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第百十話
泡沫の逢瀬
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王子の鼓動と、俺の鼓動と。当然リズムはバラバラだけど、その不協和音が妙に心地良い。世界でたった二人だけの感覚に、幸せでクラクラしそうだ。しっかりと俺を抱き締めてくれる王子の腕に、全身が安心で満たされていく。
同時に湧き上がる、国王への不信感。俺が王子やリアンたちの事を忘れてしまった事、塗り変えられた記憶……色々と辻褄が合う。
『……あのね、惟光。よく聞いて欲しいんだけどね』
やがて王子は、優しく諭すようにして語り出した。ゆっくりと王子から離れ、しっかりと向き合う。風も、無数の花びらも二人を避けるようにして吹き抜けていく。まるで二人を包み込む見えないバリアが張ってあるみたいだ。あ……瞳の色が薄紫色からルビーレッドへと移り変わっていく。相変わらず神秘的だ。
『さっき少し話したし、もう気付いているだろうけど……』
王子はゆっくりと切り出した。きっと、もの凄く大事な話だ。区切りがつくまでは傾聴に徹しよう。落ち着け、俺。浮かれている場合じゃないぞ。
『これは惟光の夢の中なんだ。そこに僕がお邪魔したって訳。それでね、残念だけど、あんまり長居出来ないんだ』
そうか……。途端に萎れるような気分になる。
『そんながっかりした顔しないで……て、僕も同じ気持ちなんだけどね』
寂しそうに笑う王子を見て、俺と同じ気持ちなんだと少しくすぐったい気持ちになる。王子の言葉を待った。
『いい? よく聞いてね』」
『はい』
『あと何回会いに来れるかどうかも分からないんだ。何故かって言うとね、夢の中に逢いに来ているのがバレたら道も閉じられちゃうから。まぁ、大げさにはやらないだろうから、突然来られなくなる可能性が高いかな。まずね……兄上は惟光の事、やっぱり本当に気に入っちゃったみたいだね』
寂しそうに言う王子に、「そんな事は……」と言おうと口を開く。けれども王子は、軽く右手をあげてそれを制した。そうか、時間も限られているもんな。
『その証拠に兄上は、惟光から僕と僕に関わる全ての記憶を封じ込めてしまったんだ……』
あぁ、やはり……。だから、あんなに人魚姫の結末について食い下がったんだろうな。
『何が起きたのか最初は全然分からなかった。リアンや央雅、レオとノアが手分けして原因を突き止めたんだよ』
やっぱり、俺の居るべき場所は王子の隣、そして皆のいるところだ。改めて再確認……。今更ながら浅慮な判断を悔やむ。
『惟光は優しいから。兄上を思いやった決断をするだろうとは、予測がついたんだけどね』
言葉もない……。だけど、あの子を救ってやって欲しい、国王の母君の声が耳にこびり付いているのも事実だ。まぁ夢だし、誰かに言う必要もないだろうけど。それに、正直言って国王の事をこのままにしておけない、と言う気持ちは変わらずに残っている。何も出来ない癖に……
『それでね、ここからが大事なんだけど。惟光が目を覚ましたら、ここで僕と会って話した事は綺麗に忘れ去っててると思うんだ』
そんな! 国王の母君の事は覚えているのに……と叫びたいような衝動を辛うじて抑える。けれどもその疑問は、王子の次の言葉で納得してしまった。
『というのはね、兄上自身と兄上側の者以外の記憶を封じ込めて遮断する魔術を施しているからね。特にあの部屋自体に』
『……じゃぁ、これからどうしたら……』
『落ち着いて。惟光、兄上のところにもう少し残る、て決めた時。何かを感じたのかペンダントとブレスレットに暗示をかけたでしょう? まだ、僕達の事を忘れ去る魔術をかけられる前だったから、それが非常に効果があったみたいでね』
『……あぁ、確かに。でも眠くて眠くて、中途半端になってしまって』
『でもそれが、僕たちを繋ぎ止める鍵になるんだ。だから、目が覚めて忘れてしまっても、そのアイテムの事を気にするようにしてみて。何か解決策が閃くと思うから。そのアイテムの事だけは朧気ながらにも気にするように、今から暗示の魔術をかけるね。あまり大がかりのものだと勘付かれてりまうから、ぼんやりとしたものだけど』
王子はそこで言葉を切ると、ふわりと微笑んだ。俺の好きな花が綻ぶような笑み……
