11 / 36
1章 追放までのあれこれ。
10,本題へ
しおりを挟む
正直、ここまで恐怖する報告会ってあるのだろうか。
肉親だよ? 両親だよ? 家族だよ?
なのにぶっちゃけホラーなんですけど。
目の前の両親の目が軽くイッちゃってるのは気の所為かしら。うん、きっと気のせいだ。そうしよう。そう思うことにしよう。
私は冷や汗をダラダラ流しつつ、本題へ入ることにした。
「お父様、お母様。お気づきかとは思いますけれど、私今日限りを持ちまして、セラーイズル殿下との婚約を解消することになりましたの」
この際回りくどい説明をするよりも率直に説明してしまった方がよい。
もうどうせ薄々勘づかれているのであれば誤魔化す方が悪化させそうだ。
もう丸投げ。なるようになぁれ。うふふ。
半ばやけくそ気味に告げながらも私は即座に体内のミューズを消費するために構える。
この両親は今何をするか検討も付かないので万事に備えなければならない。
「「……」」
軽く身構えたまま恐る恐る両親を見やると二人はニコニコした表情のまま固まっている。
まるで笑顔を無理やり顔に貼り付けているようだ。寝室が静寂に包まれる。
「……」
何だろうか、この間は。
大人しいのは助かるのだけれど、二人の笑顔が怖い。笑顔なのに怖い。表情こそにこやかだが、悪寒が止まらない。
私は思わず肩に羽織っていたショールを手繰り寄せた。
次の瞬間。笑顔を貼り付けたまま、ようやく父が口を開いた。
「そうか……あの王子が。可愛い、我が可愛い一人娘に……婚約破棄。ふふ、ふふふふ……」
続くようにして母も言葉を紡ぐ。
「あらあらまあまあ。アリーシャちゃん、王子に振られちゃったの。……そうなの」
「あの、お父様……お母様?」
──ズドォン!!
突然大きな重圧がかかったように、大気が震えた。
体を押し潰さんばかりの重圧に耐えきれず、床に膝をつく。
気づけばオーウェン公爵邸全体がガタガタと震えていた。まるで大きな地震が来たように。
地震にしても急すぎる。というか、間違いなく原因は両親だ。
我が両親のミューズ許容量は国内随一と言われる私ほど大きくはないが、それでも一般人に比べれば遥かに大きい。
邸全体がガタガタ揺れ、棚から物が落ちる。花瓶が割れ、床が水浸しになっている。
うわああ、やばいやばい! 家が壊れるうう!!
「お嬢様! お屋敷は守りの結界を貼っておりますゆえ、しばらくは持ちます! ですから旦那様と奥様の暴走を抑えてくださいませ!」
傍らから飛んだミーナの鋭い指示に、ハッとする。
そうだ。二人をどうにかしないと。
待機させていたミューズを消費し、すぐに魔術を行使した。
まずは暴走気味になっていた両親のミューズに私のモノをぶつけて相殺。これは王子のカマイタチを相殺したのの応用だ。
これで地震は止まった。あとは──
「お父様、お母様、ごめんなさい!──『落ち着いて』!!」
素早く身を翻し、両親に向かってそれぞれ人差し指を突きつける。
釣られたように指を見た二人はそのままぴしりと固まった。
ミューズによる魔術はもともと人間が行使するにあたり、思いの強さと消費するミューズ量でその質量が決まる。
思いの強さ──つまり、感情も作用のひとつに入るのだ。そして怒りや悲しみなどのより強い感情に反応して暴走する場合もある。
そうなった場合、暴走を止めるのに一番手っ取り早いのが感情の抑制だ。
私は今指に注目させコマンドを介して両親の脳内を刺激し、一時的に軽いショック状態を引き起こした。
これにより感情を抑制させ、落ち着けることが出来るのだ。まぁ感覚的には犬に「待て」と指示した状態に近い。
両親はぱちくりと瞬きをすると、普段の表情に戻った。
よかった。何とか落ち着いてくれたようだ。
私はおどけたように肩を竦めて両親を諌めた。
「お二人共、さすがに家を壊すようなことはやめてくださいね? どうか落ち着いて話を聞いてください」
冷静になってもらわないと話が進まない。
途端に父がしょぼんとしたように肩を落とした。
いつもは娘に甘いけれど、怜悧な美貌の厳格な父が叱られた子どものように見えてちょっと可愛い。不覚にもキュンとしたが無視する。それはそれ。これはこれ。
