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第四章『この私が狼の牙をへし折ってご覧にいれますわ』
『ジャッカル』の反撃
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宿屋『カリオストロ』では硬直して進みそうにない現状を打破すべく残った有志たちによって話し合いが進められていた。
議長に『ジャッカル』の統率者であり現在国王より最高死刑執行官を任じられているシャルルを据え、今後の状態について話し合うつもりであった。
国取りも駆除人の撲滅もヒューゴの抹殺も今のところは全て上手くいっていない。
国王から届く手紙は全てこちらを叱責するようなものばかりである。最近では目を通すのも億劫になってきた。
国王からの押印が記された手紙が届く回数とシャルルの飲酒の量は共に増えていっていた。
このままでは限界が訪れてしまう。そのことを昨日誘拐に失敗したというフレアにも伝えてもいたのだが、後一歩というところで決定的な証拠が揃わないということを主張されてしまいシャルルはその件について反論ができずにいた。これによってフィンの失脚は更に難しいものへと変わっていった。
シャルルはすっかりと泥酔してしまったようで、議長としての尊厳はクライン王国に足を踏み入れた当初と比べれば完全に消え去っている。
今では席の背もたれにだらしなく背を預けながらゲップを行うばかりだ。
部下の執行官たちはこれが自分たちのボスだと思うと、苛立ちを隠しきれなかった。あんな酒浸りの親父など自分たちの手で始末できる、とさえ思っていた。
だが、国王から罷免の手続きが届いていないため現状としてはその“親父”が最高死刑執行官の地位に座り続けているのだ。
なんとも忌々しい話である。会議に参加した執行官たちが嫌悪感に満ち溢れた目でシャルルを見つめていた時だ。
それまで眠っているのか起きているのかわからないという形で座っていたシャルルが椅子の上から不意に起き上がったかと思うと、大きな声を振り上げて言った。
「テメェら、わかってるのか!?もう後がないんだぞッ!駆除人ギルドを殲滅するか、ヒューゴを抹殺するか、フィンを失脚させるか、どれかを成し遂げやがれッ!」
無茶だ。会議に参加した全員の思いはその一言で共通していた。
これ以上自分たちに何を求めてるというのか。一室の中に重々しい空気が漂っていった時のことだ。ふと、一人の男が手を挙げていた。
「よろしいでしょうか、シャルル様」
「なんだ」
シャルルは手を挙げた男を見据えた。男の名はマクシミリアン・オベルトン。
『ジャッカル』において最高死刑執行官補佐を務める男であり、『ジャッカル』の頭脳としてこれまでも活躍してきた優秀な参謀であった。
シャルルとしてもマクシミリアンの言葉を無視することはできなかった。
それ故に彼は酒瓶を片手に持ち、もう片方の手で肩肘を突くというひどく横柄な態度でありながらもマクシミリアンの言葉に耳を貸していたのがその証拠である。
「シャルル様、我々がここまで落ちぶれてしまった理由はお分かりですかな?」
「なんだ?」
「お分かりになりませぬか?それは残念だ」
マクシミリアンの一言は一々余計だ。すっかりと気を悪くしたシャルルはすっかりとヘソを曲げた様子でマクシミリアンの言葉を聞く羽目になった。
一方のマクシミリアンは上司の不機嫌な様子ど知る由もないと言わんばかりに淡々とした口調で話を続けていく。
「ここに至る我々の敗因は全ての方面に手を広げ過ぎたことにあります。戦術においてもこのようなやり方は避けるべき技法であると言われております」
「ではどうすればよいのだ。早く教えろ」
シャルルは尊大な態度で問い掛けた。それに対してマクシミリアンは気にする様子もなく話を続けていく。
「簡単な話です。我々の手で各個撃破を行えばよろしいのですよ」
「各個撃破だと?」
意外な言葉シャルルは思わず両眉を上げた。
「えぇ、駆除人ギルド、ヒューゴ本人、フィンの失脚、それらの全てに立ち向かえば処理できないのは当然です。大きな一塊を相手にすることになりますからな。ですが、一つ一つの事案に対して丁寧にあたっていけば必ず我々の戦力が各戦力を上回ります」
マクシミリアンの言葉は兵法の基礎とも言える言葉だ。シャルルは口角を上げ、マクシミリアンにその方法を問い掛けた。
マクシミリアンは両眼を怪しく光らせ、まずはフィンの失脚に全てを注ぐようにと進言した。
駆除人ギルドや本題であるヒューゴの抹殺はその後でも行えるというのがマクシミリアンの主張であった。
シャルルはその言葉を信じ、一先ずはフィンの失脚という行動に全てを注ぐことに決めた。
