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『それで、名前は?』
『オレの名前は田……タヤといいます(高校の時のあだ名にした)』

 こうして、オレは熊クマ食堂で働くことが決まった。はじめ、オレはしばらくここで働かせてもらって、ある程度お金が貯まったら、違う街に行こうと考えていた。

『よろしくお願いします』

 熊クマ食堂の大将さん、茶髪、茶色の瞳、身長二メートルでガタイもよく。冒険者もこなすシンギと、可愛い見た目のマヤも冒険者だ。2人には5年前、オレと歳が近い息子さんがいた。彼も冒険者を目指して奮闘中、シンガリア森――奥の古代遺跡で仲間をかばい、亡くなったと話してくれた。

『自分で決めた道だ。怖くて仲間を見捨てて逃げたんじゃなくて、庇うなんて流石は俺の息子だろ!』

 シンギは仕事終わりに店でお酒を飲むと、涙まじりにこの話してくれた。そんなシンギを隣でマヤは優しく見つめていた。もち、酒に弱く涙もろいオレはこの話にシンギよりも号泣して、二人に笑われた。

『タヤ、お前はいい奴だな、ガハハハッ!』
 
『フフ。シンギがこんなに笑うのは久しぶり。これもタヤのお陰ね、ウチの前に倒れてくれてありがとう』

『な、なに言ってんだよ。腹ペコのオレに2人は美味い飯を食べさせてくれた……コッチこそありがとうだよ』

 昔、熊クマ食堂は冒険者が集まる宿屋だったが、跡取りの息子を亡くして二人だけになり、いまは食堂だけの営業になった。
 
 二人は食堂の隣に立つ家に住み、オレは二階のトイレと風呂付きのいい部屋をかりた。トイレとお風呂は都会っ子だったオレでも覚えれば使える、魔石を使ったもので真新しかった。



♱♱♱



 オレはベッドに寝転び考える。コレからこの世界で生きていく為に、ルーズベルト国のことを詳しく知らなくてはならない。

 先ずは身分証明書となる、冒険者のギルドカードを手に入れよう。次の日オレは隣町にある、ローランの冒険者ギルドにギルドカードを作りに向かった。
 
 初めての冒険ギルド、受付でドキドキしながら水晶に触れ自分の能力とランクを測り、その結果を待っていた。受付嬢に名前を呼ばれて、オレははじめてギルドカードを手に入れた。

 タヤ(18)黒兎族
 職業 冒険者見習い
 レベル 5
 体力  10
 魔力  20
 攻撃力 10
 防御力 10
 俊敏性 25

(おお! すげぇ、ファンタジーだ)

『タヤさんのランクはFランクですね』
『Fランク……(1番下だな)はい、わかりました』

 受付嬢が冒険者ギルドについて説明してくれた。
 最高ランクがSS級S級~そこからABCDEFの順になる。FランクからEランクになる為には、何種類かのクエストをクリアしたのち。ランク上げの討伐クエストを受けて、クリアすればいいと教えてもらった。

 受け付けで貰った、ギルドガードには受けた依頼、討伐、などの記録がされる便利な魔導具カード……タヤに魔法などのスキルはなかった、

(残念ながら異世界チート、おれには無かった。だけど、ギルドカードに表示されていないが、回復魔法は使えるからまぁいいっか)

 まあ、回復魔法は女神のバグだな。


 食堂の休みに冒険ギルドで採取などの依頼を受け、時間があればギルドカードで入れる、国運営の図書館で本を読み足りない知識を補った。

 
 
『…………っ』

 この国での暮らしになれたが、これだけは慣れない。
 月に一度来るオメガのヒート……体が欲情して、誰かを求めて疼く。

『ふっ、はぁ、はぁ……くっ…………』

 香り消しのお香が燃え尽き、柑橘系のかおりがする部屋。何度も欲を吐き出し、濡れた己の手をじっと見つめた。

『……オメガなのは仕方がない。もし、俺にも『運命の番』がいるのだとしたら……1人を愛し、俺を温めてくれる優しい人がいいな』

 オレはひっそりと部屋で呟いた。
 
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