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16.『推し』ですっ!
『推し』ですっ!①
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「皆様、機長の貴堂です。当機は右エンジンに不具合が発生したため、羽丘国際空港に引き返します。現在飛行機は落ち着いている状態です。当機は燃料を消費し安全に着陸するため、しばらく上空を旋回します。左エンジンだけでも十分に、かつ、安全に着陸できます。引き続きシートベルトをお付けになって、お席でお待ちください。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけいたします」
英語で同じ内容を繰り返したあと、貴堂は機内アナウンスを切り替える。
「よし、替わろう。I have control」
「You have control」
上空を旋回している間に降ろせる機体は全て降ろし、待機できる機体には待機してもらう。
貴堂の機を降ろす滑走路は閉鎖になり、会社、消防とも連携していよいよ着陸、ということになった。
管制から着陸許可が降り、着陸の準備に入る。
右エンジンが故障した場合、左エンジンは右への片揺れを起こし、進路を右寄りに変えようとする。
その可能性を見越して、ジェット機メーカーはラダー(方向陀)とエルロン(補助翼)に、必要に応じて片揺れを打ち消す制御をしているのだ。
警告からも片揺れを制御するラダーやエルロンの不具合が起きていないことは確認できていた。
『前輪がうまく動かないショッピングカートを押そうとしているようなもんだな』
飛行訓練をしていた時の教官の言葉だ。
ちなみにその教官はその言葉の後、笑顔で片方のエンジンを止めた。
航大時代のナンバーワンくらいにマジか!?と思った出来事だった。
しかし後から思うと、なるほどと貴堂が思った例えである。
右車輪が破損しているカートは右に動いていこうとする。けれど、強く抑えてやれば真っ直ぐ進むことが可能だ。
そして、貴堂は今搭乗しているような完全制御の機体ではない飛行機で、片側のエンジンを上空で止められるような訓練をしてきているのだ。
貴堂が機体の制御に集中するため、操作や管制とのやり取りを立花が引き受ける。
貴堂はもう一度機内にアナウンスする。
「大変お待たせいたしました。ただいまより当機は着陸態勢に入ります。着陸時に通常より揺れることも予想されますので、安全体勢をお取りください」
機体を真っ直ぐに安定させて、貴堂はゆっくりとコースに進入させる。
正面に真っ直ぐ伸びている滑走路が見えた。
タイヤが接地面に触れ、若干ハードなランディングにはなったが、それでも乗客が恐怖を憶えるほどではなかったはずだ。
◇ ◇ ◇
──まだ着陸まで時間はあると言ってたわ。
デッキに上がった紬希は一番先端の滑走路がよく見えるところまで早歩きで歩く。
飛行機の観覧に来ているのか、見送りなのか、小さい子供を連れた母子がいて「ひこうき、こないねぇ」と言っている。
その時、紬希はJSAの白と濃紺の機体が小さく空にチカッと光ったのを見た。
降りてくるのは貴堂の機体だけだと雪真は言っていたのだ。
英語で同じ内容を繰り返したあと、貴堂は機内アナウンスを切り替える。
「よし、替わろう。I have control」
「You have control」
上空を旋回している間に降ろせる機体は全て降ろし、待機できる機体には待機してもらう。
貴堂の機を降ろす滑走路は閉鎖になり、会社、消防とも連携していよいよ着陸、ということになった。
管制から着陸許可が降り、着陸の準備に入る。
右エンジンが故障した場合、左エンジンは右への片揺れを起こし、進路を右寄りに変えようとする。
その可能性を見越して、ジェット機メーカーはラダー(方向陀)とエルロン(補助翼)に、必要に応じて片揺れを打ち消す制御をしているのだ。
警告からも片揺れを制御するラダーやエルロンの不具合が起きていないことは確認できていた。
『前輪がうまく動かないショッピングカートを押そうとしているようなもんだな』
飛行訓練をしていた時の教官の言葉だ。
ちなみにその教官はその言葉の後、笑顔で片方のエンジンを止めた。
航大時代のナンバーワンくらいにマジか!?と思った出来事だった。
しかし後から思うと、なるほどと貴堂が思った例えである。
右車輪が破損しているカートは右に動いていこうとする。けれど、強く抑えてやれば真っ直ぐ進むことが可能だ。
そして、貴堂は今搭乗しているような完全制御の機体ではない飛行機で、片側のエンジンを上空で止められるような訓練をしてきているのだ。
貴堂が機体の制御に集中するため、操作や管制とのやり取りを立花が引き受ける。
貴堂はもう一度機内にアナウンスする。
「大変お待たせいたしました。ただいまより当機は着陸態勢に入ります。着陸時に通常より揺れることも予想されますので、安全体勢をお取りください」
機体を真っ直ぐに安定させて、貴堂はゆっくりとコースに進入させる。
正面に真っ直ぐ伸びている滑走路が見えた。
タイヤが接地面に触れ、若干ハードなランディングにはなったが、それでも乗客が恐怖を憶えるほどではなかったはずだ。
◇ ◇ ◇
──まだ着陸まで時間はあると言ってたわ。
デッキに上がった紬希は一番先端の滑走路がよく見えるところまで早歩きで歩く。
飛行機の観覧に来ているのか、見送りなのか、小さい子供を連れた母子がいて「ひこうき、こないねぇ」と言っている。
その時、紬希はJSAの白と濃紺の機体が小さく空にチカッと光ったのを見た。
降りてくるのは貴堂の機体だけだと雪真は言っていたのだ。
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