そのための駒としてフレアがいるのだ。彼女にはかけた時間や金に見合う働きを見せてもらわねばならないだろう。
シャルルは酒瓶を片手に意味深な笑みを浮かべて笑った。
「全て事実無根だ。貴君の言い掛かりに過ぎぬ」
玉座の上に腰を据えたフィンは真下で自身を弾劾するフレアに向かって言い放つ。
「証拠も出揃っていますわ!」
フレアは負けることなく言い返す。その周りで困惑した顔や怒りに満ち溢れた顔を浮かべるのは王政の下で働く大臣たちや近衛兵たち。特に近衛兵のうち身分の低い地位から現在の地位にまで取り立てられた成り上がりの兵士などは忠誠を誓う王があらぬ疑いをかけられたことによって怒りを隠しきれなかったらしい。
老齢の兵士に抜こうとする剣を抑えられる姿がしばしば見受けられた。
そんな状況にも怯えることなく、刻然とした表情でフレアはフィンの罪状を並べてて、弾劾していくのであった。
これまで不敬罪や大逆罪の罪状に怯え、また弾劾のための決定的な証拠に欠けていたこともあり、動くことができずにいたフレアが今にして動くこととなったのは先日の朝に大恩あるシャルルからフレアの元へと派遣された繋ぎ役からの指示があったからだ。
フレアはその指示に従った上でこれまでの間に自身が集めた情報や推測を交えてフィンを失脚させようと目論んだが、どれもこれもいまひとつ証拠に欠けていた。
冷静な反論が浴びせられて自身の主張が覆されていくにつれ、徐々に言葉を失っていくフレアは焦り始めていた。
このまま有効な策がなければ大逆罪並びに不敬罪で捕まえられかねない。
特に国王の命を狙う大逆罪は死刑以外があり得ない罰則である。大逆罪を適用されればフレアは死を免れることはできない。
とうとう反論の言葉も尽きてしまい、その場に崩れ落ちたフレアは自分たちが忠誠を誓う相手にあらぬ疑いをかけられて怒り狂う近衛兵たちによって小突き回され、乱暴に牢屋の中へと引っ張られそうになっていった。
このままでは不味い。目的も果たせぬまま絞首台に掛けられて死んでしまう。
フレアはこの絶望的な状況を覆すため必死になって頭を振り絞った。そして、たった一つだけ自分が助かる方法があることを思い出したのである。
近衛兵に乱暴に腕を引っ張られ、ヒールの踵を玉座の間で擦らし、ギィィという耳障りな音が上がる中、フレアはその音を減らすほどの大きな声でフィンに向かって叫んだのである。
その言葉にはその場に居合わせた誰もが度肝を抜かされた。
当然だろう。ここに至って彗星の如く現れた社交界の麗しき蝶が元は害虫駆除人であったなどということを述べたのだから。
それだけでも衝撃を受ける話であるのだが、話はそれだけでは終わらなかった。彼女は多くの人々の前で数多くの害虫駆除人が依頼に使うための駆除人ギルドの場所を知っているのだと語ったのだ。
その言葉に全員が騒ぎ立てていた時だ。玉座の間と巨大な廊下を仕切る大きな扉が開かれ、王家の血を引く由緒正しき公爵家の嫡男クリストフが姿を見せたのである。
クリストフは表を下げることもなく、堂々と玉座の間を闊歩し、近衛兵に捕えられている哀れなお姫様を救出したのであった。
クリストフはお姫様の手を取って助け上げたかと思うと、そのまま真っ直ぐにフィンの元へと向かっていく。
玉座の上に腰を掛けるフィンに向かってクリストフは胸を張りながら言った。
「陛下、何を躊躇っておられですか?今こそ我々の敵、害虫駆除人を一掃なさいませ」
フィンは国王として立場によって、その場では頷くより他になかった。
国王としては人の命を金で奪うような非道な組織を看過することなどできないのだ。警備隊や自警団の活躍で悪人が捕らわれ、絞首台に送られることとは話が違う。やっていることは私刑だ。それが罷り通れば国家というものが成り立たなくなってしまう。他にも門閥貴族たちは自分の身内や部下が大勢害虫駆除人の手によって始末されていることから害虫駆除人の解体を望む声も多い。
そういった理由がフィンを動かしたのである。
かつては自身も依頼人という形で駆除人ギルドを訪れた身である。
故に本心としては駆除人ギルドの手入れなどという恩を仇で踏み躙るような真似などはしたくなかったのだ。しかし、断れば国王の立場であるというのに害虫駆除人の始末を断ったという理由からフィンの改革に対立する貴族たちから睨まれてしまうことは必須である。
また、そこから自身と駆除人ギルドの関係性について結びつける者もいるだろう。下手に庇い立てを行って失脚してしまえばこれまでに行ってきた改革も全て水の泡と化してしまうのだ。
これらの改革は自分の代だけで終わらせるつもりはない。未来永劫に渡って優れた改革を行うしかなかったのだ。そのためフィンは不服でありながらも了承するより他になかった。それでも彼ら彼女らを逃すためできるだけの時間は稼ぐつもりでいた。
