プラチナピリオド.

ことわ子

文字の大きさ
23 / 36

ナナくん【ゼン】

しおりを挟む

 毛布で優しく包まれた感覚で目を覚ました。
 そういえば、昨日俺は床で寝たのだと思い出す。

 トナミ……? 起きたのか……?

 ここで急に起きたら驚かせてしまうかと思い、寝たフリを続ける。薄目で様子を確認するが、トナミは俺の前から動こうとしない。
 しばらくの沈黙の後、トナミが立ち上がった。壁にかけてあった上着を羽織り、カバンも持たずに家から出ていく。

 こんな夜中に……?

 俺は慌てて起き上がって時計を見た。午前一時過ぎ。こんな時間から出かけるのは明らかに不自然で、昼間のトナミの様子も加わって、激しい胸騒ぎがした。
 急いで着替えると俺も家を飛び出す。トナミに見つからないように周囲を探していると、大通りでタクシーを拾っているトナミを見つけた。

 やば……!

 トナミが乗り込んだすぐ後ろのタクシーを停める。慌てて乗り込んでトナミが乗っているタクシーを指差す。

「あ、の……前のタクシー追ってください!」
「え……?」

 運転手の反応も合わさり、埋まりたいくらい恥ずかしくなる。ドラマでしか聞かないようなセリフをまさか自分が言うことになるとは思ってもみなかった。

「あいつ、忘れ物気付かないで家出て行っちゃって……!」
「あ、そうなんですかー……」

 こんな時間に? スマホに連絡入れれば? そう運転手の顔が言っている。俺だってそれが出来る状況ならとっくにそうしている。

「一応聞きますけど、何かのトラブルじゃないですよね……?」
「違います!」
「じゃあ、まぁ……」

 運転手は渋々といった様子で車を出してくれた。幸い、すぐ近くの信号に引っかかってくれていたお陰で見失わずに済んだが、内心ヒヤヒヤした。
 俺は深く息を吐き、窓にもたれかかって目を閉じた。

 昨日、俺が仕事から帰ると、トナミはベッドの上で丸くなって寝ていた。前にも見たような光景だな、と静かに近づくと、何故か毛布を頭から被り、まるで繭のように閉じこもっていた。
 俺は声をかけようとして、やめた。
 トナミに触れようとして拒絶されたことを思い出したからだ。
 俺は仕方なく、床で寝ることにした。
 トナミが今どんな状況かは分からないが、一緒のベッドで寝るのは違う気がした。明日になったら元気になっていて欲しいと思うが、難しいかもしれないなと思う。
 トナミがこうなってしまった理由を知りたい自分と、そこまで踏み込むのが怖い自分が隣り合わせでトナミを見ている。
 どちらも共通してトナミの心配をしているのに、自分の中で整理がつかない。
 結局は、トナミが自分から話してくれるまでは待つ、と場を濁した。

 それなのに、今、俺は衝動的にトナミを追っている。いくら心配とはいえトナミは子どもではない。待つと決めたなら、トナミが帰ってくる場所で待っていればいいはずなのに。
 ちら、と窓の外を見る。
 段々と街に色とりどりの光が増えてくる。車通りも多くなっているところを見ると、繁華街が近いようだ。
 それから五分ほど走った後、トナミの乗ったタクシーは大通り横の道に停車した。
 そこから少し後ろに俺のタクシーも停まった。
 急いでお金を払い、トナミの後を付ける。
 トナミはふらふらとした足取りでいかにもな店が密集するビルの路地裏へと入っていった。

 こんな所になんの用があるんだ……?

 夜中とは思えないほど騒がしい街に溶け込んでいくトナミを見て背筋が凍った。道端で酒を飲んで暴れる人や肩を組みながら千鳥足で店から出てくる人の波を掻き分けてトナミを追う。
 意外にも、路地裏に入ると辺りは静かになり、人の気配も一気に少なくなった。
 と、トナミが急に立ち止まった。どうやら奥は行き止まりになっているようで、辺りを気にしている。

「ナナくん、待ってたよ」

 知らない男の声がする。建物の陰になって顔は見えないが声からして結構なおじさんだろう。

「マサシさん、会いたかった」

 ……え?

 ナナくん、と呼ばれたトナミは俺が知らないようなざらりとした甘い声で、そいつを呼んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...