「ああ、そうだね。済まないアリーシャ。話を続けてくれ」
やっと本題に入れる。ホッと一息着いた私はミーナと顔を見合わせて微笑むと話を進めた。
「──ふむ、王子からの破棄の申し出といのは分かった。お前がそれを了承したことも。だがアリーシャよ」
「はい」
一通り話し終えた私に父が鋭い眼差しを向けた。
その視線に背筋を正して私は受け止める。
「もともとこの婚約は王命によるもの。いくら王子といえど簡単に破棄はできるものではないだろう。これは言ってみれば王子の我儘みたいなものだ。それでも陛下が納得すると思うかい?」
「……いいえ」
外務大臣として、そしてオーウェン公爵としての顔で問われた父の問いに視線を伏せながら私は応えた。
それは最もな指摘だ。
元々この婚約はこのアルメニア王国の国王の命令によって組まれたもの。
いわゆる王命である。余程のことがない限り覆されることは無いし、覆されることがあってならない。この娘煩悩な父が婚約を拒否することも出来なかったし、そのために私は王妃教育を受けてきた。将来王妃としてこの国に君臨することは確定事項のようなものだ。
そして何より私はアルメニア国名門貴族のオーウェン公爵家令嬢。国内随一のミューズ許容量を持ち、大きな力の使い手である。
手駒として確保しておくために婚約を仕組まれた経緯があることも既に把握している。
貴族の政略結婚は当たり前だからその事に特に文句はない。
それが貴族のひいては令嬢に生まれたものとしての義務だと言うことも承知しているつもりだ。
けれど。
その全てを分かっていても、この婚約は絶対に破棄しなければならない。
私の旅に出たいという個人的な理由も、セジュナと王子を結ばせてあげたい、という理由があるのも勿論。けれどそれは一因にすぎない。
最大の要因は別にあるのだ。
私はどうしても婚約を破棄しなければならない。
──「アリーシャ・ウルズ・オーウェン」を殺さねばならない。
けれど王命ゆえに私から婚約破棄を申し入れることはできなかった。
だから王子から婚約破棄をしてもらう必要があったのだ。
だからセジュナと手を組んだ。断罪イベントを利用した。ここまでは上手くいった。計画通りにことは進んでいる。
あともう一押し。ここで止まる訳には行かない。
私の今後がかかっているのだから。
改めて決意を固めると伏せていて視線を上げる。
父と目が合った。オーウェン公爵として、外務大臣としての厳格な顔を見せている父をしっかりと見据え、私は次の言葉を言い放った。
「お父様、お母様。話があります。とても大事な話が」
私の真剣な表情を感じとってか、父は真摯に私を見つめ返して続きを促した。
「なんだい、言ってご覧?」
「はい。それは──」
私が続けて告げた言葉に、父と母は目を見開いた。
*
窓から差し込む明るい日差しに、私の意識は覚醒した。
「ん、朝……?」
もぞもぞとベッドで身動ぎして何とか上半身を布団から覗かせる。
パーティから戻ってきた時間は比較的早かったのに、日付を跨いで両親と話し合いをしていたためとても疲れた。
ようやく話を終えて自室に戻ってきた頃には瞼が半分降りていて、ベッドにダイブすればそのまま寝落ちしていたことだろう。
ミーナに促されるままに化粧を落として風呂に浸かり、夜着を纏ってベッドに入るとすぐに寝てしまった。
「うーん……」
まだ眠さはあるが我慢できないほどではない。大きく伸びをしてベッドから降りると、眠りの余韻を覚ますために空気を入れ替えようと備え付けの出窓を開けた。
この世界にも四季はあり、今は秋から冬にかけてちょうど季節が変わりゆく頃合いだ。
少し肌寒いくらいに感じる風が白いレースのカーテンを揺らす。
窓の縁に肘をつけてぼーっと庭園の風景を眺めていると部屋のドアが控えめにノックされる。
「ミーナです。お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
「ええ、起きているわ。入っていいわよ」
「失礼します」
