王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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ウィンストン・セイライム・セレモニー編

記念式典の準備

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ケイレブが転校生としてこの学校に派遣されてから、一日が経った。
街では帝国からの交流生に加えて近々、国王の在位三十周年を祝う記念式典が今月の終わりに開かれるという事と隣のスパイスシーの向こうの大陸で人気を誇る劇団の来訪が重なるために、街は盛り上がりに盛り上がっており、何を出そうかと悩む雑貨屋の店主。儲けのチャンスだと張り切る酒場の店主。
誰もがこれから訪れるであろう希望に胸を弾ませていた。特に街の小さな劇場の劇場主は大慌てで設備を整えようとしていた。
私が賞金稼ぎ部の活動の帰りに自宅までの道を馬に乗って帰っていると、背後から声をかけられて振り向くと、そこには息を切らした様子のケネスがいた。
「良かった。家まで行かなくて済んだらしい……部長が今度の国王陛下の記念式典の事でお話があるそうだ」
部長が?また、どうしてだろう。首を傾げる私。だが、ケネスは直ぐに学校の部活に来るように指示を出す。
指示に従って夜の部室に集まった私の前に姿を見せたのはケイレブ。どうやら、昨日の事が応えたらしく、あの後に部室にやって来たのだろう。引きつった顔の私を他所に、彼は賞金首の情報の載ったポスターを強く握り締めながら、
「さぁ、賞金首は取ってきた!一刻も早くウェンディと勝負をさせろッ!」
「まさか、そこまであの子と戦いとは……彼女に何をされたんだ?キミは?」
部長は苦笑しながら問い掛けるもケイレブは反応する事なくフンと鼻を鳴らして、
「話せはしないが戦わなくちゃあならない理由があるんだッ!」
ケイレブの剣幕にどうしようもなくなって頭を抱えていた所に、私の姿を見つけて、
「やっと戻ったかッ!さぁ、おれと戦え、必ずあの時の雪辱を晴らしてやるッ!」
と、人差し指を震わせながら叫ぶ。彼はどうしても私と勝負を付けたいらしい。
非常に面倒臭いのだが、ここは彼との勝負に乗るしかあるまい。
私が彼の元に向かおうとした時だ。その前にケネスが立ち塞がってケイレブを睨んで、
「悪いが、ウェンディは今日の部活で疲れているんだ。もし、不足でなければおれが相手するんだがな」
歯を軋ませる音が耳に届く。恐らく、ケイレブが発した音だろう。彼はケネスの元に向かって、
「いいだろう。相手をしてやろう。最も、お前なんて直ぐにでも病院送りに出来るだろうがな」
「舐めた口を利くじゃあないか、レースの優勝候補だったか、何か知らんが、この辺りの地理を知り尽くしたオレに勝てるとでも?」
二人が見えない火花を散らし合う。その光景に私も他の部員も頭を抱えて溜息を吐く。
いや、例外としてマーティと副部長、クラリスの三人はなぜか、ケネスと同じくらいの険しい目線を向けていた。
一色触発の状態になり、部室内で銃を抜くのではないかと思われた矢先の事であり、誰もがこの状況を打破してほしいと願っていた矢先の事であった。部室内に流れていた険悪な空気を打ち破るような明るい声が部室内に響き渡る。
集まった全員が声の届いた扉の方を向く。
そこには可愛らしく手を振ったオレンジの髪の会長が現れた。
「ハーイ、元気ぃ~あ、ごめん?何か空気を壊しちゃった?でもね、どうしても外せない大事な用事があったから、賞金稼ぎ部の人たちに話があって来ちゃったごめんねぇ~」
いいや、謝る必要はない。今日ばかりは会長の明るさに感謝したい。対立していた五人を除く全員が歓待の目で彼女を迎え入れる。
彼女はまるでここが生徒会室であるかのように遠慮なく部室の長椅子に腰を掛けて、他に座っていた部員や立っていた部員たちに向かって、
「今から、皆さんには重大な事を伝えます。とっても、大事な事だからちゃーんと聞いてね」
と、生徒会並びにこのシティー全体における重大な出来事を伝えていく。
国王の訪問の折に出迎えに向かうのは市長だけではなく、校長と生徒会長の二人であると告げられ、その折には護衛として私とクラリス、加えてケイレブも加わるように告げた。
当然、ケイレブは声を荒げて、
「なんでだよッ!オレが頭を下げるのは皇帝陛下だけだッ!他所の国の王に頭を下げる道理なんてないぞッ!」
ケイレブは自身が抗議の声を荒げる事により、会長が動揺するとでも思ったのだろう。
だが、彼女はふてぶてしい様子でむしろ、彼を見下ろす様に笑っていた。
そして、彼女は人差し指を立てて、まるで席を回って生徒に分からない事を尋ねる教師の様に優しい声で、
「でもね、ミスター・オーウェン。外交っていうのはそんな単純なものじゃあないんだよ。確かに、皇帝はあたまを下げないかもしれない。けれど、あなたは単なる一〈マジシャンガンマン〉に過ぎない身でしょう?あなたが頭を下げない事で王国と帝国の仲が悪くなっちゃった場合にはあなたはどう責任を取るのかな?かな?」
会長の相手を丸め込む手腕には私も思わず舌を巻いてしまう。
ケイレブは悔しそうに下唇を噛みながら、出迎えの際の校長と会長の護衛を承認した。
だが、話はそれだけでは終わらないらしい。彼女はニコニコとした笑顔で部長の方に向き直って、
「ねぇねぇ、今度大陸から来る劇団があるじゃん?誰か、あの劇団の詳しい情報を調べてくれないかなぁ~?」
と、人差し指を顎の下に置いて可愛らしい目を横に向けて言う。
その様子に会長は何も言えずに困惑していたのだが、ケネスが小さく溜息を吐いて、
「分かりました。その調査を引き受けましょう。その代わり……と言っては何ですが……」
ケネスは会長の耳元に顔を寄せると何やら呟いていく。
会長はケネスの発する一言、一言に首を縦に動かしていって、
「オーケーオーケー。その程度なら、私の権限でどーにでもなるから」
と、満面の笑みで言った。どうやら、彼女は手を振って部室を出ていく。
私は彼女が出ていくのを見計らうと、彼の元により、何を要望したのかを尋ねる。
すると、ケネスは口元の右端を吊り上げて、
「何って?そりゃあ、あのケイレブとかいう奴との決着さ。今日は会長に邪魔されてしまったが、次は絶対に決着を付ける。そのために、校舎を突き抜けた先の校庭を借りられないかと聞いたのさ」
私はその言葉を聞いて重い溜息を吐き出す。どうやら、今も険しい視線でケイレブを見つめる彼は止めても無駄らしい。
私は溜息を吐きつつも、そんなケネスが何処か格好良く見えた。
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