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1章 追放までのあれこれ。
11, 「アリーシャ・ウルズ・オーウェン」
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──「アリーシャ・ウルズ・オーウェン」の人生は完璧だった。
アルメニア王国でも有数の名門貴族オーウェン公爵家の令嬢。美しい両親の元に生まれ、その美貌を受け継ぎ、光を宿したような白金の髪と紅玉のようなルビーの瞳を持つ「天使」と称される容貌を誇った。
それだけに留まらず国内でも随一のミューズ許容量を誇り、将来は偉大な魔術使いになるだろうと評されていた。
生まれ持った才能か、あるいは努力し続けたその結果か、優秀な外相である父からは教養と知識を、近衛騎士であった母からは武術と魔術を学んだ彼女は幼少ながら「天才」と言われるだけの天賦の才を開花させた。
まだ10歳にも満たぬ少女が天才ともてはやされ、神童と持ち上げられれば、たちまち舞い上がって自惚れずにはいられないだろうに彼女はそうすることなく常に高みを求めた。
一つ出来たら次はさらにその上へ。今日中に覚えきれなければ明日はその倍覚え。貪欲に自分を高めることだけを追求した。
そして「自分はまだまだだ。上には上がいる。自分はその人たちに比べれば足元に及ぶべくもないのだ」と常に自分を戒め、卑下し続けた。
そういうストイックな一面をもちつつ、同世代の子とは人並みに付き合いをし、生来の快活で明るい性格を活かし円満な人間関係を築いた。
誰が見ても正真正銘の天才でありながら、それを奢ることなく常に一歩引き、周囲とも良好な関係を築いてしまう彼女はある意味では「できた人間」といえるだろう。
──国王を陰日向から支え、時には導く「王妃」という立場におさまるに相応しいほどに。
王子と歳も近く、家柄も性格も能力も申し分無し。まさしく「アリーシャ」は王妃になるために生まれてきたような子どもだった。
アリーシャはそうして誰からも認められてアルメニア王国の第一王子の婚約者となった。
アリーシャは自分が第一王子の婚約者に選ばれたと知った時、自分が将来王となるものを支え、共に国を導く名誉を与えられたのだと年齢に不相応な思考で感動に打ち震えた。
一方で第一王子のセラーイズル殿下は目を見張るような美少年だと噂が絶えないことを知り、自分は麗しい王子の婚約者になるんだ。お互いに好きになって、愛し合えたら素敵だなあ、と年相応の乙女らしい思考で喜んだ。
そしてアリーシャが8歳になった年、王子とアリーシャの婚約の儀が行われた。
二人は王宮で初めて顔を合わせた。
アリーシャはセラーイズル殿下を目にした時、あまりの美しさに驚いた。サラサラの金の髪。まだ幼い容貌は少年らしさを感じられず、少女だと言われた方が納得出来た。
これほどまでに美しい人は見たことがない。自分はこんなに麗しい人の婚約者となるのか、と。
アリーシャは王子を一目見て、好きになった。
自分は将来この人の王妃となる。ともに切磋琢磨して国を築いていくんだと、国を繁栄させるのだと意気込んだ。
婚約の儀はつつがなく進行し、アリーシャには婚約の証として国王から婚約指輪を与えられた。
金細工の台座におおぶりにカットされたピンク色に輝く宝石。その輝きに目を見張る。
(──ピンクダイヤモンドの指輪! 実物は初めて見たけれどとても綺麗……)
王家の秘宝のひとつ、ピンクダイヤモンドの指輪。鉱山でもめったに取れない非常に希少なピンクダイヤモンド、そのさらにごくわずかしか出土しないより純度の高いものを惜しげも無く大きくカットして指輪の意匠に使ったもの。
代々婚約の儀にて婚約の証として送られるその指輪は、アリーシャが王子の婚約者になったということの何よりの証でもあった。
淡く輝く幻とも言われるその宝石に魅入っていた時、アリーシャの脳内に突然ひとつの映像が入り込んできた。
『──王子と並びたち、たくさんの観衆がいる中で2人で手を取り合い、笑顔でいる姿』
(これは……未来視! いきなり発動するなんて……)
天才と言われるアリーシャは魔術においてもその才能を発揮していた。
僅か8歳でありながら、『未来の可能性のひとつを映像で視る魔術』──未来視を習得していたのだ。
未来を視る……時を超越する魔術は当然発動が難しく、とても八歳の子どもが使えるような魔術ではかった。
つい先日習得したこの魔術は扱いが難しく、時々意図せずして発動してしまうのだ。
けれど、映像でみた王子と自分は仲睦まじい様子で手を繋いでいた。私と王子は将来きちんと結ばれるのだ。よかった。
アリーシャは嬉しくなって微笑んだ。その瞬間王子と目が合う。セラーイズル殿下は微笑んだアリーシャを見てポッと顔を赤くし、ぎこちなくはにかみながらも笑顔を返した。その笑顔にきゅんとくる。
王子も私のことをよく思ってくれているみたいだ。であれば、さっきの未来視は正しいものなのだろう。
益々嬉しくなってアリーシャは気分が良くなる。
その時、再び脳内に映像が浮かんだ。
(2回目の未来視……? 珍しいわね……)
訝しみながらも、アリーシャは映像を注視する。
「……え?」
映像を視た途端、アリーシャは絶句した。思わず、声を漏らしてしまう。
今が婚約の儀の最中であることなど一気に吹き飛んだ。
それくらい衝撃的な内容だった。
「どういうことなの……!?」
混乱して叫んでしまう。一斉にアリーシャに注目が集まるが、そんなことに構っている暇もなかった。
なぜ。どうして。なぜこんな映像が浮かんでくるのか、全く分からなかった。
