その男、有能につき……

大和撫子

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第七十五話

精霊達の懸念と四大天使の示唆

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 王太子殿下は、深い紫色の王子と色違いの衣装を身につけていた。以前お会いした際は漢風の衣装だったから、洋装は意外な感じがした。銀色の髪が深い紫色によく映えて、相変わらず神秘的な美貌が際立っていた。視線が合いそうになるのはさり気無く避けた。勿論、俺の王子への想いは不変であるけれど、その瞳を見てしまったら底知れぬ孤独と寂寥に捕らわれ、絡めとられてしまいそうな予感がしたから。

 リハーサルは滞りなく終わった。出来る事なら、このまま本番も問題なく終わって。俺が窮地に陥る、なんていう未来は見事に外れて欲しい。

 行きも帰りも会場への移動方法は、リアンと央雅と共に連れ立って瞬間移動だ。

「いよいよ明日が本番です。特にお伝えしておきたい事は、『何があってもご自身の命を最優先にする事』これに尽きます」

 帰宅して早々にノア特性緑の揺り籠ヒーリングベッドに寝かされた。食事も入浴もタイミングはレオとノアに任せて、とにかくゆっくり休めという事らしい。

「はい!」

 リアンの言葉に、王子が重なる。しきたりで、式典が終わるまで王子とは私語は疎か連絡を取り合う事も禁じられているけれども、王子が秘密の花園シークレットガーデンで聞かせてくれた言葉と同じだ。

「私たちも不測の事態に備え、万全の体制で臨みますが敵もどうのような形で切り込んで来るのか予測もつきませんから」
「はい、何があっても命を優先させます」



 そんなやり取りの後……

 四大天使と精霊たちで明日の事について話しあっている。ベッドの周りを精霊たちが取り囲み、ベッドの上では空に浮いた状態で俺の前にラファエル、後ろにガブリエル、右側にミカエル、左側にウリエルが囲っている。なんだかさ

「我が前方にラファエル、我が後方にブルエル、我が右手にミカエル、我が左手にウリエル。我が四囲に五芒星炎あげたり、光柱に六芒星輝きたり……」

 ていう有名な呪文を思い出した。だけどそんなのほほんとしている場合ではなくて……

『仕掛ケテ来ルトシタラ明日ダロウナ……』

 微妙に重苦しい雰囲気の中、土の精霊がおもむろに口を開く。植物の生えた大地がそのまま玄武にかたどられたような姿だ。

『何モ起コラナケレバ一番良イノダケレド……』

 ためらいがちに口を開く水の精霊。流れている川がそのまま髪となっているけれど、髪の先端の清流の行方は時空を越えているのだろうか……

『楽観視ハ出来ヌナ』

 植物の精霊が言葉を続ける。グリーンマン、て彼みたいな感じかな……

『我々全員デガード出来タニシテモ、解イタ際二主ヘノ負担ガ押シ寄セル事二ハ変ワラヌ』
『長時間トナレバナル程、別ノ意味デ心配ダ……』

 風の精霊と火の精霊が浮かない様子で話す。そう、制限時間は気にしなくて良くなったけれど、結局根本は変わらないみたいで。

『イメージノナカ二長時間居ルト、ドウシテ現実的二生キル力ガ弱マリガチダ。メンタルガ病ミ易クナル。我々精霊軍ハソレヲ心配シテイルノダ』

 闇の精霊がまとめた。今回の彼はまさに闇色の騎士だ。要するに、魂の危機スピリチュアル・クライシスてやつか。スピリチュアルや占いに依存し過ぎると陥り易いという……身体的には大丈夫だけれど、メンタルに負担が来る、て事か。それも拙いじゃないか。やっぱりは無理なのか……

『……天界側ノ見解ハ? 窮地ハ訪レルノカ? 敵ハ誰ダ?』

 光の精霊が問いかけた、今回も光の牡鹿姿だ。それは俺も知りたい!

『ドチラトモ言エヌナ……』

 ガブリエル。ていうか、えっ??? 天使の力を持ってしても予測不可能なのか?! 同じ事を感じたらしく、精霊たちからどよめきが起こる。

『コノ者ガ転移者ダカラナノカ、未来ガ確定シテイナイ故二読メヌノダ。裏ヲ返セバ己次第、トモ言エル』

 ミカエルが淡々と説明をする。うーん、パンドラの箱の逸話みたいだなぁ。精霊たちは静かに耳を傾けているけれど、それぞれに悩んでいる様子だ。俺次第で如何様にも変わる未来か、至って現実的だが……

『精霊ノ皆様ガ危惧サレテイルヨウニ、私タチガ永遠二守護シ続ケル訳二ハ行カナイ。イズレ離レル時ガ来ル。ソノ時ヲ待ッテ狙ッテ来ル事モ有リ得ル……』

 ラファエルの言葉に、精霊たちは一斉に頷いている。なるほど、期間を決めよ、て事なのか。それなら……

「では、式典が終了して私がこの部屋に戻るまでの間守護をお願いできますか?」

 そう、リアンたちが一番警戒して心配しているのは、どうしても俺への警護が薄くなりがちな式典の期間中なんだ。だからその期間だけでも守って貰えたら有り難い。

『勿論デス』『承知シタ』……

 精霊たちも天使たちも口々に快諾してくれる。有り難い!

『……ヒトツダケ忠告ヲシテ置ク。アクマデ可能性ノヒトツ二過ギナイガ……』

 今まで無言を貫いていたウリエルが口を開いた。突如空気が張り詰める。

『モシカシタラ、敵ハ複数、主ガ予測シテイル通リ邪神ノアイテムト……』

 ドクン、と心臓が跳ねた。ラウェルナの指輪か。

『魔術ヲ無効化、マタハ封ジ込メルヨウナ術二長ケテイル者ガイルカモシレヌ』

 またもザワつく一同。いやいやいやいや、そんな漫画やラノベであるような魔術? 勘弁してくれよー、いやホント、俺はともかく皆の努力も誠意も無駄になっちまうじゃん……

『ダガ、ソウダト仮定シテモ全テノ術二対応出来ル訳デハナイ。恐レルナ、主ガ気持チデ負ケヌ事ダ。要ハ隙ヲ見セヌ事ダ』

 ウリエルの言葉は、俺の胸に波紋を広げていくように静かに浸透していった。
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