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第三部『終焉と破滅と』
二本松秀明の場合ーその⑨
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あれは一体なんだ。あの悍ましい鎧を纏った何かはどうして俺たちの元に近付いて来るんだ。
秀明は先程父親違いの妹が慌ててこちらに飛び込んできた時の事を思い返す。
兜越しなので表情はわからなかったのだが、その足がひどく動揺して走り去っていたのを秀明は見つめていた。
そこからだ。あの化け物がこちらに向かって現れたのは……。
秀明が思わず唖然としていると、五人の意思とは無関係に希空が現れて、その得体の知れないサタンの息子の元へと寄っていく。
「ダメだよ、お兄ちゃん……この人たちには殺し合いを所望してたんだから、お兄ちゃんが勝手に戦いに乱入したらダメじゃない」
「ごめんよ、けど、あの女の事を思うと、つい憎らしくなっちゃって……」
そのサタンの息子はしおらしい態度を取っていた。兜が見えるので想像でしかないが、表情もその態度に似合うものであるには間違いない。
希空が頬を膨らませながら、両手の腰に手を置いているのを秀明は見つめていた。なんと言っていいのかわからないという表情を秀明は兜の下で浮かべていた。しかし、ある程度感情の整理ができる様になるとゲームの事を軽く考えている二人に対して嫌悪感に近い感情が込み上げてきた。そう思うと自身の口の中が酷く酸っぱく感じられた。秀明が二人の態度を苦々しく思っていた時だ。
不意に美憂が二人に向かって尋ねたのである。
「なぁ、その人が乱入したのならばその人の勝ちという事ではないのか?ならば、あたしたちはもう帰っていいかな?こんな勝ち目のないゲームをこれ以上続けたくもない」
美憂が淡々と自身の意見を述べた時だ。不意に彼女の足元に強烈な一撃が喰らわされていく。全員が慌てて攻撃の元を辿ると、そこには殺気を纏った福音の姿があった。
「このゲームを終わらせるだと?ふざけるなよ……そんな事が許されてたまるもんかッ!」
「……落ち着け、何をそんなに興奮しているんだ?」
「黙れッ!ぼくは貴様の事も知っているんだぞッ!ここでハッキリと言ってやろうか!?いいや、やめよう。志恩くんにこんな事は聞かせられない」
「……そうか、ならさっさと帰らせて欲しいんだがな」
「ダメだッ!お前たちとはここで決着を付ける」
福音はそう叫びながら両手槍を構えて五人の元へと突っ込んできたのである。それを真っ先に止めたのは秀明である。
気が付けば頭よりも早く体が動いていた。彼は慌てて福音の側へとよると、その槍を自身のサーベルを盾にして防いだのである。槍と剣とが互いに重なり合い火花を散らしていく様を全員が目撃していた。それから両手槍とサーベルによる激しい斬り合いが始まっていき、誰もが二人の奏でる剣舞に夢中になっていったのである。中でも興奮したのは彼の妹にして五人バラバラのバトルロワイヤルを指示した希空であった。
彼女は無邪気な子供の様に両手を叩いて二人の戦いを褒め称えていた。
「すごい。両方とも頑張ってね。私応援してるからねぇ~」
その言葉に全員が恐怖した。全身の毛が泡立たんばかりの勢いであった。
自分の兄が殺し合いを演じているというのにどうしてそこまで無邪気に応援できるのが理解できなかったのだ。
戦いは六人が見守る中、30分も続いた。時間が続いていく中で、突然福音が秀明を蹴り飛ばし、武装を解除して言ったのである。
「やめた。今日はここまでにしておくよ。ゲームの期限は来年の今頃までだからね。楽しみを今取っちゃったらつまらないと思うんだ」
「成る程、まぁ納得のいく理由だぜ」
秀明は共に武装解除を行いながら問い掛けた。
