94 / 186
第六十九話
ついに、憧れの『チート能力』は手に入れたけれど……
しおりを挟む
意味が分かると、感激したように頬を紅潮させ瞳を潤ませるレオとノア。そんなに嬉しがってくれるなんて……俺の方が有り難いよ。
「レオナード、ノア。万が一の時は、任せたぞ」
一人一人名前を呼んでその瞳をしっかりと見つめながら語りかける。二人は顔を見合わせ頷き合うと、
「「は、はい! お任せ下さい!」」
と勢い込んでほぼ同時にこたえた。さぁ、偉そうに言ったからには全力でぶつからないと、だな。
「さて、戦闘中はタイムオーバー寸前まで踏ん張るとしよう。……という事で宜しくな、リアン。そして火の精霊と風の精霊、宜しく頼む」
と、いつでも準備OKな琴を意思表示してみせる。
「承知しました。では、こちらも相応の力で参りましょう」
リアンはそう言って模造刀を構えた。レオとノアはサッと離れて後方に控える。火の精霊は首を下げると纏っていた炎の一欠片を、風の精霊は右の翼を広げて一枚の羽を俺にめがけて送りこむ。先程と同じように炎は胸に、羽は額に吸い込まれていった。
冷たく感じるくらい、頭が冴え渡る。全身に力が漲り、瞬時に剣を抜きリアンに切り掛かった。何度か切り結び合うが、たちまちリアンが押され気味となる。勝手に体が動くままにさせているだけだが、酷く体が軽い。
ガキーン、という音と共にリアンの剣が後方へと飛んだ。同時に剣先をリアンの喉元に突き付けている俺。確実にさっきよりも体が動きについていけているようだ。鍛錬次第ではもっと強くそして素早く戦えるようになれるかもしれない。
「一瞬で勝負ありましたね」
と言うリアンの声を聞きながら、突如として息が詰まった。剣を取り落とすとガクリと膝をついて胸を掻きむしる。肺が悲鳴をあげるかのようにヒューヒューゼ―ゼ―鳴り始めた。息を吸う事も吐く事も叶わず、それでも僅かでも空気を取り込もうともがく。想像を絶する苦しさに意識が飛びそうだ。倒れ込む前に、リアンが俺の肩を支えた。
『スマヌ、時間切レニツキコレ以上留マル事ハ不可能ダ』
精霊達はそう言い残して空気に溶け込むようにして消えた。
「「惟光様っ!」」
レオとノアがすぐさま瞬間移動して左右に控えた。ノアは俺の後方に移動し、背中に手を添える。レオは右手をあげ、俺の胸に手の平を翳した。レオの手の平から、パステルグリーンの光が溢れ出す。その光ごと手の平を胸にあてると、少しずつ空気が取り込めるようになってきた。ノアが魔術を施してくれているであろう背中は、じんわりとあたたかくなって行く。
次第に息を吐き出す事が出来るようになっていき、呼吸はゆっくりと確実に回復していった。
「有難う、助かったよ。ノア、レオナード、凄いな、二人の回復魔法は」
程なくして落ち着きを取り戻し、礼を述べながら二人に微笑みかける。すぐに頬を染め、どきまぎしたようにしどろもどろになる二人が本当に可愛らしい。
「い、いえ。お役に立てまして光栄に存じます」
「そ、その通りにございます」
レオ、ノア。有難うな。続いて、ずっと肩を支えてくれているリアンに顔を向けて礼を述べる。
「リアン、有難うな」
「いいえ、当然の事をしたまでです」
右人差し指を眼鏡のエッジに当てながら、冷静に受けごたえするリアン。
「あなたが耐えられる時間は40秒切っていました。やはり精霊たちの示した通り35秒、というところでしょう」
「そうか。その35秒でケリをつけ、身の安全の確保まで持っていかないと……か」
「ええ、そういう事になりますね」
あーぁ、せっかく憧れだった『チート能力』を手に入れたのに、時間切れと同時に精霊たちも消えちまうとはなぁ。……この力、役に立つのか?
