女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。

にのまえ

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 水面に映る自分の顔。それを見て、オレは言葉を失った。頭の上には黒く長い耳――ふわふわのウサギの耳がついているじゃないか!

「モフモフの耳……オレの頭に獣の耳? オレが獣人なのか?」

 普通なら獣人の仲間ができる、とか、誰かの旅のお供になれる未来を想像するけど、オレの場合は違った。きっと貴族のペット扱いされるのが関の山だろう。

(この耳に、このTシャツとジーパンって……どう見ても浮いてるな。クク、似合わねぇよ)

 バイト帰りの格好そのままで、オレは異世界に放り出されたらしい。 

 ポケットの中を探ると、スマホも鍵も財布も見当たらない。代わりに出てきたのはライオンの絵が彫られた銀貨5枚と銅貨7枚。

「これがこの国の金か……いや、少なくねぇか? 女神、これだけ?」

 異世界転生ものなら、魔法とかチート能力とか、せめて可愛い仲間が現れるんじゃないのか? だが現実は――

「ヒョオエーー! 逃げろ、食われる!」

 森でモンスターに襲われ、ただひたすら走り続ける羽目になった。

 ⭐︎

「やめろぉ! オレを食べても美味くないってぇ!」

 どうにかモンスターを撒いたものの、体力は底をつき、腹も減った。森を彷徨いながら、ようやく木になった赤い実と黄色い実を見つける。

「これ、リンゴか? こっちはバナナかな?」

 恐る恐る小川で洗ってかじると、甘い蜜が口いっぱいに広がる。

「おお! リンゴだ! 異世界にもあんだな……でも、この固いバナナみたいなやつは渋いな……まぁ食えりゃいいか。」

 少し腹が満たされると、今度は森を探検する余裕が出てきた。木に印をつけながら歩いていると――

『キュ』
『キキュ』

 森の奥で見つけたのは、白くて丸いモコモコたち。黒い丸い瞳がオレを見つめ、「キュ、キュ」と可愛い鳴き声をあげて近づいてくる。

「……かわいい、癒しだな……」

 だが、次の瞬間――

『シャー!』
『ギャーー!』

 モコモコの口元から鋭い牙が覗いた!

「ウギャア――!!」

 モコモコどころか凶暴な「ニャッチ」というモンスターだったのだ。オレは全力で小川まで逃げ、なんとか木の上に避難する。

「……異世界、怖ぇーよ……女神のバカヤロォ……」

 泣きながら木にしがみつき、疲れ果ててそのまま眠った。

 ⭐︎

 次の日、森を彷徨いながら出口を探してようやく町を発見する。
お風呂に入りたい、ちゃんと寝たい、そして――

「クンクン……なんて美味そうな匂い……」

 食い物の匂いに引き寄せられ、店の前で力尽きて倒れる。

『君、大丈夫か?』
『は……腹が……』

 通りがかった男性と、その妻らしき女性に助けられ、店の中に連れて行かれる。目の前に出てきたのはタルタルソースがたっぷりかかった「海老フライ」。

「……久しぶりの、まともな食事だぁ! いただきます!」

 サクサクの衣、プリプリのエビ。あまりの美味しさにオレは涙を流しながら食べた。

「うぇーん、美味ぇよぉ――!」

『そんなに美味いか? 焦らず食え、まだたくさんあるからな』

 熊のような体格の男性――熊さんは笑いながら水を差し出してくれた。

 ⭐︎

 ひとしきり食べた後、熊さんは言った。

『ところで、お前の身なり、変わってるな。どこの貴族だ?』

「オレは貴族じゃなくて……その……」

 異世界から来たとは言えず、オレは曖昧に話を濁した。熊さんは何も聞かずにニカッと笑う。

『ま、いいさ。ここで働く気はないか?』

「えっ、いいんですか?」

 その日、オレは熊さんに拾われ、この異世界での生活をスタートさせることになった。住むところと飯の確保――まずは一歩進んだ気がした。

 ⭐︎

 新しい環境で、ウサ耳獣人としての生活を送るオレ。

 だが、この世界にはまだまだ知らないことがたくさんある――モンスターとの戦い、異世界の不思議な力、そして女神に問い詰めるべき真実。

 オレの異世界奮闘記は、まだ始まったばかりだ。
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