「その通りだよ。ぼくはこのまま失礼させてもらうよ。けど、きみときみの弟……志恩くんは諦めないからね。一年間の間のどこかで手に入れてみせるから」
福音は大きく手を振りながら妹の手を引っ張って廃墟の外へと出て行くのであった。
「そういえばお兄ちゃん。お兄ちゃんはどうやってここまできたの?」
「あぁ、招集の音に従ってね。でもその時は生身で来たんだよ。武装したのはあのアバズレと出会ってからなんだ」
二人は元気な声をかけながらその場を去っていく。それを見届けるのと共に他の四人も秀明に習って武装を解いていく筈であったが、どうした事か真紀子だけ武装を解除しようとしない。
いや、正確に言えば武器は放棄しているから戦闘自体は放棄している筈であるのだが、困った事に真紀子は軍服を脱ごうとはしなかったのだ。
「さっさとそれを脱いだらどうだ?それともあれか?お前それ気に入ってんのか?」
「諸事情があんだよ。バカ兄貴」
真紀子は不機嫌そうな声で答えた。
「その下に何か見られたら不味い格好でもしているのか?」
真紀子は答えない。だが、沈黙は同意と同じである。結果としてその場に居た全員が真紀子の下の格好が不味い事である事に気が付いたのだ。
秀明はそれを察すると舌を打つと、軍服の真紀子の上に上着を羽織らせたのである。
「それ貸してやるよ、だから今日はそれで帰りな」
「おい、どうしたんだ。今日は随分と優しいじゃあねぇか」
「単に今日はお前が不憫に思っただけさ。あっ、それは次に会う時に返せよ」
「……ケッ、しっかりしてやがるぜ」
真紀子は舌を打つと同時に武装解除を行う。同時にその姿が白のバスローブへと変わっていったのである。
「成る程、下も裸足だし、それ一枚だけだと寒いしな。武装を解除しなかったのも納得がいくわ」
恭介が真横で煽る様に言った。
「うるせぇ!神通ッ!寝ようとしたらいきなり招集されたんだからしょーがねーだろうが」
「突然の事にも対処できる様に枕元に着替えと靴を置いておけと習わなかったのか?」
「咄嗟の時にはンなもんに着替えている暇なんてねーよ」
真紀子は美憂の忠告を嘲る様に言った。
「じゃあ、お姉ちゃん。今日はその格好で帰るの?」
「そうなるわな。不本意だが」
真紀子がそう言い放って廃墟から帰路を辿っていこうとした時だ。背後から志恩に声を掛けられて、彼は慌てて立ち止まったのである。
「なんだよ?」
「これ、ぼくのお小遣い……その格好だとお姉ちゃん寒いでしょ?」
真紀子は志恩が塾の鞄の中から取り出して差し出した財布を見て暫く考え込んでいたのだが、すぐに口元に優しい微笑みを浮かべながら志恩の頭を優しく撫でていく。
「流石はあたしの弟だぜ、けどそれは取っておきな。金ならお前の兄貴から借りるからよ」
真紀子はそう言って背後にいる秀明を見遣ったのである。
「ちょ、ちょっと待てよ!なんでおれが!?」
「一枚だけだよ。一枚貸してくれればいい。ほら?街ン中でバスローブ姿だと不自然だろ?」
「こんな時間に店は空いてねーよ」
「タクシーはあるだろ?それに乗って帰らせてもらうわ」
真紀子の言い分は筋が通っていた。秀明は渋々尻ポケットに仕舞っていた長財布からお札を一枚取り出し、真紀子に手渡す。
真紀子はそれを受け取って、そのまま廃墟を後にしたのである。顔に得意気な笑顔を浮かべていたのがまた癪に触った。
「クソッタレ、あの野郎、タクシーの事を持ち出してきやがった。おれが反論できないのを知っていやがったな」
「相変わらず腹の黒い奴だ」
美憂が皮肉混じりに言い放つ。
「でも、志恩への贔屓も相変わらずだな」
恭介が淡々と述べた。
「ち、違うよ!お姉ちゃんは贔屓とかじゃなくて、ぼくを大事にしてくれるだけだよ」
志恩が顔を真っ赤にしながら反論する。
