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冬休み[お正月]

第124話 初詣 (2)

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※ご注意※

物語の中に性暴力の描写がございます。
お読みいただく際には十分ご注意ください。
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 ――元旦 朝

 駿、亜由美、幸子の三人は、初詣をするために学校から少し離れた神社へ向かって、田園地帯を歩いていた。

「へぇ~、じゃあ全員親の許可得られたんだ、すごいね!」
「はい! 私もお泊りさせていただいて、すごく楽しかったです!」
「『親にウソをつくな』か……駿らしいよね」
「駿くん、隠れることなく私たちの親全員と交渉して、矢面に立ってくれて……信頼って、こうやって勝ち取るんだなって……」

 ふたりの後ろを歩いている駿に目をやる亜由美。

「?」

 よく分からない駿は、笑顔を亜由美に返した。

「クリスマスのこと、さっちゃんから聞いてたの。やっぱ、駿はスゴいわ……」
「今年は亜由美も一緒に楽しもうな! お父さんとお母さんの説得、オレも手伝うからさ!」
「そうね、よろしく頼むわよ!」

 お互いにサムズアップを送り合う。

 やがて、三人の周囲に、初詣に行くと思しき人たちが増えてきた。

「夏祭りの時もそうだったけど、結構参拝客いるみたいだな」
「そうね、住宅地からはちょっと離れてるけど……」
「ちょっとしたお出かけ感覚で参拝される方が多いのかもしれませんね」

 そして、目的地の神社に到着。
 夏祭りの時と同様、参道にはたくさんの出店が出ており、多くの参拝客がごった返している。

「ふたりともハグレないようにね。また変なのに絡まれると面倒だろ」
「はい、駿くんのそばから離れないようにします」
「大丈夫よ~、駿は過保護なんだから」
「オレはふたりのためを思って……」
「さっちゃん、ホラ、行こ!」
「あ……は、はい……」

 幸子を引っ張っていく亜由美。

「まったく……」

 駿は小さくため息をつき、ふたりの後ろをついて行った。

「駿くん、あのお好み焼き屋さん、またいますかね?」
「あー、あのお好み焼き、すっげぇ美味しかったもんな」
「えー、なになに?」
「去年の夏祭りの時に、ここで食べ歩きをしたんですが、すっごく美味しいお好み焼き屋さんがあったんです」
「いなせで綺麗なお姉さんが作っててさ、他よりちょっと高めなんだけど、食べて損無し! って感じ」
「あー、駿は『いなせで綺麗なお姉さん』が目当てなんだ」
「あのな……」
「あっ! 駿くん、いました! ほら、あそこ!」

 大きく「お好み焼き」と書かれたオレンジ色の出店で、年の頃四十代後半から五十代前半位の綺麗な女性が、鉄板を前に手際良くお好み焼きを作っていた。
 幸子たちが近くまで来ると、向こうの女性がこちらに気付く。

「あら、いらっしゃい。夏祭りの時にも来てくれたわよね」
「えっ! 覚えてらっしゃるんですか!」

 驚いた駿。

「ええ、覚えてるわよ。そこの可愛い彼女を連れてたわよね」

 お姉さんは、ヘラで幸子を指す。

「か、か、彼女⁉ ち、違います! お友達です!」
「いいえ、お姉さん、彼女ですよ」
「亜由美さん!」
「じゃあ、彼女ってことでどう? さっちゃん?」
「駿くんまで何言ってるんですか!」

 そんな三人の様子を見て、大笑いしたお姉さん。

「あははははは、初々しくていいね! 三人さん、食べてくかい?」
「先にお参りを済ませてからでもいいですか?」
「はい、はい、じゃあ、気をつけて行っておいで。美味しいの作っとくから」
「じゃあ、ちょっと行ってきます……って、アレ?」

