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二章〜冒険者は時に、資金稼ぎとして依頼も受ける〜

三十話 服屋の鬼族ベリアル

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 ランディーからの依頼を受け、私とシュートは早速変装でもして隣国ーーいや、隣街へ出発することになった。
 ちなみに、ネネとアリアータは爆睡したまま起きなかったので置き手紙のみで放置した。

 置き手紙には『依頼をこなしにいってきまーす!』とだけ書いた。
 その他のことを、あれよこれよと、書いたところで意味不明な文面になって余計理解に苦しむと思ったが結果だ。

「さて、変装していくか」

「まあ、ゲット・アポンス・シティーは治安が良くないからそれくらいしておかないとね。目立たない方が良い街じゃなくて、むしろ目立っていないと浮く街だから不思議よ」

「それさーー盗賊時代に盗みに入ったが、あれは酷かったぜ。盗賊の衣装でコスプレしているとか勘違いされたのか誰一人不思議に思わなくてよ、簡単に盗みができちまった」

「あの街はそうやって、みんな自分の素性を隠しているものね。殺し屋の街だからーーて、言っても殺されるのは余所者だけだし人身売買とか臓器売買されないのよ街の民はみんな……嫌な話、嫌な所、変な街」

 そう、ゲット・アポンス・シティーは無法地帯でもある。
 街の裏側は、ただの闇商人が群れるブラックなシティー。
 そこに学院があること自体不思議なことだが、しかし、なければ将来有望な未成年達は育たなくなる。

 学院に通うことで、ある程度の政治経済を学ぶことにもなり、つまりそれは街の裏側を知ってそこに浸からないことに繋がる。
 ただーーただただーーーーそれを知りながら街へ行く私達はとんだ無法者だ。

 ゲット・アポンス・シティーに入れば、後は簡単。
 余所者とバレずに教授を探せばいい。
 ロッドーー本名は、知らない謎多き男。

「ーーで、お前は店に入ってすぐサングラスを手に取るとか脳みそが幼稚なんか?」

「サングラスをーーこうすれば、ほら何処かの国でパレードの際に付けてそうなきらびやかなーー痛いシュート!」

 シュートに頭を殴られた。
 バルテン王国内にある服店に入ってすぐ、サングラスを手に取って、それを買わずに店内で、好きにキラキラデコレーションした私が悪いのはーー分かっている。
 だけど反射的に怒鳴ってしまった。

「そんなマスカラフェスティバル的なマスクにまで仕上げたら買うことになるだろうがっ! てかサングラスが何でマスクになんだよっ!? どうしたらそうなんだよっ!」

「仕方ないじゃない……ちょっとイジったらこうなったんだもん」

「可愛いくいってもなあ……やってること、完全に次元超えてんだよ」

 シュートには、もう可愛い女の子は通用しなくなった。
 いや、元より通用していなかったかもしれない。
 それはさておき、サングラスの原型をとどめていないこれを私はかごに入れ、シュートと奥へ進み変装用の服を探す。

 と、そこに店員さんがやってきた。
 店員さんは額の両端から小さな角をちょこんと出した、前髪で両目が見えるか見えないかーー根暗な雰囲気の鬼族。
 鬼族は珍しくない。しかし、角が短い鬼族は初めて見た。
 確か、長さと太さで地位が決まるとかそんな残酷な種族だったはず。だからみんな、長くて太い角で生まれるように発達している。

「……鬼族よね?」

「……にしては……小さいな?」

「そうよね……触れない方が良いわね」

「あのーー聞こえてますう」

「……」

「……」

 小声で話していたはずが、聞かれていた。
 私とシュートは誤魔化そうと口を閉じるしかできない。

「私は鬼族の中でも地位がどん底で。それで立派な角を持つ両親も貴族から平民に落ちました。だから私は内緒で夜に飛び出して、こうして平和なバルテン王国で何とか生きているんですう」

 明るく過去をペラペラと話す店員さんは、笑ってみせたが口が笑っていない。
 辛い過去ーー持つべきものを持てなかった子。
 私とは正反対だと思えた。

「それでどのような服をお探ししているのですう?」

「ああ、そうだったわね。変装できそうな服をーー」

「これはこれは! 有名な冒険者の方では! おいベリアルッ! お前は裏で荷物運んでろ言うたやろがっ!」

「は、はい……申し訳ありませんオーナー……すぐに行きます……」

 私とシュートは顔を見合わせた。
 小さな鬼族の店員さんベリアルは、この店のパンチのきいた頭のオーナーに怒鳴られ裏へと渋々消えていく。
 地位が低い、人間からも雑に扱われる。元王族で元女王として、私の頭に電流が走る。

