婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

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第四章『この私が狼の牙をへし折ってご覧にいれますわ』

浅からぬ因縁がありまして……

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『害虫駆除人宮殿に侵入』というニュースが大々的に報じられたのは侵入が行われた次の日の朝のことであった。
カーラとレキシーが診療所の準備を進めていると、血相を変えた患者がその件が記された新聞を持って現れたのだ。
街ゆく庶民たちにとって貴族や騎士たちに虐げられる自分たちの恨みを金と引き換えに晴らしてくれる害虫駆除人はヒーローなのだ。

自分たちにとってのヒーローが捕まったとあれば人々の間で話題に登るのも無理はない。
これまでは噂に上る程度の存在であったヒーローが実際のものとして現れたということとそのヒーローを捕らえるために多くの兵隊が王都の中を歩き回っているという二つの事実が人々が湧き立つ一方でカーラとレキシーには嫌な胸騒ぎが湧き起こっていたのである。

しかし、ここで診療所を閉鎖してしまえば却って警備隊や自警団に怪しまれてしまうと判断し、ギルドからの指示があるまでは平常通りに過ごすことを決めたのである。
沈んだ気持ちで作業を行なっていた日というものは仕事にも影響が出るものだ。
カーラやレキシーは普段ならば絶対に行わないようなささやかなミスを犯し、患者に平謝りをするばかりであった。
カーラは仕事の手伝いを続ける中で服飾店に服を納めたばかりでよかったと密かに安堵していたのである。

もし、今の状況で服を縫ったとしてもあちらこちらに穴が開き、手に針を当てて赤色に染めてしまう危険性が高かったからだ。
そんな憂鬱な思いが立ち込める平日の昼下がりであったが、ここにきて予定外のことが起こった。なんとギークが現れたのだ。
裏口の扉を叩いて現れたギークは初めて出会った時のような旅装をしていた。

カーラが不思議そうな表情を浮かべてギークを見つめていると、ギークは自分がどうしてこのような格好をしているのかを語っていく。
ギークによれば昨日に失敗した駆除人というのは自分のことであり、マルリアもといフレアを始めとした城の衛兵たちに顔を見られていることから姿を消さなくてはならないのだという。
悲しげな顔を浮かべるカーラとは対照的にギークは呆気からんとした表情を浮かべていた。

「別に、ぼくは寂しくないさ。街の駆除人から元の旅人に戻るだけだもの」

「そ、そんな言い方はないでしょう!」

仮にもこれまで苦楽を共にしてきた仲間に対して予想だにしないような冷たい言い方に腹が立ったのか、カーラは拳を握り締めながら抗議の言葉を飛ばしたが、ギークはそんなことを気にする素振りも見せずにカーラの手元へとギークが袋を手渡した。

「ギークさん、これは?」

「あぁ、報酬だよ。マスターから渡されたフレア・ジオラーデ子爵夫人の駆除代。ぼくには荷が重かったみたいだからキミに渡すね」

「で、でも急にそんなことを仰られても」

「まぁ、頼むよ。ぼくはもう成し遂げられないからさ。じゃあね、風邪引かないように気を付けてね」

ギークはそう言うと、背を向けてそのまま裏通りを歩いていく。
ギークは手を振りながら振り返ることもなく去っていくのであった。
カーラはその背を見つめながら直感していた。もう二度とギークと会うことはできないのだ、と。

故にこの機会を逃すことはできない。カーラは慌ててギークの背中を追い掛けた。
息を切らしながらカーラはギークへと囁いていく。

「どうしてもいってしまうの?」

「うん。顔を見られてしまったからね……それにこのことは既にギルドマスターにも告げたし、もう後戻りはできないんだ」

ここに来てそれまで淡々と語るだけであったギークが初めて寂しげな表情で呟いた。
そんなギークの前でカーラは護身用として袖の中へと忍ばせている針を取り出す。
思わず警戒の目を向けるギークの掌の上へと針を手渡す。

「……これは?」

「私の針ですわ。最後ですから……記念にギークさんへ差し上げます」

「記念か」

ギークはフッとした笑いをこぼした後で満足げな笑みを浮かべながら旅行鞄の中へと針を仕舞い込む。

「『血吸い姫』から貰った針だ。大切にするよ、ありがとう」

ギークは最後に微笑んでみせた。カーラもそれに合わせて微笑む。
それから無言でお互いに手を振りっていく。二人の別れに言葉はいらなかった。
カーラはギークの姿が見えなくなるまで必死になって手を振り続けていた。

そして、ようやく手を下ろし、一息を吐き、家へと戻る途中でカーラはギークの今後について考えていく。
だが、いくら頭の中で今後のことを考えても思い浮かぶことがなかったのだ。
ギークがどうなっていくのか、どんな末路を辿ることになるのか、カーラには想像することも難しかった。

カーラとしてはひたすらにギークの安全を祈るばかりであった。
呑気に祈ってばかりもいられないのが現実である。
カーラは診療所に戻るなり、レキシーの前に大金が入った袋を置いたのであった。

袋を訝しげに見つめるレキシーに向かってカーラはギークから聞いたことを語っていく。
レキシーは難しい顔を浮かべながら大金が入った袋を見つめていた。
そして、しばらく考え込んだ後で、

「やる気なのかい?」

レキシーが低い声で問い掛けた。

「えぇ、ギークさんの分まで私がやり遂げてみせますの。ご覧くださいませ。レキシーさん、この私が狼どもの牙をへし折って差し上げますわ」

カーラの顔からは自信が溢れていた。本来であるのならばなんの根拠もないハッタリだと一蹴するところだろう。
だが、レキシーは知っている。カーラがこうして自信満々に言い放つ時は必ず相手が倒れることになるのだ、と。
レキシーもそれを信じて付き合うことにしたのである。
その晩、カーラは仕事を成し遂げるため駆除人ギルドのある酒場へと向かおうとした。

その時だ。目の前を警備隊の兵士たちが慌ただしく走っていく姿を見受けた。
一体何が起こったのだろう。カーラが目で警備隊の兵士たちが走っていく姿を見ていくと、それは駆除人ギルドへと続く道であった。
まさか……。本当は信じたくなどなかった。できることならば二人が心の内で抱いていた最悪の予想など外れてほしかった。

しかし、二人の予想は最悪の形で裏切られる羽目になってしまった。
なんと、酒場の周りを兵士たちが囲み、ギルドマスターを連れ出していたのである。
厳つい顔をした隊長と思われる羽根飾りの付いた兜を被った男が槍の穂先をギルドマスターに突き付けながら問い掛ける。

「貴様だな?駆除人ギルドのギルドマスターというのは?」

「なんのことだかわかりませんな。私はこの酒場の主人ですよ」

ギルドマスターはあくまでも強気な態度を崩すことなく警備隊隊長の追及を逃れようとしていた。
だが、警備隊の隊長はそうしたふてぶてしい態度に業を煮やしたらしい。
ギルドマスターの横面を思いっきり叩いたかと思うと、その髪を強く引っ張って警備隊詰所へと連行して行ったのである。

カーラもレキシーも野次馬に紛れて物陰から黙って見つめているより他になかった。
ギルドマスターは駆除人ギルドのギルドマスターを務めるだけのこともあり、口の硬さは筋金入りだ。
例えどんな拷問を掛けられたとしても、どんな脅迫めいたことを言われたとしても決して他の駆除人たちのことは意地でも喋ることはないだろう。駆除を指示したという決定的な証拠などあるはずがないのだ。すぐに釈放されるに違いない。

だが、それらの事実が頭にあったとしても心配であることには変わらない。カーラがどうしようかと頭を痛めていた時だ。
肩に手を置かれていた。カーラがゆっくりと振り返ると、そこにはどこか寂しげな笑顔を浮かべたヴァイオレットの姿が見えた。

「……ヴァイオレットさん」

カーラは先程の事情もあり、少し淋しげな声でヴァイオレットと向かい合うことになった、

「マスターはいいや、叔父さんから言われました。『次のギルドマスターはお前だ』と、だから、次のギルドマスターとしてカーラさんに依頼をさせていただきます」

ヴァイオレットからの依頼というのは先のギルドマスターゴーネの私財から払われた大金を用いて裏切り者の害虫駆除人マルリアもといフレア・ジオラーデ子爵夫人を始末するというものであった。
しかし、その方法は城に忍び込んでの駆除ではない。それは昨日ギークが失敗してしまっているから同じ手を使うことはできない。
そこで発想を逆転させ、逆にフレアを外へと誘き寄せて始末させるといういつもながらの方法をヴァイオレットは提案したが、