 亜由美と幸子がいない。

「金髪の子に引っ張られて、本殿の方に行ったわよ」
「ちょっと目を離したすきに……もし、あのふたりがここに来たら、待つように伝えていただけますか?」
「はいよ」

 駿はお姉さんに深々と頭を下げ、ふたりを探しに人で溢れる参道を本殿に向かって歩いていった。

 ◇ ◇ ◇

「やった、やった! さっちゃんとふたりきり! 脱出、大成功!」

 幸子の手を引きながら、イシシっと笑う亜由美。

「あ、亜由美さん、駿くんのところに戻りましょう……」

 幸子は不安そうな表情を浮かべていた。
 そんな幸子を安心させるように、笑顔で話し掛ける亜由美。

「ちょっと位、だ~いじょうぶだって! 何食べよっか? リンゴ飴? チョコバナナ? ベビーカステラも美味しそうだよね!」

 亜由美は、近くの出店でベビーカステラとジュースを買った。

「さっちゃん、あっちで食べようよ。ふたりでおしゃべりしよ!」

 本殿の裏手の方へと向かおうとする亜由美。

「亜由美さん、そっちは人気が無くて、危ないですから……」
「人気が無いから、ゆっくりおしゃべりできるんじゃない」

 ポコン ポコン ポコン

「あー……駿のLIMEだ……うっさいな……ちょっと電源切っとこ」
「えっ! 連絡つくようにしておかないと……」
「大丈夫だって!」

 ポコン ポコン ポコン

 幸子は、トートバッグからスマホを取り出した。

「さっちゃんのスマホも電源切っちゃえ!」
「あっ!」

 幸子のスマホを取り上げて、電源を切ってしまう亜由美。

「亜由美さん、お願いですから、駿くんのところに戻りましょう」

 亜由美の顔が無表情に変わった。

「ふ~ん……さっちゃんは、やっぱり私より駿の方がいいんだ?」
「そ、そんなこと言ってません!」

 ニッと笑う亜由美。

「じゃあ、行こうよ! これ食べ切ったら、駿のところに戻ろ! ね?」

 幸子は困った表情を浮かべたが、亜由美はそのまま無理矢理、本殿の裏手に連れて行った。
 日は昇っているものの、本殿を囲む巨木が光を遮り、日中でも周囲は薄暗い。

「ほら、ハンカチ引いたから、ここで食べよ!」
「は、はい……」

 本殿の裏口へ続く階段に腰掛けるふたり。

「あ、このベビーカステラ、美味しい! さっちゃんも食べて、食べて!」
「本当だ……美味しいですね」
「それで、駿とはどこまで進んだの?」
「ど、どこまでって……何も無いですが……」
「え~、アイツ、どこまで腑抜けなのよ、まったく! 泊まった時に、押し倒されたとかないの?」
「あるわけないじゃないですか! 駿くんは、そんなことしません!」

「じゃあ、俺たちが押し倒してあげようか?」

 ハッとして顔を上げたふたり。
 明らかに素人ではなさそうなガラの悪い男が五人、ニヤニヤしながらふたりを見ている。

 ジュースは放置したまま、ベビーカステラをバラバラとこぼしながら、亜由美と幸子は立ち上がった。

「なんの用」

 リーダー格と思しき男が前に出る。

「いや、なんの用も何も、そういうことをしたいのかなぁってな。溜まってんじゃないの? お嬢さんたち」

 下品な言動にゲラゲラ笑う他の4人。

「さっちゃん、行こ」

 幸子の手を引き、参道の方へ戻ろうとした亜由美。
 しかし、ふたりを取り囲んで、それを妨げる男たち。

「おっと~、ダメダメ~、俺たちと遊ぼうよ」
「ツレが待ってるんで」
「さっき言ってた、腑抜けの彼氏かな? こんな可愛い子に手も出せないフニャチン野郎なんだろ? 俺ならお嬢さんを満足させられるぜ」
「犬の糞の方がましよ」