 それはシュートも同じだった。
 元盗賊で悪さばかりしてきたのは、親を亡くして生きていくためには仕方なかったこと。
 多分幼少期から、人に嫌われ追われ、それでも盗みで何とかしてきた身。
 今では私も、夢を叶えた冒険者と言えど、それでも地位は底まで落ちている。
 ただ知り合いが魔道士だったり騎士だったりと、そこら辺は変わらないのだけれども。

 シュートが背中の剣に手を回したので、私は止めてオーナーに満面の笑みを向ける。

「じゃあ、変装できそうな可愛い派手な服を紹介して~!」

「そうですかそうですか! へ、変装?」

「ーーおらテメエ!! 良いからプライベートに口出す前に服の紹介してろやああああ!!」

「ーーブフォッ!!」

 アッパーが見事にヒットし、オーナーは鼻血を垂らしながら脳震盪を起こして倒れた。
 パンチのきいた頭から、ポロンと髪の毛が舞って床に落ち、思わず私とシュートは手を叩いて大笑いしてしまう。
 そう、桂だったーー!

 大笑いする私達と、オーナーが床に落ちた音で様子を見に来たベリアルが裏から顔を見せていたので、腹を抱えながら片手でおいでと招く。
 ベリアルはオーナーの顔を伺いながらゆっくりと、私達の元へと来た。
 
「さて、服を紹介してくれるベリアル?」

「は、はい……で、でも変装なんて何処へ行くのですう?」

「実は私達、知り合いの冒険者に依頼を流されてそれでゲット・アポンス・シティーに行くのよ」

「……ゲット・アポンス・シティー…………。そ、それって……私も連れて行ってくれないですう!?」

「はあ? いや、無理がーー」

「良いわよ」

 私が即答すると、シュートは頭を抱えた。

「ただ、連れて行くからには理由だけ聞くわよ?」

「は、はいですう! 実は私の生まれ故郷、鬼族の住処はゲット・アポンス・シティー郊外の山なのですう。そこに両親が居て……昨日、手紙で『久しぶりに顔を見せて』とそう言ってもらって……だから帰りたいのですう! でもあそこはーー」

「危険なの分かってよく逃げて来たわね……」

「裏道を暗記しているですう。私、地図とか一度見れば道、方角、距離、移動時間全て分かるですう。それに道の暗記で迷ったことは一度もないですう」

「ーーだ、そうよシュート。良いわよね?」

「……わかったよ! お前がリーダーだしな、逆らわねー」

 シュートが渋々承諾してくれた。
 早速私は、オーナーを店の事務所から持ってきた縄で縛り、倉庫に並べられたマネキンの間に挟んだ。
 戻ってくると、早速シュートがベリアルから服を選んでもらったのか着替えていた。
 いや、鼻の穴広げて着替えさせてもらっていた。

「シュート?」

「……あ、いや、これは……その……だな?」

「覚悟できてんかああん?」

「や、やめ……マジ勘弁! 可愛い女の子はやっぱり興味がーー」

「この浮気もんがああああああ!!」

 シュートもアッパーでK.O。
 どうやら、あとは金色のコートを着せるだけで終わるところだったらしい。

「じゃあ次はえっと……」

「リリーよ、ベリアル」

「り、リリーさんの番ですねっ! ゲット・アポンス・シティーでは、女の子はピンク色が多いのですう。なので、あえて真っ赤なドレスを着るですう!」

 そう言って、ベリアルが持ってきてドレスは本当に真っ赤で、まるで薔薇のよう。
 フリルが多いが、まあ、目立つには丁度良い。
 それと帽子も用意された。

 帽子には造花の薔薇が幾つも片側に盛り付けられている。
 私はこの年で、セレブなおば様風ファッションをすることになるのかと思うと、一気に老けた気分になる。
 しかし、お金のこととなれば話は別。
 私は仕方無しに着替えてみると、案外違和感が無かった。

「似合ってますですう!」

「そう、かしら?」

「ああ……似合ってるぜリリー……。いってえマジで。それとリリー、これ持っとけ」

 シュートは胸元から何かを取り出すと、私に投げた。
 受け取ると、ずっしり重いーー拳銃だった。

「護身用ね」

「ホルスターもどうですう!」

「あんた……」

「あ、あくまで護身用で持っているだけすう!」

「……そう、まあ触れないけど」

 ベリアル……鬼族の低い地位から逃げるようにバルテン王国へ出てきた少女。
 しかし、拳銃を渡された私に、すぐさまホルスターを出すような危険な種族ではない。

 一体ーーあなたは何者なの?

「リリー! おい、リリー! 弾の確認したか?」

「え、ああ。そうねーー大丈夫よ、全弾入っているわ。ホルスターも装備したし、じゃあ早速行きましょ」

「はいですう!」

「……」

 元気なベリアルに振り返ると、私の作り上げたサングラスでないサングラスを紫マントに見事組み合わせて付けこなしていた。
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