婚約破棄された悪役令嬢の巻き返し!〜『血吸い姫』と呼ばれた少女は復讐のためにその刃を尖らせる〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
42 / 223
第一章『この私、カーラ・プラフティーが処刑台のベルを鳴らせていただきますわ』

這いつくばり姫は報われて

しおりを挟む
フィンの無茶苦茶なアドリブにも対応することができたのは全員が何度もこの子ども用の芝居に臨んでいたからだろう。
脚本は継母と義理の姉も幸せになるようなものへと変更された。
それは義理の姉、それに継母と這いつくばり姫が和解し、本当の家族となった後で王子と義理の姉とが結婚し、這いつくばり姫がドレスや馬車を用意してくれた使用人と結婚するという原点からはかけ離れたものになったのだ。

予想外の内容の劇に子どもたちは大いに困惑していたが、最終的には大きな拍手を持って締め括られた。それだけ今回の劇に好印象を抱いた子どもが多かったのであった。
一方でカーラの心境は複雑なものであった。劇が上手くいったからいいようなものを下手をすれば子どもたちに不安を持ったまま終えることになってしまうところであった。
衣装を着替え終わった後で呑気に後片付けを手伝うフィンに向かって説教を行うのであった。

「殿下、今日の舞台はどういうことでしたの?」

「オレが昔から望んでいた展開にしたくてな。今回の劇でそれを実現したかったんだ」

「……呆れましたわ。殿下の身勝手な行いで劇が無茶苦茶になろうとしていたところだったんですよ!……子どもたちが楽しみにしている劇ですのよ。おわかりでして?」

「すまなかった。次からはちゃんとするよ」

カーラからは言葉が返ってこない。代わりに返ってきたのは鉛のように重い溜息であった。
フィンが申し訳なさそうに頭を掻いていた時だ。衣装を脱いで元の服に戻ったルーカスとアメリアの二人が駆け寄ってきた。
二人からも怒られるのだろう、そう考えて腹を括っていた時だ。フィンの予想に反して二人からは感謝するような言葉を投げ掛けられたのであった。
なんでも今回の劇は気に入らなかった子どももいたが、気に入った子どもも居たので今後は通常の劇とフィンが考えた劇とを交互に上演したいのだそうだ。
二人が感謝の言葉を述べ終えた後でアメリアは思い出したように言った。

「……お嬢様もきっとこのような劇を気に入ってくれるはずです。だって、誰よりも優しいお方だというのは私が知っていますから」

アメリアの言葉にルーカスが首を縦に振る。それから二人で改めて頭を下げ直して他の場所を片付けに向かっていくのであった。
二人と入れ違う形で菓子屋の女性店主がその姿を見せた。

「本日は私どもの主催する慈善事業に関わっていただいた上に舞台にまでご参加いただき誠にありがとうございます」

「いえ、私の方こそ勝手に劇をめちゃくちゃにしてしまったようで……申し訳ない」

「いえ、先程の二人も褒めておられたようにむしろ今までの劇とは違って斬新な劇だと好評でした」

「そう言っていただけると光栄だな」

「先程、ルーカスか、アメリアのどちらかが言ったように思いますが、私の娘は優しい性格でしてね。私の娘が生きていた頃にも見せて差し上げたいものでした」

「……その娘を害したとされる人物が昨日父親と共に死んだと聞いたが、そのことについてはどう思う?」

「……重ね重ね言いますが、娘は優しい子です。復讐などは望まないでしょう。ですが、私とすれば娘の無念がようやく晴れたような気がします」

女性店主はその後で小さく頭を下げた後で後片付けへと向かう。
フィンはそれを見届けた後にカーラに向かって何気なしに問い掛けた。

「なぁ、カーラ。もしかすれば駆除人というのが制裁を下してくれたのかもしれないな」

「いやですわ、殿下ともあろうお方がそのような噂話を信じておられるのですか?」

「あぁ、そうだな」

この時にお互いが駆除人と駆除人の依頼人であるというのを知らなかったのはどちらが幸いというべきだったのだろうか。それはわからない。
ただ、お互いに後ろめたさを感じたためにこれ以上の裏稼業にまつわる話は自然と立ち消えとなった。
慈善事業を終えてフィンは与えられた騎士団の司令官室へと戻った。このまま部屋の中で今日孤児院を訪れた際に自分が感じたことや王国における孤児たちへの在り方などを報告するために筆を取ろうとした時だ。
フィンの前に若い兵士が現れて、フィンに向かって来客を告げたのであった。
来客を通すように命令を下すと、現れたのは弟にして第一王子のベクターとその婚約者である今やプラフティー公爵家の令嬢となったマルグリッタであった。
カーラを思うフィンにとってはこの二人の顔を見るだけで吐き気のようなものがこみ上げてくるが、それを堪えて冷静な顔で応じたのであった。

