その男、有能につき……

大和撫子

文字の大きさ
107 / 186
第七十五話

精霊達の懸念と四大天使の示唆

しおりを挟む
 王太子殿下は、深い紫色の王子と色違いの衣装を身につけていた。以前お会いした際は漢風の衣装だったから、洋装は意外な感じがした。銀色の髪が深い紫色によく映えて、相変わらず神秘的な美貌が際立っていた。視線が合いそうになるのはさり気無く避けた。勿論、俺の王子への想いは不変であるけれど、その瞳を見てしまったら底知れぬ孤独と寂寥に捕らわれ、絡めとられてしまいそうな予感がしたから。

 リハーサルは滞りなく終わった。出来る事なら、このまま本番も問題なく終わって。俺が窮地に陥る、なんていう未来は見事に外れて欲しい。

 行きも帰りも会場への移動方法は、リアンと央雅と共に連れ立って瞬間移動だ。

「いよいよ明日が本番です。特にお伝えしておきたい事は、『何があってもご自身の命を最優先にする事』これに尽きます」

 帰宅して早々にノア特性緑の揺り籠ヒーリングベッドに寝かされた。食事も入浴もタイミングはレオとノアに任せて、とにかくゆっくり休めという事らしい。

「はい!」

 リアンの言葉に、王子が重なる。しきたりで、式典が終わるまで王子とは私語は疎か連絡を取り合う事も禁じられているけれども、王子が秘密の花園シークレットガーデンで聞かせてくれた言葉と同じだ。

「私たちも不測の事態に備え、万全の体制で臨みますが敵もどうのような形で切り込んで来るのか予測もつきませんから」
「はい、何があっても命を優先させます」



 そんなやり取りの後……

 四大天使と精霊たちで明日の事について話しあっている。ベッドの周りを精霊たちが取り囲み、ベッドの上では空に浮いた状態で俺の前にラファエル、後ろにガブリエル、右側にミカエル、左側にウリエルが囲っている。なんだかさ

「我が前方にラファエル、我が後方にブルエル、我が右手にミカエル、我が左手にウリエル。我が四囲に五芒星炎あげたり、光柱に六芒星輝きたり……」

 ていう有名な呪文を思い出した。だけどそんなのほほんとしている場合ではなくて……

『仕掛ケテ来ルトシタラ明日ダロウナ……』

 微妙に重苦しい雰囲気の中、土の精霊がおもむろに口を開く。植物の生えた大地がそのまま玄武にかたどられたような姿だ。

『何モ起コラナケレバ一番良イノダケレド……』

 ためらいがちに口を開く水の精霊。流れている川がそのまま髪となっているけれど、髪の先端の清流の行方は時空を越えているのだろうか……

『楽観視ハ出来ヌナ』

 植物の精霊が言葉を続ける。グリーンマン、て彼みたいな感じかな……

『我々全員デガード出来タニシテモ、解イタ際二主ヘノ負担ガ押シ寄セル事二ハ変ワラヌ』
『長時間トナレバナル程、別ノ意味デ心配ダ……』

 風の精霊と火の精霊が浮かない様子で話す。そう、制限時間は気にしなくて良くなったけれど、結局根本は変わらないみたいで。

『イメージノナカ二長時間居ルト、ドウシテ現実的二生キル力ガ弱マリガチダ。メンタルガ病ミ易クナル。我々精霊軍ハソレヲ心配シテイルノダ』

 闇の精霊がまとめた。今回の彼はまさに闇色の騎士だ。要するに、魂の危機スピリチュアル・クライシスてやつか。スピリチュアルや占いに依存し過ぎると陥り易いという……身体的には大丈夫だけれど、メンタルに負担が来る、て事か。それも拙いじゃないか。やっぱりは無理なのか……

『……天界側ノ見解ハ? 窮地ハ訪レルノカ? 敵ハ誰ダ?』

 光の精霊が問いかけた、今回も光の牡鹿姿だ。それは俺も知りたい!

『ドチラトモ言エヌナ……』

 ガブリエル。ていうか、えっ??? 天使の力を持ってしても予測不可能なのか?! 同じ事を感じたらしく、精霊たちからどよめきが起こる。

『コノ者ガ転移者ダカラナノカ、未来ガ確定シテイナイ故二読メヌノダ。裏ヲ返セバ己次第、トモ言エル』

 ミカエルが淡々と説明をする。うーん、パンドラの箱の逸話みたいだなぁ。精霊たちは静かに耳を傾けているけれど、それぞれに悩んでいる様子だ。俺次第で如何様にも変わる未来か、至って現実的だが……

『精霊ノ皆様ガ危惧サレテイルヨウニ、私タチガ永遠二守護シ続ケル訳二ハ行カナイ。イズレ離レル時ガ来ル。ソノ時ヲ待ッテ狙ッテ来ル事モ有リ得ル……』

 ラファエルの言葉に、精霊たちは一斉に頷いている。なるほど、期間を決めよ、て事なのか。それなら……

「では、式典が終了して私がこの部屋に戻るまでの間守護をお願いできますか?」

 そう、リアンたちが一番警戒して心配しているのは、どうしても俺への警護が薄くなりがちな式典の期間中なんだ。だからその期間だけでも守って貰えたら有り難い。

『勿論デス』『承知シタ』……

 精霊たちも天使たちも口々に快諾してくれる。有り難い!

『……ヒトツダケ忠告ヲシテ置ク。アクマデ可能性ノヒトツ二過ギナイガ……』

 今まで無言を貫いていたウリエルが口を開いた。突如空気が張り詰める。

『モシカシタラ、敵ハ複数、主ガ予測シテイル通リ邪神ノアイテムト……』

 ドクン、と心臓が跳ねた。ラウェルナの指輪か。

『魔術ヲ無効化、マタハ封ジ込メルヨウナ術二長ケテイル者ガイルカモシレヌ』

 またもザワつく一同。いやいやいやいや、そんな漫画やラノベであるような魔術? 勘弁してくれよー、いやホント、俺はともかく皆の努力も誠意も無駄になっちまうじゃん……

『ダガ、ソウダト仮定シテモ全テノ術二対応出来ル訳デハナイ。恐レルナ、主ガ気持チデ負ケヌ事ダ。要ハ隙ヲ見セヌ事ダ』

 ウリエルの言葉は、俺の胸に波紋を広げていくように静かに浸透していった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

処理中です...