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第百十七話
秘密の遊び・前編
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取り敢えず、セディに目線を合わせるようにしてしゃがみ込む。無邪気に、それは嬉しそうに笑うセディは問う膳のように抱きついて来た。しっかりと受け止めつつ、もう一度外の様子を窺う。問題なく城に近付いているようだ。ファーガスは、他の従者たちと行動を共に城を目指している様子が見て取れる。……と言う事は、外に居るセディには特に問題ないと見て大丈夫だろう、取りあえずは。だけど……
突如として、建国記念日の時にセディに化けたアルフォンスの事が脳裏を過る。フラッシュバックのように、その時の恐怖と不快感が怒涛のように押し寄せた。頭がクラクラする……胃がムカムカして吐きそうだ。
「にいたん?」
不思議そうに問いかけるセディの声に、我に返る。大きな枯草色の瞳に、邪な影は見えない。落ち着け、俺。あれはもう終わった事だ。大きく深呼吸を一度行う。さぁ、気持ちを切り変えよう。大丈夫、ここほど安全に守られた空間はないんだ。
「久しぶりだな、セディ」
笑顔で応じ、それとなく状況を探ろう。そのまま彼を抱き上げ、ソファへと移動していく。彼は風空界のプリンスなのだ、本来なら敬語で接するべきだろうけれど。二人だけの空間だし、このままで良いかな。もし万が一不敬罪に問われるなら、それこそここから出られる絶好の機会だし。まぁ、そんな事にはならないだろう。
「元気にしてたか?」
そう訪ねつつ、ソファへと座らせた。もしかして、魂だけ抜け出て来たなら、早く本体に戻してやらないと拙いんじゃないかなぁ。あ、でも幽体離脱とは違うのかな……
「うん! あいたかった、これみつ!」
嬉しそうに破顔した。名前を覚えていてくれたのかと嬉しくなる。セディの目線に合わせて、彼の前に立ち膝の姿勢を取った。さて、どういう事なのか確かめてみよう。もしかしたらここから出られるヒントがあるかもしれない。もしセディの身に危険がありそうなら、本体に戻るように促さないといけないし。
「俺も嬉しいよ。……ところで、ここに来ている事は誰か知っているのかな?」
彼は得意気に二ッと笑った。そして大きく横に頭を振った。
「もしかして誰も知らないのか?」
それ、拙いんじゃ……
「うふふふふ、だいじょうぶなの」
とセディは両手を握りこぶしにして口元にあて、クスクスと笑った。前会った時よりも随分としっかりして少し身長も伸びたように見受けられる。
「大丈夫……なのか!?」
「うん。でもね、あんまりおじかんがとれないの」
「そうか。じゃあちょっとだけここにいられる、て事かな?」
「そう!」
セディは大きく頷きながら、嬉しそうに右手を天にあげた。再び両手に握りこぶしを作ると、うふふふふ、と笑う。こうして間近で見ると、睫毛が物凄く長くて、瞬きする度にバサバサと音を立てそうだ。
「戻らないといけない時は分かるのか?」
これ、確認しておかないとな。
「うん。あのね、しぜんにきえちゃうから」
あぁ、それなら良かった。
「そっか。じゃあ、それまでの時間だな」
「うん、だからね、ヒミツのあそびだよ! あそぼ、これみつ!」
「おう、いいぞ! 何して遊ぶ?」
「えーとね、おはなしつくって!」
俺の創作物語を気に入ってくれていたみたいで、何だか嬉しい。忘れずにいてくれた事が。
「よーし、任せておけ。どんなお話が聞きたい?」
「うーんとね、セディがうみをわたるおはなし」
「そうか、分かった」
今だけ、束の間だけど。この瞬間を楽しんでみるのも良いかもしれない。キラキラと好奇心に輝く瞳を受けとめる。セディの希望を叶えるべく、『一寸法師』と『千夜一夜』をベースにアレンジした物語を頭の中で組み立てつつ、ゆっくりと語り始めた。
「むかーしむかし……」
突如として、建国記念日の時にセディに化けたアルフォンスの事が脳裏を過る。フラッシュバックのように、その時の恐怖と不快感が怒涛のように押し寄せた。頭がクラクラする……胃がムカムカして吐きそうだ。
「にいたん?」
不思議そうに問いかけるセディの声に、我に返る。大きな枯草色の瞳に、邪な影は見えない。落ち着け、俺。あれはもう終わった事だ。大きく深呼吸を一度行う。さぁ、気持ちを切り変えよう。大丈夫、ここほど安全に守られた空間はないんだ。
「久しぶりだな、セディ」
笑顔で応じ、それとなく状況を探ろう。そのまま彼を抱き上げ、ソファへと移動していく。彼は風空界のプリンスなのだ、本来なら敬語で接するべきだろうけれど。二人だけの空間だし、このままで良いかな。もし万が一不敬罪に問われるなら、それこそここから出られる絶好の機会だし。まぁ、そんな事にはならないだろう。
「元気にしてたか?」
そう訪ねつつ、ソファへと座らせた。もしかして、魂だけ抜け出て来たなら、早く本体に戻してやらないと拙いんじゃないかなぁ。あ、でも幽体離脱とは違うのかな……
「うん! あいたかった、これみつ!」
嬉しそうに破顔した。名前を覚えていてくれたのかと嬉しくなる。セディの目線に合わせて、彼の前に立ち膝の姿勢を取った。さて、どういう事なのか確かめてみよう。もしかしたらここから出られるヒントがあるかもしれない。もしセディの身に危険がありそうなら、本体に戻るように促さないといけないし。
「俺も嬉しいよ。……ところで、ここに来ている事は誰か知っているのかな?」
彼は得意気に二ッと笑った。そして大きく横に頭を振った。
「もしかして誰も知らないのか?」
それ、拙いんじゃ……
「うふふふふ、だいじょうぶなの」
とセディは両手を握りこぶしにして口元にあて、クスクスと笑った。前会った時よりも随分としっかりして少し身長も伸びたように見受けられる。
「大丈夫……なのか!?」
「うん。でもね、あんまりおじかんがとれないの」
「そうか。じゃあちょっとだけここにいられる、て事かな?」
「そう!」
セディは大きく頷きながら、嬉しそうに右手を天にあげた。再び両手に握りこぶしを作ると、うふふふふ、と笑う。こうして間近で見ると、睫毛が物凄く長くて、瞬きする度にバサバサと音を立てそうだ。
「戻らないといけない時は分かるのか?」
これ、確認しておかないとな。
「うん。あのね、しぜんにきえちゃうから」
あぁ、それなら良かった。
「そっか。じゃあ、それまでの時間だな」
「うん、だからね、ヒミツのあそびだよ! あそぼ、これみつ!」
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「むかーしむかし……」
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