白き翼の天使が支配するーーanother story〜女神の力を受け継ぎし天使はいかにして世界の救済を図るかーー

アンジェロ岩井

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激戦と走馬灯と

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そういえばどうして、私はこの世界で読み書きができ、言語が話せるのだろうか。思えば最初にその事に気がつくべきだったかもしれない。
私はこれまで何の違和感も感じずに過ごしてきたことに対して違和感を持つべきだったのだ。

しかし、頭の中で別の思いがよぎる。
それは本当のところは考えてもわからないというものだ。どういう原理でどういった理論で言葉を喋れているのかが私には理解できない。
この仕組みは恐らくカール・ブルークマンでもジョーゼフ・グリーンバーグでも説明できないに違いない。
既に頭の痛みはポイゾの活躍と、一時的な哲学者気分によってかき消され、とうに私の中からは消し飛んでいた。

私は引き続き、亀の怪物とポイゾとのやり取りを見守っていた。
ポイゾはこれまでに前例のない言葉を喋るエンジェリオン相手に面食らっていたのか、剣を仕掛けることもなくお互いに言葉の通じないエンジェリオンと会話を続けていた。
その様はテンポの悪いキャッチボールを見ているかのようで私はどこか違和感を感じていた。
そのモヤモヤとした違和感がどう考えてもぬぐい払えないのでどこか気持ち悪く感じたのも事実である。
その時だ。途端に指揮官が会話を打ち切り、ポイゾに向かって不意の一撃を喰らわせた。
ポイゾが剣を喰らったのは鎧の部分である。その事は不幸中の幸いといってもいいかもしれない。

だが、まさか一撃を喰らわされるとは思いもしなかったのでポイゾは目を白黒とさせていた。
だが、すぐにいつも浮かべているいやらしい笑顔を浮かべたかと思うと、剣を構えて指揮官に向かって切り掛かっていく。
ポイゾの剣を寸前のところで防いだかと思うと、更に今度はポイゾを蹴り飛ばし、その真横から剣を大きく振りかぶっていった。

「グアッ!く、クソ……やはりだ。薄汚い天使め、言葉なんて喋って人間のふりまでしてぼくを騙していたんだな」

やはり、気まずかったのか、それとも何も言うつもりなどなかったのか、指揮官は今度は黙って天使に向かって攻撃を仕掛けていく。
ポイゾの剣の一撃を喰らっているので、彼も弱っているはずだというのに指揮官は弱っている姿を見せていない。
それどころか猛攻を続け、ポイゾを追い詰めてさえいる。
ポイゾは悲鳴を上げていない。代わりに呻めき声を上げた。
意地でも弱った姿を私たちに見せたくないのだろう。

だが、それにも限度はある。私はたまらなくなり、雄叫びを上げて全身に力をこめていく。
私の体の上には再び電気で鎧が纏わりつき、天使を思わせる翼が生えた。
それまではポイゾを倒そうとするのに夢中になっていた指揮官も、先程までは倒れて弱っていたはずのポイゾも私の姿が現れるのと同時に目を大きく見開いた。

しばらくの間、両者は呆然としていたが、やがて指揮官の方は危機を感じたのか、慌てて翼を背中から生やしたかと思うと、私に向かって飛び上がっていく。
私はいつも通りに矢を放ち、指揮官を射殺そうと試みたのだが、指揮官は寸前のところで体を交わし矢を回避していく。
いよいよ彼は私の目の前にまで迫り寄り、そのまま手に握った棍棒で私の頭を叩き割ろうと試みた。

しかし、そうは問屋がおろさない。私は真上から勢いのまま振りかぶってくる棍棒を剣を盾にして防ぎ、膠着状態になる前に指揮官を蹴り飛ばす。
精一杯の力を込めた蹴りである。喰らってしまえばひとたまりもないだろう。
指揮官は私の前から吹き飛び、そのまま地面へと落ちていく。
その指揮官を目で捉えた後に私は短剣を両手に握る。そしてそのまま一直線に急降下していくのであった。
このまま串刺しにしてやろうという算段であった。

だが、現実というのはそこまでうまくいかないものであるらしい。
指揮官は空中の上で体勢を立て直し、私の襲撃に備えたのであった。
彼の棍棒と私が両手に持つ短剣とが空中の上でぶつかり合い、その後はお互いに生えている翼を用いて、空中の上での戦いが行われていく。
かなりの激戦だ。地上で討伐部隊の面々が呆気に取られたような顔をしてこの戦いを見守っていた。

私は戦いの最中、今よりも幼かった頃に日曜日の朝の楽しみにしていた幼女向けの美少女アニメを思い出した。
小学校の低学年くらいまで楽しんでいたアニメである。
指揮官と切り結んでいく中で、私はそのアニメに登場する美少女戦士になったような気がして気分が高揚した。
これまでに感じたことのない心地の良い高揚感である。
やがて、私はその勢いに乗ったまま指揮官に対して、正面から両手に握った短剣を喰らわせることで勝利を収めたのであった。
やった。全てを終わらせた。これ程までの達成感は過去に私が通っていた学習塾で模擬テストで過去最高の点を取ったと自負して以来である。
満足感を感じた私を途端にそれまでの困惑と興奮で麻痺していた頭の痛みが襲った。
そういえば殴られていたのだ。私は頭痛を感じながら翼を操ることを忘れ、バランスを崩して地上へと落ちていく。
まるで、吸い寄せられるかのように。

地上に降りていく際に私は走馬灯か、はたまた一瞬の幻想とやらかを見た。
またしても過去の記憶だった。
またしてもお笑い芸人志望のあの子が出てきた。
この記憶は間違いない。昨年、小学五年生の冬休み前の学校での記憶だ。
かつて一度だけ得た仲直りのチャンス。それを不意にした時の長い記憶だ。

「ねぇ、波瑠!今回の冬休み前のクラスお楽しみ会では私と組もうよ!」

「えぇ!?うーん。どうしようかな」

悩む私。当たり前だろう。この時は彼女の距離を置いていたのだから。
彼女が悪いわけではないのになぜか、私は父に言われたことを引きずって、彼女と距離を置いていたのである。
こうして彼女の方から話しかけてくれるのはありがたい反面、迷惑であった。
しかし、彼女は私を置いてぐいぐいと話を進めていく。

「だったらさぁ!私と組もうよ!」

「えっ、組むって……」

「そのままの意味に決まってるじゃん!私も組んでお笑いしようよ!」

「お、お笑い?」

困惑する私を他所に友人は目を輝かせながら言った。

「うん!私と組んでクラスの誰にも負けないお笑いを披露しようよ!きっと私と波瑠とで組んだら、すごい面白い漫才ができるよ」

「昔流行った欧米か!みたいなやつ?」

「ププッ、欧米か!って何年前のネタなの!アハハハハハハ!!やっぱり、波瑠はお笑いのセンスあるよ」

私の知っている持ちネタが限りなく古いものであるのは間違いなく父の影響だ。
父は少し前に流行ったネタを面白がる悪い癖があったから自然と私も影響を受けてしまったのだ。
私は自分のギャグセンスがゼロ年代に置いていかれていることを悟り、顔を赤面させたのであった。
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