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天使王編

天使王による死刑宣告

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「……ルシフェル。お前は我々に対して反逆を企てた。それ故に天界を追われた……そこでお前はいくつもの世界を渡り歩いたんだったな?」

「……そうだったかな。覚えていないや」

これは本当のことだ。私はルシフェルの力を受け継いでいたとしてもその他の世界の記憶などは覚えていない。

「……ルシフェル。お前は多くの人々を破滅へと導いた。時に甘言で時に誘惑で多くの人たちを破滅に導いた。そして少女と同化してお前は復活を果たした。こちらの世界を手に入れるために……」

「流石は天使たちの王ってところかな?ねぇ、そんなすごい王様に聞いてみたいんだけど、あんたを倒したら天使の侵略は止まるの?」

「無駄だな。この世界の人間どもは罪を犯しすぎた。生物を全滅させ過ぎたんだよ」

「生物を全滅させ過ぎた?それだったら私が前いた世界もそうだと思うけど?前の世界の人間たちは息を吐くように生物は全滅させていたけれどそれはいいのかな?」

既に堕天使ルシフェルと同一の存在となっている私がかつての倉持波瑠と同一視して前いた世界と評するのはおかしいと思うが、ルシフェルとしての記憶をまるで受け継いでおらず、倉持波瑠としての記憶しか受け継いでいないのだから仕方があるまい。

私の煽るような言葉に対して天使たちの王がどう回答するのかは見ものである。肯定しても否定しても面白い回答が聞けると思うと胸が踊るものがある。
予想通りこの回答には天使たちの王も苦戦していたらしい。なかなか結論を出せずにいた。

だが、すぐに両目を開いて私を睨みながら言った。

「……いいや、お前が元いた世界の住人たちは幾度も幾度も罪を受けている。お前自身の手によってな」

「私の?」

「そうだ。倉持波瑠という少女の主体的自己統一性を維持しつつも裏で操っている貴様ならばな」

「追求されても私の記憶は倉持波瑠ものなんだよ。ルシフェルの記憶っていうのはないの」

私は嘲るように言った。その回答に苛立ったのか、倒れている私の手の甲を天使たちの王が強く踏み躙っていく。

「……ふざけるな。貴様のようなゲスはこの腕を叩き斬ってやる。二度と弓矢を持てなくしてやろうではないか……そうして二度とあのお方に逆らえないようにしてやるんだ」

「……イカレポンチめ」

私は聞こえないように小さく毒を吐いてから私の腕を切断しようとする天使たちの王から逃れる術を考える。
天使たちの王は私が見るところ怒りによって冷静さを失っているらしい。この手のやからには単純な手が効くと思われる。

私は大きな声で背後からの攻撃があると主張した。もちろん嘘である。
天使たちの王が私の目を逸らした瞬間に空いた片方の手で短剣を握り、その脇腹を勢いよく突き刺す。

鎧というのは人体の構造上覆えない箇所があるとされ、膝の裏側や股の下の他にも脇腹などがそうであるとされている。
天使は人間に近い姿で現れるため、その肉体も人間に近いと思われる。それ故に脇腹から刺されたダメージとは深刻なものだろう。
天使たちの王がフラフラと足をふらつかせているのが見えた。

いい気味である。私が得意げな顔を浮かべていた時だ。足をふらつかせていた天使たちの王が私の頬を思いっきり張り飛ばしたのである。

他の攻撃ではなくビンタであった。叩かれたという事実にしばらくの間呆然としていた時だ。
天使たちの王が人差し指を突き付けながら叫ぶ。

「……ルシフェル。やはり貴様は堕天使だ。人間を庇いどこまでも堕落させていく上に我々の執行を妨害しようとしている……そんなやつを許すわけにもいかない。そして、そんなやつを許容する人間どもも許してはならない……」

しばらくの間足をふらつかせていた後に彼は大きく手を広げると大きな声で叫ぶ。

「私は決めたッ!この世界に必ず『大粛清』を引き起こすッ!そしてルシフェルとルシフェルを支持した人間どもに必ずその罪を償わせてやるぞッ!」

天使たちの王は脇腹を抑えながら外へと出ていくのであった。
それから背中から翼を生やして青空の中へとその姿を消したのであった。
私は玉座に座るノーブに向かって問い掛けた。

「陛下、今のが天使たちです。天使たちと融和を図ることなど不可能であると思われませ」

私は前の世界で見ていた時代劇口調でノーブに向かって進言した。
ノーブは黙って首を縦に動かす。それから玉座の上から私の近くに立っていた中年の男性を手招きすると何かを耳打ちした。

それを聞き終わった男性が驚愕した表情を浮かべた。

「えぇ!?階級による我が国の法制をお見直しを行なわれると?」

「左様、この後は身分関係なく戦わねばならない時がくるのだ。そのための見直しが必要なのだ。わかるな。大臣」

「陛下、それは我が国の規範を越えてまで行なわなければならないことでしょうか?」

「もちろん、『神の粛清』は我々人類が乗り越えなくてはならない使命であるのだ」

その後にノーブが私に視線をやる。私はノーブの意思を悟り首を小さく縦に動かす。

「わかりました。新たな人材を登用することを私が通達しておきましょう」

このやり取りが行われた時だ。ようやく討伐隊の面々が外に集まっている兵士たちを掻き分けて、謁見の間に集まった。
未だに怪我をして眠っているポイゾを除いて他の面々が慌てた様子でノーブの前に跪いている。
その中でブレードが全員を代表して詫びの言葉を入れた。

「申し訳ありません!我々も事態を聞きつけて慌てて集まったのですが、他の人の流れが早くてーー」

「よい。ワシは怪我などしておらぬ。ハルのお陰じゃ。ハルに礼を言うがいい」

「ハッ!」

ブレードはノーブの前で勢いよく頭を下げた後で私に向かって頭を下げていく。
ブレードが頭を下げるのと同時に他の仲間たちも一斉に頭を下げていく。
形式的とはいえ仲間たちに頭を下げられるのは恐縮である。

思わず否定の言葉が入る。だが、ブレードや仲間たちは頭を下げ続けている。

「いいえ!陛下の御身が無事でありましたのはハル殿のお陰ですッ!このブレード!いくら頭を下げても足りませぬ!」

普段のブレードの口調とは異なる時代劇のような口調で言葉を入れられても困る。
取り敢えず気まずくなってしまったので話題を変えるようにノーブに提案する。
そこでようやく『神の大粛清』に関する話題が出てきたのである。
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