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ウィンストン・セイライム・セレモニー編

劇団〈ダヤン〉の闇

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「動くなッ!賞金稼ぎ部よッ!命が惜しければ、そこで手を後ろに回して縄に掛けられる事ねッ!」
私はシティーのホテルに泊まっていた過激派の居所を突き止め、相棒のケネスと共に突入する。
だが、その部屋には『国王制打倒』だの『式典粉砕』だとか言ったテンプレ的な過激派の主張が盛り込まれて紙が壁に貼られており、よくホテルの従業員が気付かなかったなと思い知らされてしまう。
もしかして、従業員も意図的に気付かないフリをしていたのかもしれない。
そんな事を考えた時だ。私は不安になり、急に背後を振り返ってしまう。
背後には拳銃を構えた従業員の制服を着た若い男が立っていた。
私は男が何かをするよりも前に、彼に向かって銃を放つ。
心臓に銃の当たった男は悲鳴を上げて廊下の壁へと吹き飛ばされてしまう。
それを見たホテル内の二名の過激派の男たちは慌てて入り口へと向かう。
だが、逃す気は無い。私は出入り口に向かった男の足を撃ち抜く。男の悲鳴と銃声が同時にホテル内に響き渡ったので、ホテルに迷惑が掛かったかなと苦笑していると、もう片方の残った男がホテルの窓から逃げようと目論む。
私は彼の後を追ってホテルの屋根へと登っていく。
ホテルの屋根は思っていたよりも広く、またすぐ下に部屋もあるのだろう。男が左手を広げて何かを出そうとしている。
これ以上の抵抗をさせないために、私は両手で拳銃を構えて男に向かって叫ぶ。
「動かないでッ!本当に撃つわよッ!」
だが、男は逃げようとするのをやめない。このまま更に下の別の部屋に足を踏み入れようとしていた。
やむを得ずに男を射殺しようかと銃を構えた時だ。男は突然、向きを変えて私の方へと振り向く。
彼は私の方に向き直ると左手の掌から小さな竜巻を作り出す。
そして、その左手を振って私の目の前に竜巻を向かわせていく。
ホテルの屋上にヒビが入るくらいには強かったのだが、いかせんスピードが遅いために避ける事は容易であった。
私は彼の繰り出す竜巻を次々と避けて逃げようとする男の元へと向かっていく。
男は下唇を噛むと何を思ったのか、左手の掌に作り出した竜巻を纏わせていく。
完全な竜巻と化したテロリストは私に向かって狙いを定めると私を飲み込むために屋上の上で勢いよく回転していく。
試しに銃弾を放つが、竜巻には無意味だったらしい。銃弾が虚しく竜巻により弾かれていく。
竜巻の中に潜っている男は私がもう叶わないと考えたのか、勢いよく回る風を吹き鳴らしながら私の前に迫っていく。
だが、私は慌てる事なく左手の掌を広げてその魔法を吸収し、それから左の手の掌の中に沸き起こった風を自分の身に纏わせていき、男の竜巻と同じ風を身に纏っていく。
暫くの間、ホテルの屋上は揺れたのだが、この風のぶつけ合いは私が勝利したらしい。男は竜巻の中から弾き出され、屋上の上に勢い良く投げ出されてしまう。
男は尻餅を付き、暫くは痛そうに尻をさすっていたのだが、目の前に迫る私に怯えたらしく悲鳴を上げて助けを求めていた。
そこで私は自分の周りに纏わり付いていた風を解除し、恐怖のために尻餅を付く男に向かって銃口を突き付ける。
「どう?これで降参する気になった?」
男は声を震わせながら必死の形相で腕を頭の後ろに回す。
私はそんな男を連れ去り、ケネスの元へと戻っていく。
ケネスは先程の騒音に苦情を呟いたのだが、私が左手で過激派の男を捕まえている所を確認すると、満更でもなさそうに顎を人差し指と親指でさすり、二人を拘置所へ連れて行くまでの拘束処置として腰に下げていた縄を取り出し、私が捕らえた男の両腕を縛り上げて既に部屋の中で身動きが取れずに俯いている男と共に馬の元へと連れて行く。
この後の日程としてはいつも通りに、馬の背中に乗せ、二人を拘置所に連れて行き、係の男性から懸賞金を貰って部活の分の取り分を届けて自宅へと帰る筈だった。
だが、自宅に帰る前の校舎の前。そこでケネスは真剣な顔で私を引き留めて、
「待て、今日は大事な話があるんだ」
「話って?」
「お前に頼まれた。例の劇団の件だ」
私はそれを聞いて頬を張り詰めて行く。
実際にあの日から二週間の日数が経過し、明後日には劇団員が明明後日には国王の記念式典が行われるという日程だ。
そして、生徒会やその他諸々の部活の三年生はこの式典における活動を最後に引退するらしい。何でも、受験の勉強のためにそう言った活動に取り掛かる時間を減らしたいという学園側の配慮らしい。
そのために、生徒会や部活連は勿論のこと、各々の部活にも部長となる人物を選抜する羽目に陥っており、そのせいで、各々の部活は次期部長の後釜を巡っての派閥争いを繰り広げている。
だが、ウチの部活ではエマ部長が既に有能な人物を後釜に推している。
ひょっとして二年生のあの人だろうか。その事ばかりを考えていたためか、ケネスが私の目の前に手を振って、
「聞いているのか?」
と、尋ねる。なので、私は慌てて右手を左右に振って聞いている事を了承した。
ケネスは先程、私がぼんやりとしていて話を聞いていなかったという事もあってか、仕入れた情報を一から語ってくれた。
ケネス曰く劇団『ダヤン』にはその華麗な噂と両立するかのように不穏な噂が流れており、そのうちの一つが邪神を信仰している事だという。
「邪神?」
私の問い掛けにケネスは懐から黙って一枚の紙を取り出す。その紙には一匹のおぞましい怪物の姿が映っていた。
触手のある頭足類のような頭と蝙蝠の如き翼を有したその怪物は見ているだけで嫌悪感を唆られてしまう。
ケネスは続いて、劇団がこの怪物の銅像をを崇めているという情報を聞くと、私は夢の世界での少年と謎の神のお告げは間違いではなかったという事を思い知らされた。
ケネスは『噂』だと前置きして伝えていたのだが、あの現実味を帯びた夢の話を考えると到底、噂では終わりそうにない。
神の言うマシューという存在が、ダヤンの座長に取り憑いていたとすれば、思ったよりも厄介な事になりそうだ。
私はケネスに明日の朝一番に生徒会に調べた情報を伝えるように言って自分は急いで馬を駆けて屋敷へと戻って行く。
明後日に来るであろう『ダヤン』に対抗するために、必要なものを見定めるためだ。
今回の式典における一番の敵は外国のスパイでもなく、国内の過激派でもなく、邪神を崇める狂った劇団になるとは当初は夢にも思わなかった。
私は苦笑して夜の街の中を馬で駆けていく。
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