「まぁ、ともかくだ……今日のところはこのまま解散といこうや。それと、また近いうちに集まって話したりできねぇか?おれはあの強い奴が気になって仕方がねぇからよ」
秀明の一言に誰もが首を縦に動かした。
秀明は先程父親違いの妹が慌ててこちらに飛び込んできた時の事を思い返す。
兜越しなので表情はわからなかったのだが、その足がひどく動揺して走り去っていたのを秀明は見つめていた。
そこからだ。あの化け物がこちらに向かって現れたのは……。
秀明が思わず唖然としていると、五人の意思とは無関係に希空が現れて、その得体の知れないサタンの息子の元へと寄っていく。
「ダメだよ、お兄ちゃん……この人たちには殺し合いを所望してたんだから、お兄ちゃんが勝手に戦いに乱入したらダメじゃない」
「ごめんよ、けど、あの女の事を思うと、つい憎らしくなっちゃって……」
そのサタンの息子はしおらしい態度を取っていた。兜が見えるので想像でしかないが、表情もその態度に似合うものであるには間違いない。
希空が頬を膨らませながら、両手の腰に手を置いているのを秀明は見つめていた。なんと言っていいのかわからないという表情を秀明は兜の下で浮かべていた。しかし、ある程度感情の整理ができる様になるとゲームの事を軽く考えている二人に対して嫌悪感に近い感情が込み上げてきた。そう思うと自身の口の中が酷く酸っぱく感じられた。秀明が二人の態度を苦々しく思っていた時だ。
不意に美憂が二人に向かって尋ねたのである。
「なぁ、その人が乱入したのならばその人の勝ちという事ではないのか?ならば、あたしたちはもう帰っていいかな?こんな勝ち目のないゲームをこれ以上続けたくもない」
美憂が淡々と自身の意見を述べた時だ。不意に彼女の足元に強烈な一撃が喰らわされていく。全員が慌てて攻撃の元を辿ると、そこには殺気を纏った福音の姿があった。
「このゲームを終わらせるだと?ふざけるなよ……そんな事が許されてたまるもんかッ!」
「……落ち着け、何をそんなに興奮しているんだ?」
「黙れッ!ぼくは貴様の事も知っているんだぞッ!ここでハッキリと言ってやろうか!?いいや、やめよう。志恩くんにこんな事は聞かせられない」
「……そうか、ならさっさと帰らせて欲しいんだがな」
「ダメだッ!お前たちとはここで決着を付ける」
福音はそう叫びながら両手槍を構えて五人の元へと突っ込んできたのである。それを真っ先に止めたのは秀明である。
気が付けば頭よりも早く体が動いていた。彼は慌てて福音の側へとよると、その槍を自身のサーベルを盾にして防いだのである。槍と剣とが互いに重なり合い火花を散らしていく様を全員が目撃していた。それから両手槍とサーベルによる激しい斬り合いが始まっていき、誰もが二人の奏でる剣舞に夢中になっていったのである。中でも興奮したのは彼の妹にして五人バラバラのバトルロワイヤルを指示した希空であった。
彼女は無邪気な子供の様に両手を叩いて二人の戦いを褒め称えていた。
「すごい。両方とも頑張ってね。私応援してるからねぇ~」
その言葉に全員が恐怖した。全身の毛が泡立たんばかりの勢いであった。
自分の兄が殺し合いを演じているというのにどうしてそこまで無邪気に応援できるのが理解できなかったのだ。
戦いは六人が見守る中、30分も続いた。時間が続いていく中で、突然福音が秀明を蹴り飛ばし、武装を解除して言ったのである。
「やめた。今日はここまでにしておくよ。ゲームの期限は来年の今頃までだからね。楽しみを今取っちゃったらつまらないと思うんだ」
「成る程、まぁ納得のいく理由だぜ」
秀明は共に武装解除を行いながら問い掛けた。
「その通りだよ。ぼくはこのまま失礼させてもらうよ。けど、きみときみの弟……志恩くんは諦めないからね。一年間の間のどこかで手に入れてみせるから」
福音は大きく手を振りながら妹の手を引っ張って廃墟の外へと出て行くのであった。