フィンは真偽の疑いを理由に即日の取り締まりを拒否し、フレアを牢屋ではなく客室の一室に閉じ込め、その詳細を問うという名目で摘発を遅らせたのであった。
できることならば自分が街の中に忍び込み、駆除人ギルドのギルドマスターに一斉摘発の件を知らせたかったが、現在の城はひどく厳重である。フィンは自身の城の警備事情に対して今だけは落胆せざるを得なかった。
その代わりとしてギルドマスターに一斉摘発の件を教えたのはバロウズ公爵家のマチルダ嬢である。
昼間の弾劾の席に同席していた父バロウズ公爵から全てを聞かされたマチルダは町娘の衣装に着替えたかと思うと、裏口を利用して一目散に駆除人ギルドへと駆け出していたのであった。
全ては思い人であるヒューゴを守るためである。
息を切らしながら扉を開いて駆除人ギルドの表稼業である酒場の中へと入っていく。
酒場の中は酒を飲むために訪れたいわゆる一般の客が入っており、慌ただしい様子でギルドマスターが応対を行なっていた。
本来であるのならば話し掛けるべきではなかったのだろうが、事情が事情である。話さないわけにはいくまい。
マチルダはカウンターの前で機嫌良さげに酒を飲む一般客の男性を押し除け、ギルドマスターに『ブラッディプリンセス』を注文したのである。
だが、今日に限ってはなぜかギルドマスターによって断られてしまった。
「申し訳ありません。そのお酒は品切れとなっておりまして」
こうなってしまってはお手上げである。どうすればいいのだろうか。マチルダが途方に暮れていた時だ。
背後からギルドマスターの姪であるヴァイオレットが姿を現したのである。
「あの、私でしたら『ブラッディプリンセス』をお作りできますので、よろしければ奥にどうでしょうか?」
どういうことなのか理解できなかった。マチルダは頭の上にハテナマークを浮かべながらヴァイオレットの後ろへと着いていくのであった。
ヴァイオレットに連れて行かれた先はギルドマスターが依頼人から依頼を聞く際に相手を招く応接間であった。
その女性はご丁寧にもお茶とお茶菓子を載せてその場に現れたのである。
お茶とお茶菓子を机の上に置き、若い女性は自身の向かい側へと腰を下ろしたのであった。
腰を下ろすのと同時に彼女は小さく頭を下げて一礼を行う。どうやら彼女がギルドマスターの代わりに話を聞いてくれるようだ。
本音を言うと、ギルドマスターに話を聞いてもらった方がありがたかったのだが、それでもにべもないような応対をされるよりはずっとマシであった。
マチルダは父親から聞いた言葉を包み隠すことなく語っていく。
玉座の間でのこと、フレアが害虫駆除人の情報を吐いたことによって不敬罪と大逆罪の罪が無効になったこと、そのフレアが王宮にある客室で客人として扱われていることなどを語っていく。
初めはどこかぼんやりとした印象を受けるヴァイオレットであったが、話が進んでいくにつれ徐々に顔つきが引き締まっていくのが見えた。
どことなく凛々しい顔だ。見ているこちらが頼もしく感じられる。
「わかりました。我々としても黙ってはいられません。こちらの方で対策を取らせていただきますね」
「今は陛下が時間を延ばしておられるらしいけど、どこまで誤魔化せるかわかったものではないわ」
「……そうですか」
「えぇ、どうかお願いします。ヒューゴだけは守ってあげて」
マチルダは自らがここまで来た目的を伝えるのと同時に長椅子の上から立ち上がり、裏口から駆除人ギルドを後にしたのであった。
ヴァイオレットは話が終わるのと同時に叔父の元へと向かい、その耳元で先ほどマチルダから伝えられた言葉をそのままにして伝えていく。
ギルドマスターは当初姪から伝えられた言葉が信じられずその場に固まっていたが、一般の客たちもいる手前、すぐになんともないように取り繕うより他になかった。
無事に表情を戻したギルドマスターは無難に業務を続けていく。
ただし、その傍においては着実に来るべき取り締まりへの準備を進めていっていたのであった。
ギルドマスターは街の各地にいる駆除人へ向けて万が一のこともあり、逃げるように記した切れ端を手配し、同時にフレアが本格的に口を割るよりも前にフレアを仕留めるための準備を進めていくのであった。
フレアを仕留めるためにもっとも的確な駆除人であるとされるギークに繋ぎを入れたのである。
その日の深夜、全ての一般客が引き上げた頃合いになって、ギークが気怠げな様子で現れた。眠そうに目を擦っている姿からどうやら眠る寸前であったらしい。
寝てしまったところを起こしてしまったのは申し訳ないが、駆除人ギルドの存続が掛かっているのだ。なりふりは構っていられない。それでもどこか面倒臭そうな表情を浮かべるギークの前にギルドマスターは大金の入った袋を差し出すのである
