メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

文字の大きさ
30 / 237
皇帝の星『オクタヴィル』

しおりを挟む
 宇宙船の中に軟禁されている間は二人がしていた事務仕事や報告書やらの事務仕事を手伝っていたので退屈することはなかった。

 空いた時間は宇宙船に内蔵されたコンピュータの指示に従ってのアンドロイドたちのメンテナンス、そして修也にとって矛となり盾となる『メトロイドスーツ』の手入れといった仕事で追われていたので退屈に思うことはなかった。

 空いた時間ができたのならば宇宙船のテレビ機能を用いてコンピュータゲームをすればいいし、コンピュータゲームに飽きれば修也の携帯端末に内蔵されている電子書籍を楽しめばよかった。

 幸いなことに宇宙船の中からでも電子書籍を取り扱っている通販サイトにはアクセスを行うことが可能で修也は滅多に買わない分厚い本を購入した。

 修也が購入したのはイワン・ウスパスビッチというロシアの歴史学者が記したロシア史の本だった。イヴァン雷帝の時代から最後の皇帝となるニコライ二世の時代までを詳細に記した内容で読み応えがあった。

 その日も二人の事務仕事を手伝い、『メトロイドスーツ』や武器の手入れを終え、携帯端末でロシア史の本を読んでいた。突然宇宙船の外から大声が聞こえてきた。

「我々は陛下からの代理人である!! 陛下は謁見を許可なされたッ! よって今より空船の扉を開き、謁見の準備のために身支度を整えること!!」

「聞きましたか? 大津さん?」

 惑星ポーラのルビーの仕分け先をコンピュータに記していたジョウジが手を止めて問い掛けた。

「は、はい。しっかりと聞こえました。今から準備をします」

 修也は護身用として用いているカプセルトイを懐の中にしまうと、そのまま積荷の場所に積んでいた自身の旅行鞄を取りに向かう。

 旅行鞄の中から行く時に身に付けていた青色のスーツと黒色の革靴を取り出すことが目的だった。女性アンドロイドであるカエデがその場に居なかったので積荷スペースの中でスーツに着替えようとした時だ。ジョウジがその姿を見せた。

「大津さん、スーツに着替える必要はありません。むしろ宇宙人を見たがる彼らの期待に応えるよう宇宙服のまま来てください」

「も、申し訳ありません」

「ダクティアナ帝国では他国よりの使節は皇帝の慈悲により貸し出される礼服に身を包むことがセオリーとされています。ですからスーツを着ていけばそれは皇帝からのお慈悲を拒絶したということになり、かえって失礼にあたります」

「そ、そうでしたか」

 修也は申し訳なさそうに頭を下げた。

「前回のデータでは大津さんと同じようにスーツを着て城に向かっていった我が社の社員が皇帝を怒らせ、牢屋の中に閉じ込められましたからね」

 前回は大変なことが起きていたらしい。気になった修也はその社員の末路を聞いてみた。

「その人……そうそう山本さんという方ですが、社長からの取りなしで特別に惑星ポーラから運んだルビーを皇帝に渡して釈放になりましたよ」

「よ、よかった。山本さんという方は無事に地球にいるんですね」

「えぇ、ですが、社長の怒りを買って今では子会社に出向されています」

 修也は苦笑いを浮かべた。というのもその山本という社員に課せられたどこか現実的な罰がどこか気の毒だったのだ。
 修也が山本という面識のない社員について笑っていると、今度はカエデが入ってきた。

 カエデは二人に声をかけることもなく、真剣な顔で圧縮された品物を持ってきた。それを壊れやすい希少な菓子でも手に取っているかのような手付きで丁寧に計算用のタブレットが入ったシェルダーバッグの中へと入れていった。

