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エピローグ『悪魔の使者たちは黄昏時に天国の夢を見るか?』

悪魔たちから追求された場合

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「ねぇ、答えてよ?」

百合絵は銃口を突き付け、時に暴力を交えながら問い掛けていたのである。

「なんであんたはお父さんとお母さんを殴ったの?どうしてあたしたちをあんなに可愛がってくれたお婆ちゃんを蹴れたの?ねぇ?」

百合絵はかつての妹の胸ぐらを掴み上げながら問い掛けた。

「お、お姉ちゃん痛いって……は、離してよ!」

「……あんた、お父さんやお母さんがそう訴えた時に笑ってたよね?あたしは知ってるんだよ」

百合絵は乱暴に妹を離して地面の上に尻餅をつかさせる。
それから怯える妹に向かって拳銃を突き付けて言った。

「勝手な事ばっかり言ってお父さんとお母さんを殺して、見知らぬ人を親と慕う……そんな子、もうあたしの妹でもなんでもないから」

「ご、ごめんって!本当に悪かーー」

百合絵は躊躇う事なく妹を射殺したのだった。
真紀子はそれを煙草を咥えながら眺めていたのだが、実に見事な流れであったと気が付き誉めてやりたかった。
真紀子は賞賛の拍手を送り、その首元に口付けを与える。

「よくやった。これであんたはゲームをますます円滑に進められる。ンで最後までは仲間だ。最後はお互いに殺し合うかもしれねぇけど、それまではせいぜい仲良くしようや」

真紀子のその言葉が告げられると、百合絵は跪いて真紀子に忠誠を誓ったのである。
この時から百合絵の中のゲームに勝つ目的が変更となった。
契約破棄を免れるためから真紀子に勝利をささげるというものに変わっていったのである。
百合絵は以後真紀子のために働いた。手足となりゲームの危機から真紀子を守り続けた。

「……あの時にもう少し話を聞いていればよかったかな?」

剛は百合絵が真紀子の味方に加わってからというものの、後悔しながらゲームを進めていたのである。

地獄への入り口インフェルノ』から迫る悪魔を止めるにはもう少しじっくりと話を聞くべきであったかもしれない。
そんな後悔をしていると、彼の真上から大きく百合絵の槍が振りかぶられていく。剛はそのまま倒れ込むが、百合絵は容赦せずにそのまま彼の背中に向かって槍の先端を突き付けていくのである。
この時に剛は自分がどうしようもない致命傷を負ってしまったのだという事を確信したのである。
百合絵はそのまま剛を起き上がらせたかと思うと、もう一度槍を使って剛の心臓を貫いていくのである。

後方からは志恩と美咲の悲鳴が聞こえてくる。自分はどうやらここまでであるらしい。
その事を告げる間もなく剛の意識はそこで事切れてしまった。
美咲は剛の死を知った瞬間にその体が自分ではない別のものであるかの様な錯覚に陥ってしまう。
体がいう事を聞かない。足が自分の意思とは無関係に震えてしまう。
吐き気の様なものさえ感じた。一体これは何なのだろうか。
悲しさという奴なのか?はたまた喪失感という奴なのだろうか。
正式な理由はわからない。ただ今は何もしたくない。ひたすらにどこかで泣き喚きたい気分であったのだ。
美咲はそのまま戦場を脱した。志恩もそれを追って戦場を去っていく。
残った面々は武装を解除して既に事切れた剛の死体を眺めていく。

「……これで残るは志恩と真行寺の二人だけか」

恭介が吐き捨てる様に言った。

「その通り、あの二人だけならば今いるメンバーで捉えられるだろう。そもそも志恩はともかく真行寺ごときに何ができるというんだ」

美憂の口元は明らかに嘲笑うものがあった。だが、それ以上の笑みを浮かべたていたのは真紀子であった。
真紀子は悪女らしい色っぽい仕草で口元に手を当ててクスクスと笑う。そしてそのまま二人に向かって言った。

