その男、有能につき……

大和撫子

文字の大きさ
上 下
175 / 186
第百十七話

秘密の遊び・前編

しおりを挟む
 取り敢えず、セディに目線を合わせるようにしてしゃがみ込む。無邪気に、それは嬉しそうに笑うセディは問う膳のように抱きついて来た。しっかりと受け止めつつ、もう一度外の様子を窺う。問題なく城に近付いているようだ。ファーガスは、他の従者たちと行動を共に城を目指している様子が見て取れる。……と言う事は、外に居るセディには特に問題ないと見て大丈夫だろう、取りあえずは。だけど……

 突如として、建国記念日の時にセディに化けたアルフォンスの事が脳裏を過る。フラッシュバックのように、その時の恐怖と不快感が怒涛のように押し寄せた。頭がクラクラする……胃がムカムカして吐きそうだ。

「にいたん?」

 不思議そうに問いかけるセディの声に、我に返る。大きな枯草色の瞳に、邪な影は見えない。落ち着け、俺。あれはもう終わった事だ。大きく深呼吸を一度行う。さぁ、気持ちを切り変えよう。大丈夫、ここほど安全に守られた空間はないんだ。

「久しぶりだな、セディ」

 笑顔で応じ、それとなく状況を探ろう。そのまま彼を抱き上げ、ソファへと移動していく。彼は風空界のプリンスなのだ、本来なら敬語で接するべきだろうけれど。二人だけの空間だし、このままで良いかな。もし万が一不敬罪に問われるなら、それこそここから出られる絶好の機会だし。まぁ、そんな事にはならないだろう。

「元気にしてたか?」

 そう訪ねつつ、ソファへと座らせた。もしかして、魂だけ抜け出て来たなら、早く本体に戻してやらないと拙いんじゃないかなぁ。あ、でも幽体離脱とは違うのかな……


「うん! あいたかった、これみつ!」

 嬉しそうに破顔した。名前を覚えていてくれたのかと嬉しくなる。セディの目線に合わせて、彼の前に立ち膝の姿勢を取った。さて、どういう事なのか確かめてみよう。もしかしたらここから出られるヒントがあるかもしれない。もしセディの身に危険がありそうなら、本体に戻るように促さないといけないし。

「俺も嬉しいよ。……ところで、ここに来ている事は誰か知っているのかな?」

 彼は得意気に二ッと笑った。そして大きく横にかぶりを振った。

「もしかして誰も知らないのか?」

 それ、拙いんじゃ……

「うふふふふ、だいじょうぶなの」

 とセディは両手を握りこぶしにして口元にあて、クスクスと笑った。前会った時よりも随分としっかりして少し身長も伸びたように見受けられる。

「大丈夫……なのか!?」
「うん。でもね、あんまりおじかんがとれないの」
「そうか。じゃあちょっとだけここにいられる、て事かな?」
「そう!」

 セディは大きく頷きながら、嬉しそうに右手を天にあげた。再び両手に握りこぶしを作ると、うふふふふ、と笑う。こうして間近で見ると、睫毛が物凄く長くて、瞬きする度にバサバサと音を立てそうだ。

「戻らないといけない時は分かるのか?」

 これ、確認しておかないとな。

「うん。あのね、しぜんにきえちゃうから」

 あぁ、それなら良かった。

「そっか。じゃあ、それまでの時間だな」
「うん、だからね、! あそぼ、これみつ!」
「おう、いいぞ! 何して遊ぶ?」
「えーとね、おはなしつくって!」

 俺の創作物語を気に入ってくれていたみたいで、何だか嬉しい。忘れずにいてくれた事が。

「よーし、任せておけ。どんなお話が聞きたい?」
「うーんとね、セディがうみをわたるおはなし」
「そうか、分かった」

 今だけ、束の間だけど。この瞬間を楽しんでみるのも良いかもしれない。キラキラと好奇心に輝く瞳を受けとめる。セディの希望を叶えるべく、『一寸法師』と『千夜一夜』をベースにアレンジした物語を頭の中で組み立てつつ、ゆっくりと語り始めた。

「むかーしむかし……」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

処理中です...