押し黙る。
「落ち着いてはいられません。私は先生に問われるままに、過去の犯行の全てを語りました。なのに、先生は誘拐された過去を黙っていた。何故ですか、大塚先生?」
俺は困惑しながらも自身を守るために言い訳を考える。だが、何も思いつかない。
「君とメールのやり取りをしていたのは、今の『俺』じゃない。事故の後遺症でその時の『俺』は記憶ごと死んだんだ。だから、今の俺を責められても困る‥‥」
「そんな言い訳で‥‥私の怒りや失望を誤魔化すつもりですか?」
「怒りや失望?」
「そうです。私は先生に怒りを感じています。先生が犯罪に興味を持った背景にはその『誘拐』があるのでしょ?なのにその事を一言も語らずに‥‥私から情報だけを得ようとした。私を騙したのですね、先生?」
男の理不尽な言葉に苛立ちが募る。誘拐犯に勝手に期待されて失望されて、怒りをぶつけられている。
俺は山崎を睨みつけて本心をぶつけていた。
「記憶にない以上、過去の俺が何を考えていたかは分からない。でも、想像はできる。犯罪者と積極的に交わりたいと思う者は稀だ。でも、俺は君の中の『暗い根っこ』を知りたくて交わりを持った。だが、過去の俺は『暗い根っこ』を求める理由を君に語る必要は感じなかったのだろう。なぜなら、君は友でもなければ親友でもないからだ。」
山崎は俺の言葉を黙って聞いていた。やがて、男は顔を俯けて呟く。
「そうですか。本当に‥‥あの時の先生は死んでしまったのですね。」
あまりに悲しげな声を出すので、俺は山崎に同情を覚える。その必要はないと思いつつ、俺は山崎に声を掛けていた。
「医者が‥‥記憶は不意に蘇る事もあると言っていた。もしかしたら、まだ俺の中に君が望む『俺』が存在するかもしれない。俺に『君の中の先生』を教えてくれ。俺も知りたい」
俺の言葉に山﨑が顔を上げる。俺は男が涙ぐんでいる事に驚いた。見た目よりも精神年齢はずっと幼いのかもしれない‥‥。
「父の命令で別荘に閉じこもる生活を送っている事。そして、毎日が同じ事の繰り返しで‥‥生きている実感がないと先生に打ち明けました。」
「‥‥そうか。」
「覚えていませんか、先生?」
「悪いが覚えていない」
「それを聞いた先生は、私にアドバイスしてくれました。『私は生きる実感を得るために小説を書いている。君も同じ想いなら、小説書いてみるといい』と。」
俺は驚いて目を見開く。山崎に小説を書くように勧めたのは俺だったのか。そして、山崎の小説を自分の作品として世に出した。盗作だ。
俺はきつく唇を噛みしめる。口内に血の匂いが広がった。
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「聞いていません!!」
山﨑が突然大きな声を出したので、俺はぎょっとして男を見た。山崎は俺を睨みつけながら身を寄せる。
「私は聞いていません!」
「待ってくれ‥‥落ち着いてくれ」
俺が身を仰け反らせると、男は両腕をきつく掴んで引き寄せる。血走った眼差しに俺は恐怖を感じて押し黙る。
「落ち着いてはいられません。私は先生に問われるままに、過去の犯行の全てを語りました。なのに、先生は誘拐された過去を黙っていた。何故ですか、大塚先生?」
俺は困惑しながらも自身を守るために言い訳を考える。だが、何も思いつかない。
「君とメールのやり取りをしていたのは、今の『俺』じゃない。事故の後遺症でその時の『俺』は記憶ごと死んだんだ。だから、今の俺を責められても困る‥‥」
「そんな言い訳で‥‥私の怒りや失望を誤魔化すつもりですか?」
「怒りや失望?」
「そうです。私は先生に怒りを感じています。先生が犯罪に興味を持った背景にはその『誘拐』があるのでしょ?なのにその事を一言も語らずに‥‥私から情報だけを得ようとした。私を騙したのですね、先生?」
男の理不尽な言葉に苛立ちが募る。誘拐犯に勝手に期待されて失望されて、怒りをぶつけられている。
俺は山崎を睨みつけて本心をぶつけていた。
「記憶にない以上、過去の俺が何を考えていたかは分からない。でも、想像はできる。犯罪者と積極的に交わりたいと思う者は稀だ。でも、俺は君の中の『暗い根っこ』を知りたくて交わりを持った。だが、過去の俺は『暗い根っこ』を求める理由を君に語る必要は感じなかったのだろう。なぜなら、君は友でもなければ親友でもないからだ。」
山崎は俺の言葉を黙って聞いていた。やがて、男は顔を俯けて呟く。
「そうですか。本当に‥‥あの時の先生は死んでしまったのですね。」
あまりに悲しげな声を出すので、俺は山崎に同情を覚える。その必要はないと思いつつ、俺は山崎に声を掛けていた。
「医者が‥‥記憶は不意に蘇る事もあると言っていた。もしかしたら、まだ俺の中に君が望む『俺』が存在するかもしれない。俺に『君の中の先生』を教えてくれ。俺も知りたい」
俺の言葉に山﨑が顔を上げる。俺は男が涙ぐんでいる事に驚いた。見た目よりも精神年齢はずっと幼いのかもしれない‥‥。
「父の命令で別荘に閉じこもる生活を送っている事。そして、毎日が同じ事の繰り返しで‥‥生きている実感がないと先生に打ち明けました。」
「‥‥そうか。」
「覚えていませんか、先生?」
「悪いが覚えていない」
「それを聞いた先生は、私にアドバイスしてくれました。『私は生きる実感を得るために小説を書いている。君も同じ想いなら、小説書いてみるといい』と。」
俺は驚いて目を見開く。山崎に小説を書くように勧めたのは俺だったのか。そして、山崎の小説を自分の作品として世に出した。盗作だ。
俺はきつく唇を噛みしめる。口内に血の匂いが広がった。
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