「そういえばお兄ちゃん。お兄ちゃんはどうやってここまできたの?」
「あぁ、招集の音に従ってね。でもその時は生身で来たんだよ。武装したのはあのアバズレと出会ってからなんだ」
二人は元気な声をかけながらその場を去っていく。それを見届けるのと共に他の四人も秀明に習って武装を解いていく筈であったが、どうした事か真紀子だけ武装を解除しようとしない。
いや、正確に言えば武器は放棄しているから戦闘自体は放棄している筈であるのだが、困った事に真紀子は軍服を脱ごうとはしなかったのだ。
「さっさとそれを脱いだらどうだ?それともあれか?お前それ気に入ってんのか?」
「諸事情があんだよ。バカ兄貴」
真紀子は不機嫌そうな声で答えた。
「その下に何か見られたら不味い格好でもしているのか?」
真紀子は答えない。だが、沈黙は同意と同じである。結果としてその場に居た全員が真紀子の下の格好が不味い事である事に気が付いたのだ。
秀明はそれを察すると舌を打つと、軍服の真紀子の上に上着を羽織らせたのである。
「それ貸してやるよ、だから今日はそれで帰りな」
「おい、どうしたんだ。今日は随分と優しいじゃあねぇか」
「単に今日はお前が不憫に思っただけさ。あっ、それは次に会う時に返せよ」
「……ケッ、しっかりしてやがるぜ」
真紀子は舌を打つと同時に武装解除を行う。同時にその姿が白のバスローブへと変わっていったのである。
「成る程、下も裸足だし、それ一枚だけだと寒いしな。武装を解除しなかったのも納得がいくわ」
恭介が真横で煽る様に言った。
「うるせぇ!神通ッ!寝ようとしたらいきなり招集されたんだからしょーがねーだろうが」
「突然の事にも対処できる様に枕元に着替えと靴を置いておけと習わなかったのか?」
「咄嗟の時にはンなもんに着替えている暇なんてねーよ」
真紀子は美憂の忠告を嘲る様に言った。
「じゃあ、お姉ちゃん。今日はその格好で帰るの?」
「そうなるわな。不本意だが」
真紀子がそう言い放って廃墟から帰路を辿っていこうとした時だ。背後から志恩に声を掛けられて、彼は慌てて立ち止まったのである。
「なんだよ?」
「これ、ぼくのお小遣い……その格好だとお姉ちゃん寒いでしょ?」
真紀子は志恩が塾の鞄の中から取り出して差し出した財布を見て暫く考え込んでいたのだが、すぐに口元に優しい微笑みを浮かべながら志恩の頭を優しく撫でていく。
「流石はあたしの弟だぜ、けどそれは取っておきな。金ならお前の兄貴から借りるからよ」
真紀子はそう言って背後にいる秀明を見遣ったのである。
「ちょ、ちょっと待てよ!なんでおれが!?」
「一枚だけだよ。一枚貸してくれればいい。ほら?街ン中でバスローブ姿だと不自然だろ?」
「こんな時間に店は空いてねーよ」
「タクシーはあるだろ?それに乗って帰らせてもらうわ」
真紀子の言い分は筋が通っていた。秀明は渋々尻ポケットに仕舞っていた長財布からお札を一枚取り出し、真紀子に手渡す。
真紀子はそれを受け取って、そのまま廃墟を後にしたのである。顔に得意気な笑顔を浮かべていたのがまた癪に触った。
「クソッタレ、あの野郎、タクシーの事を持ち出してきやがった。おれが反論できないのを知っていやがったな」
「相変わらず腹の黒い奴だ」
美憂が皮肉混じりに言い放つ。
「でも、志恩への贔屓も相変わらずだな」
恭介が淡々と述べた。
「ち、違うよ!お姉ちゃんは贔屓とかじゃなくて、ぼくを大事にしてくれるだけだよ」
志恩が顔を真っ赤にしながら反論する。
「まぁ、ともかくだ……今日のところはこのまま解散といこうや。それと、また近いうちに集まって話したりできねぇか?おれはあの強い奴が気になって仕方がねぇからよ」
秀明の一言に誰もが首を縦に動かした。
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