 亜由美の一言に、周りの四人が大笑いした。

 バチンッ

 リーダー格の男が、亜由美の頬を張る。

「このクソアマ……」

 そのまま亜由美を階段に押し倒した。

「やめろー!」

 ドンッ

 幸子がリーダー格に体当たりをする。
 リーダー格は、思わずバランスを崩し、横に倒れてしまった。

「亜由美さん、立って!」

 亜由美の手を引き、男たちの間を抜けようとする幸子。
 しかし、他の男たちの妨害に会う。
 本殿を取り囲む巨木のところに追い詰められたふたり。

「これ以上逃げようとしなきゃ、俺たちも乱暴なことはしねぇよ。一緒に遊ぼうぜ、な」

 亜由美の顎を手を持つリーダー格。

 パシンッ

 幸子はその手を払い、亜由美を守るように間に入り、手を広げた。

「さっちゃん……」
「ちっ、なんだこのチビッコは……お前、よく見ると、顔がシミだらけじゃねぇか。気持ち悪ぃな……お前はいらねぇ」
「痛いっ!」

 ドサッ

「さっちゃん!」

 リーダー格は、幸子の髪の毛を掴んで横に放る。
 小柄な幸子は、そのまま地面に倒れ込んでしまった。

「兄貴! この子、俺もらっていいですか?」

 四人のうちのひとりが声を上げる。

「お前、ロリコンかよ……そんな気持ち悪ぃチビブス、いらねぇよ。やる」
「やったー!」

 喜んでいる男が幸子をいやらしい目で、ニタつきながら見ていた。
 睨みつける幸子。
 それでも、男は一歩一歩近づいてきた。

「ほ~ら、おにいちゃんと楽しく遊ぼうねぇ~」

 幸子に手を伸ばす男。
 そんな男に呆れ、亜由美に向き直るリーダー格。

 ガスッ  ドサッ

「?」

 リーダー格は、再度幸子の方へ目をやる。
 が、すぐ目の前に見知らぬ若い男がいた。

「その子を離せ……フンッ!」

 ガヅンッ

 リーダー格の顔面に、身体のねじれと左手の引きを利用した目一杯の肘が叩き込まれた。
 そのまま地面に倒れるリーダー格。
 幸子に手を出そうとしていた男も、地面に倒れており動かない。
 他の三人は、突然の出来事に唖然としている。

「駿……」
「亜由美、すぐ逃げろ……」

 幸子も慌てて身体を起こした。

「亜由美さん!」

 我に帰る三人の男。
 逃げる幸子と亜由美を妨害しようとする。

「行け! 早く!」
「さっちゃん、こっち!」
「はい!」

 亜由美と幸子は、三人の男がいるのとは逆の本殿裏手のさらに奥へと走っていった。
 駿は、ふたりが走っていった方へ移動し、追手を遮る。
 残った三人の男が駿を取り囲んだ。

「ふん……相手してやっから、かかってきな」

 男たちを挑発する駿。

「クソガキ……ぶっ殺してやる……よくも兄貴を……」

 三人の男が駿に襲いかかった。

 ◇ ◇ ◇

 亜由美と幸子は、本殿をぐるりと周り、少し明るい場所に出たところで足を止めた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、さっちゃん、大丈夫⁉」
「はぁ、はぁ、は、はい、大丈夫です……」

 スマートフォンを取り出す亜由美。

「すぐに警察に……くそっ、電源切ってたんだ! 早く起動して……早く……」

 バサッ

「!」

 厚い布のめくれる音がした。
 追手が来たのかと、音のした方を見るふたり。

「あれ? アンタたち……」

 そこには、お好み焼き屋のお姉さんが立っていた。

「お姉さん!」

 幸子は、お姉さんに抱きつく。

「え? え? なんだい、これ?」
「お姉さん、何でここに……」
「出店者の本部と休憩所なのよ、このテント」

 すぐ目の前にある大型のテントを指差したお姉さん。

「それより、どうしたんだい。ふたりとも泥だらけじゃないか」

 お姉さんにすがりつく亜由美。

「お姉さん! 警察を呼んでください! 駿が……駿が……!」

 亜由美は、涙をこぼしながら叫んだ。


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