私の寝落ちを見届けてから自分の仕事を片付けて寝た彼女は間違いなく私より遅くに寝たはずなのに、ミーナはいつもと変わらず完璧な所作と装いで仕事をこなしている。
両親の暴走と言い、私の寝落ちと言い昨日は迷惑をかけてしまったな、と少し反省しながら私はミーナに声をかけた。
「おはようミーナ。昨日はごめんなさいね」
申し訳ない気持ちと感謝の気持ちを込めてアーモンド型の瞳を見つめると、ミーナはにこやかに笑った。
「とんでもございません。私はお嬢様のお世話が大好きなので迷惑なんて思っておりませんよ。あと、おはようございますお嬢様」
「ええ、それでも。いつもありがとう」
「そのお気持ちだけで十分ですよ」
ミーナは少し照れ臭そうに頬を染めながら手を振った。桜色の髪がふんわり揺れて朝日に輝く。
改めて感謝を告げるのは結構恥ずかしいんだな。
なんだかむず痒くなったな。
ミーナの照れている表情を見たら、こちらまで恥ずかしくなってきた。笑って誤魔化したけどバレてないよね。
そうだ。ミーナはなんの用事で入ってきたのだろう。今日は創立記念パーティの影響で学園は休みだ。朝の支度はもう少し遅くてもいいはずなのに。
「ミーナ、用件は?」
「はい。こちらが届いております」
私の問いにすぐさま仕事モードに切り替えた彼女は私に一通の手紙を差し出した。
その手紙の正体に気づき、私は思わず歯噛みする。丁寧に封がされた手紙。その封蝋の紋章に見覚えがあった。
正十字に絡まるように這う蔦。その真ん中に咲くのは、一輪の薔薇。
アルメニア王国王家の紋章だ。
内容は見なくてもわかる。恐らく国王直々の呼び出し、といったところか。
さすがあの国王。婚約破棄の話を聞いてからの対応が迅速だ。
ともあれ、王家からの呼び出しに私の拒否権はない。出仕しなければならないだろう。
ここからが正念場だ。大丈夫。きっと上手くいく。絶対に成功させる。決意を込めて私は固く拳を握りしめた。
肉親だよ? 両親だよ? 家族だよ?
なのにぶっちゃけホラーなんですけど。
目の前の両親の目が軽くイッちゃってるのは気の所為かしら。うん、きっと気のせいだ。そうしよう。そう思うことにしよう。
私は冷や汗をダラダラ流しつつ、本題へ入ることにした。
「お父様、お母様。お気づきかとは思いますけれど、私今日限りを持ちまして、セラーイズル殿下との婚約を解消することになりましたの」
この際回りくどい説明をするよりも率直に説明してしまった方がよい。
もうどうせ薄々勘づかれているのであれば誤魔化す方が悪化させそうだ。
もう丸投げ。なるようになぁれ。うふふ。
半ばやけくそ気味に告げながらも私は即座に体内のミューズを消費するために構える。
この両親は今何をするか検討も付かないので万事に備えなければならない。
「「……」」
軽く身構えたまま恐る恐る両親を見やると二人はニコニコした表情のまま固まっている。
まるで笑顔を無理やり顔に貼り付けているようだ。寝室が静寂に包まれる。
「……」
何だろうか、この間は。
大人しいのは助かるのだけれど、二人の笑顔が怖い。笑顔なのに怖い。表情こそにこやかだが、悪寒が止まらない。
私は思わず肩に羽織っていたショールを手繰り寄せた。
次の瞬間。笑顔を貼り付けたまま、ようやく父が口を開いた。
「そうか……あの王子が。可愛い、我が可愛い一人娘に……婚約破棄。ふふ、ふふふふ……」
続くようにして母も言葉を紡ぐ。
「あらあらまあまあ。アリーシャちゃん、王子に振られちゃったの。……そうなの」
「あの、お父様……お母様?」
──ズドォン!!
突然大きな重圧がかかったように、大気が震えた。
体を押し潰さんばかりの重圧に耐えきれず、床に膝をつく。
気づけばオーウェン公爵邸全体がガタガタと震えていた。まるで大きな地震が来たように。
地震にしても急すぎる。というか、間違いなく原因は両親だ。
我が両親のミューズ許容量は国内随一と言われる私ほど大きくはないが、それでも一般人に比べれば遥かに大きい。
邸全体がガタガタ揺れ、棚から物が落ちる。花瓶が割れ、床が水浸しになっている。
うわああ、やばいやばい! 家が壊れるうう!!