未来視が伝えてきた映像は──
『──自分がセラーイズル殿下を刺し殺す姿』
だった。
アルメニア王国でも有数の名門貴族オーウェン公爵家の令嬢。美しい両親の元に生まれ、その美貌を受け継ぎ、光を宿したような白金の髪と紅玉のようなルビーの瞳を持つ「天使」と称される容貌を誇った。
それだけに留まらず国内でも随一のミューズ許容量を誇り、将来は偉大な魔術使いになるだろうと評されていた。
生まれ持った才能か、あるいは努力し続けたその結果か、優秀な外相である父からは教養と知識を、近衛騎士であった母からは武術と魔術を学んだ彼女は幼少ながら「天才」と言われるだけの天賦の才を開花させた。
まだ10歳にも満たぬ少女が天才ともてはやされ、神童と持ち上げられれば、たちまち舞い上がって自惚れずにはいられないだろうに彼女はそうすることなく常に高みを求めた。
一つ出来たら次はさらにその上へ。今日中に覚えきれなければ明日はその倍覚え。貪欲に自分を高めることだけを追求した。
そして「自分はまだまだだ。上には上がいる。自分はその人たちに比べれば足元に及ぶべくもないのだ」と常に自分を戒め、卑下し続けた。
そういうストイックな一面をもちつつ、同世代の子とは人並みに付き合いをし、生来の快活で明るい性格を活かし円満な人間関係を築いた。
誰が見ても正真正銘の天才でありながら、それを奢ることなく常に一歩引き、周囲とも良好な関係を築いてしまう彼女はある意味では「できた人間」といえるだろう。
──国王を陰日向から支え、時には導く「王妃」という立場におさまるに相応しいほどに。
王子と歳も近く、家柄も性格も能力も申し分無し。まさしく「アリーシャ」は王妃になるために生まれてきたような子どもだった。
アリーシャはそうして誰からも認められてアルメニア王国の第一王子の婚約者となった。
アリーシャは自分が第一王子の婚約者に選ばれたと知った時、自分が将来王となるものを支え、共に国を導く名誉を与えられたのだと年齢に不相応な思考で感動に打ち震えた。
一方で第一王子のセラーイズル殿下は目を見張るような美少年だと噂が絶えないことを知り、自分は麗しい王子の婚約者になるんだ。お互いに好きになって、愛し合えたら素敵だなあ、と年相応の乙女らしい思考で喜んだ。
そしてアリーシャが8歳になった年、王子とアリーシャの婚約の儀が行われた。
二人は王宮で初めて顔を合わせた。
アリーシャはセラーイズル殿下を目にした時、あまりの美しさに驚いた。サラサラの金の髪。まだ幼い容貌は少年らしさを感じられず、少女だと言われた方が納得出来た。
これほどまでに美しい人は見たことがない。自分はこんなに麗しい人の婚約者となるのか、と。
アリーシャは王子を一目見て、好きになった。
自分は将来この人の王妃となる。ともに切磋琢磨して国を築いていくんだと、国を繁栄させるのだと意気込んだ。
婚約の儀はつつがなく進行し、アリーシャには婚約の証として国王から婚約指輪を与えられた。
金細工の台座におおぶりにカットされたピンク色に輝く宝石。その輝きに目を見張る。
(──ピンクダイヤモンドの指輪! 実物は初めて見たけれどとても綺麗……)
王家の秘宝のひとつ、ピンクダイヤモンドの指輪。鉱山でもめったに取れない非常に希少なピンクダイヤモンド、そのさらにごくわずかしか出土しないより純度の高いものを惜しげも無く大きくカットして指輪の意匠に使ったもの。
代々婚約の儀にて婚約の証として送られるその指輪は、アリーシャが王子の婚約者になったということの何よりの証でもあった。
淡く輝く幻とも言われるその宝石に魅入っていた時、アリーシャの脳内に突然ひとつの映像が入り込んできた。
『──王子と並びたち、たくさんの観衆がいる中で2人で手を取り合い、笑顔でいる姿』
(これは……未来視! いきなり発動するなんて……)
天才と言われるアリーシャは魔術においてもその才能を発揮していた。
僅か8歳でありながら、『未来の可能性のひとつを映像で視る魔術』──未来視を習得していたのだ。
未来を視る……時を超越する魔術は当然発動が難しく、とても八歳の子どもが使えるような魔術ではかった。
つい先日習得したこの魔術は扱いが難しく、時々意図せずして発動してしまうのだ。
けれど、映像でみた王子と自分は仲睦まじい様子で手を繋いでいた。私と王子は将来きちんと結ばれるのだ。よかった。
アリーシャは嬉しくなって微笑んだ。その瞬間王子と目が合う。セラーイズル殿下は微笑んだアリーシャを見てポッと顔を赤くし、ぎこちなくはにかみながらも笑顔を返した。その笑顔にきゅんとくる。
王子も私のことをよく思ってくれているみたいだ。であれば、さっきの未来視は正しいものなのだろう。
益々嬉しくなってアリーシャは気分が良くなる。
その時、再び脳内に映像が浮かんだ。
(2回目の未来視……? 珍しいわね……)
訝しみながらも、アリーシャは映像を注視する。
「……え?」
映像を視た途端、アリーシャは絶句した。思わず、声を漏らしてしまう。
今が婚約の儀の最中であることなど一気に吹き飛んだ。
それくらい衝撃的な内容だった。
「どういうことなの……!?」
混乱して叫んでしまう。一斉にアリーシャに注目が集まるが、そんなことに構っている暇もなかった。
なぜ。どうして。なぜこんな映像が浮かんでくるのか、全く分からなかった。
未来視が伝えてきた映像は──
『──自分がセラーイズル殿下を刺し殺す姿』
だった。
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