『惟光、おいで』
と両手を広げる。素直に身を預けた。再び、薔薇とバニラの香りに包み込まれる。これが、夢じゃなけれな良いのに。どうして忘れちゃうんだろう……
同時に湧き上がる、国王への不信感。俺が王子やリアンたちの事を忘れてしまった事、塗り変えられた記憶……色々と辻褄が合う。
『……あのね、惟光。よく聞いて欲しいんだけどね』
やがて王子は、優しく諭すようにして語り出した。ゆっくりと王子から離れ、しっかりと向き合う。風も、無数の花びらも二人を避けるようにして吹き抜けていく。まるで二人を包み込む見えないバリアが張ってあるみたいだ。あ……瞳の色が薄紫色からルビーレッドへと移り変わっていく。相変わらず神秘的だ。
『さっき少し話したし、もう気付いているだろうけど……』
王子はゆっくりと切り出した。きっと、もの凄く大事な話だ。区切りがつくまでは傾聴に徹しよう。落ち着け、俺。浮かれている場合じゃないぞ。
『これは惟光の夢の中なんだ。そこに僕がお邪魔したって訳。それでね、残念だけど、あんまり長居出来ないんだ』
そうか……。途端に萎れるような気分になる。
『そんながっかりした顔しないで……て、僕も同じ気持ちなんだけどね』
寂しそうに笑う王子を見て、俺と同じ気持ちなんだと少しくすぐったい気持ちになる。王子の言葉を待った。
『いい? よく聞いてね』」
『はい』
『あと何回会いに来れるかどうかも分からないんだ。何故かって言うとね、夢の中に逢いに来ているのがバレたら道も閉じられちゃうから。まぁ、大げさにはやらないだろうから、突然来られなくなる可能性が高いかな。まずね……兄上は惟光の事、やっぱり本当に気に入っちゃったみたいだね』
寂しそうに言う王子に、「そんな事は……」と言おうと口を開く。けれども王子は、軽く右手をあげてそれを制した。そうか、時間も限られているもんな。
『その証拠に兄上は、惟光から僕と僕に関わる全ての記憶を封じ込めてしまったんだ……』
あぁ、やはり……。だから、あんなに人魚姫の結末について食い下がったんだろうな。
『何が起きたのか最初は全然分からなかった。リアンや央雅、レオとノアが手分けして原因を突き止めたんだよ』
やっぱり、俺の居るべき場所は王子の隣、そして皆のいるところだ。改めて再確認……。今更ながら浅慮な判断を悔やむ。
『惟光は優しいから。兄上を思いやった決断をするだろうとは、予測がついたんだけどね』
言葉もない……。だけど、あの子を救ってやって欲しい、国王の母君の声が耳にこびり付いているのも事実だ。まぁ夢だし、誰かに言う必要もないだろうけど。それに、正直言って国王の事をこのままにしておけない、と言う気持ちは変わらずに残っている。何も出来ない癖に……
『それでね、ここからが大事なんだけど。惟光が目を覚ましたら、ここで僕と会って話した事は綺麗に忘れ去っててると思うんだ』
そんな! 国王の母君の事は覚えているのに……と叫びたいような衝動を辛うじて抑える。けれどもその疑問は、王子の次の言葉で納得してしまった。
『というのはね、兄上自身と兄上側の者以外の記憶を封じ込めて遮断する魔術を施しているからね。特にあの部屋自体に』
『……じゃぁ、これからどうしたら……』
『落ち着いて。惟光、兄上のところにもう少し残る、て決めた時。何かを感じたのかペンダントとブレスレットに暗示をかけたでしょう? まだ、僕達の事を忘れ去る魔術をかけられる前だったから、それが非常に効果があったみたいでね』
『……あぁ、確かに。でも眠くて眠くて、中途半端になってしまって』
『でもそれが、僕たちを繋ぎ止める鍵になるんだ。だから、目が覚めて忘れてしまっても、そのアイテムの事を気にするようにしてみて。何か解決策が閃くと思うから。そのアイテムの事だけは朧気ながらにも気にするように、今から暗示の魔術をかけるね。あまり大がかりのものだと勘付かれてりまうから、ぼんやりとしたものだけど』
王子はそこで言葉を切ると、ふわりと微笑んだ。俺の好きな花が綻ぶような笑み……
『惟光、おいで』
と両手を広げる。素直に身を預けた。再び、薔薇とバニラの香りに包み込まれる。これが、夢じゃなけれな良いのに。どうして忘れちゃうんだろう……
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