「お嬢様! お屋敷は守りの結界を貼っておりますゆえ、しばらくは持ちます! ですから旦那様と奥様の暴走を抑えてくださいませ!」
傍らから飛んだミーナの鋭い指示に、ハッとする。
そうだ。二人をどうにかしないと。
待機させていたミューズを消費し、すぐに魔術を行使した。
まずは暴走気味になっていた両親のミューズに私のモノをぶつけて相殺。これは王子のカマイタチを相殺したのの応用だ。
これで地震は止まった。あとは──
「お父様、お母様、ごめんなさい!──『落ち着いて』!!」
素早く身を翻し、両親に向かってそれぞれ人差し指を突きつける。
釣られたように指を見た二人はそのままぴしりと固まった。
ミューズによる魔術はもともと人間が行使するにあたり、思いの強さと消費するミューズ量でその質量が決まる。
思いの強さ──つまり、感情も作用のひとつに入るのだ。そして怒りや悲しみなどのより強い感情に反応して暴走する場合もある。
そうなった場合、暴走を止めるのに一番手っ取り早いのが感情の抑制だ。
私は今指に注目させコマンドを介して両親の脳内を刺激し、一時的に軽いショック状態を引き起こした。
これにより感情を抑制させ、落ち着けることが出来るのだ。まぁ感覚的には犬に「待て」と指示した状態に近い。
両親はぱちくりと瞬きをすると、普段の表情に戻った。
よかった。何とか落ち着いてくれたようだ。
私はおどけたように肩を竦めて両親を諌めた。
「お二人共、さすがに家を壊すようなことはやめてくださいね? どうか落ち着いて話を聞いてください」
冷静になってもらわないと話が進まない。
途端に父がしょぼんとしたように肩を落とした。
いつもは娘に甘いけれど、怜悧な美貌の厳格な父が叱られた子どものように見えてちょっと可愛い。不覚にもキュンとしたが無視する。それはそれ。これはこれ。
「ああ、そうだね。済まないアリーシャ。話を続けてくれ」
やっと本題に入れる。ホッと一息着いた私はミーナと顔を見合わせて微笑むと話を進めた。
「──ふむ、王子からの破棄の申し出といのは分かった。お前がそれを了承したことも。だがアリーシャよ」
「はい」
一通り話し終えた私に父が鋭い眼差しを向けた。
その視線に背筋を正して私は受け止める。
「もともとこの婚約は王命によるもの。いくら王子といえど簡単に破棄はできるものではないだろう。これは言ってみれば王子の我儘みたいなものだ。それでも陛下が納得すると思うかい?」
「……いいえ」
外務大臣として、そしてオーウェン公爵としての顔で問われた父の問いに視線を伏せながら私は応えた。
それは最もな指摘だ。
元々この婚約はこのアルメニア王国の国王の命令によって組まれたもの。
いわゆる王命である。余程のことがない限り覆されることは無いし、覆されることがあってならない。この娘煩悩な父が婚約を拒否することも出来なかったし、そのために私は王妃教育を受けてきた。将来王妃としてこの国に君臨することは確定事項のようなものだ。
そして何より私はアルメニア国名門貴族のオーウェン公爵家令嬢。国内随一のミューズ許容量を持ち、大きな力の使い手である。
手駒として確保しておくために婚約を仕組まれた経緯があることも既に把握している。
貴族の政略結婚は当たり前だからその事に特に文句はない。
それが貴族のひいては令嬢に生まれたものとしての義務だと言うことも承知しているつもりだ。
けれど。
その全てを分かっていても、この婚約は絶対に破棄しなければならない。
私の旅に出たいという個人的な理由も、セジュナと王子を結ばせてあげたい、という理由があるのも勿論。けれどそれは一因にすぎない。
最大の要因は別にあるのだ。
私はどうしても婚約を破棄しなければならない。
──「アリーシャ・ウルズ・オーウェン」を殺さねばならない。
けれど王命ゆえに私から婚約破棄を申し入れることはできなかった。
だから王子から婚約破棄をしてもらう必要があったのだ。
だからセジュナと手を組んだ。断罪イベントを利用した。ここまでは上手くいった。計画通りにことは進んでいる。
あともう一押し。ここで止まる訳には行かない。
私の今後がかかっているのだから。
改めて決意を固めると伏せていて視線を上げる。
父と目が合った。オーウェン公爵として、外務大臣としての厳格な顔を見せている父をしっかりと見据え、私は次の言葉を言い放った。
「お父様、お母様。話があります。とても大事な話が」
私の真剣な表情を感じとってか、父は真摯に私を見つめ返して続きを促した。
「なんだい、言ってご覧?」
「はい。それは──」
私が続けて告げた言葉に、父と母は目を見開いた。
*
窓から差し込む明るい日差しに、私の意識は覚醒した。
「ん、朝……?」
もぞもぞとベッドで身動ぎして何とか上半身を布団から覗かせる。
パーティから戻ってきた時間は比較的早かったのに、日付を跨いで両親と話し合いをしていたためとても疲れた。
ようやく話を終えて自室に戻ってきた頃には瞼が半分降りていて、ベッドにダイブすればそのまま寝落ちしていたことだろう。
ミーナに促されるままに化粧を落として風呂に浸かり、夜着を纏ってベッドに入るとすぐに寝てしまった。
「うーん……」
まだ眠さはあるが我慢できないほどではない。大きく伸びをしてベッドから降りると、眠りの余韻を覚ますために空気を入れ替えようと備え付けの出窓を開けた。
この世界にも四季はあり、今は秋から冬にかけてちょうど季節が変わりゆく頃合いだ。
少し肌寒いくらいに感じる風が白いレースのカーテンを揺らす。
