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13.先にあるもの

先にあるもの④

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 本当は今すぐ奪い返したい。
 大丈夫だよと言って、泣き虫の紬希を甘やかしてあやすのは自分でありたいのに。

 関係性を作っている最中だった。少しずつ紬希の信頼を得られていた。
 今まで築いてきたものがすべてなくなってしまったとは思わないけれど、紬希が頑張ってくれていて、それに甘えて油断したことも間違いではない。

 紬希が強くなればいいとは思わない。彼女は彼女なりのしたたかさや強さをきちんと持っている。
 その繊細さや、優しさも含めて惹かれたのだから。

「花小路くん、申し訳ないけれど、もし時間が許すなら紬希を送ってもらってもいいか? 紬希、本当にごめんな。また連絡する」

 紬希は何か言いたげにして貴堂を見ていたけれど、その口から何かを発せられることはなくて、それを振り切るようにして貴堂は車に乗り込み、エンジンをかけた。

「どうしよう、雪ちゃん。きっと貴堂さんを困らせたわ。貴堂さんは悪くないのに、謝らせてしまった」

 雪真が紬希を車に乗せて自宅に向かう中、震える声で紬希はそんな風に言う。

「悪くない? どこが? 僕や透がどれだけ紬希を大切にしてきたと思ってる?」
 普段は物静かな雪真が少しだけイライラとした口調なのを隠しもしなくて、紬希は慌てて言った。

「雪ちゃん、貴堂さんはとても大事にしてくれていたのよ」
「じゃあ、なぜ今紬希はそんなに泣きそうな顔をしているんだ?」

「お願い雪ちゃん、責めないで……」
 雪真は車を路肩に停めた。
「責めてないよ、紬希」

 いつも変わってあげられたらどれほどいいのに、と雪真は思うのだ。傷つかないでほしい。
 紬希にはいつも笑って幸せでいてほしいのに。



 空港で紬希が見た女性はとても華やかで、貴堂にとてもお似合いだった。

 貴堂には笑顔を向けていたけれど、時折『貴堂さんになぜあなたなの?』と言いたげな視線を紬希に向けていた。

「なにがあったの?」
 車の中に穏やかな雪真の声が響いた。

 デッキで待ち合わせをして、駐車場に向かう途中で立花親子に会ったのだと紬希は説明する。

「で?」
と綺麗で整った顔で雪真は首を傾げる。
「それだけじゃないでしょう?」

 紬希は言いよどんだ。

「それだけのことで、貴堂さんが判断を誤ったとまで言うとは、僕には思えないんだよね。立花部長のお子さんてこうさん?」
「航さんがどんな方か分からないけれど、女性だったわ。兄が、と言っていたから妹さんなんだと思う」

「それは僕も知らないな。立花部長は航大卒で、貴堂さんも航大出なんだ。僕の印象では航大卒って縦も横の繋がりも結構強いってイメージ。立花部長も貴堂さんのことは特別可愛がってた感じがする。だからプライベートでの付き合いがあっても驚かないけれど、その妹さん? 貴堂さんのこと好きなんだろう」

「とても綺麗な人だったの」
「だから?」
「だからって……」

「紬希、君自分もとても綺麗なのだと分かってる?」
「そんなこと……っ」
 紬希は首を横に振る。
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