その男、有能につき……

大和撫子

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百十七話

秘密の遊び・後編

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 セディは身を乗り出すようにして瞳を輝かせ、紡ぎ出す物語に聞き入っている。それがとても嬉しい。こうして
誰かと会話をするのが、訳もなく楽しかった。国王陛下に創作物語を読んで貰っている時と気分の高揚感がまるで違う。そりゃ、普通に考えたら、国王の愛人(いささかこの言葉に当てはめるのは少し意味合いが異なるような気はするが)という立ち場で物語を創作するのと、セディに物語を即興で作って語り聞かせるのとでは違って当たり前の事なんだろうけれど。

 だが、セディには時間が限られている。いつここから消えるか分からないのだ。物語は長くても五千文字以内に完結させた方が良いだろう。

「……そうしてセディ坊やはお家に帰ってきましたとさ、おしまい」
「うわぁ!」

 うふふふふ、とセディは得意そうに笑った。良かった、最後までお気に召して貰えたようだ。安堵しつつ、外との様子をそれとなく伺う。白っぽい壁面が見えるところからして、恐らく城の内部に入ったのだろう。良かった、セディの本体は問題なく普通の状態なのだ。

 ……そうだ! 本人に少し、聞いてみようか。もし、俺にも出来たら……

「なぁ、セディ」
「うん? なぁに?」
「あのさ、ここには……どうやって来たのかな?」

 セディは一瞬だけキョトンとした後、質問の意味が把握出来たように破顔した。

「うん。あのね、おもうだけなの」
「思うだけ? ここに来たい、て思っただけで来れた、て事かな?」
「うん! あ、これみつがいる! あそびたいな、ておもったの」
「うんうん、それで?」
「でもね、ここはちいさくてはいれないから。おもっただけなの。ちょっとだけしかいられないけど」
「そうなんだ」
「うん」

 そしてセディは再びうふふふふ、と笑った。なるほど、思っただけか。意識して飛ばす生霊みたいな感じか。……いや、まぁ……意識して生霊を飛ばした経験なんてないけど、何となくなイメージで。

「なるほどな、有難うな。そういうのって、俺にも出来ればいいなぁ」

 ポロリと本音を漏らしちまった。そんな事、言ってみてもセディが困るだけなのに。

「あーごめんなセディ、その……」
「できるよ!」

 俺の謝罪と、セディの肯定の台詞が同時だった。

「え? 出来る?」
「うん。にぃたんはね、できるよ!」

 したり顔で断言する彼に、一瞬時が止まった気がした。

「……で、出来る?」
「うん!」
「それは、どうやって……」
「あのね、あ!」

 彼はハッとしたように虚空を見上げると、テヘへと照れたように笑った。

「もういくね、また『ひみつのあそび』しようね」
「セディ?」
「おもうだけだよ」
「思うだけ?」
「またね」

 少しずつ体が透けていき、スーッと掻き消えるようにして消えていった。輝くような笑みを残して。後には、水を打ったような静寂が広がる。

 思うだけで、実体を伴う魂(?)が行きたい場所に行けるのだろうか、本体はこの場で通常生活を送りながら。そんな、夢のような魔術……俺に使えるのか? 何故か、左手首がじんわりと熱くなって来る。何となく、物は試しだ、やってみよう。そんな気分になった。ピーンと後頭部が何かに弾かれたように刺激を感じた。そして閃く。

 王子と俺の、秘密の場所に通ずる呪文が胸の奥から溢れ出る。言の葉が流れるままに、そっと呟いた。

「光と闇の精霊達よ、ラディウスの名の元、我をの地へ導きたまえ」

 不思議と、穏やかな気持ちだった。大丈夫、何があっても守られる、そんな根拠なき確信に満ちた安心感があった。果たして……
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