この袋の中にはギルドマスターが自腹を切って渡した相当な量の金銭が入っている。
ギークは大金を前にして首を傾げる様子を見せていたが、ギルドマスターの顔を見て何かを察したらしい。
すぐに大金が入った袋を懐の中へと仕舞い込み、小さく首を縦に振った。
ギルドマスターはそれからそっと紙の切れ端を差し出す。
「なるほどね、わかったよ。しかし、残念だなぁ。マルリアさんがそんなことをするなんてね」
「何をわかりきったことを……マルリアの心が腐りきっちまったのはオレたちの戦いに無関係の人間を巻き込んだ時点で分かったことだろう」
「うん。そうだね」
そうは言いつつもギークはどことなく寂しげな表情を浮かべていた。
やはり、心のどこかにはまだマルリアもといフレアに対する友愛ともいえる思いが渦巻いているのだろう。
そこで、ギルドマスターは本心ではないのだが、敢えてギークを試す目的で一言を言い放ったのである。
「おまえさんが嫌だったらこの仕事、降りてもらっても構わないんだぜ」
その一言にギークは片眉を上げ、険しい顔でギルドマスターを睨んだが、すぐに怒りを引っ込め、口元に意味深な微笑を浮かべていくのであった。
「まさか、迷いなんてあるわけないでしょ?口を割る前に仲間が口を塞ぐ。これは駆除人の掟でしょ?」
ギークの目に迷いは見えなかった。ギルドマスターはギークがしくじるなどということは考えなかった。
ギークほどの腕利きならば確実に仕留められるだろうという思いがあったのだ。
以前ベクターたちを仕留めた際に城の見取り図は手に入れている。
再び図を開いて見せ、ギークに城に何があるのかということをおさらいさせたのである。
そして、前回と同様に裏口を利用して王宮の中へと侵入したのである。
そして、哀れな使用人を長鞭で眠らせて柱の陰へと隠した後に衣装を奪ったのである。これならば王宮の中ですれ違ってもわからないだろう。
ギークの得物はユーリから受け継いだ長鞭と長剣。どちらの駆除にも対応できるように懐の中へと忍び込ませている。
準備は万端だ。ギークはフレアが閉じ込められているという部屋の扉を叩いた。
扉の向こうからはフレアの声が聞こえた。この部屋にいることは間違いないものとなった。
「失礼致します。遅くなりましたが、お食事を持って参りました」
「食事?さっき食べたばかりだけど」
扉の向こうからは疑問を含んだ聞こえてきた。
「夜食です。国王陛下があなた様に感謝の念を持っており、その証として夜食を渡すように仰せつかりましたので」
もっともな理屈ではないだろうか。慌てて取り繕ったにしては上出来である。事実向こうもその通りに受け取ったのだろう。扉の鍵を開ける音が聞こえた。
ギークが意を決して扉を開いた時だ。そこには得物である花を持ったフレアの姿が見えたのだ。
フレアは勝ち誇ったような笑みを浮かべたかと思うと、手元のベルを鳴らし、近衛兵を呼ぶ。
不味い。しくじった。ギークは慌てて逃げ出そうとしたのだが、フレアがそれを許さなかった。逃げようとするギークの前に刃物が仕込まれた花の茎を飛ばし、ギークの退路を断った。
これでは戦う以外の選択肢は消えるしかない。
ギークはフレアへと向かい合いながら長鞭を飛ばす。
長鞭はフレアの首元に巻き付き、彼女を締め上げていく予定であったのだが、フレアはギークの鞭を自身のもう一つの武器で容赦なく弾き、そのままギークの懐へと飛び込んでいく。
目と鼻の先にまで刃物が迫ってきており、その状況においては長鞭も役に立つまい。
ギークはそう判断して、身を捻ることでフレアの持つ得物を交わし、そのまま得物を握り締めて勢いのままフレアの中へと滑り込んでいく。
フレアはギークの滑り込みを阻止しようとしたが、不可能であったらしい。
滑り込まれる際にギークの放った鞭に首元を締め上げられ、危機に陥っていた。
このままならばフレアを仕留めることができる。ギークがそんな確信を抱いた時だ。
「ジオラーデ子爵夫人!御無事ですか!?」
と、城の衛兵たちが扉を蹴破って現れたのである。
ギークはフレアの首元から長鞭を放し、その代わりとして長剣を握り締めて衛兵たちの中へと突っ込んでいくのであった。
多くの衛兵たちを斬り伏せながらギークは城の窓を蹴破り、その場を後にした。
木の上を狙って落下したので、大きな衝撃を受けたものの命に関わるような傷は受けていない。足も無事だ。これならば逃げ切ることができるだろう。
それでもズキズキと全身が痛むのは避けることができなかった。
こうしてギークはこれまでの駆除人人生の中で経験したことがないような屈辱に見舞われながらその場を後にしたのであった。