窓の縁に肘をつけてぼーっと庭園の風景を眺めていると部屋のドアが控えめにノックされる。
「ミーナです。お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
「ええ、起きているわ。入っていいわよ」
「失礼します」
私の寝落ちを見届けてから自分の仕事を片付けて寝た彼女は間違いなく私より遅くに寝たはずなのに、ミーナはいつもと変わらず完璧な所作と装いで仕事をこなしている。
両親の暴走と言い、私の寝落ちと言い昨日は迷惑をかけてしまったな、と少し反省しながら私はミーナに声をかけた。
「おはようミーナ。昨日はごめんなさいね」
申し訳ない気持ちと感謝の気持ちを込めてアーモンド型の瞳を見つめると、ミーナはにこやかに笑った。
「とんでもございません。私はお嬢様のお世話が大好きなので迷惑なんて思っておりませんよ。あと、おはようございますお嬢様」
「ええ、それでも。いつもありがとう」
「そのお気持ちだけで十分ですよ」
ミーナは少し照れ臭そうに頬を染めながら手を振った。桜色の髪がふんわり揺れて朝日に輝く。
改めて感謝を告げるのは結構恥ずかしいんだな。
なんだかむず痒くなったな。
ミーナの照れている表情を見たら、こちらまで恥ずかしくなってきた。笑って誤魔化したけどバレてないよね。
そうだ。ミーナはなんの用事で入ってきたのだろう。今日は創立記念パーティの影響で学園は休みだ。朝の支度はもう少し遅くてもいいはずなのに。
「ミーナ、用件は?」
「はい。こちらが届いております」
私の問いにすぐさま仕事モードに切り替えた彼女は私に一通の手紙を差し出した。
その手紙の正体に気づき、私は思わず歯噛みする。丁寧に封がされた手紙。その封蝋の紋章に見覚えがあった。
正十字に絡まるように這う蔦。その真ん中に咲くのは、一輪の薔薇。
アルメニア王国王家の紋章だ。
内容は見なくてもわかる。恐らく国王直々の呼び出し、といったところか。
さすがあの国王。婚約破棄の話を聞いてからの対応が迅速だ。
ともあれ、王家からの呼び出しに私の拒否権はない。出仕しなければならないだろう。
ここからが正念場だ。大丈夫。きっと上手くいく。絶対に成功させる。決意を込めて私は固く拳を握りしめた。
2
お気に入りに追加
4,208
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
聖女だったのはお城で召喚された彼女ではなく、前世の記憶を取り戻した嫌われ王女の私だったようです。
慎
恋愛
──その日、更なる王国の繁栄と安寧を求めて古文書より見つけた聖女召喚の儀により異世界から一人の黒髪の少女が聖女として召喚されました…が!
聖女だったのはお城で召喚された彼女ではなく、同じ日の同時刻に巫女だった前世の記憶を取り戻した嫌われ王女の私だったようです。
──────……
─────…
この王国には国の中枢を担う大貴族が存在する。
火・水・土・風の属性を持つ四大貴族だ。というのも、今よりずっと昔、邪悪な魔女の闇の力により滅亡目前の王国を光の属性を持つ異国より訪れし一人の乙女と当時の四人の賢者が救い、魔女を封じたという。
建国秘話 - 聖女伝説 - 【第一章】より
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
悪役令嬢の庶民準備は整いました!…けど、聖女が許さない!?
リオール
恋愛
公爵令嬢レイラーシュは自分が庶民になる事を知っていた。
だってここは前世でプレイした乙女ゲームの世界だから。
さあ準備は万端整いました!
王太子殿下、いつでも婚約破棄オッケーですよ、さあこい!
と待ちに待った婚約破棄イベントが訪れた!
が
「待ってください!!!」
あれ?聖女様?
ん?
何この展開???
※小説家になろうさんにも投稿してます
どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました
小倉みち
恋愛
7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。
前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。
唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。
そして――。
この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。
この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。
しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。
それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。
しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。
レティシアは考えた。
どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。
――ということは。
これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。
私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる