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走馬灯と現実と
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ゼロ年代のお笑いセンスしか取り入れなかった父がこの時にはひどく恨めしく感じたものである。
ゼロ年代など私の生まれる前の話であり、私からすれば遠い昔の話だ。
笑われるのも無理はない。私は彼女と共に苦笑するしかなかった。
その時はこの雪辱を晴らしたいという一心で彼女とお笑いを担当する事になった。
私が通っていた学校の担任は五時間目、六時間目の総合の時間などを利用して私たちは練習する機会を与えられていたのだ。
休日を犠牲にせずに済んだということには感謝するべきだろう。
両親とりわけ父の許可は絶対に得られないであろうから。
練習の時間、私は非常に楽しい思いをさせてもらった。二人でネタを決め、練習を行う。
学校の勉強と塾での勉強との合間に訪れる楽しみの時間でもあった。
何より、距離を置いたはずの友達と再び交流を深める事ができたのが嬉しかったのだ。
このまま二人でお楽しみ会を楽しめるとばかり思っていた。
だが、私の思いは最悪の形で裏切られた。父が当日になってテストをねじ込んだのだ。主要五教科を合わせての朝から夕方までのテストだ。
お楽しみ会などに参加できるはずがない。私は抗議の言葉を飛ばしたものの、父に逆らえるはずがなかった。
彼女になんと言って謝ろう。私は行きと帰りの時間はずっとそのことばかりを考えていた。
そのまま冬休みに突入したので彼女とは連絡がつかなくなった。
そのため年が明け、彼女と再開した時、私はまた彼女と距離を取り始めた。
彼女もまた当日に来なかったことを気にしたのか、私に話しかけることはなかった。以後、今に至るまで彼女からの信用を取り返す機会はない。
年明けにごめんなさいと一言だけ謝罪すればよかった。
そうすれば彼女も事情をわかってくれたかもしれないというのに。
私は大馬鹿だ。もし、また彼女と再会する機会があればその時にはまた改めて謝罪の言葉を述べたい。
そんなことを考えていた時だ。私の脳裏にあの子の顔が浮かんできた。
あの子は笑っていた。彼女に向かって私は必死の思いで謝罪の言葉を投げ掛けた。
「ごめんなさい!私、あなたの気持ちを裏切っちゃった!本当にごめんね!でも、あの時にお父さんが不意にテストを入れちゃって参加できなかったの!本当にごめん!!」
ずっと言えなかった言葉だ。ずっと頭の中に溜め込んでいた言葉。それを余すことなく脳裏に浮かんだ彼女に投げ掛けていく。
けれど、彼女は何も言わない。黙って笑うばかりだった。
まだ、許してくれていないのだろうか。私の頭を不安が支配した。このまま彼女が許してくれなければどうしよう。
私は次々と自身の胸の内に溜め込んでいた言葉を必死になって投げ掛けていく。
しかし、彼女は笑うばかりでも何も言わない。それどころか、私の前から離れていきそうになっている。そんな彼女を私は必死になって呼び止めた。
けれども呼び止めれば呼び止めようとするほど、彼女の顔は私の目の前から遠ざかっていく。
「待って!」
私が呼び止めた時だ。気が付いた時、私は兵舎にある自室のベッドの中で横たわっていた。
目の前には心配そうに私を覗き込む討伐隊の仲間たちの姿が見えた。
慌てて起き上がると、まだ自分の頭が痛むのか、ズキッという音が頭の中で鳴り響いていく。
堪えきれずに頭を抑えると、傷を負ったところに包帯が巻かれていることに気が付いた。どうやら誰かが傷の手当をしてくれたらしい。
私が頭を抑えながら感謝の意思を述べると、手当をしてくれたのがあの兵士の国だということが判明した。
「それは……なんと言っていいのか」
「別に気にする必要なんてないさ。あいつらの方から援軍を求めたんだろ?なら、負傷兵の手当てくらいするのは当然だろ?」
ポイゾが答えた。その毒気のある言い方に少し嫌悪感を見せた時だ。
その言い方のせいで、荷車の中に重い空気が漂ってきたのを察し、私は慌てて話題を変えるように仕向けた。
「そう言えば私って何日くらい寝ていたんですか?よかったら教えてほしいなぁ、なんて」
その疑問に答えたのは他でもないティーだった。
彼女は私の目の前で懸命に絵を描いていた。そして、書き上げた絵を私に見せたのだ。絵は横たわる人間の姿が七つほど描かれている。
「つまり、7日間も寝てたってこと?」