ギルドマスターは策士であるが、フレアはその上をいく策士であった。
これだけは認めなくてはなるまい。ギークは裏口を目指して駆けながらそんなことを考えていた。
議長に『ジャッカル』の統率者であり現在国王より最高死刑執行官を任じられているシャルルを据え、今後の状態について話し合うつもりであった。
国取りも駆除人の撲滅もヒューゴの抹殺も今のところは全て上手くいっていない。
国王から届く手紙は全てこちらを叱責するようなものばかりである。最近では目を通すのも億劫になってきた。
国王からの押印が記された手紙が届く回数とシャルルの飲酒の量は共に増えていっていた。
このままでは限界が訪れてしまう。そのことを昨日誘拐に失敗したというフレアにも伝えてもいたのだが、後一歩というところで決定的な証拠が揃わないということを主張されてしまいシャルルはその件について反論ができずにいた。これによってフィンの失脚は更に難しいものへと変わっていった。
シャルルはすっかりと泥酔してしまったようで、議長としての尊厳はクライン王国に足を踏み入れた当初と比べれば完全に消え去っている。
今では席の背もたれにだらしなく背を預けながらゲップを行うばかりだ。
部下の執行官たちはこれが自分たちのボスだと思うと、苛立ちを隠しきれなかった。あんな酒浸りの親父など自分たちの手で始末できる、とさえ思っていた。
だが、国王から罷免の手続きが届いていないため現状としてはその“親父”が最高死刑執行官の地位に座り続けているのだ。
なんとも忌々しい話である。会議に参加した執行官たちが嫌悪感に満ち溢れた目でシャルルを見つめていた時だ。
それまで眠っているのか起きているのかわからないという形で座っていたシャルルが椅子の上から不意に起き上がったかと思うと、大きな声を振り上げて言った。
「テメェら、わかってるのか!?もう後がないんだぞッ!駆除人ギルドを殲滅するか、ヒューゴを抹殺するか、フィンを失脚させるか、どれかを成し遂げやがれッ!」
無茶だ。会議に参加した全員の思いはその一言で共通していた。
これ以上自分たちに何を求めてるというのか。一室の中に重々しい空気が漂っていった時のことだ。ふと、一人の男が手を挙げていた。
「よろしいでしょうか、シャルル様」
「なんだ」
シャルルは手を挙げた男を見据えた。男の名はマクシミリアン・オベルトン。
『ジャッカル』において最高死刑執行官補佐を務める男であり、『ジャッカル』の頭脳としてこれまでも活躍してきた優秀な参謀であった。
シャルルとしてもマクシミリアンの言葉を無視することはできなかった。
それ故に彼は酒瓶を片手に持ち、もう片方の手で肩肘を突くというひどく横柄な態度でありながらもマクシミリアンの言葉に耳を貸していたのがその証拠である。
「シャルル様、我々がここまで落ちぶれてしまった理由はお分かりですかな?」
「なんだ?」
「お分かりになりませぬか?それは残念だ」
マクシミリアンの一言は一々余計だ。すっかりと気を悪くしたシャルルはすっかりとヘソを曲げた様子でマクシミリアンの言葉を聞く羽目になった。
一方のマクシミリアンは上司の不機嫌な様子ど知る由もないと言わんばかりに淡々とした口調で話を続けていく。
「ここに至る我々の敗因は全ての方面に手を広げ過ぎたことにあります。戦術においてもこのようなやり方は避けるべき技法であると言われております」
「ではどうすればよいのだ。早く教えろ」
シャルルは尊大な態度で問い掛けた。それに対してマクシミリアンは気にする様子もなく話を続けていく。
「簡単な話です。我々の手で各個撃破を行えばよろしいのですよ」
「各個撃破だと?」
意外な言葉シャルルは思わず両眉を上げた。
「えぇ、駆除人ギルド、ヒューゴ本人、フィンの失脚、それらの全てに立ち向かえば処理できないのは当然です。大きな一塊を相手にすることになりますからな。ですが、一つ一つの事案に対して丁寧にあたっていけば必ず我々の戦力が各戦力を上回ります」
マクシミリアンの言葉は兵法の基礎とも言える言葉だ。シャルルは口角を上げ、マクシミリアンにその方法を問い掛けた。
マクシミリアンは両眼を怪しく光らせ、まずはフィンの失脚に全てを注ぐようにと進言した。
駆除人ギルドや本題であるヒューゴの抹殺はその後でも行えるというのがマクシミリアンの主張であった。
シャルルはその言葉を信じ、一先ずはフィンの失脚という行動に全てを注ぐことに決めた。
そのための駒としてフレアがいるのだ。彼女にはかけた時間や金に見合う働きを見せてもらわねばならないだろう。
シャルルは酒瓶を片手に意味深な笑みを浮かべて笑った。
「全て事実無根だ。貴君の言い掛かりに過ぎぬ」
玉座の上に腰を据えたフィンは真下で自身を弾劾するフレアに向かって言い放つ。