「だよな。あいつらを始末した後にはいよいよ祭りの本番ってところだ。2012年だってそろそろ折り返しだぜ。決着を付けンならそろそろってところかな」

「その通りだ。お前との決着も付けなくてはならん」

美憂は真紀子を意識しながら言った。それに対して真紀子も口元を緩ませる。
決着が付けられるとするのらばもうそろそろという頃合いだろう。
お互いに意味深に笑い合った後に二人は今回の戦場となった郊外の広場を後にしていく。
何もない広場で周りには田んぼばかりが続く様な土地である。都会に住む美憂や真紀子はその何もない場所に不平不満を垂らしていた様だが、恭介は別であった。というのも、今回選ばれた戦場というのが自分の家より数駅という距離の場所であったからだ。
恭介は死体から離れると、そのままのんびりと田舎道を歩いていく。
それは恭介からすればいつも学校から帰る時の感覚に似ていた。
恭介がのんびりと田舎道を歩いていた時だ。不意にルシファーから声を掛けられた。

(やぁ、神通恭介)

「なんだ。ルシファーか?」

恭介は夜間の田舎道で他の人が誰もいない事をいい事に言葉でルシファーに答えていく。

(キミに重要な話がある)

「重要話ってあれか?地獄への入り口インフェルノの事か?」

(いいや、今後のゲームの展開についてだよ。確か2012年ももう半年が過ぎているよね?)

「そうだよ。それがどうかしたのか?」

(あまりにも進行速度が遅いなぁと思うんだ。六月だというのにサタンの息子が五人も残ってる)

「少ない方なんじゃあないのか?」

(とんでもない。他のゲームだったら……もうそろそろ二人か三人になっていた頃だというのに……どうしてかな?どうしてそんなに遅いのかな?)

ルシファーの追求は鋭かった。確かに恭介自身時たまにゲームが停滞していると考えていた事もあった。
だからだろう。彼もしくは彼女の鋭い追求が痛かった。恭介からすれば納得ができるものであったのだ。
恭介は何も言えずに気まずい帰宅を急いだのであった。
一方で真紀子もベリアルからゲームの遅延の件について追求されていたのだが、彼女は恭介とは異なり、のらりくらりとその追求の手を交わしていた。

(あくまでも自分のせいではないというのだな?)

「当たり前だろうが、あたしはむしろ戦ってゲームを引き伸ばしている方だろうが?戦うのを嫌がっている奴に言えよ。そういう事は」

真紀子は手元の書類を片付けながら言った。全ての書類には目を通し、あまつさえ自分なりの修正点さえ加えているという始末だ。
真紀子は自身の頭の回転に絶対の自信を持っていたし、かつての天堂グループの面々もそれは認めていた。
だから今彼女は新しいグループの総帥として或いは日本国の女王として迎え入れられているのだ。
実際に真紀子がグループの経営を担当する様になってからはグループの業績も回復し、日本経済も徐々に好転しつつあった。
政財界の誰もが真紀子を日本国を蘇らせるための救世主だと信じて疑わなかった。
当初こそ反対意見が存在していたものの、それらの意見は真紀子の立てた業績と彼女が提示した新たな日本経済復活戦略によって圧殺されてしまったのだ。

真紀子の将来はこれだけでも安泰といってもいいのだが、彼女の頭の中には『金やコネはいくらあっても困らない』という考えが根付いていた。
そのため自身と自身の所有するグループの跡取りとされる大企業の御曹司との婚約を進めていた。そうかつては天堂希空の許嫁とされた善家泰文である。
善家の家との結び付けを強め、天堂グループをかつてよりも強力な地位に立たせた真紀子は権力と権勢の頂点にあった。
真紀子はベリアルから契約破棄を言い渡されても問題はなかったのだ。
困る事といえばゲームにおいてストレス発散ができなくなる事くらいであろうか。
真紀子はベリアルの問答に答え、その片手間に書類を片付けながらそんな事を考えていた。
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