「ジョウジさん、カエデさんは何を入れたんですか?いや、あの交易に使う商品であることは分かっていますが、どういう物なのか教えていただけないでしょうか?」

「大津さん、カエデさんが入れたのは皇帝陛下に捧げるための贈り物です」

「贈り物ですか?」

 交易の品だと思った修也は思わず両眉を上げた。

「そうです。前回の交易では何のデータもなしにこの星に入ったため貢ぎ物を用意できませんでした。そのため我が社は泣く泣くラッセルフェルンの甲羅と肉を献上したんです」

 そのため今回は出発の前、皇帝に捧げるための贈り物をわざわざ地球で準備してきたのだそうだ。

 贈り物として用意したのは紳士用に地球で作られた最新鋭の望遠鏡に政宗という刀工によって作られた大小の日本刀に井伊家の赤鎧のレプリカ、瓶の中に入った帆船模型などだった。

 婦人用には地球で作られた首飾りに指輪、香水。そしてワインやブランデーといった酒類。最後にそれらの酒を飲むために必要な地球で作られたワイングラスなどだそうだ。

「そ、それはまた社長も張り切りましたなぁ」

 異星人どころか同じ地球人に渡すにしても立派過ぎる贈り物だった。

「それだけ村井社長がオクタヴィルとの交易に力を入れているんですよ」

 ジョウジの話によればオクタヴィルには地球には存在しないダイヤモンドよりも硬くて綺麗なゴルドモンドと呼ばれる宝石や地球の十倍は埋まっているという金や銀、銅などが交易で得られる算段になっている。

 また、オクタヴィルの衣装や鎧、小物などを欲しがるマニアも世界各国に存在するそうだ。以前オクタヴィルの品をインターネットを通して販売した際には各国のマニアからの催促がひっきりなしに会社の方へと飛んできたそうだ。

「なるほど、納得がいきました」

「恐らくこれらの交易で我が社が得られる利益はポーラやラッセルフェルンを大きく凌駕するでしょう。そのため社長はあれだけの品をわざわざ用意なされたのですよ」

 ここまでの説明を聞いて修也はようやく合点がいったらしい。珍しい工芸品や地球では希少な鉱石がオクタヴィルでは地球よりも容易に手に入るというのならばあれだけ豪華な贈り物を用意するのも納得がいった。

 修也はいつも通りに宇宙服の中にカプセルトイを忍ばせていく。そしてその後でジョウジの後ろに付いていき、階段を降りていった。

「よし、空船に乗ってきたのはお前たちだな?」

 出迎えに現れた銀色の甲冑を纏った男が威圧的に言った。

「はい、我々でございます。前回と同様交易をお許し願いたく参上致しました」

「そうか、おれはダクティアナ帝国の騎士、ラ・ジーナだ」

 ダクティアナ帝国もしくは惑星オクタヴィルにおいては苗字は一文字で表すらしい。

 だが、そんなことはどうでもよかった。言葉の意味こそわからなかったものの修也はその威圧的な態度に不快感を覚えた。

 たかだか一騎士のくせにと思う人もいるかもしれないが、彼は城より皇帝の代理人として出向いている。それ故修也たちに対して大きな態度に出るのは当然だった。

 ダクティアナ帝国は昔の地球のように皇帝による専制政治が執り行われている国だ。いいやダクティアナ帝国のみではない。惑星オクタヴィル全体が国王や皇帝による強権的な政治が執り行われているのだ。

 現在の地球における先進的なシステムに慣れた人たちには窮屈なシステムのように思われる。批判したがる感情も湧いてくるだろう。それは無理もない感情だ。

 だが、批判したがる人たちは少し立ち止まって考えてもみてほしい。その地球にしても今の時代から三百年前では同じような政治システムで運用してきた。それ故にオクタヴィルの政治システムを野蛮だと批判するのは足早だというべきだろう。

 修也たちは兵士の他には案内用の馬車が止まっていた。贅を尽くした馬車の中央にはダクティアナ帝国の王家の象徴である空を掛ける白馬の姿が記されていた。

 その姿を見て修也は呆気に取られていた。

 というのも贅を尽くした豪華な馬車といいその馬車の中心に塗られた大きな紋章といい暇潰しとして読んでいたロマノフ朝の王族そのものであったからだ。

 いいや、ロマノフ朝ばかりではない。世界史の本で読むような滅び去った王族貴族がそのまま再現されていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

讃美歌 ② 葛藤の章               「崩れゆく楼閣」~「膨れ上がる恐怖」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】 3巻からは戦争編になります。 戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。 ※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...