「証拠も出揃っていますわ!」
フレアは負けることなく言い返す。その周りで困惑した顔や怒りに満ち溢れた顔を浮かべるのは王政の下で働く大臣たちや近衛兵たち。特に近衛兵のうち身分の低い地位から現在の地位にまで取り立てられた成り上がりの兵士などは忠誠を誓う王があらぬ疑いをかけられたことによって怒りを隠しきれなかったらしい。
老齢の兵士に抜こうとする剣を抑えられる姿がしばしば見受けられた。
そんな状況にも怯えることなく、刻然とした表情でフレアはフィンの罪状を並べてて、弾劾していくのであった。
これまで不敬罪や大逆罪の罪状に怯え、また弾劾のための決定的な証拠に欠けていたこともあり、動くことができずにいたフレアが今にして動くこととなったのは先日の朝に大恩あるシャルルからフレアの元へと派遣された繋ぎ役からの指示があったからだ。
フレアはその指示に従った上でこれまでの間に自身が集めた情報や推測を交えてフィンを失脚させようと目論んだが、どれもこれもいまひとつ証拠に欠けていた。
冷静な反論が浴びせられて自身の主張が覆されていくにつれ、徐々に言葉を失っていくフレアは焦り始めていた。
このまま有効な策がなければ大逆罪並びに不敬罪で捕まえられかねない。
特に国王の命を狙う大逆罪は死刑以外があり得ない罰則である。大逆罪を適用されればフレアは死を免れることはできない。
とうとう反論の言葉も尽きてしまい、その場に崩れ落ちたフレアは自分たちが忠誠を誓う相手にあらぬ疑いをかけられて怒り狂う近衛兵たちによって小突き回され、乱暴に牢屋の中へと引っ張られそうになっていった。
このままでは不味い。目的も果たせぬまま絞首台に掛けられて死んでしまう。
フレアはこの絶望的な状況を覆すため必死になって頭を振り絞った。そして、たった一つだけ自分が助かる方法があることを思い出したのである。
近衛兵に乱暴に腕を引っ張られ、ヒールの踵を玉座の間で擦らし、ギィィという耳障りな音が上がる中、フレアはその音を減らすほどの大きな声でフィンに向かって叫んだのである。
その言葉にはその場に居合わせた誰もが度肝を抜かされた。
当然だろう。ここに至って彗星の如く現れた社交界の麗しき蝶が元は害虫駆除人であったなどということを述べたのだから。
それだけでも衝撃を受ける話であるのだが、話はそれだけでは終わらなかった。彼女は多くの人々の前で数多くの害虫駆除人が依頼に使うための駆除人ギルドの場所を知っているのだと語ったのだ。
その言葉に全員が騒ぎ立てていた時だ。玉座の間と巨大な廊下を仕切る大きな扉が開かれ、王家の血を引く由緒正しき公爵家の嫡男クリストフが姿を見せたのである。
クリストフは表を下げることもなく、堂々と玉座の間を闊歩し、近衛兵に捕えられている哀れなお姫様を救出したのであった。
クリストフはお姫様の手を取って助け上げたかと思うと、そのまま真っ直ぐにフィンの元へと向かっていく。
玉座の上に腰を掛けるフィンに向かってクリストフは胸を張りながら言った。
「陛下、何を躊躇っておられですか?今こそ我々の敵、害虫駆除人を一掃なさいませ」
フィンは国王として立場によって、その場では頷くより他になかった。
国王としては人の命を金で奪うような非道な組織を看過することなどできないのだ。警備隊や自警団の活躍で悪人が捕らわれ、絞首台に送られることとは話が違う。やっていることは私刑だ。それが罷り通れば国家というものが成り立たなくなってしまう。他にも門閥貴族たちは自分の身内や部下が大勢害虫駆除人の手によって始末されていることから害虫駆除人の解体を望む声も多い。
そういった理由がフィンを動かしたのである。
かつては自身も依頼人という形で駆除人ギルドを訪れた身である。
故に本心としては駆除人ギルドの手入れなどという恩を仇で踏み躙るような真似などはしたくなかったのだ。しかし、断れば国王の立場であるというのに害虫駆除人の始末を断ったという理由からフィンの改革に対立する貴族たちから睨まれてしまうことは必須である。
また、そこから自身と駆除人ギルドの関係性について結びつける者もいるだろう。下手に庇い立てを行って失脚してしまえばこれまでに行ってきた改革も全て水の泡と化してしまうのだ。
これらの改革は自分の代だけで終わらせるつもりはない。未来永劫に渡って優れた改革を行うしかなかったのだ。そのためフィンは不服でありながらも了承するより他になかった。それでも彼ら彼女らを逃すためできるだけの時間は稼ぐつもりでいた。
フィンは真偽の疑いを理由に即日の取り締まりを拒否し、フレアを牢屋ではなく客室の一室に閉じ込め、その詳細を問うという名目で摘発を遅らせたのであった。