ティーは迷うことなく首肯した。
「うん。さらに詳しく言うとね。あの戦いの後でキミが落ちてきてね。ぼくらもキミが死んだとばかり思っていたんだ」
「けど、お前は生きてた。その後でオレらの手で近くの病院に運んだんだ」
「そこで応急手当を要請して、頭の怪我は取り敢えず覆えたんだけど、なかなか意識が戻らなくてさ」
マリアが溜息を吐きながら説明する。
「それで、しばらくそこで入院させてもらって、数日前に帰ってきたってところかな?」
「その通り、薄汚い天使にしては頭が回るじゃあないか」
ポイゾが手を叩いて皮肉混じりに賞賛する。
その姿を睨みつけるブレード。彼はポイゾを睨みながら告げた。
「いい加減にしなよ!いつまでも彼女に辛く当たるんじゃあない!」
「おっと、失礼したね。でもだよ。これも忘れてはいけないんじゃあないかな」
ポイゾが人差し指をかざしながら得意げな様子で言った。
「これって何がだい?」
「決まっているだろ?あの化け物に襲われた彼女を助けたのがぼくだという事実をさ」
ポイゾはあのニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべながら胸を張る。
ポイゾもタンプルも否定できなかったのか、反射的に目を逸らす。
ここぞとばかりにポイゾは自身の意見を叩き込む。
「だいたい、キミたちは普段から騎士みたいに振る舞っているくせにいざとなったら彼女を助けさえ行かないじゃあないか。特にタンプルはもうオレに突っかかる権利なんてないんじゃあないのかい?」
「そんなの誰が決めたんだよ」
「誰って世間さ」
彼の言う「世間」というのは「自分」のことだ。
要するに、彼が勝手にその権利はないと言っているだけに過ぎない。
だが、それを指摘すれば面倒な事になるのはニンニクを食べたら臭い息が出るのと同じくらい確実であるので、私は黙って彼の意見を聞いておく。
「彼女の危ういところを助けたのは他ならぬオレなんだッ!キミたちじゃあない!足がすくんで動けなかったキミたちじゃあーー」
堪忍袋の尾が切れたのか、タンプルの拳が飛ぶ。
ポイゾはタンプルによって殴り飛ばされたが、すぐに切れた口を手で拭って、タンプルを殴り返す。
またしても喧嘩が始まるところを止めたのはマリアだった。
マリアの懇願で二人は一時の休戦を行い、互いを睨みながら部屋を出て行った。
ゼロ年代など私の生まれる前の話であり、私からすれば遠い昔の話だ。
笑われるのも無理はない。私は彼女と共に苦笑するしかなかった。
その時はこの雪辱を晴らしたいという一心で彼女とお笑いを担当する事になった。
私が通っていた学校の担任は五時間目、六時間目の総合の時間などを利用して私たちは練習する機会を与えられていたのだ。
休日を犠牲にせずに済んだということには感謝するべきだろう。
両親とりわけ父の許可は絶対に得られないであろうから。
練習の時間、私は非常に楽しい思いをさせてもらった。二人でネタを決め、練習を行う。
学校の勉強と塾での勉強との合間に訪れる楽しみの時間でもあった。
何より、距離を置いたはずの友達と再び交流を深める事ができたのが嬉しかったのだ。
このまま二人でお楽しみ会を楽しめるとばかり思っていた。
だが、私の思いは最悪の形で裏切られた。父が当日になってテストをねじ込んだのだ。主要五教科を合わせての朝から夕方までのテストだ。
お楽しみ会などに参加できるはずがない。私は抗議の言葉を飛ばしたものの、父に逆らえるはずがなかった。
彼女になんと言って謝ろう。私は行きと帰りの時間はずっとそのことばかりを考えていた。
そのまま冬休みに突入したので彼女とは連絡がつかなくなった。
そのため年が明け、彼女と再開した時、私はまた彼女と距離を取り始めた。
彼女もまた当日に来なかったことを気にしたのか、私に話しかけることはなかった。以後、今に至るまで彼女からの信用を取り返す機会はない。
年明けにごめんなさいと一言だけ謝罪すればよかった。
そうすれば彼女も事情をわかってくれたかもしれないというのに。
私は大馬鹿だ。もし、また彼女と再会する機会があればその時にはまた改めて謝罪の言葉を述べたい。
そんなことを考えていた時だ。私の脳裏にあの子の顔が浮かんできた。
あの子は笑っていた。彼女に向かって私は必死の思いで謝罪の言葉を投げ掛けた。
「ごめんなさい!私、あなたの気持ちを裏切っちゃった!本当にごめんね!でも、あの時にお父さんが不意にテストを入れちゃって参加できなかったの!本当にごめん!!」
