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岩の惑星ラックスフェルン

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「あー、あー、あいつら全滅しちゃったみたいだね?」

 黒い上着に真っ白なシャツ、それから青いジーンズという地球でよく見る音楽プローデューサーのような格好の上に黒い帽子を被った男は面白そうな顔を浮かべて言った。
 それからすっかりと萎んでしまったアメーバを拾い上げながら言った。

「ったく、せっかくこの野蛮人だらけの星に惑星ブロブに住む粘着生物の中から強力なものを放ってやったというのにあいつらのせいで全部パァだよ」

 人工的なものが一切存在しない惑星ラックスフェルンの森林。その上この惑星に住む住民たちは皆、原始の生活を営んでいる。
 男が今着ているような服を縫うには最低でもあと2000年は必要である。そのため人間ではあってもその姿は限りなく森と同化していた。彼らと対比していけば対比していくほど違和感を感じてしまう。
 しばらくの間森の中を歩き回って死亡したアメーバたちの遺体を回収していたのだが、男は歩き回る中でアメーバの王の遺体が存在していなかったことに気が付いた。

「あれ? あいつどこにいったんだ?」

 男はしばらくの間首を捻って考えていたが、すぐに考えを改めたらしい。

「まぁ、いいっか」

 と、明るい声を出した。

「せっかくあいつの細胞を弄って人間の体と知能、それに高い学習能力を与えてやったっていうにさ」

 男は不満そうにぶつくさと吐き捨てていった。どうやらアメーバの王はこの男が遺伝子を弄って誕生した変異体であったらしい。
 人為的な力が加わっていたとするのならばあのように話せていたことも納得である。全てはこの男が裏で糸を引いていたのだ。男が苛立った様子で森の中を歩き回っていた時だ。胸元から携帯端末のようなものを取り出した。

「もしもし、パパ? 惑星ラックスフェルンにあったブロブのアメーバは全部回収したよ」

『ご苦労だった。ったく、地球の連中め余計なことをしおって。お陰で五十年の時間をかけた実験が台無しだ』

 電話口の向こうからはアメーバたちを全滅させた修也たちに対して強い憎悪を燃やす男の執念のようなものを感じられた。

「パパも大変だったよねー。せっかく野蛮人しかいないような好条件の星を見つけられたっていうのに」

『フン、同情などいらん。それよりもこの穴埋めはどうする?』

「……考えたんだけどさ。地球の奴らに償わせるというのはどうかな?」

『どうするつもりだ?』

「簡単だよ。ぼくすっごくいいアイディアを思い付いたんだ。ほら、地球の奴らって今自分たちの手で作り上げたアンドロイドたちと生活スペースをめぐって揉めてるだろ?そこに漬け込んでさ……」

 男はそこしれようないような不気味な笑みを浮かべながら報復案を語っていった。
 男とその父親は自分たちの実験を妨害した地球を許すつもりはないらしい。
 復讐の準備は着実に進められていくことになった。

















「大津さん、少しよろしいですか?」

 圧縮された荷物が置かれた荷物が置かれたスペースから帰ってきたジョウジは椅子の上で仮眠をとっていた修也に向かって問い掛けた。

「な、なんでしょうか?」

 修也が目を擦りながら答えた。

「足止めを食らっている時間を利用して惑星ラックスフェルンで回収したアメーバの王の詳しい分析を試みておりまして、ようやくその結果が出たんですよ」

「興味深い結果ですか?」

「はい、実はあの細胞の中に何者かによって手を加えていたことが判明しました。それも地球にはない極めて高度な技術や物資を使って一体のアメーバに知恵を与え、『王』としての役割を与えたのだと思われます」