できることならば自分が街の中に忍び込み、駆除人ギルドのギルドマスターに一斉摘発の件を知らせたかったが、現在の城はひどく厳重である。フィンは自身の城の警備事情に対して今だけは落胆せざるを得なかった。
その代わりとしてギルドマスターに一斉摘発の件を教えたのはバロウズ公爵家のマチルダ嬢である。
昼間の弾劾の席に同席していた父バロウズ公爵から全てを聞かされたマチルダは町娘の衣装に着替えたかと思うと、裏口を利用して一目散に駆除人ギルドへと駆け出していたのであった。
全ては思い人であるヒューゴを守るためである。
息を切らしながら扉を開いて駆除人ギルドの表稼業である酒場の中へと入っていく。
酒場の中は酒を飲むために訪れたいわゆる一般の客が入っており、慌ただしい様子でギルドマスターが応対を行なっていた。
本来であるのならば話し掛けるべきではなかったのだろうが、事情が事情である。話さないわけにはいくまい。
マチルダはカウンターの前で機嫌良さげに酒を飲む一般客の男性を押し除け、ギルドマスターに『ブラッディプリンセス』を注文したのである。
だが、今日に限ってはなぜかギルドマスターによって断られてしまった。
「申し訳ありません。そのお酒は品切れとなっておりまして」
こうなってしまってはお手上げである。どうすればいいのだろうか。マチルダが途方に暮れていた時だ。
背後からギルドマスターの姪であるヴァイオレットが姿を現したのである。
「あの、私でしたら『ブラッディプリンセス』をお作りできますので、よろしければ奥にどうでしょうか?」
どういうことなのか理解できなかった。マチルダは頭の上にハテナマークを浮かべながらヴァイオレットの後ろへと着いていくのであった。
ヴァイオレットに連れて行かれた先はギルドマスターが依頼人から依頼を聞く際に相手を招く応接間であった。
その女性はご丁寧にもお茶とお茶菓子を載せてその場に現れたのである。
お茶とお茶菓子を机の上に置き、若い女性は自身の向かい側へと腰を下ろしたのであった。
腰を下ろすのと同時に彼女は小さく頭を下げて一礼を行う。どうやら彼女がギルドマスターの代わりに話を聞いてくれるようだ。
本音を言うと、ギルドマスターに話を聞いてもらった方がありがたかったのだが、それでもにべもないような応対をされるよりはずっとマシであった。
マチルダは父親から聞いた言葉を包み隠すことなく語っていく。
玉座の間でのこと、フレアが害虫駆除人の情報を吐いたことによって不敬罪と大逆罪の罪が無効になったこと、そのフレアが王宮にある客室で客人として扱われていることなどを語っていく。
初めはどこかぼんやりとした印象を受けるヴァイオレットであったが、話が進んでいくにつれ徐々に顔つきが引き締まっていくのが見えた。
どことなく凛々しい顔だ。見ているこちらが頼もしく感じられる。
「わかりました。我々としても黙ってはいられません。こちらの方で対策を取らせていただきますね」
「今は陛下が時間を延ばしておられるらしいけど、どこまで誤魔化せるかわかったものではないわ」
「……そうですか」
「えぇ、どうかお願いします。ヒューゴだけは守ってあげて」
マチルダは自らがここまで来た目的を伝えるのと同時に長椅子の上から立ち上がり、裏口から駆除人ギルドを後にしたのであった。
ヴァイオレットは話が終わるのと同時に叔父の元へと向かい、その耳元で先ほどマチルダから伝えられた言葉をそのままにして伝えていく。
ギルドマスターは当初姪から伝えられた言葉が信じられずその場に固まっていたが、一般の客たちもいる手前、すぐになんともないように取り繕うより他になかった。
無事に表情を戻したギルドマスターは無難に業務を続けていく。
ただし、その傍においては着実に来るべき取り締まりへの準備を進めていっていたのであった。
ギルドマスターは街の各地にいる駆除人へ向けて万が一のこともあり、逃げるように記した切れ端を手配し、同時にフレアが本格的に口を割るよりも前にフレアを仕留めるための準備を進めていくのであった。
フレアを仕留めるためにもっとも的確な駆除人であるとされるギークに繋ぎを入れたのである。
その日の深夜、全ての一般客が引き上げた頃合いになって、ギークが気怠げな様子で現れた。眠そうに目を擦っている姿からどうやら眠る寸前であったらしい。
寝てしまったところを起こしてしまったのは申し訳ないが、駆除人ギルドの存続が掛かっているのだ。なりふりは構っていられない。それでもどこか面倒臭そうな表情を浮かべるギークの前にギルドマスターは大金の入った袋を差し出すのである
この袋の中にはギルドマスターが自腹を切って渡した相当な量の金銭が入っている。
ギークは大金を前にして首を傾げる様子を見せていたが、ギルドマスターの顔を見て何かを察したらしい。