「待ちなよ、フレアはギークの侵入以降、警備を固めているんじゃあないのかい?そんな奴が誘き寄せられるものかいッ!」

と、レキシーのもっともな反論によって実行の術を失ってしまう。

確かに作戦としては魅力的ではあるが、肝心の標的が動かなくてはなんの意味もないではないか。
その反論に対して何も言うことができず、ヴァイオレットは意気消沈するばかりであった。
仕方がない。正式な後継者に定められていたとはいえヴァイオレットはまだ正式なギルドマスターではないのだ。

机上の空論は戦場の中で運用することができないということをヴァイオレットは理解しただろう。
カーラがその場から離れようとした時だ。息を切らしたヒューゴが現れた。
あまりにも息が切れていたので、カーラは適当な酒場に連れていき、水を飲ませなくてはならぬほどであった。
ヒューゴは与えられた水を一気に飲み干したかと思うと、下品にも口元を袖で拭い、カーラたちに向かって言った。

「聞いてくださいよ。オレ、とんでもない秘密を発見したんですから」

「秘密?」

「えぇ、なんとフレアの奴が不定期的にあいつらと密会する現場を突き止めたんですから!」

「密会する現場!?」

ヴァイオレットの声が上ずる。

「それにあいつらって誰のことですの?」

カーラが身を乗り出しながら問い掛けた。

「まぁ、焦らないでくださいよ。オレが順番に説明しますから」

早くも二分の一がなくなりかけたジョッキを片手にヒューゴは密会現場とやらの話を行なっていく。
なんでもヒューゴはアメリアの誘拐事件以降ギルドマスターに命じられてアメリア誘拐の件について調べており、その正体をようやく突き止めたばかりであったという。

アメリアを誘拐したというのはフレアの他に三人いた。
それはかつて例の菓子店の令嬢が通っていた学校に勤めていた三人の教師である。
しかし、この三人の教師はひどく悪質な人物であった。いじめを止めるどころか、積極的になって加担し、事件発覚後には自分たちに責任が及ぶことを恐れて、王都から逃亡していたという卑劣極まる人物なのだ。

とりわけその中でもとりわけ性質が悪かったのはジョックという男であった。
以前、アメリアが商売中に見て衝撃を受けたのがその男である。
その証拠として三人の男たちは王都に戻った後は上手く職にありつけたのにも関わらず、ほぼ全員が落ちぶれていたが、ジョックばかりは新しく得た仕事で成功を収め、幸せな家庭さえ築いていた。

フレアはそんな三人をアメリアに精神的な揺さぶりをかける目的で過去の資料から見つけ出したのだ。
その男たちはフレアから多額の報酬と安定した家屋の提供を餌に誘拐に加担したらしい。
今でもアメリアに重い後遺症を与えているのだからその効果は絶大なものであったといってもいいかもしれない。

フレアは時たま家を出て次なるアメリア誘拐計画の思案を練るためその三人の男たちの家を尋ねているのだという。
これらの工程作業は王宮で客人扱いとはいえ軟禁されている現在でも予定が変更されることはないらしい。
駆除人時代に身に付けた力を用いて城を抜け出し、いやらしい笑みを浮かべながらどこかの酒場で計画を立てているのだそうだ。
狙うのならばその隙しかないだろう。駆除人ギルド存続のためにも、世のため人のためにもフレアを始末しなくてはならないのだ。いいや、フレアだけではない。
どうせならばその三人の元教師たちも仕留めしまおうではないか。

以前に仕上げた仕事の後始末だと思えば金銭は既に出ている。問題はない。
ヒューゴは三人の決心が固まったことを確認して、フレアが三人の男を集める日を告げていく。
フレアを仕留めるのならばその日しかあるまい。四人は入念な計画を立てていった。

酒場というものは酔っぱらいの騒ぐ声や他の人たちが騒ぐ声でやかましくなり、ヒソヒソ話を行うためには絶好の場所であるのだ。
四人はその事実に少しあぐらをかきすぎた。
気が付いた時には見知らぬ老人に顔を近付けさせられる羽目になっていた。

