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舞台は日本の中心へ
森の中での遭遇
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「いってぇ~……あ、あれ?ここはどこだ?」
蘭は思い切り打った尻を撫でながら言った。
「そういえばバランス崩して馬から……げっ!俺あんなとこから落ちたの?うわぁ~、よく無事だったな……」
見上げると結構な高さに道らしきものが見える。そして目の前には自分が転げ落ちた時についたのであろう跡があった。
「っていうか、もしかして俺死んだ……?あ、良かった。足がある。いっ……て!」
ふと不安になった蘭は何故か足があるかどうかを確認した。その時、触れた足首がズキッと痛んだ。
「捻挫かな……どうしよ。これじゃ歩けないや。」
取り敢えず立とうとしてみるも、思いのほか重症で中々立てない。仕方なく這って近くの木の下に行くと、背中をつけてため息を吐いた。
「はぁ~……マジでやばい。蝶子に怒られる。何て言い訳しよう……ってそんな事より助けを呼ばないと帰れない!おーい!信長様ーー!秀吉さーん!誰か助けて~!!……ダメだ。やまびこしか返ってこない。」
声の限りに叫んでしばらく待ってみても自分の声しか聞こえてこなかった。
ふと辺りを見回すと木々が絶え間なく覆い繁っていて、ここが深い森の中である事は歴然だった。足の痛みや変な興奮状態にあって気づかなかったが、こんなところに一人ぼっちでいるという現実に思わず泣きそうになる。
「大丈夫だ。きっと信長が探しにきてくれる。それか秀吉さんとか家康さんが俺がいない事に気づいて……ってそれはないか。今は朝倉との戦の最中で、しかも長政さんが裏切ってこっちに向かって来るって言うから、あとは皆に任せて逃げる途中だったんだもん。きっと俺なんか見捨てて行っちゃったんだ。秀吉さん達も今頃は頑張って戦ってるんだし、ここは何とか自力で……」
そこまで言った時、後ろから枝の割れる音がした。慌てて振り向くとそこにはいかにも忍者という格好をした人物がこちらを見つめていた。
「うわっ!だ、誰!?」
「その方こそ何者だ?」
「え、えっと……決して怪しい者ではないんですが、ちょっとあそこから落ちてしまって……それで足を怪我して歩けないんでここで休んでたんです。」
「ほぉ、落ちたとな。よくぞ足だけで済んだな。」
「はい、俺もそう思います……」
蘭が苦笑すると、その忍者も纏っていたオーラを少し柔らかくしながら近寄ってきた。
「拙者に掴まれ。」
「え?」
「腫れてきている。放っておいたら高熱が出て命に関わるぞ。」
「えっ!?」
反射的に足首に手をやると凄く熱くなっていて確かに腫れている。
「うわぁ~マジか……」
「近くに拙者の家がある。応急手当しか出来ないがしないよりはいい。さあ、早く。もうすぐ日が暮れる。」
「あ、はい。」
空を見上げると遠くの方がうっすらオレンジ色になりつつあった。蘭は一抹の不安はあったがお言葉に甘えてその忍者に身を委ねた。
―――
忍者が言った通り、歩いて数分の所に木の枝と藁で出来た小さな家があった。忍者は蘭を家の中に寝せるとすぐに外に出ていった。
(連れて来てもらったけど、あの人何者?まさか敵じゃないよな……)
「取り敢えずこれを飲め。解熱作用のある薬草だ。」
どこから持ってきたのか、忍者は何色かもわからないような色をした液体の入った器を差し出してきた。思わず後ずさりする。
「ほら、飲め。楽になるぞ。」
100パーセント信じた訳ではなかったが、段々酷くなる痛みに負けて蘭はその薬を一気に飲んだ。
「……うげぇ~…まっず……」
「よし、これで数日の内に腫れは引くだろう。次はこれだ。」
「何ですか、それ?」
今度は粉のような物を持ってきて、たらいに溜まった水を少量かけるとすりこぎで練り始めた。
「塗り薬だ。これを患部に塗るとたちまち良くなる。」
「へぇ~…うわっ!滲みる……」
「あぁ。少し傷もついているようだ。清潔にしておかないと感染症になってしまうかも知れないな。」
「感染症!?」
「大丈夫だ。万が一の事があるといけないから言っただけで、ここは見ての通り綺麗な森だ。飲み薬もこの塗り薬も拙者の作った物であるし、滅多な事ではならない。」
「本当ですね?もう……」
「ところでその方は何故このような所にいた?あの山の上から落ちたと言っていたが。」
「あー……えっと……」
蘭が言おうか言うまいか迷っていると、忍者は『そうか!』と叫んで手を打った。
「今日は何やら騒がしいなと思っていたところだ。また朝倉が何処かと合戦をしているのか?まさかその方、朝倉の……」
「いえ、違います!俺は織田の……って、あ!」
「織田、とはつまり織田信長か?その方は織田の足軽なのか?」
「……はい。」
「そうか……」
忍者はそう呟くと、顎に手をかけて何やら考え始めた。
「あの……そういう貴方は?」
「拙者か?拙者は猿飛だ。猿飛……」
「佐助!あ、あああ貴方はもしかして猿飛佐助!?あの真田十勇士の?ってあれ?真田十勇士ってフィクションだっけ?」
「はぁ?」
「でもそんな事はどうでもいい!猿飛佐助って実在したんですね。あ~感動です!あ、握手して下さい!」
戸惑っている忍者の手を無理矢理取って強引に握手をする蘭。しばらく呆気に取られていた忍者だったが我に返ると手を振りほどいた。
「拙者は猿飛仁助だ。佐助などではない。」
「え?あ、違うんですか?」
「まったく……誰と勘違いしたのか知らないがいきなり無礼だぞ。」
「ご、ごめんなさい……」
「まぁ、よい。薬が効くまで二日はかかる。今夜は熱も出るだろう。歩けるようになるまで面倒は見るつもりだ。ゆっくりしていくがいい。」
「あ、ありがとうございます!助かります!」
「今夜の食糧を採ってくる。」
「行ってらっしゃい……」
佐助……もとい、仁助は素っ気なくそう言うとまた外に出ていった。
「怒らせちゃった……でも猿飛って聞いたら誰でも興奮するだろ。アニメも見てたしゲームも嵌まってたなぁ……」
蘭は遠い目をすると、幼い頃に見たりやったりした猿飛佐助が主人公のアニメとゲームを思い出してため息をついた。
―――
説明しよう。
猿飛佐助とは小説やアニメ、ゲームなどに登場する架空の人物である。
戦国武将・真田幸村に仕える真田十勇士の一人として描かれ、一番人気のキャラクターであった。
―――
「もしかしたら佐助のモデルってあの人……?」
震える声で呟く。怪我のせいだけではない熱が蘭の体から放出していた……
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