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13.先にあるもの
先にあるもの③
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貴堂が優秀であることも十分理解しているし、その人柄に間違いがないことも分かっている。
パイロットとしての腕や、人格については理解しているけれど、こと女性関係については上手くいっていないというような話も聞いていた。
それは派手だとか、軽いとかそういうことではなくお相手の女性は「とても素敵だし、すごく優しいんですけどね……うん」と濁すような雰囲気なのだ。
貴堂はパイロットという仕事と空が好きすぎるのだ。その分恋愛事のパートナーに気が行かない。
パイロットにこれほど向いている人材もなかなかいないけれど、人生はそれだけではない。
そんなことに立花はすこし心配もしていたのだ。
自宅によく来ていた貴堂に、娘の紫が憧れを持っていることはなんとなく察してはいた。
けれど、紫は自分の方を向かない男性にも心を尽くせる性格かと言うとそうではない。
末っ子で甘えん坊。
交際相手にもいつでも自分を見ていてほしいという願望のある子だ。娘は貴堂には向かない。
貴堂に合うのは貴堂がどこを見ていても、仕事でも空でも、それを心から応援することのできる人だ。
そして、なおかつ自分を持っている人。
一緒にいたあの女性がそうならいい、と立花は思った。
◇ ◇ ◇
「大丈夫?」
「だ……いじょうぶです……」
しまったと貴堂は思っていたのだ。
──本当に浮かれすぎた。
デッキから駐車場に向かうまでも、人の少ない通路を選んだはずだったのに、まさか声をかけられるとは思っていなかったのだ。
立花だけならまだ良かったのかもしれないが、紫のこれ見よがしな態度は正直、貴堂も好むところではない。ましてや紬希はなおさら苦手だろう。
ふと見た紬希の顔色が真っ白になっていて、大丈夫とは言っているけれど、先程までの表情とは全く違う。
「すまない。本当に申し訳ない」
「あのっ、貴堂さんは悪くないです! 私が……いけないんです。気にしなければいいのに。ごめんなさい。気を遣わせてしまって。ごめんなさい。今日は、帰ります」
「紬希」
貴堂がそっと肩を抱いたら、びくっと身体が逃げる。
「ごめんなさい。わざとじゃなくて……すみません」
ごめんなさいと何度も謝って俯いてしまう紬希だ。
「どうしても、帰る?」
「すみません。本当に貴堂さんは悪くないです。私が……」
これ以上引き止めても、紬希は自分を責めるだけになってしまう、と判断した貴堂は紬希を送ることにした。
「分かった」
車に向かった時だ。
「貴堂さん?」
いつもはこんな風に人に会うことはないのに、今日に限ってはなんなんだ?と貴堂が振り返るとそこにいたのは花小路だったのだ。
「紬希?」
「雪ちゃん……」
紬希は雪真に2、3歩歩み寄る。
それだけで何かを察したのか、雪真は駆け寄ってきた。
「何か、あったんですか?」
雪真は貴堂に尋ねる。
「僕が……判断を誤って……」
「いえ。貴堂さんは悪くありません」
半分泣きそうになりながらも紬希は一生懸命伝える。その手が雪真の腕をしっかり掴んでいて、先ほど貴堂が触れたときは逃げていた身体が雪真には逃げていないのを見て貴堂は胸が詰まりそうになった。
パイロットとしての腕や、人格については理解しているけれど、こと女性関係については上手くいっていないというような話も聞いていた。
それは派手だとか、軽いとかそういうことではなくお相手の女性は「とても素敵だし、すごく優しいんですけどね……うん」と濁すような雰囲気なのだ。
貴堂はパイロットという仕事と空が好きすぎるのだ。その分恋愛事のパートナーに気が行かない。
パイロットにこれほど向いている人材もなかなかいないけれど、人生はそれだけではない。
そんなことに立花はすこし心配もしていたのだ。
自宅によく来ていた貴堂に、娘の紫が憧れを持っていることはなんとなく察してはいた。
けれど、紫は自分の方を向かない男性にも心を尽くせる性格かと言うとそうではない。
末っ子で甘えん坊。
交際相手にもいつでも自分を見ていてほしいという願望のある子だ。娘は貴堂には向かない。
貴堂に合うのは貴堂がどこを見ていても、仕事でも空でも、それを心から応援することのできる人だ。
そして、なおかつ自分を持っている人。
一緒にいたあの女性がそうならいい、と立花は思った。
◇ ◇ ◇
「大丈夫?」
「だ……いじょうぶです……」
しまったと貴堂は思っていたのだ。
──本当に浮かれすぎた。
デッキから駐車場に向かうまでも、人の少ない通路を選んだはずだったのに、まさか声をかけられるとは思っていなかったのだ。
立花だけならまだ良かったのかもしれないが、紫のこれ見よがしな態度は正直、貴堂も好むところではない。ましてや紬希はなおさら苦手だろう。
ふと見た紬希の顔色が真っ白になっていて、大丈夫とは言っているけれど、先程までの表情とは全く違う。
「すまない。本当に申し訳ない」
「あのっ、貴堂さんは悪くないです! 私が……いけないんです。気にしなければいいのに。ごめんなさい。気を遣わせてしまって。ごめんなさい。今日は、帰ります」
「紬希」
貴堂がそっと肩を抱いたら、びくっと身体が逃げる。
「ごめんなさい。わざとじゃなくて……すみません」
ごめんなさいと何度も謝って俯いてしまう紬希だ。
「どうしても、帰る?」
「すみません。本当に貴堂さんは悪くないです。私が……」
これ以上引き止めても、紬希は自分を責めるだけになってしまう、と判断した貴堂は紬希を送ることにした。
「分かった」
車に向かった時だ。
「貴堂さん?」
いつもはこんな風に人に会うことはないのに、今日に限ってはなんなんだ?と貴堂が振り返るとそこにいたのは花小路だったのだ。
「紬希?」
「雪ちゃん……」
紬希は雪真に2、3歩歩み寄る。
それだけで何かを察したのか、雪真は駆け寄ってきた。
「何か、あったんですか?」
雪真は貴堂に尋ねる。
「僕が……判断を誤って……」
「いえ。貴堂さんは悪くありません」
半分泣きそうになりながらも紬希は一生懸命伝える。その手が雪真の腕をしっかり掴んでいて、先ほど貴堂が触れたときは逃げていた身体が雪真には逃げていないのを見て貴堂は胸が詰まりそうになった。
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