「レオナード、ノア。万が一の時は、任せたぞ」
一人一人名前を呼んでその瞳をしっかりと見つめながら語りかける。二人は顔を見合わせ頷き合うと、
「「は、はい! お任せ下さい!」」
と勢い込んでほぼ同時にこたえた。さぁ、偉そうに言ったからには全力でぶつからないと、だな。
「さて、戦闘中はタイムオーバー寸前まで踏ん張るとしよう。……という事で宜しくな、リアン。そして火の精霊と風の精霊、宜しく頼む」
と、いつでも準備OKな琴を意思表示してみせる。
「承知しました。では、こちらも相応の力で参りましょう」
リアンはそう言って模造刀を構えた。レオとノアはサッと離れて後方に控える。火の精霊は首を下げると纏っていた炎の一欠片を、風の精霊は右の翼を広げて一枚の羽を俺にめがけて送りこむ。先程と同じように炎は胸に、羽は額に吸い込まれていった。
冷たく感じるくらい、頭が冴え渡る。全身に力が漲り、瞬時に剣を抜きリアンに切り掛かった。何度か切り結び合うが、たちまちリアンが押され気味となる。勝手に体が動くままにさせているだけだが、酷く体が軽い。
ガキーン、という音と共にリアンの剣が後方へと飛んだ。同時に剣先をリアンの喉元に突き付けている俺。確実にさっきよりも体が動きについていけているようだ。鍛錬次第ではもっと強くそして素早く戦えるようになれるかもしれない。
「一瞬で勝負ありましたね」
と言うリアンの声を聞きながら、突如として息が詰まった。剣を取り落とすとガクリと膝をついて胸を掻きむしる。肺が悲鳴をあげるかのようにヒューヒューゼ―ゼ―鳴り始めた。息を吸う事も吐く事も叶わず、それでも僅かでも空気を取り込もうともがく。想像を絶する苦しさに意識が飛びそうだ。倒れ込む前に、リアンが俺の肩を支えた。
『スマヌ、時間切レニツキコレ以上留マル事ハ不可能ダ』
精霊達はそう言い残して空気に溶け込むようにして消えた。
「「惟光様っ!」」
レオとノアがすぐさま瞬間移動して左右に控えた。ノアは俺の後方に移動し、背中に手を添える。レオは右手をあげ、俺の胸に手の平を翳した。レオの手の平から、パステルグリーンの光が溢れ出す。その光ごと手の平を胸にあてると、少しずつ空気が取り込めるようになってきた。ノアが魔術を施してくれているであろう背中は、じんわりとあたたかくなって行く。
次第に息を吐き出す事が出来るようになっていき、呼吸はゆっくりと確実に回復していった。
「有難う、助かったよ。ノア、レオナード、凄いな、二人の回復魔法は」
程なくして落ち着きを取り戻し、礼を述べながら二人に微笑みかける。すぐに頬を染め、どきまぎしたようにしどろもどろになる二人が本当に可愛らしい。
「い、いえ。お役に立てまして光栄に存じます」
「そ、その通りにございます」
レオ、ノア。有難うな。続いて、ずっと肩を支えてくれているリアンに顔を向けて礼を述べる。
「リアン、有難うな」
「いいえ、当然の事をしたまでです」
右人差し指を眼鏡のエッジに当てながら、冷静に受けごたえするリアン。
「あなたが耐えられる時間は40秒切っていました。やはり精霊たちの示した通り35秒、というところでしょう」
「そうか。その35秒でケリをつけ、身の安全の確保まで持っていかないと……か」
「ええ、そういう事になりますね」
あーぁ、せっかく憧れだった『チート能力』を手に入れたのに、時間切れと同時に精霊たちも消えちまうとはなぁ。……この力、役に立つのか?
1
あなたにおすすめの小説
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる