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二章〜冒険者は時に、資金稼ぎとして依頼も受ける〜

二十九話 依頼

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 ギルド設立から七日が経ち、私とシュートは毎朝特訓に励んでいた。
 アリアータとネネは朝が弱く、日が昇りきる前に起きることが苦手で、今もまだ寝ている。

 朝から元気に動いているのは私とシュートだけ。
 マスターですらまだ寝ている。
 私達はギルドを設立したはものの、結局宿が見つからずどうしたものかと悩んだ末にマスターの善意でここ、集会場を寝床にさせてもらっている現状。

 お金を貯めて、出ていかないと迷惑だと思う半分。ここの生活に慣れてしまうと離れたくないとも思える。
 だが実のところ、お金になるクエストが何も無くて、出ていこうにもいつになるか目処が全く立っていない。
 考え事をしていると、自然と私の体が動きを止めて、心配そうにシュートが飛んでくる。

「どうした」

「私達ってもしかしてーー今、貧乏?」

「……たーぶん?」

「ああああ! 貧乏になったの初めてええ! お金あったじゃん、今まで使っても湧いて出てきてのにいいいい!」

「おお、落ち着けリリー! んなこと言っても仕方ねーだろ? アリアータは保険に入ってなくて診察料と治療費を全て負担した訳だし、集会場の床直しに金出したしさ?」

「そうだけどーー……あ、影縫にお金持ってきて貰うのが一番ね」

「人遣いが荒いわあ……お前マジで」

 シュートはため息を吐くと、私を軽々と抱えて集会場へ向かって歩き出す。

「もう帰るの?」

「お前、下着見てみろ自分のーー」

「ーーああっ!? ぐぐ……わ、分かったから見ない!」

「見ねーよ……」

 シュートに言われて下着を確認すると、普通気づけるようなはだけ方を中でしていた。
 シュートの目を潰そうとすると、目を逸らしたのでやめておく。

「ーーほら、着替えて……」

「何よ、着替えてなに……ん?」

「イチャコラなにしてんねんあんたら。ああ、朝のデートのお帰りかあ……すまんすまん、今もてなしたるわあ。何飲みたい?」

「「ーーランディー!?」」

 本来、そこにはマスターがいるべきキッチンに、ランディーが居た。
 ランディーはケラケラ笑いながら、私達に水を出してくれる。

 慣れているというより、何処に何があるか知っているようだ。
 私とシュートはとりあえず椅子に座り、ランディーをじっと観察する。
 何か良からぬことを企んでいるのではないかと。

「怖いわあ、あんたら。あわなあ、うちかてこないなとこ来て、あんたらに頼みごとするなんて生涯一生の恥じやで」

「なら帰りなさい」

「でもそうはいかんのやあ!」

「内容を聞かずに降りる。帰れ」

「……まあ、聞いてや。実は『クイーン』はあの後、うちがリーダーになったんやけどーーうちらはアルラーネを元に作られたギルドである訳やんかあ。やからアルラーネから回ってくる依頼は何でも受けるーーそれがリーダーへのうちらなりの応え方おもてん。でも……」

 ランディーは口を急に閉ざし、私とシュートの肩に手を置いてくる。

「な、なによ」

「今回、回ってきた依頼はあんたら二人にしか頼めやんのやあ! 頼むわ依頼申請するから受けてえ! 報酬は弾むでえ!」

「……リリーやるか?」

「本当に報酬を弾んでくれるならーーだけど」

 私が横目でランディーを見ると、ニヤニヤと笑みを浮かべられる。
 見ていて腹立たしい。依頼側の態度とは思えない。

「今回うちらはなんもせえへんし。報酬金額の七割でええやろ?」

「……幾らかね」

 ランディーは三本指を立てる。
 
「三百万ギル」

「乗ったわ」

「うわあ……はや」

 ランディーに金額を言われ、私はすぐに乗った。
 いや、三百万ギル貰えるのに乗らないわけがない。
 むしろ万々歳ーー手を上げて喜びながら、依頼を引き受けても違和感ない。
 
 私が依頼を引き受けると、ランディーは前金として十万ギルをくれた。
 つまり、前金十万ギルと残り二九○万ギルで三百万ギルということらしい。
 
 私が前金を受け取ると、ランディーが手を一回叩いて微笑む。
 グレモリーと並べてやりたい嘘っぽい笑み。

「内容はシンプルなんやあ。とりあえずーーシュート。あんたさんが得意な盗みと、危機的状況の中でも肝の座っているリリーの変装ーーそれらを組み合わせてやあ! 世界三大秘宝の一つ『純愛結晶』を盗んで依頼人に返して欲しい!」

