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天使王編

神の粛清に備えるために

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「『神の大粛清』に備えるために我々はどうするべきか、その件についてお主の意見を聞きたいのだが、どうだ?」

「ハッ!不詳の身なれどもこのブレードッ!大国同士による軍事同盟を結び、『神の大粛清』なる天使どもの大侵攻に備えるべきかと思います」

ブレードの意見は尤もである。ノーブもそれに対して首を縦に動かす。
ノーブは息子の意見に対して反対の意見がないかと募ったものの、他の人物からは反対の意見は述べられなかった。
私自身もこのブレードの意見には賛成の立場である。

だが、問題はこの後である。単に提案するだけでは小学生でもできる。
この提案をどうやって実行に持っていくかである。私が注視してブレードを見つめていると、ブレードが父親に向かって進言したのはまさかの一言であった。

「父上ッ!私としては我が盟友であるティー・ロンガーの父君であり世界に影響を誇るクイレル家の力を使うべきかと思いますッ!」

「なるほど、だが、肝心のティーは同意するかな?」

ティーはその問いに対して躊躇うこともなく同意の意を表した。
どうやら講和の条件というのが整えられたらしい。

後日、詫びの品物と手土産、加えてティーの新しい家庭教師を連れ添って謁見の間にお詫びに現れたトーマス・クイレルもといデストロイを別室に案内して事情を説明することになった。
別室で国王であるノーブと王太子であるブレード。それに護衛として付き添うことになった討伐隊の面々が部屋の中にいた。

『神の大粛清』とそれに対抗するための世界連合軍の成立などを説明したのであった。
当然トーマスは会話の最中にノーブがこの件を話した際には難色を示していた。
理由はただ一つ、勝ったとしてもデストロイ家に利益がないからである。

更に、他の国も同意しかねていると話した。それはそうだろう。土地も捕虜も得られない戦いである上に自国の討伐隊を動かしたとしてもその隙に別の天使たちが攻めてこられる心配があると語ったのだ。
深刻な顔を浮かべて否定するトーマスに対し、ノーブは子供を諭すかのようなゆっくりとした口調で話し掛けたのだ。

「無理には言いますまい。ただ、クイレル卿にお伺い致しますが、天使によって人間が全て死滅した世界でどうやってデストリア家の繁栄をお約束させる予定でしょうか?」

「それは仰る通りだが、諸国の王たちが討伐隊を出し渋っているのも事実だ。私から説得したとしても奴らは決戦の際に他の天使たちに殺される恐怖を天秤にかけたらのならば私の言葉すら拒否するだろう」

「その後に天使たちに殺されることになってもですか?」

「……私の一存にも限界がある。確かに我が一族は先祖の無念を果たし、経済による裏からの支配を樹立させることに成功した。が……それでもイブ・パイクーンの伝説を取り除くことは不可能なのだ。もし、私が無理に討伐隊を出すように指示を出せば、奴らは自分たちの財布の紐を私に握られていることも忘れ、半ば狂信的に自分たちの国を守るために団結するだろう。憎きデストリアを地獄へ追い返すために例の伝説を思い出してな」

「なるほど、それだけ過去も現在もデストリアは多くの国々から恨みを買っているというわけですな」

「……耳が痛いな。だが、事実だ。経済の支配にも限界がある。いざ武力となれば我々は手も足も出んのだ」

「……クイレル卿。あなたは幼い頃にイブ・パイクーンの伝説に夢中になったりはしませんでしたか?」

「あり得ん。イブ・パイクーンは我々の仇敵だ。ミーティアの王よ、貴君は知らぬだろうが、イブに討ち取られた影武者とされたデストリアの皇帝は我が先祖の兄にあたるのだよ。その私が……その……」

そこまでは舌鋒鋭くイブ・パイクーンを非難していたトーマスであったが、娘のティーが持ってきたイブ・パイクーンの陶器でできた人形を見て言葉を失っていた。

「ハハッ、卿は存じないでしょうが、王立孤児院にいた頃のティーはイブ・パイクーンの伝説のファンでした。私はよくイブ・パイクーンの伝説を読んでやったものです」

トーマスは絶句していた。だが、唖然とした様子のトーマスを放ってノーブは話を続けていく。

「そればかりではありません。魔法の適性検査で武力としての魔法が使えることが判明し、討伐隊に参加した後に私から小遣いが貰った後で倅……いえ、ブレードとマリアに付き添ってもらって買いに行ったのが絵を描くための用紙と鉛筆、それからイブ・パイクーンの陶器人形でした」

「……やはり、親子なのだな。実は幼い頃の私も密かにイブ・パイクーンの伝説が好きだった。祖先の仇敵であり唾棄すべき存在であるイブ・パイクーンに憧れていたのだ。幼い頃の私は自分がイブの敵であるデストリア家の子孫であることを恥じいていたものだよ」

「ならば今こそデストリアはかつての過ちを振り切り、現在のイブ・パイクーンたちに力を貸し、手を取り合うべきなのではないでしょうか?」

その説得は効いたようでトーマスはノーブの言葉に同意しる姿勢を見せた。
トーマスはノーブに今後に諸国の王たちを集めての『神の大粛清』に備えるための準備を行うことを約束した。

その後に最後ということで自分に付き添ってきた新しい家庭教師を紹介することになった。
新しい家庭教師は前回のジョージ・キャストルもとい天使たちの王とは対照的に柄の悪い顔、崩れた服装などが特徴であった。

「お初にお目に掛かる。おれの名前はモギー・ドルーマン。こう見えても神聖リーモ帝国で一番の大学って言われてるリーモ帝国大学を首席で出てるぜ。よろしくな」

「よろしくお願いします。私は王太子そして討伐隊の隊長を任せられておりますブレードと申します」

「そっか、で後は資料で読んだ通りだろ?自己紹介なんていらねーぞ。それよりもお前ら討伐隊なんだってな?」

「えぇ、そうですけど……」

「面白そうだからオレも参加させろ。オレも魔法とやらが使えるから、な?だから今度、あの天使たちがきたらオレも連れけよ。いいな?」

「で、ですけど民間人の方ですので……」

「心配するなよ。オレは元は神聖リーモ帝国所属の皇帝の護衛兵だったんだ。ンで戦いの最中で勉強しながら大学に受かって、そのまま引退させてもらったわけさ。悪いことは言わねぇからーー」

「おい、いい加減にしたらどうだ?少し調子に乗り過ぎだ」

「おっと、すまねぇな。旦那」

と、そこで新たな家庭教師は申し訳なさそうに頭を掻く。
どうやら相当に無礼な男のようだ。そこが不愉快であったが、同時に面白いとも感じられた。

今入院していてポイゾの分が余っているというのも大きい。
ポイゾが復帰するでは彼に暴れてもらうというのも面白いだろう。
そのことを考えながら私はモギーを見つめていた。
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