その男、有能につき……

大和撫子

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第七十七話

毒牙

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(それはどこから? どんな人物か分かるか?)

 舞台を後にしながら、ミカエルに心の中で尋ねる。曖昧な微笑みと上品な歩き方に気をつけつつ。

『1時ノ方向、3時ノ方向、5時、7時、8時、10時ノ方向……強イ殺気ダケヲ数エテコレダケ居タ。ダガ、計画性ハ感ジナイ。主ヲ見て瞬間的二嫉妬ト憎悪ノ念ヲ抱キ、ソレダケ足リズ強イ殺意マデ湧イタ、ソンナトコロダロウ。一過性ノ者ト長キ二渡ッテ燻リ続ケル者トワカレソウダ』

 えっ? つ、強い殺気を持つ奴がそんなに? そうか……

『コレカラハソウヤッテ影ノ部分ガハッキリト出テ来ルダロウ。表舞台二立ツトハソウ言ウ事ダ。光ガ強ケレバ強イ程影ガ濃クナル。コノ世ハ光ト影、善ト悪、美醜ナド相反スルモノハ表裏一体。ユメユメ忘レルナ』

 今まで雑魚キャラだったから、嫉妬とか無縁で。むしろ嫉妬する側だったけど……それってある意味とても気楽だった訳で。考えてみたら、王子たちも常にそう言った危険にさらされているんだ。だから身辺警護の仕事に就く人もいて……。
 俺の場合、別に華々しく活躍、ではないけれど。今までみたいにお気楽のほほんとしてる訳にはいかない。そういう事か。言われてみれば、当たり前の事だよな。少し浮かれ過ぎて周りがよく見えなくなっていたかも。これは反省だ。

『計画性ノアル攻撃二ツイテハ……今回我々ガつどッタノハコレノ為ナノダガ……特二仕掛ケテキタ形跡ハ感ジナイ。タダ、様子ヲ伺ッテイル感ジハ受ケル。ヤハリ、幾ツカノ条件デ魔術ノ無効化マタハ封ジ込メル術ノ発動ヲ持ッテイルト推測サレル。我々ノチカラヲ持ッテシテモ場所、人物ノ特定共二分カラヌ事カラシテ、カナリノ手練レダト思ワレル。今回ハ凌ゲテモ、イツドノヨウ二仕掛ケテ来ルカ分カラヌ』

 これからは、そう言った危険と常に隣合わせに……。ふと、レオとノアの顔が浮かんだ。二人は昨日今日と式典準備と後片付けで俺よりも早く出掛けて。帰りも日が暮れてからになるけど。俺の事凄く心配していたっけ。式典が終わって。国王陛下と王太子殿下の許可を得て正式に二人ほど専属の身辺警護役をつける手筈になっているんだけれど、この二人を推薦したいなぁ。

(分かったよ。今後の事も、しっかり考えて実践していく。有難う)
『ソレガ良イ。今後モ我ラ二助ケガ必要トアラバ、条件次第デ応相談ダ』
(分かった)

 そんなやり取りを経て、王太子殿下と王子は国王陛下と共に宮殿へ瞬間移動。俺達はお辞儀をしながらそれを見送る。残った者達で劇場から外に出る。ここで解散だ。それぞれ瞬間移動で各自の目的地に向かう。一番下っ端の俺は、全員が瞬間移動するまでお辞儀をして見送る。勿論、あの蛍光色縦ロール兄弟やつら面従腹背Boyアルフォンスも含めてだ。ここでも私語厳禁なのは有り難い。昨日もそうだったけど、王太子殿下の近侍の一人は俺には目もくれず消え、蛍光色縦ロール兄弟やつらは揃ってフンと横を向いて消え、面従腹背Boyアルフォンスに至ってはあからさまに憎悪の眼差しを向けて消えていった。面従腹背Boyアルフォンス、いくらなんでも裏表激し過ぎるべ。新手のギャグかよ、と思っちまうレベル。