「何の用だ?」

「何の用?わかっているだろう?カーラだ。元公爵家令嬢のな」

「カーラ?彼女に何か用があるんですか?」

「はい、私……お姉様が不憫になりまして……」

マルグリッタがわざとらしく両肩を震わせながら言った。
よく言う。本当は不憫だなどと思ってもいないくせに。フィンは不快感を露わにして両眉を顰めてみせたが、マルグリッタは気にする素振りも見せずに話を続けていく。

「……確かに脅迫状を私に送ったのはお姉様です。ずっと酷い嫌がらせをしてきたのもお姉様です……ですが、貴族の身からいきなり一般の人に落とされるのはあまりにも不憫に思えてなりませんでした。まるで、私と入れ違うようにお気の毒で……」

身分剥奪に差し向けたのは誰だ。そもそもマルグリッタのいう嫌がらせなど全てでっち上げだ。フィンは歯を軋ませながらも自己憐憫に酔いながら演説を語るかのように話を続けるマルグリッタの話に耳を傾けていた。

「ですので、私はお姉様に再びチャンスを差し上げようと思いますの。お姉様を屋敷のメイドとして雇用し、働くことの大切さを学んでもらった後で私の侍女として仕えていただくのです。平民と貴族の令嬢という差こそあれども、お姉様とはまた同じ屋根の下で暮らすことができますわ」

マルグリッタは表向きは身分を剥奪された貴族の令嬢に対しての同情というものであったが、裏を返せばずっとカーラをこの手でこき使いたいという自己優越感から出たものだ。
フィンはマルグリッタが怪しげな笑みを浮かべて語るのを見逃さなかった。
だが、弟はマルグリッタの思惑にも気が付かずに強くマルグリッタを抱き締めて褒めそやしていた。言葉の裏にも気が付かずにマルグリッタを無条件に褒めそやす弟の姿は笑うより他になかった。
そんな風に劇の主人公のような願望に酔う二人の男女を軽蔑の念を持って見つめ続けた後でフィンは嗜めるように言った。

「……失礼だが、マルグリッタ嬢。あなたはカーラが市井に放り出されて困っているように思えるのか?」

「はっ?」

低く返された返答には本性を取り繕う気もないものであった。この低い声こそが彼女の本性だろう。
フィンはマルグリッタの本性を聞いて勝ち誇ったような笑みを浮かべながら話を続けていく。

「残念だが、カーラはあなたが思うよりもずっと強い女性だ。街でも評判の医者の助手として困っている人を助け、素晴らしい衣服を縫って、多くの女性に夢と希望を与えている。そればかりではない。今日などは慈善事業という形で無料で恵まれない子どもたちに衣服を縫ったのだ。そんなことがあなたに真似できるのか?」

それを聞いてマルグリッタの腕がプルプルと震えている。怒りの感情に囚われているのだろう。いい気味だ。
マルグリッタはしばらくの間は無言で一人震えていたが、すぐに無邪気を取り繕った笑みを浮かべて言った。

「ならば、お姉様を公爵家としてのお針子としてお迎えしましょう!私もお針子として活躍していらっしゃるお姉様のお服を着てみたいんですもの」

「それはいい考えだな!よしッ!そうと決まればすぐにでもカーラをお前の家のお針子にさせよう!」

「待てッ!勝手に話を決めて……カーラの都合というものもあるだろう!?」

フィンは至極最もなものであったが、頭の沸いた王子と婚約者は兄の言葉を無視して二人で笑い合いながら城へと戻っていくのであった。
事態が事態であるのでフィンとしても放置するわけにはいかない。慌てて弟とその婚約者を追い掛けていくのであった。
結果として父王に直訴し、カーラの召し上げ自体は阻止できたものの、これによって弟とその婚約者並びにその家族を敵に回すことになってしまったのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

処理中です...