すぐに大金が入った袋を懐の中へと仕舞い込み、小さく首を縦に振った。
ギルドマスターはそれからそっと紙の切れ端を差し出す。
「なるほどね、わかったよ。しかし、残念だなぁ。マルリアさんがそんなことをするなんてね」
「何をわかりきったことを……マルリアの心が腐りきっちまったのはオレたちの戦いに無関係の人間を巻き込んだ時点で分かったことだろう」
「うん。そうだね」
そうは言いつつもギークはどことなく寂しげな表情を浮かべていた。
やはり、心のどこかにはまだマルリアもといフレアに対する友愛ともいえる思いが渦巻いているのだろう。
そこで、ギルドマスターは本心ではないのだが、敢えてギークを試す目的で一言を言い放ったのである。
「おまえさんが嫌だったらこの仕事、降りてもらっても構わないんだぜ」
その一言にギークは片眉を上げ、険しい顔でギルドマスターを睨んだが、すぐに怒りを引っ込め、口元に意味深な微笑を浮かべていくのであった。
「まさか、迷いなんてあるわけないでしょ?口を割る前に仲間が口を塞ぐ。これは駆除人の掟でしょ?」
ギークの目に迷いは見えなかった。ギルドマスターはギークがしくじるなどということは考えなかった。
ギークほどの腕利きならば確実に仕留められるだろうという思いがあったのだ。
以前ベクターたちを仕留めた際に城の見取り図は手に入れている。
再び図を開いて見せ、ギークに城に何があるのかということをおさらいさせたのである。
そして、前回と同様に裏口を利用して王宮の中へと侵入したのである。
そして、哀れな使用人を長鞭で眠らせて柱の陰へと隠した後に衣装を奪ったのである。これならば王宮の中ですれ違ってもわからないだろう。
ギークの得物はユーリから受け継いだ長鞭と長剣。どちらの駆除にも対応できるように懐の中へと忍び込ませている。
準備は万端だ。ギークはフレアが閉じ込められているという部屋の扉を叩いた。
扉の向こうからはフレアの声が聞こえた。この部屋にいることは間違いないものとなった。
「失礼致します。遅くなりましたが、お食事を持って参りました」
「食事?さっき食べたばかりだけど」
扉の向こうからは疑問を含んだ聞こえてきた。
「夜食です。国王陛下があなた様に感謝の念を持っており、その証として夜食を渡すように仰せつかりましたので」
もっともな理屈ではないだろうか。慌てて取り繕ったにしては上出来である。事実向こうもその通りに受け取ったのだろう。扉の鍵を開ける音が聞こえた。
ギークが意を決して扉を開いた時だ。そこには得物である花を持ったフレアの姿が見えたのだ。
フレアは勝ち誇ったような笑みを浮かべたかと思うと、手元のベルを鳴らし、近衛兵を呼ぶ。
不味い。しくじった。ギークは慌てて逃げ出そうとしたのだが、フレアがそれを許さなかった。逃げようとするギークの前に刃物が仕込まれた花の茎を飛ばし、ギークの退路を断った。
これでは戦う以外の選択肢は消えるしかない。
ギークはフレアへと向かい合いながら長鞭を飛ばす。
長鞭はフレアの首元に巻き付き、彼女を締め上げていく予定であったのだが、フレアはギークの鞭を自身のもう一つの武器で容赦なく弾き、そのままギークの懐へと飛び込んでいく。
目と鼻の先にまで刃物が迫ってきており、その状況においては長鞭も役に立つまい。
ギークはそう判断して、身を捻ることでフレアの持つ得物を交わし、そのまま得物を握り締めて勢いのままフレアの中へと滑り込んでいく。
フレアはギークの滑り込みを阻止しようとしたが、不可能であったらしい。
滑り込まれる際にギークの放った鞭に首元を締め上げられ、危機に陥っていた。
このままならばフレアを仕留めることができる。ギークがそんな確信を抱いた時だ。
「ジオラーデ子爵夫人!御無事ですか!?」
と、城の衛兵たちが扉を蹴破って現れたのである。
ギークはフレアの首元から長鞭を放し、その代わりとして長剣を握り締めて衛兵たちの中へと突っ込んでいくのであった。
多くの衛兵たちを斬り伏せながらギークは城の窓を蹴破り、その場を後にした。
木の上を狙って落下したので、大きな衝撃を受けたものの命に関わるような傷は受けていない。足も無事だ。これならば逃げ切ることができるだろう。
それでもズキズキと全身が痛むのは避けることができなかった。
こうしてギークはこれまでの駆除人人生の中で経験したことがないような屈辱に見舞われながらその場を後にしたのであった。
ギルドマスターは策士であるが、フレアはその上をいく策士であった。
これだけは認めなくてはなるまい。ギークは裏口を目指して駆けながらそんなことを考えていた。
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