「盗みって……俺はもう盗賊から足洗ってんだが」

「なんやなんやあ!? 別にうちは、盗んで売って金にせえなんて、一言もいってない。ただ、本来持っているべきの本当の持ち主に『純愛結晶』を返してあげてくれ言うてんねん。それにーー分かってるやろ? バルテン王国を出ればバルテンの民で特に冒険者には法律は適用されへん。だから冒険者は自由なんやろ?」

「……わ、分かったよ! やってやる!」

 ランディーに説得され、シュートは嫌々な顔で頷いた。
 さて、それよりもーーである。
 世界三大秘宝と言えば、王族達の中では有名な存在が確かでない宝石で、その一つを持っているとされているのは西に五十キロ行った隣国ーーゲート・アポンス・シティーという大きな国ではなく街。

 そこのゲート学院で魔法学を教える教授、ロッドと仇名の青年と聞く。 
 青年で教授であり、とんだ金持ちお坊っちゃんとくれば、それはそれは事件に巻き込まれることもあるだろう。
 しかし、隣国で持っている可能性があるロッドを、依頼人と決めつけるには確定要素が少ない。
 そう、肝心な『純愛結晶』の持ち主であるかが確定しなければいけない要素となり、また、世界三大秘宝を持つ一人であるかどうかも確定しなければいけない。

「ランディー質問!」

「ん? なんや」

 私はランディーに、依頼者について質問することとした。

「その依頼者は男?」

「ーーこれ見たら分かるやろ」

 ランディーは私に一枚の手紙を投げた。
 見ると、とてもとてもそれは綺麗な字で書かれている。


 ーー私は依頼者のRと名乗らせていただきます。
   さて、今回私がアルラーネさんに依頼する内容は、 
   バルテン王国内でないからこそ、そして私の住む、
   この街だからこそ法律適用外の事。
   数日前ーー私の地下金庫から世界三大秘宝である、
   『純愛結晶』が盗まれました。
   犯人の目星はついていません。ですが、この街で、
   盗みを裁けない。なので盗みが罰せられない。
   つまり、盗み返しても良いのです。
   いや、そもそもあれは私のですからね。
   なのでどうかお願いしてもらえないでしょうか。
   報酬は五百万ギル出させていただきます。
   私は今日から毎日、『ビヨンド』という喫茶店にて
   待たせていただきますので、依頼を受けてくださる
   のでしたら、そこでお話しましょう。


「……男ね」
 
「そやろなあ。ただーー調べたら『ビヨンド』て喫茶店はバルテンに無かった。ちなみに、もしかしたら噂通りロッドと言う男がゲット・アポンス・シティーに住んでるからそいつか思って、街から『ビヨンド』を探してみたけど無かった。つまりやあーー」

「つまりもこうもないわよ。その喫茶店なら、多分ゲット・アポンス・シティーにあるわ。何故ならーーあそこは地上街と地下街に分かれる二つの世界観を持った街だからね」

 私は手紙を昨日たまたま、本当にたまたま欲しいバックをシュートが買ってくれて、それをたまたま今日慣らしに使っていて、そのバックにしまったのもたまたまで。
 別にシュートに買ってもらった大事なバックとか、誰も思っていない。
 ーーいやこれ本当に。

「で、五百万ギルの七割が三百万ギルって言ったけど。計算大丈夫?」

「まあ、ざっくりでええんやて。きっちりなんて面倒なことはせんせん!」

「お前の頭が一番ざっくりなんに気づけや……」

 シュートに突っ込まれ、ランディーは苦笑する。

「じゃああんたは帰りなさい。もうあの子達起きてくるし、今日は影縫が来るのよーー」

「うちを倒した奴か? そんならもう一勝負ーー」

「これ以上集会場を壊すのはやめてと言っているの。あんた達この数日間で何回集会場に穴開けたり、広場に木を折ったのよ……修理費用をギルド間で割り勘しているのキツイんだから帰って……」

 私が頭を抱えてみせると、ランディーは思った以上にあっさりとキッチンから出てきた。
 そして私とシュートの肩に手を置くと、


「『純愛結晶』を手にできるのは、互いに気持ちを確認し合った仲の男女どちらでもええ。ただな……手にした際に副作用が出る可能性があるかもやで気をつけてなあ。ほな、うちは帰るわあ」


 肩から手を離すと、ちゃっちゃと集会場からランディーは出ていった。
 副作用ーー気をつける?
 私とシュートは目を合わせると、互いに理解できず首を傾げた。


 
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