「あの、もし、マルリアとかいう方がどうかなさいましたかな?」

四人は口から心臓が飛び出るほどの衝撃に包まれた。
思わず声がした方を振り返ると、そこには人懐っこい笑みを浮かべた老人の姿が見えた。

「あ、あなたはどなたですの!?」

カーラが思わず声を張り上げながら問い掛けた。
老人はそれには答えず人懐っこい笑みを浮かべながらカーラたちの隣へと腰を掛けた。

「ハハッ、ワシの耳には全部聴こえておりましたぞ。ですが、ワシは単なる落ちぶれた元銃士……せっかくだからお前さん方の計画に加わってみたくてな」

好々爺というのが見て取れるような人の良さそうな老人であるが、言葉の端からは有無を言わさぬ圧のようなものを感じさせられた。
仔細を語らねばこのことを警備隊や自警団に話すぞ、という脅迫めいた言葉が見えていたのはカーラだけではなく、この場に居合わせた駆除人仲間全員の総意であろう。

敵対する道をなくす以上は元銃士だという老人も仲間に引き入れるしかないように思われた。
計画を聞かれていたのならば仕方があるまい。この老人が銃士だというのならばその腕に頼ってみるのも悪くはないかもしれない。
カーラは老人に向かって何があったのかを語っていく。

老人は話を聞くたびに可愛らしい笑みを浮かべて頷くばかりであった。
全てを聴き終えると、これまた可愛らしく片目をまばたきして見せたのである。
他の仲間たちは呆れるような顔を見せるばかりであったが、唯一カーラだけはその仕草に祖父の顔を重ねていたのである。

それ故に抵抗感はなかった。顔に人懐っこい笑みを浮かべたかと思うと、老人のグラスの中に酒を注いでいく。
老人はその酒をカーラに掲げた後で一気に飲み干していくのであった。















「皆様、本日の舞踏会はお楽しみいただけまして?本日は私が作詞と作曲を務めました『雪景色浪漫』という歌を披露させていただきました。是非ともまたこのお歌をお聴きになられたいという方はここにおられるピアニストのグリンチさんより楽譜をお買い求めくださいませ」

自作の歌を歌い終え、自身が自ら手掛けた曲の宣伝を終えたフレア・ジオラーデは舞踏会の舞台の上で丁寧な一礼を行なう。

フレアの独りよがりともいうべきコンサートであったが、彼女は歌やパフォーマンスといった才能にも恵まれたこともあり、拍手喝采で迎え入れられた。
こうして、城の中に閉じ込められていたという間に仕上げた楽曲『雪景色浪漫』は社交界において大いに受け入れられることになったのである。

たった一度のコンサートですっかりとファンになってしまった名門一族の子息や令嬢たちと握手や和やかな会話を交わしつつも、フレアの心境はといえば我が世の春というものを謳歌しつつあった。
自分に大きな才能があったこともそうであるが、最近はこれまで動かなかった政局が大きく動きつつあるのだ。

駆除人ギルドは停滞し、その影響によって他の駆除人たちも王都を離れることは明白である。
そればかりではない。あと少しでヒューゴも捕えられそうなのだ。

ヒューゴがギルドマスターに命じられて自分の後をつけていることなど百も承知であったのだ。分かった上で、ヒューゴを罠に掛けるつもりでいるのだ。
迎え撃つのは自分だけではない。『カリオストロ』を根城にしている現時点におけるシャルルを含めた『ジャッカル』の総戦力が相手となる。

最初に用済みとなった共犯者たちを敵の手によって始末させ、仕事を終えて一息を吐いたところに『ジャッカル』の総戦力を使用して駆除人たちもろともヒューゴを叩き潰すというものだ。
これ以上ないほど完璧な計画である。
王宮に閉じ込められている間も何も知らぬ侍女に他愛のない手紙と偽った報告書を本拠地である『カリオストロ』に届けさせており、紙面上での計画のやり取りは何の問題もなく続けられていた。

手抜かりはない。完璧だ。ここまできたところでフレアは自らの才能が恐ろしくなってきた。
思えば駆除人時代にこの才能を用いればもう少し上手く立ち回れたのではないだろうか。だが、自分はそんなこともせずに流されるままギルドマスターの指示に従ったて、ネオドラビア教の抗争に駆り出されたものだ。