ずっと言えなかった言葉だ。ずっと頭の中に溜め込んでいた言葉。それを余すことなく脳裏に浮かんだ彼女に投げ掛けていく。
けれど、彼女は何も言わない。黙って笑うばかりだった。
まだ、許してくれていないのだろうか。私の頭を不安が支配した。このまま彼女が許してくれなければどうしよう。
私は次々と自身の胸の内に溜め込んでいた言葉を必死になって投げ掛けていく。
しかし、彼女は笑うばかりでも何も言わない。それどころか、私の前から離れていきそうになっている。そんな彼女を私は必死になって呼び止めた。
けれども呼び止めれば呼び止めようとするほど、彼女の顔は私の目の前から遠ざかっていく。
「待って!」
私が呼び止めた時だ。気が付いた時、私は兵舎にある自室のベッドの中で横たわっていた。
目の前には心配そうに私を覗き込む討伐隊の仲間たちの姿が見えた。
慌てて起き上がると、まだ自分の頭が痛むのか、ズキッという音が頭の中で鳴り響いていく。
堪えきれずに頭を抑えると、傷を負ったところに包帯が巻かれていることに気が付いた。どうやら誰かが傷の手当をしてくれたらしい。
私が頭を抑えながら感謝の意思を述べると、手当をしてくれたのがあの兵士の国だということが判明した。
「それは……なんと言っていいのか」
「別に気にする必要なんてないさ。あいつらの方から援軍を求めたんだろ?なら、負傷兵の手当てくらいするのは当然だろ?」
ポイゾが答えた。その毒気のある言い方に少し嫌悪感を見せた時だ。
その言い方のせいで、荷車の中に重い空気が漂ってきたのを察し、私は慌てて話題を変えるように仕向けた。
「そう言えば私って何日くらい寝ていたんですか?よかったら教えてほしいなぁ、なんて」
その疑問に答えたのは他でもないティーだった。
彼女は私の目の前で懸命に絵を描いていた。そして、書き上げた絵を私に見せたのだ。絵は横たわる人間の姿が七つほど描かれている。
「つまり、7日間も寝てたってこと?」
ティーは迷うことなく首肯した。
「うん。さらに詳しく言うとね。あの戦いの後でキミが落ちてきてね。ぼくらもキミが死んだとばかり思っていたんだ」
「けど、お前は生きてた。その後でオレらの手で近くの病院に運んだんだ」
「そこで応急手当を要請して、頭の怪我は取り敢えず覆えたんだけど、なかなか意識が戻らなくてさ」
マリアが溜息を吐きながら説明する。
「それで、しばらくそこで入院させてもらって、数日前に帰ってきたってところかな?」
「その通り、薄汚い天使にしては頭が回るじゃあないか」
ポイゾが手を叩いて皮肉混じりに賞賛する。
その姿を睨みつけるブレード。彼はポイゾを睨みながら告げた。
「いい加減にしなよ!いつまでも彼女に辛く当たるんじゃあない!」
「おっと、失礼したね。でもだよ。これも忘れてはいけないんじゃあないかな」
ポイゾが人差し指をかざしながら得意げな様子で言った。
「これって何がだい?」
「決まっているだろ?あの化け物に襲われた彼女を助けたのがぼくだという事実をさ」
ポイゾはあのニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべながら胸を張る。
ポイゾもタンプルも否定できなかったのか、反射的に目を逸らす。
ここぞとばかりにポイゾは自身の意見を叩き込む。
「だいたい、キミたちは普段から騎士みたいに振る舞っているくせにいざとなったら彼女を助けさえ行かないじゃあないか。特にタンプルはもうオレに突っかかる権利なんてないんじゃあないのかい?」
「そんなの誰が決めたんだよ」
「誰って世間さ」
彼の言う「世間」というのは「自分」のことだ。
要するに、彼が勝手にその権利はないと言っているだけに過ぎない。
だが、それを指摘すれば面倒な事になるのはニンニクを食べたら臭い息が出るのと同じくらい確実であるので、私は黙って彼の意見を聞いておく。
「彼女の危ういところを助けたのは他ならぬオレなんだッ!キミたちじゃあない!足がすくんで動けなかったキミたちじゃあーー」
堪忍袋の尾が切れたのか、タンプルの拳が飛ぶ。
ポイゾはタンプルによって殴り飛ばされたが、すぐに切れた口を手で拭って、タンプルを殴り返す。
またしても喧嘩が始まるところを止めたのはマリアだった。
マリアの懇願で二人は一時の休戦を行い、互いを睨みながら部屋を出て行った。
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