「つ、つまり我々以外の知的生命体が故意にアメーバの王を作り出したと?」

 修也は驚きと恐怖の両方のためか声がうわずっていた。

「その通りです。それに加えてアメーバ自体もラックスフェルンの出身ではなく、別の惑星から持ち込まれた生き物であったことが判明しました」

「いっ、一体なんの目的でそんなことをしたんでしょうか?」

「分かりません。正確ではないことはなるべく言わない方がいいと思いますので」

「正確でなくても大丈夫です! コンピュータによる推測を聞かせてくださいッ!」

「……コンピュータによれば住民の混乱を見ることが目的だと思われます」

「それはどういう意味でしょうか?」

「大津さん、人間の子どもはたまに無意味にダンゴムシを捕まえては蟻の巣の中に放り込んだりするような残酷な行動に出ますよね?それと同じことを高い文明力を持ったどこかの惑星がラックスフェルンに行ったんですよ」

「そ、そんな……」

 修也は絶句した。彼らは最新式のアンドロイドであるジョウジのコンピュータを持ってしても分析できないような技術や物質を使ってアメーバに高い知性を持たせるほどの技術があるのだ。
 それなのに優秀な技術を自分たちよりも遅れている星の住民を苦しめるために使うなど理解できなかった。

「しかしまぁ、あの惑星にいた人喰いアメーバは我々の手で全滅させましたし、これでいいのではないでしょうか?」

「……確かに、惑星ラックスフェルンの住民たちからすればそれでいいでしょうけど」

 修也はアメーバの王を倒した後のことについて思い返していた。アメーバの王を倒した後、修也たちの手によって森の中に残ったアメーバの掃討戦が行われた。

 今後の交易のことを考えての行動であり、人のみならず惑星ラックスフェルン全体に不利益をもたらすようなアメーバたちを生かしておく必要などどこにもなかったのだ。

 人間であるのならば一つの生命体を全滅させてしまったということに対して罪悪感を抱いてしまうものだが、相手が相手であるため罪悪感を感じることはなかった。

 それに加えて別の惑星から持ち込まれた生物兵器のようなものだと分かれば尚更だ。

 その後の交易は例の人喰いアメーバを全滅させ、人々を脅かす存在が消失したということもありスムーズに進んだ。
 各地にある住民たちが住まう家々を回り、無事に亀の甲羅と肉を回収したのである。

 その後にメトロポリス社に報告の連絡を入れた。

『ご苦労様でした。では、次に惑星オクタヴィルに向かってください』

 フレッドセンの指示を受け、宇宙船を進めていったのだった。ワープを利用したこともあって一日ほどの速さで到着した。

 惑星オクタヴィルはラックスフェルンと同様に現地の住民たちが住む星であるが、ラックスフェルンよりも文明レベルは千年ほど高い惑星だ。

 前回の交易からのデータをまとめると、惑星オクタヴィルは二つの巨大大陸と一つの巨大な島を持つ地球の大陸形成にに極めた類似した惑星であり、その道の研究者たちからの関心も高い星とされている。

 修也たちが降り立ったのはそのオクタヴィルの中にある巨大な大陸のうちの一つキャロメット大陸と呼ばれる大陸だった。そのキャメロット大陸を支配する巨大帝国ダクティアナ帝国と交易を行うのが目的である。

 修也たちはダクティアナ帝国の中心地にある巨大な草原の中に宇宙船を下ろしたのだった。

 もちろん他の惑星から派遣された交易のための使節とはいえダクティアナ帝国のしきたりは守らねばならない。それが交易を行う上で地球側が取り決めたルールだった。

 そのしきたりの一つとして他国或いは他星の使者は交易の許可を願うため皇帝に謁見する必要性がある。
 ただ、その審査が随分と待たされるのだ。

「まぁ、我々はその間にやるべきことがありますから」

 と、皇帝たちに待たされている間ジョウジとカエデは積荷を積んだ場所に向かい、事務仕事などを行っていた。

 アメーバの王の研究はその間の息抜きに行なっていたらしい。つくづくアンドロイドというのは大したものだ。

 修也は感心したようにテキパキと働く二名のアンドロイドを見つめていた。
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