あの時囲まれた標的たちの気持ちをヒューゴたちは己がその立場に陥った時に初めて知るのである。いい気味だ。
フレアはまたしても性の悪い笑みを口元に浮かべていくのであった。

フレアが社交界で疲れ、休憩室で衣装を直していた時だ。扉を叩く音が聞こえた。声の主は自身の操り人形にして『ジャッカル』にとって傀儡王として操られるクリストフ・ホワインセアム伯爵であった。
その側には父親を始末された恨みを持つ青年、ジェームズ・アンブリッジの姿が見えた。かつては剣の上でしのぎを削っていたというが今では哀れな取り巻きにしか見えない。

そんな二人を哀れみも交えた微笑を携えて迎え入れたのであった。

「あら、皆様方、ご機嫌麗しゅうございますわ」

フレアは貴族の夫人に似つかわしい優雅な挨拶を行ったのだが、二人は挨拶になど耳を貸すこともなく眉間に皺を寄せながら詰め寄っていく。
その中でも特にクリストフはご機嫌斜めであった。

「おいッ!いつになったら駆除人どもは動くのだ!?あれから何日経った!?」

「その通りだ。いつまでオレたちを待たせる!」

「ご心配なく、計画はつづがなきように動いておりますので」

フレアは二人を安心させるように言った。実際ヒューゴや仲間の駆除人たちが動くのは自分が彼らに会いにいく三日後のことなのだ。
それまでは気が付いていない振りをしていなくてはならないのだ。
フレアはそのことを二人に説明し、帰ってもらうようにした。

そればかりではない。二人の心の内で渦巻く怒りという名の暴竜を利用して三日後の襲撃に同行させることを約束させた。
難しい話はもう終わりだ。後は我が世の春を謳歌しようではないか。

衣装を戻し舞踏会の会場に戻ったフレアは子息や令嬢たちからの賛美を受けながら舞踏会の美酒を楽しんでいた。
賛美の声を聞きながらの酒は本当に気持ちがいいものだ。
今や彼女にとってこの世に動かせないものはなかった。この世の全てが彼女の味方であるような気がしたのだ。

それ故に三日後の計画も心のうちのどこかに驕りの感情を混ぜたまま参加することになったのである。
三人の男たちとアメリアの引き渡し場所にしていた林の中で待ち合わせ、次なる計画を話し合っていく。

無論、これはフリである。フレアからすればこの三人などどうでもよかったのだ。
わざと胸が悪くなるような話を大きな声で話していく。
そして、駆除人たちが近づいてくる気配を感じられると、自分一人だけがその場を離れた。

残った三人はヒューゴ、レキシー、ヴァイオレットの三人によって見事に仕留められていた。容赦のない駆除は相変わらず見事である。
唯一、自分を仕留める予定であったと思われるカーラだけが針を空に突き刺し、目を丸くしていた。

「あら、そんなんじゃ『血吸い姫』の名が泣くわよ。カーラ」

「マルリア」

令嬢の矜持を身分を失っても捨てなかったカーラが珍しく呼び捨てだ。しかも、名前は意地でも昔の名前で呼び続けるつもりであるらしい。
それらの理由から彼女がどれほど自分に腹を立てているのかが理解できた。
怒りで我を忘れた『血吸い姫』など恐ろしくはない。

フレアは勝ち誇ったような笑みを浮かべながらカーラを見つめていた。
あろうことか、まだ挑発を続けた。

「さぁ、かかってらっしゃいな」

この瞬間に決闘の合図を告げる白い手袋は投げ落とされたといってもいい。












あとがき
本日の投稿となります。またしても遅くなりました。それでも前回よりは早く仕上げることができて嬉しい限りです。
今回は取り掛かる時間は早かったのですが、いつもよりも文字数が増え、なかなかにハードな投稿となってしまいました。
特に今話は筆がノリにのり、いつもならば辿り着けないような場所にまで辿り着くことができました。
ですが、次回以降もこうした天啓が舞い降りてくるのかは期待できません。
今から不安となりますが、完結まで頑張って書いていこうと思います。
ありがとうございます。

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