 そして心配そうにギリギリまで残っている央雅。今日もそのパターンだ。俺は「大丈夫だ」というように微笑んでみせた。彼はこれから仕事が山積みの筈だ。央雅が消えると、広場に出る。そこは森林公園みたいに緑のトンネルが広がっていて凄く心地良いんだ。そこで四大天使と精霊たちに頼んで自室まで運んで貰うんだ。つまり瞬間移動なんだけど。昨日と同じパターンな。

 無事に式典が終わって良かったぁ。ホッと安堵の吐息を漏らす。この広場はエターナル王家の関係者以外、結界を張って入れないようにしてあるらしいから、今は俺一人。さて、あんまりウロウロしてたら狙われても困るし。天使や精霊たちも早く解放してやらないとな。

 ん? おや? 前方の木陰からひょっこり顔を出す幼い子供。エターナル王家縁の? もしや第何代目めかの王子? 見たところ、お付きの者はいないようだ。はぐれたのか? その子は、俺の心配をよそに、俺と目が合うなりニッコリと笑う。そして「あそぼ」とトコトコと駆けだした。なんと! オレンジのスーツに身を包んだ風空界のプリンスじゃないか! 「セディ!」と声を上げそうになるのを辛うじて耐えた。セディは真っ直ぐに俺の方に向かい、抱き締めて貰おうを両手を広げている。

 エターナル王家の関係者以外、結界で弾かれる筈だから侵入出来ない筈なんだけど、何せセディは……異界の扉をいとも簡単に開けちまうくらいだし、今回もあり得る。抱き上げようと屈み込む俺に、ふと、

 ……なんか変だ。罠かもしれない……
 
 と直感が囁いた。

『罠ダ!』『逃ゲロ!』『関ワルナ!』と四大天使や精霊たちが口々に叫ぶのが聞こえる。けれども、無邪気に俺を求めて来るセディは天真爛漫で。そのまま放って置く事はためらわれた。お付きの者も、ここには入って来れない筈だからせめて送り届けてやらないと。

「あそぼー」

 セディはそう言って俺の胸に飛び込んだ。刹那、あれほど警告していた四大天使と精霊たちの声がプツリと止んだ。まるで、テレビの電源プラグをいきなり引き抜いたみたいにブツッと。拙い! 罠だ!! と感じた瞬間、うっ! ゴボッ 胸に衝撃を感じ息が詰まった。何が起こったのか理解出来ない。ただ、肺がゴロゴロゼロゼロ鳴り、呼吸が全く出来ずにゼイゼイヒューヒューと気管支が悲鳴を上げる。同時に、胸に激痛が走った。うずくまり、両手で胸を掻きむしる。もう、何が起こったのかよりも呼吸を確保しようともがく。ゴボゴボと何かが詰まったように咳が込み上げ、鉄臭い熱い塊が喉を突き上げた。ゴボッと吐き出すように咳込み、鉄臭い液体が口から溢れ出る。慌てて右手で口元を覆うが、溢れ出た鮮血が緑の大地に滴り落ちた。胸の痛みは益々激しくなり、もう、意識が飛びそうだ……

「フン、やっと隙を見せたな。これで邪魔だった守護者ガーディアンは手出し出来ない。式典中に手を出して疑われても困るしな」

 この声は……うずくまってもがき苦しんでいた俺は、最後の力を振り絞って顔を上げる。お前……!

 アルフォンスが冷酷に俺を見下ろしていた。

「その優しさが命取りってヤツさ。セドリック王子に化けて正解だったな。両肺に大穴があいているから動けないし話せないよ。無理に動いたり話そうとしたら、完全に死ぬよ? 手加減したつもりなんだが、お前呼吸器弱かったもんで。ちょっと胸を突いただけで大穴開いちまった。あぁ良かった。やっとあの御方に献上出来る」

 ……あの御方?……セディに、化けて……卑怯、者め……ごめん、皆……俺、もう……

 王子、リアン、央雅、レオ、ノア、四大天使と精霊たち……走馬灯のように皆の姿が浮かんでは消えていく。馬鹿だな、俺……ホント……。意識が遠のく瞬間、左手首が熱くなった。そうだ……フォルス、打ち合わせ通り、頼、む……

 それだけ命じ切ると、プッツリと意識が途切れた。
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